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中央環境審議会 自然環境・野生生物合同部会
生物多様性国家戦略小委員会(第5回)


平成14年1月28日

午後2時01分開会


●事務局 それでは、中央環境審議会自然環境・野生生物合同部会第5回生物多様性国家戦略小委員会を始めたいと思います。
 まず、議事に入ります前に、本日お配りの資料の確認をさせていただきたいと思います。お手元にございます資料をご覧いただきたいと思います。
 まず一番上に、議事次第。次に、小委員会の名簿。次に、資料1-1、新・生物多様性国家戦略素案(事務局案)の目次。次に、資料1-2、新・生物多様性国家戦略素案(事務局案)、第1部から第3部及び5部。資料1-3、新・生物多様性国家戦略素案(事務局案)第4部。資料1-4、図表一覧。横長の新・生物多様性国家戦略のフロー。最後に資料3、現行『生物多様性国家戦略』(平成7年10月策定)の概要、以上でございます。
 次に、本日ご出席の委員の人数の確認をさせていただきます。
 本日、19名中17名の委員の方々に出席いただいております。小委員会は有効に成立しております。
 それでは、議事の進行につきましては、辻井委員長、よろしくお願いいたします。

●辻井委員長 辻井でございます。
 ご多用のところお集まりいただいてありがとうございます。早速ですけれども、非常に分厚いものがまとまって、事務局なかなかのご苦労があったと聞いております。
 まず最初に、計画課渡辺企画官にフローを中心にして説明をしていただこうと思います。どうぞよろしくお願いします。

●生物多様性企画官(渡辺) 計画課の渡辺でございます。失礼して座って説明させていただきます。
 本日は、お手元にありますように新国家戦略素案の全文を提示してご意見をいただきたいと考えております。12月10日の小委員会で骨子案についてご議論いただきました。そのご議論を受けまして、関係省庁で連携分担しながら素案の執筆作業を進めてきました。第1部から第3部、それから第5部は環境省が執筆をしております。第4部具体的施策の部分は、環境省を含めまして関係省庁がそれぞれ役割に応じて分担をして執筆をいたしました。
 初めにお断りでございますが、本日お示しします素案ですが、現在各省との間で協議中でございます。全体的に調整を進めている段階のものでございます。3部までと5部は調整が進みつつありますけれども、第4部につきましては分担して執筆した素案が出そろったという段階で調整、整理はこれからという状況でございます。第4部は各省の個別具体的施策を書くところであります。そういう意味では大きな問題はないと思われますが、現段階では未調整ということになっております。
 それでは説明に入ります。
 本日の資料は、素案全体でおよそ 240ページ、33万字ほどということでかなり大部でございます。現状などはこれまでの説明と重複するところもありますので、このA3、2枚つないだフローを中心にご説明をしたいと思います。必要に応じて原文の方をご覧いただくということにさせていただきたいと思います。
 まず、フローでこの全体の構成を見ていただきますと、前文と5つの部から構成されています。まず前文で見直しの経緯、新戦略の役割を述べます。
 第1部では、世界の中の日本の生物多様性、あるいは社会経済状況などの現状を幅広く分析をすると同時に、多様性に関する問題点を「3つの危機」ということで整理をしております。
 第2部では、施策を推進するための「理念と目標」を掲げております。
 第3部では、その現状分析、問題意識を踏まえて、また、2部の「理念と目標」を具体化するための「施策の基本的方向」として3つの方向、「基本的方向」を支える共通の要件として5つの視点をあげております。また、生物多様性から見た国土全体の分析と解釈を2つの見方、捉え方として述べております。
 さらに、3部の中で保全上の重要事項につきまして、「主要テーマ別取扱方針」として特記をしております。
 次の第4部は、こうした基本方針を受けた具体的施策の展開につきまして、各省と環境省の「具体的・個別施策」、それから調査研究、人材育成や経済的措置などの「基盤的事項」を記述しております。
 最後の第5部は、計画の最後ということで点検、見直しなど、今後の取扱に係ることを記述しております。
 本日の説明は第3部までを骨格として、第4部には必要に応じて言及するということにしたいと思います。
 中身の説明の初めに見直しの経緯をまずちょっと振り返ってみますと、92年に採択されました生物多様性条約に基づいて95年に現行戦略が策定をされました。概ね5年が計画期間で、昨年から見直し作業を立ち上げ、3月から8月までに懇談会、そして10月から本審議会にお諮りをしてきました。
 この現行戦略ですが、条約締結から2年足らずで速やかに策定をしたこと、また、体系的に各種施策を網羅して記述したことは評価されますが、各省の施策の連携が不足をし、提案に具体性が欠けた嫌いがあることは否めません。また、策定プロセスでNGOなど外部の意見を十分聞かなかったことは前回の大きな反省点でございます。
 現行戦略の点検の結果からは、戦略が生物多様性に関する関心や理解を高め、官民挙げての取組を促す上で一定の役割を果たしてきたと言えますが、各省の施策の連携が十分とは言えず、地域における取組も個別の動きにとどまっていて、国土及び社会全体を対象としたトータルな仕組みが構築されていないのが現状でございます。急速に進行しつつある生物多様性の喪失、衰退の傾向と連動を止めるには至っていません。そして、国民、社会の環境意識の転換、向上が必要となっております。
 今回の見直し作業に当たりまして、枠組みとして考慮すべき幾つかのポイントがございます。
 第1に、温暖化防止条約・京都議定書が決着をし、吸収源としての森林の取扱が重要になったことや、バイオセーフティ議定書関連の動きなど、多様性条約の包括条約としての役割が高まっておりまして、地球環境の視点から多様性保全の国内対策と国際貢献を一体的に進める必要性が増していること。
 第2に、各省の生物多様性保全、自然環境保全への取組が、現行戦略策定後に飛躍的に高まってきたこと。
 第3に、昨年5月の総理施政方針演説で「自然と共生する社会の実現」が述べられ、本戦略が、そのための政府全体のトータルプランとしての役割を担うべきこと。
 第4として、また、自然環境保全行政の中長期方針としての意味を持つと同時に、具体性のある提案を示し実践的な行動計画としての役割を果たすべきことなどがポイントとしてあげられます。
 そのほか、「戦略」は地球環境保全に関する関係閣僚会議で決定をし、作業は環境省が事務局の各省連絡会議で実施ということでございます。前回11省庁、省庁統合後の今回は9つの省庁が関係省庁となって作業を進めてきております。
 前文のところでは、今説明をいたしました見直しの経緯、あるいは現行戦略のレビュー、新戦略の性格及び役割を述べてございます。
 第1部でございますが、フローにありますように、現状を分析した上で多様性保全上の問題点を整理し、わかりやすくするために原因別に3つの危機に分類をして問題意識として示しました。
 この第1の危機は、開発、過剰利用、汚染などの人間活動に伴う負のインパクトによる生物や生態系への影響です。その結果、日本に生息する種の多くが絶滅の危機に瀕していること、湿原や干潟を含む湿地生態系の消失、劣化が進んだこと、島嶼や山岳部など人為インパクトに脆弱な生態系における影響が生じていること、自然林や二次林の量的な減少は鈍化しつつあるものの、都市周辺での土地利用転換は進行し、また道路等の分断要素の増加などに伴って質的な劣化が進んでいることなどの問題点をあげています。この第1の危機ですが、生物多様性保全上、依然として最も大きな影響要因というふうに考えられます。
 一方、第2の危機ですが、里山の荒廃や中山間地域の環境変化等の人間活動の縮小、あるいは生活スタイルの変化に伴う影響でございます。経済的利用価値の減少の結果、二次林、二次草原の管理や利用がなされず放置されるようになり、また中山間地では耕作放棄地が拡大をし、一方で人工的整備が拡大したことも重なって、里地里山生態系の質の劣化が進み、こうした地域に特有の動植物が消失するなどの問題が生じています。特に人口減少の著しい中山間地域でこの影響は顕著に生じており、今後この傾向がさらに強まるものと考えられます。
 第3の危機は、移入種等の人間活動によって新たに問題となっているインパクトでございます。国境を越えた人や物の流れの増大に伴い、国外または国内の他地域からさまざまな生物種が移入されつつあります。その結果、在来種の捕食、交雑、環境攪乱等の影響が生じています。絶滅危惧種の中にもこうした移入種、外来種の影響を強く受けているものが少なくありません。
 また、化学物質の中には動植物への毒性を有するとともに、環境中に広く存在していることなどから生態系影響が指摘されているものもあります。化学物質の生態系影響については未解明なものが多く残されており、私たちの気づかないうちに生態系に影響を与えているおそれもあります。
 第1部では、こういった問題意識の基礎となる社会経済状況、生物多様性の現状、保護制度の現状についての分析をあわせて示しています。
 次の第2部では、まず、生物多様性保全と持続可能な利用の理念といたしまして、[1]人間生存の基盤、[2]世代を越えた安全性、効率性の基礎、[3]有用性の源泉、[4]豊かな文化の根源という4つの意味と人間が自然に接する基本的な考え方として[5]予防的・順応的態度、すなわちエコシステムアプローチの考え方をあげております。
 まず4つの意味につきましては、新戦略では特定の種や特定の地域に限らずに国土全体、社会全体を対象とした「自然と共生する社会」実現のためのトータルプランとしての役割を担うべきことから、条約等の「有用性」を中心とした意味づけに加えて「安全性・効率性」や「地域文化」と密接不可分であることなどを明記し、社会全体とのかかわりにおいて施策を展開すべきであるという考え方から従来の理念を拡大いたしました。
 本文の資料1-2の第2部、27ページに、まず1つ目の理念ということで「人間生存の基盤」でございます。これでは、人間も生物の1種ヒトとして、自然の循環のひとつの環の中にあり、多くの生物とかかわりあって初めて生きていくことができること、気候の安定化、土壌の形成、水循環などさまざまな生態系の健全な働きによって、人間生存に不可欠な基盤条件が整えられていることをあげています。
 2つ目の理念、「世代を超えた安全性・効率性の基礎」、これは原文を読み上げます。
 生物多様性を尊重することは、適正な土地利用を行うことを通じて、トータルで長期的な安全性、効率性を保証することになります。
 生物多様性保全の観点から、自然性の高い森林を保全し、荒廃した人工林の管理水準を高めていくことは水源の涵養や山地災害の防止に寄与します。水源地の汚染を避けたり、河川への汚濁物質流入量を削減するなど河川環境を保全することは、安全な飲み水の効率的な確保に寄与します。必要に応じて災害防止のための整備を行うことに加えて、例えば、急峻で崩壊しやすい地形等脆弱な地域における土地造成を避けるなど自然条件と土地利用を適合させていくことは、居住環境等の安全性を高め、不要な投資を抑制することにもなります。これらのより積極的な実践は、河川における多自然型工法や河畔林の保全、農薬、施肥を抑制しつつ良質な産物生産を目指す環境保全型農業などに既にみられます。
 こうした考え方、つまり、局所(面)最適とトータル最適を組み合わせていくことが、人為によるインパクトを必要最小限とし、画一的な土地利用を防止することにもなります。このように、国土レベルの空間スケール、30年から50年先、さらに世代を超えた長期の時間スケールからみると、生物多様性の保全と人間生活の安全性や効率性の向上は必ずしも対立するものではなく、むしろ密接にかかわっていると考えられます。
 3つ目の「有用性の源泉」の理念です。
 これは従来から言われておりました食品、工業材料、医薬品、レクリエーションなど、人間にとってのさまざまな有用な価値であります。こうした価値はバイオテクノロジー等の技術の進展によってさらに広がりつつあります。
 4つ目の理念、「豊かな文化の根源」です。これも原文を読み上げます。
 私たち日本人は長い歴史の中でそれぞれの地域に特有な生物多様性を余り損なうことなく、その恵みを上手く活用しながら豊かな暮らしを営んできました。自然と対立的な形ではなく、自然に順応する形で様々な知識、技術、豊かな感性を培ってきました。その過程で文化の多様性も形成されてきたと言えます。自然と共生する社会、新たなライフスタイルを築くためには、こうした知識や技術に学ぶことが欠かせません。地域の生物多様性とそれに根差した文化の多様性は、歴史的時間の中で育まれてきた地域固有の資産と言えます。今後の地域活性化、個性的な地域づくりを成功させるためには、こうした歴史的資産をうまく紡いでいくことが重要な鍵となります。人口が集中し生物多様性が減少した都市では、近年身近な自然とのふれあいや自然地域での野性的な体験を渇望する住民が増えています。一方日常的に自然と接触する機会がなく自然との付き合い方を知らない子供たちも増えています。人と自然との関係が希薄化したことが、精神的な不安定の生じる割合を高める一因になっているとの指摘もあります。このように生物多様性は人間生活を豊穣なものとし、豊かな文化を形成するための根源となるものです。
 これら4つの意味に加えまして、自然と人間の調和ある共存を実現するための基本的考え方として、5の予防的順応的態度、エコシステムアプローチの考え方を実際の理念として述べています。
 その中で、第1に、人間は生態系のすべてはわかり得ないことから、謙虚に慎重に行動すべきこと、第2に、生態系の構造と機能を維持できる範囲内で自然資源の管理と利用を順応的に行うべきこと、第3に、関係者すべてが広く情報を共有し、社会的な選択として自然資源の管理と利用の方向を決めるべきことの3点をあげております。
 こうした基本理念と第1部の問題意識、現状分析を踏まえまして、この新戦略の目標、フローにありますように、大きく[1]種と生態系の保全、[2]絶滅の防止と回復、[3]持続可能な利用の3点を掲げました。本文の方の資料30ページ、第2部第2節でございます。そこを見ていただいて、3つの目標を読み上げます。
 [1]長い歴史の中で育まれた地域に固有の動植物や生態系などの生物多様性を、地域の空間特性に応じて適切に保全すること。
 [2]特にわが国に生息・生育する種に絶滅のおそれが新たに生じないようにすると同時に、現に絶滅の危機に瀕した種の回復を図ること。
 [3]将来世代のニーズにも応えられるよう、生物多様性の減少をもたらさない持続可能な方法により、国土の利用や自然資源の利用を行うことの3点でございます。
 これらの目標は現行戦略の目標を整理をしわかりやすくしたもので、旧目標の長期的目標に係る内容は基本的には変えてございません。また、旧の目標のうち対応方策等の下位概念に類する点については、3部の基本方針以下に整理をし詳述いたしました。
 数値目標につきましては、本質的に難しいことからここでは定性的な目標を掲げるのみにとどめ、補完的に全編を通じて、例えば植生自然度、里山植生の分類別面積、モニタリングサイトの数などを記述し、施策の進度がフォローアップできるように工夫をしています。
 次にグラウンドデザインです。
 多様性が保全された結果、現れる国土の将来像についてイメージが浮かぶように、ビジュアルに表現することを目指して書きました。まず、グラウンドデザインの認識として、国土空間における生物多様性のグラウンドデザインは、土地のみならず、海洋、地下から空中、地下水、土壌微生物から空を飛ぶ鳥など国土空間に生息・生育するあらゆる生物の活動を対象としております。
 本文の31ページ、2部の第3節に7つの点をあげております。ここは原文を読み上げます。
 グラウンドデザインの[1]自然を優先すべき地域として奥山・脊梁山脈地域、人間、人間活動が優先する地域として都市地域があり、その中間に人間と自然の関係を新しい仕組みで調整されるべき領域として広大な里地里山・中間地域が広がっている。これは生物多様性保全のための基本認識であり、また、生物多様性回復のためのポテンシャルの認識であもある。
 [2]これまで生物多様性保全への寄与を必ずしも意図していなかった、道路、河川、海岸などの整備を、国土における緑や生物多様性の、縦軸・横軸のしっかりとしたネットワークと位置づけることによって、奥山、里地里山、都市を結ぶ。
 [3]数千、数万キロメートル離れた遠い国から飛んできた鳥たちが、そこここの森や干潟で遊び、餌をついばんでいる。
 [4]赤道近くや千島から流れて来た海流が漁師に大漁をもたらし、子供たちは潮干狩りに歓声を上げ、広い砂浜を駆け回っている。
 [5]奥山のみならず里地里山、都市にも巨木が点在し、大都市にも大規模な森があり、猛禽類が悠々と空を舞っている。
 [6]都市、町や村に、生き物たちの賑わいがあり、人々は彼らとのふれあいを通して生活の賑わいを感じる。
 [7]住民・市民が自らの意志と価値観において生物多様性の保全・管理、再生・修復に参加し、生物多様性がもたらす豊さを享受し、また、そうした行動を通じて新しいライフスタイルを確立する、の7つの点をあげています。
 この[1]は、人間と自然との関係の大まかな交通整理の考え方としての大きい3つの区分、[2]では道路、河川、海岸などの今後の貢献、[3]では国際的視点・関係と干潟や渡り鳥について、[4]では海洋や海岸の重要性について、[5]では都市の多様性向上の方向や内容について、[6]では地方活性化と生活のための視点、[7]では、以上のことがライフスタイルを通じて個人や社会とつながることを描きました。
 次に、フローの方で第3部の構成を説明いたします。
 1部で分析をした問題点を解決し、2部で掲げた理念と目標を具体化するために、今後講じるべき対策の大まかな方向として基本的方向を3つあげ、それらを支える共通的基本的要件として5つの基本的視点を掲げました。また、対象及び内容として特記すべき事項を「主要テーマ別取扱方針」として掲げ、具体事例も交えながら詳述いたしました。
 なお、第3節「生物多様性からみた国土の捉え方」では、生物多様性からみた国土の解釈や分析を2つ試みています。これは国土空間の解釈であると同時に、国土全体の多様性の質の改善、向上に向けてのポテンシャルを考えるための試みでもあります。
 まず基本的な3つの方向として、[1]保全の強化、[2]自然再生、[3]持続可能な利用をあげました。
 [1]の保全の強化としては、保護制度の強化、指定の拡充、科学的管理、絶滅防止や移入種対応の強化など、多様性の危機の態様に応じて保全を強化することをあげました。
 第3部第2章、本文でいきますと49ページになります。主要テーマ別の方針の一つとして、重要地域の保全と生態的ネットワーク形成をあげています。ここでは原生林など重要な地域の保全を図るためには、保護地域制度の体系を一層強化していくことが基本となります。
 このために、脊梁山脈を中心に国土レベルで相当程度の面積をカバーしている国立公園等の自然公園については、立地特性に応じて、従来の風景保護の視点に加えて、生態系、特に動物保護の視点を制度上新たに位置づけ、国土における生物多様性保全の骨格的な役割をより積極的に担うことを述べています。具体的には第4部、具体的施策の自然公園の部分で、原生的な生態系における利用コントロールや公園内の野生動物の捕獲規制などの新たな仕組みを導入するため自然公園法を改正することをあげています。また、例えば国立公園等によってまとまった面積が保護されており、鳥獣の保護繁殖上重要な地域に鳥獣保護区を重ねていくことなど自然公園制度による施策と、種の保存や鳥獣保護制度による施策とを連携させていくことによって効果的な多様性保全を進めるべきことをここの中で示しています。
 また、生態的ネットワーク形成の部分では、地域固有の生物相の安定した存続、減少した生物相の回復を図るために、十分な規模の保護地域を核としながら、生物の生態特性に応じた生息空間のつながりや適切な配置の確保された生態的ネットワークを形成していく必要性を述べています。このために、緑の回廊設定や農地、河川、道路、公園緑地、港湾、漁港における取組など、各省の取組を総合的、一体的に進めることによって、国土における生息空間が有機的に連携された状態をつくり出していくべきことを示しています。
 次に、第3部2章の第3節、本文の56ページです。
 テーマ別の一つとして、湿地保全の方針をあげています。この中では、ラムサール条約の登録湿地の基準が水鳥の渡来数から多様な生物の生息地としての重要性に拡大されたことなどを受けて、環境省ではこの新しい登録基準に沿った重要湿地を全国で 500カ所選定しました。これは、湿原、河川・湖沼、湧水池、ため池、干潟、藻場、サンゴ礁など、さまざまなタイプの湿地を対象として全国的な観点から重要な湿地を選定したものです。
 このように多様性保全上重要な湿地については、各湿地の特性や地域条件に応じて保護地域化を進めたり、事業配慮の徹底や助成・税制措置等の経済的奨励措置など多様な手法を組み合わせて保全を強化していく旨の方針を述べています。
 湿地の保全の具体的検討に際しては、周辺の土地利用、森林管理や水、土砂の流れなどが深く関係しており、流域や沿岸域等周辺を含めた広域的視点からの取組が必要です。また、浅海域の干潟などに関しては大規模なものだけでなく、河口や海岸沿いに点在する小さな湿地についても、底生生物の幼生や仔稚魚が移動分散する際に重要な役割を果たしている場合があります。こうした湿地間のつながり、ネットワーク形成の必要性についても示しています。
 次に、第3部第2章第5節、本文62ページです。
 62ページ以降に野生生物の保護管理の方針をあげております。
 初めの種の絶滅の回避に関しましては、レッドリストに掲載された種の個体数を回復させリストから削除していくこと、また新たな種がリストに掲載されないようにすべきことを述べています。そのため、緊急避難的な絶滅防止対策に加えて、地域個体群を消滅させないという観点から、島嶼や里地里山など絶滅危惧種が集中する場所や湿地のように全国的に減少が著しい生息地などを特定して、その保全、再生、修復を早い段階で進めるなど、絶滅のおそれを未然に回避する予防的措置を講じていくことを述べています。
 次に、猛禽類保護への対応、そして海棲動物の保護と管理、科学的な個体群管理システムの確立のための方針を示しております。その上で、65ページでは移入種問題への対応方針をあげています。
 移入種については第3の危機でもあがったものですが、条約締約国会議で示された中間的指針原則に沿って、侵入の予防、侵入の初期段階での発見と対応、定着した生物の駆除・管理という3つの段階で必要な対応を進めるべきことを述べています。資料1-3の第4部の具体的施策の資料の方の76ページでございますが、移入種問題に関する具体的施策をここにあげています。緊急に実施すべき措置として、まず移入種の利用による影響の予防的措置をあげています。移入種を人為的に持ち込んで利用する場合に、利用に先立ってその影響を事前に予測、評価をし、影響の可能性が高いものの利用を行わないようにすること、そして影響のおそれのある要注意種リストの作成を行うことなどを述べています。
 また、島嶼等における移入種の計画的な排除・管理の実施、新たな移入種の侵入から島嶼生態系などを守るため、侵入ルートにおける監視体制の確立や持ち込みを防止するための効果的措置の検討を地元の機関と相談しながら進めることなどを述べています。
 そして、天然記念物関係、水産漁業関連、河川管理関連等の移入種対策があげられており、こうした各省施策の連携を強めて対応をしていくことが示されています。
 同じ第4部の方の資料で、81ページをあけていただけますでしょうか。
 ここには生物資源の持続可能な利用についての施策があげてあります。バイオ技術による、その中でバイオ技術による遺伝子改変生物の生態系影響への対応も述べられています。
 81ページの2つ目のパラグラフにありますように、バイオテクノロジーによって改変された生物(遺伝子改変生物)を環境中に放出して利用する場合には、他の生物との競合、交雑など、生物多様性に影響を及ぼす可能性があることが懸念されています。このため、生物多様性条約においては、バイテクにより改変された生物で環境上の悪影響を与えるおそれがあるものの利用や放出の規制、管理、制御のための措置が求められています。
 その影響に関しては未解明な部分も多いことから、現在の知見で可能な科学的リスク評価、リスク管理を行い、利用によって他の生物や生態系に悪影響を及ぼさないよう十分な配慮を講じていくことが必要です。そして新たな知見を不断に収集し、リスク評価、リスク管理の方法を見直していくことが重要です。そして、同じ第4部の88ページの第2パラグラフにあげましたように、このバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書の早期批准を目指して、必要な国内担保措置の検討を政府一体となって進めることをここで明記してございます。
 次に、保全の強化のための科学的知見を充実させる上で自然環境保全基礎調査の役割が重要です。その新たな展開として全国モニタリングサイトの構築をあげています。同じ第4部、具体的施策の資料の 106ページでございます。
  106ページの(イ)というところでモニタリングの実施をあげています。その中で、国土レベルで生態系や生物多様性の劣化その他の問題点を早期に把握し、適切な対策を講じていくためには、できるだけ多くの固定された地点で長期間にわたって継続的に監視(モニタリング)を行うことが効果的です。
 このため、現状では生態系モニタリング調査の実施地域は5地域に限られていますが、概ね10年間で 1,000カ所を目標に定点(モニタリングサイト)を国が設定いたします。モニタリングサイトとしては、自然性の高い森林、湿地、里地里山、渡り鳥の飛来地、干潟、藻場、サンゴ礁等の浅海域など生物多様性保全上重要な生態系から選定するとともに、都市内の樹林地など比較的人為の影響を受けている生態系についても対象といたします。モニタリングの実施に当たっては、専門家、NGO、ボランティアを初め多様な主体の参画・協力を得て効果的かつ継続的な調査の実施を推進する体制を構築します。という提案をここであげております。
 このモニタリングサイト1000に加えまして、浅海域の干潟や藻場における生物相や生態系の調査に本格的に着手することも、基礎調査の今後の展開の重要な柱としてこの中で掲げてございます。
 以上述べましたように、多様性の危機の態様に応じて保全を強化していこくとを第1の1つ目の方向としてあげました。
 次に、基本的方向の2つ目として自然再生をあげました。今度は第3部の方の資料で33ページ、これの一番下の行から自然再生の部分が始まります。ここは要点を読み上げます。
 これまで私たち人間は自然の生産能力を超えた自然資源の収奪、自然の破壊を進めてきました。その結果、生物多様性が減少し、人間の生存基盤である有限な環境が損なわれ、自然の一部である人間そのものの存続も脅かされるようになってきました。こうした今、私たちは一方的な自然資源の収奪、自然の破壊といった自然に対する関わり方を大きく転換し、人間の側から自然に対して貢献をしていくべき時に至ったものと考えます。現状を維持するための保全だけではなく、地域の自然環境基盤としてのポテンシャルを顕在化させ、地域特性に応じて生態系の質を高めていくという方向に転じる必要があります。自然の回復力、自然自らの再生プロセスを人間が手助けする形で自然の再生、修復を積極的に進めます。
 過去の姿に学びつつ、どのような水準を目標とすべきか、科学的知見に基づく情報を地域の関係者が共有し、社会的に合意を形成した上で再生、修復を進めていく必要があります。また、事業の実施によりかえって生態系の機能を損なうことのないよう順応的管理の考え方を取り入れ、的確なモニタリングと事業内容の柔軟な見直しを行いつつ、時間をかけて丁寧に、慎重に行わなければなりません。経験と実績を積み重ねていくことによって日本の気候風土に根ざした日本型の自然再生を確立していきます。
 こうした取組の端緒として、関係省庁が連携し政府一体となり、また国民、民間団体、研究者等多様な主体の参加・協力を得て推進する自然再生事業に着手します。
 さらに、第3部の主要テーマ別方針の第4節、本文の59ページになります。ここでは、自然再生事業が開発により損なわれる環境と同種のものをその近くに創出する代償措置としてではなく、過去に失われた自然を積極的に取り戻すことを通じて生態系の健全性を回復することを直接の目的として行う事業であることをまず明記をしています。
 その上で、第1に自然の再生・修復は、河川と湿原、あるいは干潟と藻場など複合的な生態系を対象とするケースがあるため、各省が連携して効果的・効率的に推進することが重要であり、自然再生事業推進会議の設置などを通じて関係各省の連携体制の一層の強化を図る必要があること。
 第2に、調査計画段階から事業実施、完了後の維持管理に至るまで、国だけでなく、地方公共団体、専門家、地域住民、NPO、ボランティア等多様な主体の参画が重要であり、そのためのさまざまな仕組みの活用が課題であることなどを重要なポイントとしてあげています。
 そして最後の部分で、こうした自然再生事業のモデル的な事業として、国土交通省、農林水産省、環境省では緊密な連携を図りながら、平成13年度中にも釧路湿原における自然再生事業に着手します。事業内容としては、直線化された河道の再蛇行化とその周辺での湿原植生の回復、ヨシ原におけるタンチョウの営巣環境の整備、集水域での広葉樹の植栽などによる土砂の発生抑制対策などが考えられます。事業の実施に当たって、調査計画段階から地元自治体、専門家、地域住民、NPO等の参加を得てさらに具体的な検討を進めるほか、湿原の再生状況、動植物の生息・生育状況等をモニタリングしながら、その評価を事業に反映するなど柔軟に事業を進めていきます。この釧路湿原における取組は自然再生事業の先駆けとなるものであり、わが国の自然再生事業の試金石と言えます。いわば「釧路方式」として世界に発信し得るモデル事業を目指して取り組んでいきます。
 第4部の各省施策の中でも、この自然再生に関して森林や農地、都市、河川、海岸、港湾、漁港などにおきまして、この自然再生事業の展開を重要な施策として掲げてございます。
 基本的方向の3つ目として持続可能な利用をあげました。第3部、本文資料の34ページにその考え方を示しました。要点をご説明します。
 国土全体の生物多様性を保全するためには、里地里山等の中間地域などにおいて、生物多様性保全に配慮した持続可能な利用が営まれるようにすることが大変重要な課題となります。
 こうした地域では、絶対的な価値を持つ貴重な自然を厳正的・排他的に保護するという従来の保護の論理だけでは問題が解決できません。それぞれの地域の身近な自然のように相対的に価値を捉えるべきものにも光を当て、そられを人の生活・生産活動とのかかわりの中で保全していくという考え方が必要です。地域の生物多様性保全と生活・生産上の必要性などとうまく調整する社会的な仕組みや手法についてのアプローチをより積極的に進めます。
 すなわち、従来の規制的な手法に加えて、NPO活動の支援、地権者との管理協定、助成や税制措置等の経済的奨励措置の活用、自然再生事業の実施、アセス等の活用による社会資本整備における環境配慮の徹底、環境保全型農業の推進、地域活性化との連携、地域における社会的広域形成の仕組みやそれにおける専門家関与の仕組みの構築など、さまざまな手法や仕組みを検討し、それを活用して組み合わせて対応していくことが必要です。
 国土の利用、自然資源の利用に当たっては、現に生物多様性保全上重要な場所は保全を基本として悪影響を回避すること、利用は長期的な視点に立って、自然の循環能力を超えずに生態系の構造と機能を維持できる範囲内で、また生物資源の再生産が可能な範囲内で持続可能な方法により行うことが必要です。また自然の変化に関する的確なモニタリングとその結果に応じた利用方法の柔軟な見直しが大切です。
 持続可能な利用に関して、第3部主要テーマ別の第2節で本文の52ページになります。主要テーマの一つとして、里地里山の保全と持続可能な利用を述べています。
 この中では、里地里山の自然環境特性や取組などの現状分析を行い、その結果を踏まえて今後の取組の基本方針として、第1に二次林のタイプによって自然の遷移にある程度委ねる地域と積極的に手を入れて二次林を維持管理する地域を区分するなど、自然的社会的条件から里地里山を大まかに区分して生じている問題や地域特性に応じた方策を進めること。第2に、里地里山の問題は地域の生活、文化などにもかかわる問題であり、それらの広範な問題を一体的、総合的に捉えていくことが必要であること。その里地里山の課題は、農業、林業、都市緑地等さまざまな分野を含むことから、関係する省庁間の連携が欠かせないことなどをポイントとしてあげています。
 この二次林の分析に関連して、資料1-4の図表集表6には二次林の植生タイプごとの現状面積を数字としてつけてございます。この里地里山の保全と利用に関して、今後取り組むべき重点的な施策として何点かあげてございます。第1に、国立・国定公園において管理が行き届かなくなった里地里山を対象に、国、地元自治体、NPO等と土地所有者が管理協定を結ぶとともに税制優遇措置を講じるなどの施策を実施すること。第2に、都市地域の緑地保全地区に含まれる里地里山については、土地所有者と自治体等とが管理協定を締結し持続的に管理を行うと同時に、市民に公開するなどの取組を推進すること。第3に、農村地域においては、例えば湧水地の保全、生態系に配慮した用水路の設置や改良、水辺や樹林地の創出等、農業農村整備事業等によって多様な野生生物が生息できる環境づくりへの配慮に努めること。第4に、里山林では、身近な里山林等が持続的に利用されるよう森林の維持管理の育て親を都市住民などから募集し、森林所有者と都市住民などが連携・協力して保全・利用する体制を推進すること。第5に、都市近郊の里地里山においては、例えば埼玉県くぬぎ山地区において、武蔵野の雑木林を再生するなどの自然再生事業を関係省庁や関係自治体が連携・協力し、市民参加も得ながら積極的に実施することなどを施策としてあげています。
 さらに、里地里山の保全・利用については国民的な合意形成が前提となります。このため、環境省では、里地里山の代表的な生態系のタイプごとに市民参加型のモデル事業を実施して、行政、専門家、住民、NPO等のあらゆる主体が一体となって里地里山の保全・利用に取り組むための実践的手法や体制、里地里山の普及啓発や環境学習活動などのあり方について具体的、実践的な検討を進めていきます。
 持続可能な利用に関して、農林漁業など生物資源を利用した生産活動は、やり方によっては自然界に大きな影響を与え得るものであり、一方でそれらの営みは多様性に支えられているという認識に立って、十分な配慮により生産性と多様性保全のバランスを保つことが重要です。農地、森林等の多面的な機能を高めていくための取組や海洋の生物多様性保全に配慮した持続可能な漁業の確立のための取組について、第4部具体的施策にさまざまな施策が掲げられています。
 フローに戻ります。この3つの基本的方向を支える共通的基本的要件として5つの視点をあげました。
 [1]科学的認識、[2]統合的アプローチ、[3]知識の共有・参加、[4]連携・共同、[5]国際的認識の5つでございます。
 1つ目の科学的認識ですが、これは科学的データに基づく理解や認識をすべての政策決定、取組の出発点、基礎とすべきとの視点です。第3部の主要テーマ別第6節の自然環境データ整備のところでは、先ほど述べました自然環境保全基礎調査を中心として調査研究の推進や得られたデータを広く公開するための情報システム整備について述べられています。
 2つ目の視点、統合的アプローチは、環境の側面だけを切り離しては問題が解決されず、社会的側面、経済的側面を含めて統合的に問題を捉えていくことが不可欠との視点です。生物多様性の観点を国土の開発整備や土地利用に関する各種計画とも関係づけていくことが重要です。
 3つ目の視点、知識の共有・参加です。その第1には、情報公開・参加・合意形成をあげています。
 積極的な情報公開によって、国民などの多様な主体の幅広い参加を促していくこと、そして、関係者すべてが広く自然的、社会的情報を共有し、社会的な選択として自然環境の保全管理や利用の方向、水準などについて合意形成を図っていくことが必要との視点です。この水準は固定されたものではなく、社会の環境意識の向上に伴って上昇していくものになります。
 そして第2に、環境教育・環境学習をあげています。
 環境教育・環境学習は、社会全体の環境意識のレベルを向上させると同時に、希薄化した自然と人間との関係を再構築する上からも重要です。
 第4部の具体的施策の資料の中の 113ページのところに教育・学習、普及啓発、人材育成のための施策をあげています。
 その中で、第1に環境教育・環境学習の推進は、多様性の保全にとって不可欠な政策手段であり、学校から社会、都市から国立公園などの自然地域までさまざまな場において進めていく必要があること。
 第2に、単純な知識の伝達にとどまらず、自然との直接的なふれあい体験を通じて自然に対する感性や環境を大切に思う心を育てることを重視すべきこと。
 第3に、その際、人間は自然の圧倒的な力の前では小さな存在であり、自然に対して謙虚な気持ちを育むことや、農林漁業者や地方での暮らし方から伝統的に培われた知識や技術、自然への感性を学ぶことも重要であることなどの点を述べています。
 そして、環境教育・学習の基礎的要件として「場」と「人材」と「情報」のネットワーク化をあげ、関係省庁の具体的施策を掲げてございます。
 視点の4つ目、連携・共同の視点です。
 これは各省が連携して一体的、総合的な取組を進めることがこの戦略の大きな役割になります。さきに述べた自然再生事業や里地里山保全における各省連携に加えまして、自然環境調査レベルの連携も重要になります。国土交通省の河川水辺の国勢調査、農林水産省の「森林資源モニタリング調査」や「田んぼの生き物調査」など各省の調査、さらには地方やNGO等における調査の進展を踏まえて、相互の情報交換のための連絡組織を設けるなどして、情報の共有、情報の相互利用を進めることが大切です。
 また、連携・共同に関しては、地域の生物多様性保全のために、日常にかかわる地方公共団体や地域の住民が主体となって地域特性に応じた計画づくりや取組を進めていくことが大切です。国は指針や基準の作成、事業の助成、情報の提供などを通じて地域の取組を積極的に支援することが必要です。地域での取組において、適切な専門家の関与が極めて重要です。このため、専門家の養成・組織化、あるいは地域への派遣など体制の整備、支援方策も重要な要件となります。
 視点の5つ目は、国際的認識の点でございます。
 わが国は、地球環境からさまざまな恵沢を享受する一方、大きな影響を及ぼしています。また、渡り鳥などの行き来があり、大陸の生物相との近縁性が高いなど、日本と世界、とりわけアジア地域は深い関係を有しています。このため、国際的な多様性保全に日本の経験やノウハウを活かして積極的に貢献すると同時に、日本の社会経済活動が世界の生物多様性に悪影響を及ぼさないように配慮することが重要との視点をあげています。温暖化対策など、他の地球環境問題と多様性のかかわりを認識することも重要であります。
 第3部主要テーマ別第7部の国際的取組の中では、こうした国際的認識の視点に立って多様性条約等の国際条約、あるいはミレニアム・エコシステム・アセスメント等の国際プログラムへの積極的貢献に加えて、途上国への協力についても、第1に国際協力の戦略を十分に練って、単発的な対応からより積極的、戦略的な協力を進めること。第2に、そのためには日本が先進的・モデル的な国内対策を進めいくことが不可欠であること。第3に、特に社会経済と多様性の両面から、わが国と密接な関係を持つアジア地域を重視すべきことなどのポイントをあげております。今後の協力の重点分野として、自然環境データ整備、渡り鳥・湿地保全、希少種保護、国立公園、森林の持続可能な経営などの分野をあげてございます。
 フローに戻りまして、生物多様性からみた5つの点の下に、生物多様性からみた国土の捉え方ということで、多様性の観点からの国土の解釈、分析として、国土の構造的把握と植生自然度別配慮事項の2つの試みをあげました。
 まず、国土の構造的把握では、マクロにみた生物多様性を支える国土の骨格的な構造であると同時に、国土全体を対象として、その空間特性に応じて生態系の質を改善、回復していくためのポテンシャルの構造として、[1]奥山自然地域、[2]里地里山等中間地域、[3]都市地域、[4]河川・湿原等水系、[5]海岸・浅海域・海洋、[6]島嶼地域の6つの構造をあげています。
 第3部の資料の本文39ページからこの6つの構造につきまして、それぞれの構造の特性とポテンシャルを顕在化させ生態系の質を回復していくための考え方を示しています。以下にそれぞれの要点を説明いたします。
 1つ目の奥山自然地域。
 奥山自然地域は脊梁山脈等の山地で、他の地域と比べて自然に対する人為の程度が小さく相対的に自然性の高い地域です。国土の生物多様性を成立させる、いわば屋台骨としての役割を果たす地域であり、原生的な自然、大型哺乳類などの中核的な生息域、水源地などが含まれます。
 この地域では自然優先の管理を基本とします。また、山岳部の過剰利用に伴って傷んだ植生の修復、ササが密生した荒廃地の広葉樹林化などを進めたり、比較的自然性の高い二次林を遷移に委ねて自然林へと移行させることなど、奥山自然地域の質を一層高めていきます。
 2つ目の里地里山等中間地域です。
 里地里山等中間地域は奥山自然地域と都市地域の中間に位置し、自然の質や人為干渉の程度においても中間的な地域です。里地里山はさまざまな人間の働きかけを通じて二次的な自然環境が形成されてきた地域であり、中核をなす二次林だけで国土の約2割、周辺農地等を含めると国土の4割程度と広い範囲を占めています。絶滅危惧種を含む多様な生物の生息空間であり、都市住民の貴重な自然とのふれあいの場でもあります。この中間地域には人工林が優占する地域なども含まれます。
 こうした地域では、自然環境基盤の違い、あるいは人間活動の干渉の程度の違いに応じて、多様で比較的小さな単位の生息空間がモザイク状に存在していることが特徴です。こうした空間を有機的に関連づけることによって、この地域の多様性の質は飛躍的に向上いたします。また、この地域は国土の中間に位置することから、多様性保全上、奥山自然地域の緩衝地帯であり、一方で都市地域への生物の供給源としての意味も持っています。
 3つ目の都市地域です。
 都市地域は人間活動が優占する地域であり、高密度な土地利用、高い環境負荷の集中によって多様な生物の生息できる自然空間は極めて少なくなっています。人工改変の進んだ都市地域では、生物多様性を回復するための手がかりが一見ないように見えます。しかし都市にも地域固有の植生を成立させる気候があり、台地や低地、段丘崖などの地形、土壌、地下水などに規定される自然環境基盤のポテンシャルがあります。また、都市周辺の丘陵地等の森林や農地などは都市地域への生物の供給源としての機能を果たし得ます。周辺地域との生態的関係を活かしながら都市内の樹林地や水辺地を創出しうまく配置することなど、都市においても工夫次第で生物多様性の回復は可能と考えられます。その際、都市内の顕在的自然である河川・湖沼、浅海域などは、こうした都市構造の主軸としてその質を高めていくことが重要です。
 都市内であっても多様な生物相を支え得る核となる大面積の緑地と数多くの小規模な緑地、線状の緑地などがうまく連携されると高い効果が得られます。このために、未利用地などを活用して、生態系の頂点に立つ猛禽類等も生息できる数百ヘクタール規模の森林を整備するなど、まとまった規模の生息空間を創出することも検討いたします。明治神宮の森の創出は一つの参考例となると考えられます。
 4つ目の河川、湿原等の水系です。
 水は地球上のあらゆる生命の生存に欠かせないものです。河川を軸とする水系は生物多様性の重要な基盤的要素であり、水系の特殊な形として湖沼、湿原、あるいは地下水系、湧水などが存在します。また、水系は森林、農地、都市、沿岸域などの生態系をつなぐ要素であり、国土の生態的ネットワーク形成上重要な要素でもあります。生物の生息の場として重要な湿地等は保全を基本とします。自然河岸や湿地帯・河畔林等を極力保全するとともに、蛇行の回復等による河道の再自然化や湿地帯・河畔林の再生・修復を行うことにより、河川生態系全体の保全・再生・修復を進めていきます。
 5つ目は、海岸・浅海域・海洋でございます。
 海洋は地球のほぼ7割を占め、水循環の巨大なストックであると同時に、その膨大な熱エネルギーにより地球の気候の形成に大きく寄与しています。また、地球上の二酸化炭素の大きなシンク(吸収源)として機能し、大気の安定化を担っています。陸域、陸水域、海域が接し、それらの相互作用のもとにある浅海域は、干潟、藻場、サンゴ礁などが分布し、多様な生物の生息の場、豊かな生物資源の生産の場、水質の浄化、自然とのふれあいの場など、さまざまな重要な機能を有しています。
 こうした生物の生息の場として生物多様性保全上重要な干潟、藻場、サンゴ礁等の湿地は保全を基本とします。加えて、潮流、底質等のポテンシャルを十分踏まえて干潟、藻場、サンゴ礁の再生を進めることなどにより、浅海域生態系全体の保全・再生・修復を進めます。希少な海棲哺乳類、海鳥類、ウミガメ類などについては、生息地・繁殖地の開発に加えて、漁業に伴う偶発的捕獲等の要因も個体群に大きな影響を与えることに留意が必要であり、海棲生物の保全に配慮した持続可能な漁業の確立、普及が重要です。
 6つ目の島嶼地域でございます。
 わが国には、主要4島のほかに 3,000以上もの大小さまざまな島嶼があります。島嶼の生態系は高い独自性を持つ種分化、進化の宝庫とも言え、わが国のみならず世界の生物多様性保全のためにも重要な意義を要する地域です。
 島嶼地域には分布が非常に限定された地域固有の種が多く生息し、人為的影響に対して脆弱な特性を持つことから絶滅危惧種が多く、絶滅危惧種に選定された哺乳類の約5割、爬虫類の約8割、両生類の約6割が島嶼にのみに分布する種となっています。
 こうした島嶼地域の生態系や生物相の独自性、固有性は、生物多様性保全上極めて重要であると同時に、島嶼地域の活性化を目指した豊かな地域づくりを進める上での貴重な歴史的資産でもある観点からその保全を進めていきます。
 7のその他の留意点として、流域を一体として扱う視点から関係者が連携し総合的に取り組むことによって、生態系維持にも不可欠な水や土砂をコントロールし、流域圏の健全な水・物質循環や生態系の回復を可能にしていくことが必要との流域的視点の重要性をあげています。
 もう一つの国土の見方として、植生自然度別配慮事項をあげています。
 植生自然度は、植生に対する人為の影響の度合いによってわが国の植生を10の類型に区分をしたものです。国土全体の生物多様性を回復していくための指標的性格も持っています。第3部の本文46ページ以降には、自然度別の面積等の現状とそれぞれの自然度ごとにその質を高めていくための配慮事項を示しています。
 フローに示しました第4部「基盤的共通的事項」のところでは、各省施策も含め調査研究、環境教育、学習、社会資本整備における環境配慮など、共通的、横断的事項について整備をしております。
 最後にまとめとして第5部があります。概ね5年間の計画期間、各種計画との調整、連携の必要性等について注意喚起をしたほか、特にこの第5部では戦略策定後のフォローアップについて、毎年この審議会に報告することを記述しています。
 ここで簡単に今回の戦略の特徴に係る事務局の考えを述べます。
 第1に、多様性が安全性や地域文化とも密接不可分であることなど、多様性保全、持続可能な利用のための「理念」を拡大し整理したこと。
 第2に、山奥の原生自然や貴重種といった特定の対象から国土全体を対象とすることを、そしてその国土全体の多様性を向上させていくことを具体的に述べたこと。
 第3に、各省連携、共同体制の強化について、自然再生事業、自然データベース整備などにおいて具体的に強調して述べたこと。
 第4に、自然公園法改正、自然再生事業、里山モデル事業、モニタリングサイト1000、浅海域生態系調査など、具体的施策をできるだけ盛り込んだこと。
 第5に、今回の策定作業は、インターネット活用など徹底的な情報公開のもとで行ったほか、NGOのヒアリング、各省のヒアリングなど、開かれたプロセスの中で進めたことなどであると考えております。
 長くなりましたが、事務局からの資料の説明は以上でございます。ご審議のほどよろしくお願いいたします。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。
 まことに膨大なものですから、皆さんお読みいただいいていたかもしれませんが、要点を説明してもらいました。
 これからご意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。どこからでも結構でございます。事務局に既にお話をいただいた方もあるかもしれませんが改めてご意見をいただければと、こう思っております。お気づきの点ございましたらどうぞご遠慮なく。

●鷲谷委員 お送りいただいたそこを読ませていただいて、また今日ご説明を伺って、仏様に魂が入ってきたなというように感じております。
 わが国の生物多様性の現状の分析とか、理念とか目標とか、本旨に関してかなり明確で理解しやすい、しかも力強い記述がなされているように思います。
 それから、すぐにでも取り組まなければいけないようなことはとても具体的に記されていると思いますし、また、いろいろ要望はあるんだけれども、検討が必要なことに関してはその旨示してあるなど記述にめり張りがあって、そういう意味では説明責任をよく果たすものになっているような気がします。
 それで、各省のところ、4部なんですけれども、ここは生物多様性の保全とそれから持続的な利用とかかわりがあるけれども、ほかの目的の施策が書き込まれているんですね。
 それで、その施策自体はもう決まっているものですから、恐らくそれを変えられるようなものではないと思うんですけれども、説明の仕方を、やはり生物多様性国家戦略ですから、生物多様性の保全とか持続的な利用という点からみて、その施策がどういう意味を持っているのかもう少しわかりやすく説明したり、あるいはその施策の中でできること、今まで意識していなかったけれども、こうやって戦略というものができるに当たってこういう方向にも活用できるというような意欲といいますか、ちょっとまだ魂が十分入っていないという印象を受ける部分もあったものですから、もうちょっと記述に工夫をしていただけたらというふうに思いました。
 以上です。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 かなり高い評価をいただいているわけですが、第4部の説明の仕方、生物多様性の保全の視点からできるだけ記述するようにと、そういうことでよろしいですか。

●鷲谷委員 わかるように書いていただければと思います。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 ほかにいかがでしょうか。

●大沢委員 引き続いて肯定的な意見をちょっと申し上げたいと思うんですけれども、確かに現行の戦略に比べると、まさにグラウンドデザインをまず示して、それから場と情報と人材という、全体を通してそういうことを非常に意識しておられてかなり力強いものになっていると思います。
 それから、基本的にどういう視点に立つかというあたりも箇条書きでそれぞれきちっと記述されていて、私の立場からすると、こういう多様性の保全とかそういうものはきちっとした科学的な根拠に基づいて進めないと説得力がない、対社会に対してもそうですし、ほかの省庁に対しても説得力がないということで、そういうことに関してかなりご意見を申し上げたわけですけれども、それも相当程度に触れられているという意味で高く評価したいと思うんですが、ただ、問題としては、ちょっとレベルが違うのかもしれませんが、こういうグラウンドデザイン的なものが各省庁の今の第4部のところで、鷲谷委員からちょっとお話があったように、各省庁に下りていった時に具体的にどの程度基本的な視点が保証されるのか、あるいは環境省が主体になってもうちょっと政府全体のこういったことについての施策を統合的にリードできるような、何かそういう仕組みをちょっとお考えいただきたいというふうに思います。
 それで、往々にして環境省は比較的その専門家がたくさんいらっしゃるわけですけれども、ほかの省庁に下りた時に必ずしもそういう生物多様性についてのきちっとした識見を備えた担当官がいるわけではないようなところもたくさんあると思います。ですから、例えば環境省の生物多様性センターだとか、そういうものをもうちょっとそのネットワーク機能を強化して、政府全体についてもある程度目配りできるような、そういう仕組みを、難しいとは思うんですけれどもぜひ取り組んでいただけると現実味を帯びてくるのかなというふうに考えます。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 大沢委員のご発言も第4部にかかわる表現というか、あるいはもう少し、もう一歩踏み込んでということになるかもしれませんけれども、この第4部の扱いというのはどうなりますか。

●自然環境計画課長(小野寺) 第4部は、最初に企画官から申し上げましたとおり、3部までは相当突っ込んだ各省とのやりとりをして、これで完全決着というわけではありませんが大体ほぼまとまりつつある案ですが、第4部は、我々が3部まで書いたのを見て各省がある程度記述に入るというので、メモの段階のやりとりは大分やってはいたのですが、実際の記述はぎりぎりになってしまいました。第4部に関しては推敲したり各省が書いたもので各省同士が議論をしたり、そのプロセスややり取りが足りないことは事実でありまして、今日お示ししないよりは全部一応お示しした上でご意見を伺って最終的な調整をしたいと、そういうことで本日出させていただいたもので、各省の代弁をすれば、ちょっと時間がなかったということもあります。少しこなれていない部分が、読んだ印象としてはあると思います。
 ただ、全体としては、こう申し上げては何ですけれども、ある程度その3部までと4部のところは、こういう大きな計画の場合には、少しギャップが出るのはある程度やむを得ないのではないかと思います。その中でなるべくご指摘を受けたところを克服するように各省とも話し、事務局も頑張ってみたいと思います。よろしくお願いします。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 今のようなことで、最終稿ではないというふうに考えていただいてよろしいのではないかと思います。ただし、今小野寺計画課長がおっしゃったように、ある程度ギャップが出るのはやむ得ないということがあるのではないかと思います。
 何かほかにいかがですか。

●山岸委員 私もこの案を見せていただきまして、その第4部が一番問題だと思いました。
 というのは、私国土交通省の河川水辺の生態調査なんかにかかわっているんですが、ここへ出てくるのを見ると上がったまんまだと僕は思います。その下から上がってきたまんまであって、そこに環境省の考えなり今回の多様性の国家戦略に対する考えというもにを反映させるために、手入れて「こんなことではだめだ」ぐらいの意見が入って結構なんだと僕は思います。これについてはやっぱり各委員もう少し4部について、4部を中心に意見を申し上げるべきなのではないかと思いました。これが1点です。
 それからもう1点、生物多様性センターの位置づけなんですが、大沢さんも今おっしゃっていたんですが、せっかく環境省にこういういい施設があって、まさにこれこそこういう戦略の中心になるべきなんですが、その位置づけが情報の収集と整理にとどまっているという感じが僕はしました。これは非常にそのセンターを矮小化することであって、もう少し人員の充実とか、そういうものを含めてもっと高い立場から充実されてはいかがなものではないでしょうかと思いました。
 以上です。

●辻井委員長 応援演説ですね、ありがとうございました。阿部先生、どうぞ。

●阿部委員 私もこれを読ませていただいて、やはり4部のところが一番ちょっと問題ではないかというふうに感じました。
 基本的には、全体としては非常にきちんとした環境パラダイムに軸足を置いた書き方になっておりまして非常によくできていると思うんですが、やはり4部のところで省庁間の、この前のヒアリングの時にも温度差が非常にはっきりしているところがありましたので、それがもろに出ているような気がいたました。
 例えば、第4部の19ページと……

●辻井委員長 第4部の19ページですか。

●阿部委員 はい、19ページの「基本的考え方」に書いてあることと、それから22ページの具体的な施策の書いてあるところも多少矛盾するようなといいますか、矛盾ではないのかもしれませんけれどもちょっとちぐはぐなところが見られるような気がいたします。
 といいますのは、例えば19ページのところでは、現状認識としてこれではちょっとまずいのではないかというような部分を感じました。それから、全体としては、先ほど、3部のところの39ページのところのご説明の中で、奥山自然地域というのがありました。これは現在では奥山自然地域がいろんな日本の生物相の中核という位置づけは、それはいいんだろうと思うんですけれども、本来は里地里山とか平野部、特に、里地里山を中心とした部分が中核であったはずなんです。ところが、そこはもう現在ないような形態になりまして、残ったのが山岳地帯ということではないかと思います。そこの認識はこれでいいのかというふうに私はちょっと疑問を感じました。そういうことで、書き方をもうちょっと工夫した方がいいのではないかなと。
 これを代表するような意味で、例えば明治神宮の森の話が出てまいりましたですけれども、この部分を将来どういうふうに具体化してやっていくのかというのも大きな課題であろうというふうに感じました。
 以上です。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。
 今の里地里山というのは、本来の位置づけとしてはそれが中核であると。

●阿部委員 もともとはそうであったはずなんですけれども、現在はもうなくなっていますから。

●辻井委員長 もともとはそうだったということを少なくともどこかに書いておいた方がいいんではないかということかと思うんですけれども。ありがとうございました。
 ほかにいかがでしょう。

●大沢委員 今阿部委員がおっしゃったような意味合いというのは、例えば説明の中で、河川沿いのその自然の保全とか、あるいは道路や何かをネットワーク化するとかという、いろんな都市地域とか里山里地地域にも自然を復元するような方向性というのは唱っているわけですけれども、やはりそれはなぜかと言えば、そういうもともとあった自然を人の居住地域であるところにも創り出していくというような動きの一端かと思いますので、やはりその辺は意識としてはっきり持つというのは私も重要なことではないかと思います。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 ほかにいかがでしょうか。

●和里田委員 全体の評価は皆さんおっしゃったとおりだと思います。里地里山の問題についてですが、里山の「森」の扱いについては相当環境省の書いた文についても農水省が書いた文についても記述されているんですが、里地といいますか、水田等々の農地をめぐっての環境への努力に関することについては、例えば私が東北地方の里地で見たことですが、そこでは減反されていても代かきをし、水を張って、稲は植えないけれどもちゃんと守って、お百姓さんたちが非常に農地を大事にしているし、それが結果としては非常に生物にも役立っていると。ところが関東から西の方のお百姓さんたちは、みんな草をぼうぼうにしてしまっているというような、ああいうのが非常に気になっているんですが、そういうものに対する大局的な取組の仕方みたいなものがしっかり書けていないのではないかという感じがいたしました。
 それから、せっかく環境省がいろんな制度改正等をなさって、里地里山でのその土地所有者との管理協定等々を結んでいる云々という話なんですが、これはまだ政府内の合意ができていないからなのか知りませんが、農水省の方がお書きになっている文にそれが見えてきていないような感じがいたしました。

●辻井委員長 今のご意見は、例えば第4部のところにそれを書き込んだ方がいいんではないかというお考えでしょうか。

●和里田委員 ええ、それと総論のところにも、里地里山のあり方というところへ。ですから水田の問題につきましては、里地里山のところの環境省の方がお書きになる部分についてももう少し方向づけがほしいですね。どうも森林の問題については目がいっているけれども、水田の方のあり方というようなところについてちょっと目がいっていない。それは当然農水省さんがお書きになっているところもそうですが、それと、その土地の管理協定みたいな形でこれからどうしようかという話は、環境省がせっかく書いておられますけれども農水省はそっぽを向いているのかなという感じがちょっとしました。

●辻井委員長 生物多様性の観点からいうと、減反等で使われていないような水田などについても、その条件の生物多様性の関連からみた維持ということが必要だと、そういうのが第3部の方に書かれてもいいのではないかと、こういうことだと思います。
 ほかにいかがでしょうか。

●和里田委員 それからもう一つ、先ほどの国土の捉え方のところで、都市地域についてどうすべきといことをしっかり書いているのは、国土の捉え方のところだけしかないので、入れるとしたらこの部分に入れるのかなと思って申し上げるんですが、やはり都市地域において水循環、生物多様性というもののためには水循環という視点が当然大切でございます。そういう意味では、今も続いているはずなんですけれども総合治水対策というような観点から、やはり都市地域において舗装等を通じて水がさっと出ていってしまう形でなくして、地下浸透をさせたり貯留したりということに対する配慮というのは総合治水対策その他で取り組まれてきたはずでして、そういうものは相当都市においても取り組まれてきているはずでございますので、その辺をもう少し活かしていくということとかが書き込まれると良いと思います。あるいは団地をつくった時につくられた防災貯水池が、そのコンクリートの水溜めだけというような形になっていますけれども、そういうものをもう少し水辺緑地的な利活用をするような形にして、そういったものが、少しでも都市が生物多様性に貢献するというように一部では捉えられているのでしょうし、またその辺も国土交通省としても意識しておられるんだろうと思うんですけれども、その辺環境省としてもいろいろしていただきたいと思います。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 ほかにいかがでしょうか。

●篠原委員 全般についての印象は皆様と同じで、前回のに比べてかなり骨組みがしっかりしたなと思います。
 それでもあえて申し上げますと、第1部の方の31ページで、グランドデザインというのが書いてありますが、生物多様性を考えると、こういうイメージでこれから暮らしていきましょうということだと思うんですけれども、余りにも31ページに書いてあるのはプアーで、もう少し膨らませて書けるんではないかと思うんです。ただ単にタカが舞っているとか木があるというのではなくて、町がどんな様子になっていてなどあると思います。この辺をもうちょっと充実させないとちょっと貧相かなと思いました。これはできると思います。
 それから、全般を通じてなのでどこというわけではないんですけれども、やはりこの戦略を実効性あるものにしていくためには人の問題が一番重要なんではないかと思います。人の問題は当然ですけれども2つありまして、認識の問題とだれが担うかという、問題です。教育のところ、あるいは環境学習のところを見ましたけれども、私はたまたま理科系でも工学部出身ということもあってよくわかるんですけれども、こういう機会でもなければこういうことについてはほとんど知らない。それはどういうことかと言うと、今回ヒアリングしてそれなりに勉強はされていますけれども、例えば国土交通省であるとか、あるいは各県のどっちかというと工学系の人は、こういう問題について基礎的な認識を持っているか、あるいは大切だと思っているかということがかなり重要な問題になると思うんです。もうちょっと言いますと、今何省庁あるのかわかりませんけれども、財政型の人もこういうことについて重要な認識を持っているかどうかというので随分違うと思うんです。
 だから、例えば中央官庁で言えば、初任者研修の時に必ずこれは義務として教育する、財務省とかその他の官僚も研修を受けるなど、というようなことも、小学校の教育も大事ですけれども、これから日本を背負っていく中央官庁の人がこういうことについては知らないということではまずいのではないかと思います。
 それから、前にも1回申し上げましたけれども、実質的に、きめ細かくやっていくためにはやはり県とか市町村の方がかなり中心になってやらなきゃいけないので、そこも、文章を書いただけではしょうがないんですけれども、どういうふうに施策、教育の方が展開できるかということをちょっと議論しながら、もうちょっと突っ込んで書いていただければありがたいなと。逆に言えば、そういうふうにぜひ、そっちの方向でやってほしいというふうに思います。
 それから、2番目の話は難しい方の話なんですけれども、実践の話ですけれども、里地里山中間地域のところは特にだれがこれを担うのかというのが鍵になりますね。手を入れていかなきゃいけないという話ですから。これについての、一応は読みましたけれども、何かさっき言われた今回の戦略の特色というので5項目か6項目あげられましたけれども、それの一つにその辺の、だれが支えるのかというのを、方向性を示したとか、あるいはある程度具体的な一歩を踏み出したとか、何かそういうところが出てくるといいかなと思っているんですけれども、もちろんNPOでもいいですし、それから農村の方に、管理協定とかいろいろ書いてありますけれども、今の段階ではなかなか難しいですし、和里田さんがちょっと言われたように、やはり人間はある意味では怠ける動物だから便利な方がいいし、お金もばっともうかる方がいいのでなかなか動かないわけですけれども、その辺のところはもうちょっと突っ込んで書けると良いですね。里地里山、国土全体の40%を占めるところ、今度の中で真っ正面で取り入れたというのは非常にいいと思うんですけれども、そこに具体性が出てくるかなと思いました。里地里山等をどういう考えで、だれが担うか、だれに担ってもらうか、だれが担うべきではないのか、どういう方策で考えていくべきか、その短所は、などといったものが出るといいなと思ったんですけれども。ちょっと難しい問題ですけれども。

●辻井委員長 それは、今の篠原委員の話を書くとすると第5部のところですかね、戦略の効果的実施みたいなところになりますかね。

●篠原委員 それは難しいかもしれないですね。

●辻井委員長 つまり、効果的にするためには人がやはり非常に重要であって、今おっしゃったように、何も環境省だけでなくてほかの省庁のスタッフにもこういうことをわかってもらわなきゃだめだとか、また今の里山のことも、これは別のところに書いてもいいのかもしれないけれども……

●篠原委員 第3部のところで書いても結構なんですけれども、それはさっき言われたように自然再生事業をやりますとか、何とかやりますよという目玉として出しているのと同じように、この辺の国土の4割を占めるところについてはどうするんだというのがもうちょっとクリアに出るともっといいかなと思ったんで申し上げたんですけれども、いや、難しい問題だと思います。

●辻井委員長 だれがやるかというのまで書き込めるかどうか、それはちょっと難しいかもしれないけれども、その担い手を考えなきゃいけないというところまでは必要なのかもしれないですね。ありがとうございました。
 ほかにいかがでしょうか。

●瀬田委員 もう初めに第4部の話はされまして、私も実は小野寺さんにはそこのところを言ったら4部はちょっとしょうがないんだよと、こういう感じだったんですが、少しは直していただけるんだろうと思うので余り申し上げません。
 その上で、実は4部をずっと読んで、そして最後5部がちょっとしかないんですね。5部のところをが、わずか2ページですから。国家戦略の第5部の説明を今日も伺ったんですが、常に主語が「国」ということなのだろうかということなんですね。
 その都道府県というのももちろん公共団体としてではありますけれども、いわゆる環境教育の相手ではなくてもう既にやっている事業者でもある。ここにも「事業者及び国民においても」というのが真ん中のフレーズにありますけれども、ここのところをもう少し活かすことが果たしてできないんだろうか、あるいはこれをバックアップしているということを強調することができないんだろうかと思いました。どこかに書いてあったんですが、民間でもいろいろな助成をしてそういう生物多様性を守るための保全活動はやっているけれどもというのがどこかにあったと思うんですけれども、いろんな民間企業の中に自然保護基金があったり、あるいは自然保護協会プロジェクト集団というのがあったりするわけですから、ああいったものがたくさん日本でもあるよということ、それから、多分海外的にもそういう助成、応援をするということがあるよということに対して、国がもっとしっかりとしたバックアップをするというんならまた「国」というふうに戻さなきゃならないかもしれませんけれども。そこのところ、それの視点で読んでいるとまだそんなに強く出ていないかなという気がしましたので、私はせめてそのぐらいのところをどこかに書き込んでほしいなと思いました。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 それは私もそう思います。第5部の効果的実施まで、第5部そのものをもっと書いてあってもいいんではないかなと、結論みたいなものですよね。だから、これは最後のところなんだから幾ら述べても構わないんではないかと思います。

●篠原委員 5部だけ読めばいいというだけでもいいですよね。

●辻井委員長 要約みたいなのが入っている部分、それと、今のここには全部、まさに瀬田委員のご指摘みたいに期待されるというふうに書いてあるので、それは国だけではなくて、あるいは役所だけがかぶるというのではなくて、自治体もそうだしNPOもそうだし、そういうのはみんな責務があるという、責務と言わないまでもそういうみんなでやらなきゃだめだということを書いてもいいのではないでしょうか。
 ほかに。

●大沢委員 先ほどの担い手の問題ともかかわってくるんですけれども、例えば里地里山の保全なんていうのは天然記念物でも文化的景観を天然記念物として指定するとか、そういう場合にやはり同じような問題がかかわってきて、今まで農耕をしていた人たちとの関係をどうするかとか、そういう面については、4部を読んでみるとそれぞれ別個に書いてあるんですけれども何か共通した問題があるわけですよね。
 ですから、こういう国家戦略として全体をまとめようという時には、そういう関係省庁との協議をある程度していただいた方がいいんではないかと思うんです。この第4部というのがやはり現行の国家戦略そのものの縮小版みたいな感じで異物のように残っていて、林野のところでも果たしてこれが多様性国家戦略の文章の中にふさわしいものなのかと感じます。例えば、「林産物の計画的、持続的な供給」なんていうのが、それは人間が暮らしている中でその生物多様性も保全していこうということだから、同じように重要だと言えば重要かもしれませんけれどもちょっとそぐわないような、生のその文章がちょっと入っていたりするのは非常に気になるので、もうちょっとこれは何とか、難しいのかもしれませんがなりませんでしょうか。

●辻井委員長 それは先ほどのご意見とつながっているんだろうと思うんですね。生物多様性の視点からそういうのを表現するということになると思うんです。
 ほかにいかがでしょうか。

●三浦委員 私も皆様とほぼ同じ印象を持ちました。それで、全体として現状認識、基本方針、理念、それから意識、問題点等は非常によくまとまっているし、なおかつ結構格調が高いものであるというふうに思いました。
 それで、結局、先ほどから皆様もご指摘されているように、やはり出発の時から1部から3部と4部の齟齬が抱えながら出発していますし、私がやはり重要だと思うのは、第5部の戦略の効果的実施ですから、こういう高い理念のもとでは生物多様性の日本への定着という問題に関しては、その第5部がいかに実効性を持ち得るかというところがやはり重要だろうと思います。出発はかなりギャップがあって、それから認識にもギャップがあってという形で行かざるを得ないんでしょうが、基本的に毎年点検作業をやるということと、それから各省庁が持っていらっしゃる法律の中で、基本計画の中でそういうものが担保されているかどうかというのをきちんと点検するということが必要です。1年ごとにそれぞれ見ていくという話が第5部の中に出ているんですが、これが何かいかにもちょっと弱いというか、もう少しそこのところを担保できるような、きちんとできるような措置というか仕組みというか、そこが踏み込んでいけないものかなと思いました。
 それはかなり総合的で包括的なものでいいと思うんですが、余りにも各省庁への期待や国民各階層への努力目標であるから、そこのところの仕組みが何かもう少し考えていく必要があるんではないか。これはひとえに環境省だけではありませんけれども、こういったところを着実に進めるためにという意味で、それで毎年やるという格好なんですから、ここをせっかく言ってくれるんだったらもうちょっとそれが確実になるような保証がほしいなという、細かい表示の問題もありますけれども、全体ではそういう印象を受けました。
 ありがとうございました。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。
 やはり第5部のところですね、それをもう少し、全体を効果的実施のためのできるだけ具体的な表現ということになると思います。
 ほかにどうでしょうか。

●森戸委員 全体としては大変私はわかりやすくなったと思っております。
 ただ、これはすべてが全部明快でわかりやすくなった方が一番いいのかなと。わかりやすいに越したことはないけれども、特に閣議決定する場合には、どこかに書いてあればいいという部分もあるのかなと思います。
 これは専門家というか関係者が丁寧に端から端まで読むとしても、一般の人たちはそれほど丁寧に読む機会もないとすれば、再度環境省なりどこかで一般向けのわかりやすいストーリのお話をもう一度組み立ててそれがアピールされていくというような、そういうことが必要かと思います。現実的にはそういう部分も考慮した上でつくってもらった方がいいのかなというふうに思っております。
 余り注文はないんですけれども、ただ5部のところで、できればいろんな各省庁というか関係する人たちが、この3部の3節で出ている国土の構造的把握、これは生物多様性からみた国土の、あるいは国土空間の構造的把握であり、そういうものを一つのベースに据えるような、そういう考慮や視点からいろんな政策を見直す再確認をしてほしいなと思います。だからといって、4部で努力をするなという意味ではないんですよ、4部は4部でどんどん調整してもらいたいのですが、5部でもってその部分をもう一度再確認しておいてほしいなという感じがします。
 それとの関連で、どうしてもちょっと気になるのが本文の1~3部の31ページなんですね。先ほどほかの委員が言われたグラウンドデザインのところですが、確かに全体として記述はあっさりしていますね。あっさりしていてもいいんですけれども、例えば一番最後の2行くらいは、よくわからないところがあると。主語が欠けているというか目的語が欠けているようなところもあり、この辺はもうちょっとはっきりしないだろうかと思いました。
 これは別な言い方をしますと、「国土空間における生物多様性のグラウンドデザイン」という見出しになっていますからこれはこれでいいのでしょうが、ここの論述の中では、一方では、生物多様性に基づく国土空間のグラウンドデザインという意味も背後に含まれているわけですね。それが3部の中で国土の構造的把握というような表現につながっているので、そこにつながるような部分だけは何らかの形で記述を工夫してもいいのではないかと思います。具体的にはどういう表現をするかは事務局にお任せしますけれども、それによって将来一つのストーリーをつくっていく時の根拠になるのかなと思います。
 以上です。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 グラウンドデザインのところの表現になるのかな、もう一工夫必要であろうということかと思いますが、先ほどのもう一つおっしゃったご意見のいわば要約版というのか、もっとわかりやすいものというのをつくる、当然つくるということになるかと思います、そういうことですね。圧縮したというより、むしろめり張りのあるといいますか、非常に重要なのはこういう点だというのを強調した形での要約版がつくられるだろうということです。
 ほかにいかがでしょうか。

●服部委員 総論的なところ、3部までについては大変ご労作でもあるし、いいんだと思うんですが、私もご多分に漏れず第4部について希望を述べたい。4部のタイトルが3部でいっている「生物多様性保全及び持続可能な利用」ということで各省の施策が展開されているんですけれども、その各省の施策というのは、どうも自分のところの施策の側に立って生物の多様性の保全とか持続可能な利用を見ていると思われます。だから、自分の事業が考えのもとにあって、そちら側から眺めているので、本当の生物多様性の保全という観点から各省の施策が展開されるような記述になっていないのではないかなという気がするんです。
 したがって、例えばこのフローの表の3部の3つの方向(対応の基本方針)で「保全の強化」とか「自然再生」、「持続可能な利用」というものを挙げてあっても、この切り口で各省の施策を評価するというふうなことはできないだろうと思います。そうすると毎年、例えば農地、農業、都市公園緑地のところで、これだけの整備した、こういうふうな公園をつくった、里地里山保全のための事を何かやった、ということについて保全の強化なり自然再生という切り口ではどれだけどう効果があったかといった評価基準を持っていないと、毎年点検をしてさらに5年後に見直しても、意味がないと思います。私一番わかりやすいのは都市公園のところだと思うのですが、公園整備をこれだけ、何平米やりましたよというのが出てくると思うんですが、それが生物多様性保全なり、持続可能な利用という面から見るとどれだけ前進したのかという評価にはつながっていない面がある。したがって生物多様性の基準の評価というのは、各省の施策の中で切り口として何かできないのかなという気がします。それがあれば、見直しの時に非常に効果的な進捗状況判断ができるという気がしますので、できればそういう切り口評価みたいなものを検討いただけたらありがたいと思います。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 評価手法とでもいうか、要するに多様性の保全の面から見た評価をやるということですね。今おっしゃったように、確かに都市公園がたくさんできたんだけれども、逆に多様性の面からいうとマイナスの面を抱え込むということもあり得ると。実際に壊すということもあり得るわけですよね。それをどこかでチェックするというか評価することが必要だと言うことですね。

●篠原委員 服部さんの言われることはもっともだと思うんですけれども、恐らくほかの省庁で行政をやっている人は、生物多様性を目的にやっていないので「そうは書きにくい」と言うんではないかと思うんです。ただ、その事業のやり方によっては生物多様性に貢献するわけだから、環境省側はこういう施策はこういう視点でチェックしていきますよというチェックリストを提示しておけばいいんではないですか。つまり、公園整備しても、こういうポイントとこういうポイントで我々はチェックしますと、あるいは評価しますと。道路をつくっても我々はこういうところで評価しますという、それを提示しておくというのは非常に意味があるんではないかと思うんです。今回のどこかに。要望ですけれども。できると思うんですよ、提示しておけば。提示しておけば各省だって対応できるところはあるかもしれません。

●辻井委員長 ほかにどうでしょう。
 今日のご意見、あるいはまたこれからちょっと間があきますけれども、2月中旬に次の委員会をやって、その時にはもう案として出てくるということになるので、なるべくそれまでにたくさんのご意見をいただいておいた方がいいと思うんです。

●阿部委員 いろんな動物の、例えば生物の種類の関係なんかが出てきますね。哺乳類なんかを見ますと、第1部、3部の11ページ、これは引用になっていますから、わが国では哺乳類が 188種類となっているんですが、それから18ページでは 240種、これは亜種を含むというふうに括弧書きがあるんですが、この資料の方の表4では、哺乳類は 240種というふうになっていますね。これはちょっと整理した方が……

●辻井委員長 それはやはり整理しないといけないですね。

●阿部委員 それから、環境省用語として亜種を含めて種と呼ぶのは、やはりこれはちょっとよくないのではないかと。18ページに括弧書きで種というふうにして「亜種を含む」というふうに、「以下同じ」ということになっていますけれども、これは一人歩きする可能性がありますし、あちこちでこういう別の記述のしかたが出てくるとよくない。書き方をちょっと工夫する必要があるんではないかと思うんですが。

●辻井委員長 どうすればいいですか、種類ですか。

●阿部委員 あるいは、これはレッドデータブックの方でもちょっと今調整をしているところなんですが、私は「種・亜種」というふうにして……。
 それを含んでいる時にはそういうふうにしておかないと、幾ら括弧書きで1回だけそういうふうにしておいても後はみんなただ「種」になっていますし、ちょっとまずいんではないかと思いました。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 いかがでしょう。ほかに、お気づきの点ございませんか。

●和里田委員 先ほど第5部の問題の話がございましたけれども、4部に経済的措置というのが書いてありますよね。これはむしろ第5部の性格ではないのかなという印象を受けたんですか、あれを4部に置いているのがちょっとわからなかったんですが。

●辻井委員長 経済的措置ですね、第9節。これは何かご意見ありますか、ご意見というかお考え、経済的措置というのはむしろ第5部ではないかと。

●自然環境計画課長(小野寺) 5部は、性格的にはむしろ制度的といいますか、仕組みとしての役割を最後にまとめて、役割分担その他というのを計画主体とその他のかかわる人間について整備をするとか、あるいは計画の性格と点検、審議会への報告というどちらかというと形式的な整備をするのを5部に記述するというふうに我々はとりあえず整理をしておりまして、前回の計画もそうなっているんですね。
 それで、もちろんその経済的措置をここに書くという考え方もあるとは思うんですが、相当重い制度政策的な判断がその経済的措置というと実は入ってきますので、できれば5部の最後、終わりにという近いところではない方が置き方としてはいいのかなというふうに思っています。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 という説明でございました。

●和里田委員 おっしゃることはわかったんですけれども、ただ戦略の効果的というんですか、その4部に書いてあるほど細かくはないにしても1行、2行なりの、やはり大きな要素の一つでしょうから、あれだろうと、いろんなことが5部に記述があってもよい、必要かもしれないですね。

●辻井委員長 ほかにいかがでしょう。

●熊谷委員 もう委員の方々がさんざんおっしゃったので申し上げませんけれども、私は今日お聞かせいただいた特に1部、3部、5部に、5部はちょっと申し上げますけれども、1部、3部については、各何回かの委員の方々のかなり広範でかつ深いその意見を十分に取り入れられて大変な力作になったと思います。
 それで、漏れはなくなったんですが、私は戦略としてこれからのことを考えますと、この国家戦略をより有効に進めていく、それが環境省が持つ戦略だと思いますので、その戦略が私は5部だというふうに理解したいなと思って実は読んでいたんです。そうしますと、大変これはきれいなんですけれども、余り全般のそもそも論を気にせずに実際に数年で実践できるものというのはそんなに大きなものではなくて、やはりめり張りの「めり」のところを進めてほしいと思います。先ほど最後に渡辺企画官が整理されていた5つの論点をもうきっちり打ち出して、それらを間違いなく推進するよというようなことが伝わっていいのではないかと。
 例えばフォローアップで、この場でも意見出ましたけれども、毎年審議会できちっとご報告していくということは、これは各省庁の事業の実態を審議会で検討するということを実際には意味しているわけで、そこでは服部委員の言われたような、あるいは篠原委員の言われたような評価が現実的に行われるということですので、そういうところをきちっとしておけば、その後環境省がきちんと進めていけると考えますので、5部についてはそういう意味ではもう少し自信を持って書かれてはいかがかなと思うのですが。余り各省庁に対する調整ということに気をとられなくていいのではないかと。つまり戦略であるからにはそういうところが一番大事かなというふうに思います。4部はまだ調整をとる余地が十分ありますので、その分は4部で十分これから調整をとっていただいて。
 それから、先ほどどなたからか意見がありましたけれども、必ずしも無理やりこの4部に載せなくてもいいようなものもあるのではないかと思うので、例えばどこかにバリアフリーが載っているんですけれども、バリアフリーは余り生物多様性と関係ないんではないかなという気もします。そういう部分についてはこの4部については特に各省庁が生物多様性を意識して、やっていくものについてでいいのではないかというふうな気もします。
 その国家戦略に対する各省庁のスタンスとしては、どの事業をやるについても当然生物多様性という、そういうことについては配慮するけれども、特にその中でも重点を置いているのについてというような形の整理もあり得るので、それはこれからの環境省と他省庁との調整ということになろうかと思いますけれども。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。
 やはり第5部にというご意見。

●渡辺委員 今熊谷委員の発言を聞いていまして、私はかなりの部分共感をいたします。
 さきほど篠原委員が、グランドデザインのところが大変貧相だといわれましたが、私自身はなかなかうまいことを言うなと思って見ていましたので、あれが貧相ならぜひ篠原委員のお知恵を出していただいてもっと立派なものにしていただければ私はなおよいのではないかと思っています。
 それから、生物多様性のネットワークといった、国土全体を特定の地域に限定せずに位置づけといいますか、区分けをして全体をカバーするような物の考え方を全編にわたって貫いていらっしゃるというところは極めて高く評価をいたします。そういう意味では、全般的にはよくできていると思います。
 それから4部のことですけれども、小野寺課長が言われましたように、最終的にはどうしてもギャップが出るかもしれない、私の過去の経験からしてもそういう感じはいたしますが、最大限の調整をしていただきたい。
 さらに第5部です。熊谷委員のご発言に非常に共感を覚えましたのは、この最後の1年ごとに報告をしていただく、ここはできればもうちょっと具体的に書いてもらった方がいいと思います。というのは、各省がこの4部に掲げた具体的施策をどのように実行して、どんな効果を上げたかというご報告を各省からしていただいた時に、それを生物多様性の視点から私どもが評価をしチェックをするということが大事なのではないか。環境省だけで事前にそういう切り口で書き直せといってもなかなか無理な面があろうかと思いますので、私ども審議会の役割としてそれはかなり重いものがあるような気がいたします。
 したがって、そういうことがきちんと実行されるような表現で報告のところをもうちょっと丁寧に書いてもらった方がいいような気がして伺っていました。5部全体をもう少し具体的に充実させていただくという点は全く賛成でございます。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 ほかにどうでしょうか。

●山岸委員 時間がございますようなので小さな問題、質問も兼ねるんですが、この中で私は各省共同自然再生事業というのを非常に期待しているんですが、その中に「一例として」と書いてありますよね。これというのは本当にたくさんある中の一つなんですが、この5年というのは釧路でいこうという例なんですか、どっちなんでしょう。

●自然環境計画課長(小野寺) 来年度を含めて事業の、環境省として事業費が認められたものは釧路という意味です。したがって、14年度予算の中でも調査費も含めると10カ所前後、環境省だけでも一応調査をして、もし行けそうなら再生事業を実施するということを考えております。
 それから、各省が各省共同連携という形まではまだいっていませんが、それぞれ個別に、その河川局がいろんことをおやりになったり、それから港湾局がいろんなことをおやりになったりには、実際は箇所数でいっても数十カ所から 100カ所ぐらいもう既にやっていて、来年に向けてはそれぞれ各省も「自然再生事業」という名前をつけて予算要求をしているというのがこの半年の動きです。そういう意味では、かなりの箇所でその再生事業、再生型の事業が動くというふうにお考えいただいてもいいと思います。しかし戦略の中でいろいろと説明したりしておりますのは、自然再生の実態が伴うものにするためには何が必要かということを心配でもありますし、これからつくっていかなければいけないということで少し丁寧に書きました。
 それから、大体再生事業の対象とするようなものは、小さなものであればどこかの省庁なり主体がおやりになることでいいんですが、本格的にやるとなると複数の省庁がかかわることが割と多い。一緒にやった方が合理性がある。例えば釧路の例でいくと、河川局と環境省と国有林と農地サイドが一緒にやると、ばらばらにやるより効果がはるかに高いという関係にあるものですから、そういう形を強く押し出したいということで、あえてくくってその3つの方向の一つにしていただいております。
 ご指摘、最初の質問に返りますと5年間で1つの再生事業を行うというつもりはありませんで、しかしながらたくさんといっても我々はそんなに実力はありませんのでそんなにはできないと思いますけれども、幾つかかなり内容の濃いものをやってみたいというふうに考えています。

●辻井委員長 どうも。ほかにいかがでしょうか。

●阿部委員 今のに関連してですが、これも再生事業としては目玉としてこういうものをやっているわけなんですが、それ以外の通常のさまざまな、それこそ無数といっていいほどの細かいさまざまな事業がたくさんありますが、それは相変わらず従来型の手法で一方では進んでいるわけで、それのハンドルを切るのはどういうふうにすべきかということ、むしろそちらの方が現段階としては重要だと思うんですが、そういうところに関してはどういう手立てがあるんでしょうか。
 と申しますのは、現に例えば農耕地帯なんかでも非常にたくさんの河川とか何かいじっていますよね。それは本当に目に余るようなものもあるんですが、むしろそういった事業を何とかハンドル切らないと、できるだけ早急に切らなきゃいけないんですけれども、それをこの中でどういうふうに位置づけていくのかというのをちょっと議論していただきたいなと思うんですが。

●自然環境計画課長(小野寺) おっしゃるとおりであって、幾ら何か名前のついた突出した事業をやっても、その基盤のところが実は全然配慮がなければ全体としては横に出る方向に向かうということで、我々は例えばそういうものを生物多様性を活かして公共事業をおやりいただきたいというか、具体的にはそのアセスメントと手法をもっときめ細かく押して、制度アセスメントだけではなくて生物多様性保全への配慮をしながらおやりいただきたいとか、あるいはその地域というか、自然の特性に応じてそういう公共事業をやる時の配慮との関係について、全編を通して書いているつもりであります。
 それは、本当にこれだという何か制度をつくってこれでやるという性格のものではないと思うんですが、それぞれの中でそういうものを内部化していくように、とりあえずはその事業省庁に強く意識をしていただくという意味でこの戦略も書いていますし、一緒につくっているわけですから、そういう意味では考えは伝わっていくというふうに思います。
 それから、全体とそういう非常に個別の細かいものをどうするかということと、その再生事業という形で突出したものをやろうということの関係は、実際はそこで得られたその技術とかマニュアルとか水準というか考え方が、個別の細かい事業に反映をするという関係に実はなるんではないかということを我々としてはかなり期待もしているんです。
 そういう意味で、いろんことをいっぱい言って、こういう時にはこの手の側溝のつくり方と材料の使い方をしなさいというのを一方では積み上げていくことも大事だと思いますが、こういうことでまさに各省が一緒になってあるところでやることによって、その得られたある種の知識というか事実水準が全体に影響を及ぼすということも一方ではあるのではないかということも期待しながら仕事をしたいと思っています。

●辻井委員長 ありがとうございました。

●阿部委員 将来的には当然この方向でいくということは、大体流れがそういうような方向に向いていきますから間違いないと思うんですが、それをきちんと全部が方向転換するまでには多少タイムラグはしょうがないだろうと思います。しかし細かい例えばアセスにかからないようなものは大量にあると思うので、戦略の中で既に実際の施策の方向なんかでもほかの省庁でも書かれていますので、意識としては方向転換ができつつあるんだろうと思います。多少それは見守るしかないのかもしれませんけれども、できるだけ早く方向転換をできるようにお願いしたいと思います。

●辻井委員長 今の阿部委員のご指摘のことは、例えば第5部の戦略の効果的実施のところに書いておいてもいいんではないでしょうか。要するに、大きいところばかりではなくて毛細血管みたいな小さな、それについても生物多様性の面から非常にそういうところを重視して、事業を行うということが全体の戦略的な効果につながるというふうな……

●阿部委員 第4部の中でもそれは実際書かれているんです。書かれているんですけれども、現実にはそれがまだ従来型で動いていますので多少タイムラグはあるんでしょうけれども。

●辻井委員長 ほかにいかがでしょうか。

●森戸委員 先ほどの自然再生事業の関連で、文章上、自然再生事業推進会議の設置と書いてありますけれども、これは今の段階では提案なんですか、それともこれから自然再生事業の時にはこういう組織をつくってやるという仕組みなのかというのが1つ。
 もう一つは、その省庁連絡会議みたいなものとこういうものとは何か連携しているのか、その辺のちょっと性格がわかれば教えてください。

●自然環境計画課長(小野寺) 自然再生事業の推進会議は12月だったと思いますが、総合規制改革会議で環境省と直接の関係ではなくて閣議決定された経緯があります。したがって、閣議決定レベルで推進会議をつくるということだけがその文章上出てきていて、どういう形で何をやるかという、例えば閣僚なのか、関係する事業省庁の新たな役人レベルなのかということも含めてまだ実は決まっておりません。しかしながら、閣議決定ですからどこかの形で動き出すということになると思いますが、まだ詳細は決まっておりません。環境省が決めることでもないのでちょっと中途半端な書き方になっているかもしれませんが、自然再生事業ということで閣議決定でこういう組織をつくりなさいということは言っております。したがって、この多様性国家戦略の連絡会議との関係は、今のところは直接の関係はないというのが答えです。

●辻井委員長 ほかにいかがでしょうか。大体出尽くしたでしょうか。
 それでは……。

●自然環境計画課長(小野寺) お話を、今日いろんなご意見をいただきましてまことにありがとうございました。大体集中するところはわかりました。
 今日のご意見は丁寧に整理をして、我々はもちろん反省といいますか、取扱の対象にして、とりわけ各省には幸か不幸かこれから議論をするという局面といいますか、スケジュールになっていますので、やってみたいと思います。最大限この審議会のご意向に沿えるように、4部のみならず5部も含めて工夫はしてみたいと思います。しかし、後退的と思われると困るんですが、実際は改善できない部分があるかもしれないということを危惧しまして、例えば4部についても申し上げますと、「各省の持っている方針的なことを頭にお書きいただいた上で施策みたいなものを書いていただきたい」とか、「多様性との観点でかかわる施策を」ということは、もちろん我々事務局の言い方が足りなかったということだろうと思いますが、いろんな意味で話し合いをしながらすすめてきて、その結果実はこうなっているという事情もあります。
 加えて、審議会でのご意見として各省へは伝えて精いっぱい調整はもちろんさせていただきます。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 今も話がありましたけれども、ほとんどといいましょうか、主に第4部についてのご意見が、第4部に集中したという感じですけれども、第3部についてもグラウンドデザインのことなどで幾つか重要なご指摘がありました。それは今計画課長が説明しましたように扱って、それぞれに表現も工夫してもらうということになるかと思います。
 ちょっと私一つ、例の遺伝子組換え生物のことで、これは87ページには書いてあるんだけれども、例えば29ページに予防的順応的態度というようなところにそのことも書いておいた方がいいんではないだろうかと思うんですけれども、どうですか。そういうことも考えなきゃいけないという。

●自然環境計画課長(小野寺) 事務局でもそこのところは、全体のどこに置くかということはかなり悩んでその議論もしたんですが、今現状でそのバイオに係るいろんな問題点みたいなものがどれだけ起きているかということとその計画の中の置き方ですね、この計画で割と上位にどこにでも置き得ると私は思っていますけれども、その置き方については割と丁寧な方が、この全体の計画が目的としているものとの関係でいけばバランスがいいのかなということで、もちろんどこに置くか、辻井委員長がおっしゃったように29ページに書いて例示する考え方ももちろんあると思いますが、事務局が全体的にバランスを見て整理したところでは今のところに置くのが全体の中では一番いいのかなというふうに現在は考えております。

●辻井委員長 わかりました。
 それでは、こんなところで今日の議論を閉じようかと思います。
 それで、次のことについてどうぞ。

●生物多様性企画官(渡辺) 本日はありがとうございました。
 次回のスケジュールでございますが、2月15日金曜日、今日と同じで午後2時から5時ということで、場所も今日と同じこの環境省の第1会議室で行いたいと思います。次回2月15日の小委員会におきまして、この小委員会としての新国家戦略案の取りまとめをいただきたいと思っております。案を取りまとめていただいた上で、事務局を通じて国民に対するパブリックコメントの募集というのを3週間ほどの日程で行いたいと思います。そのパブリックコメントの募集を経て、その上でさらに修正、手直しの検討を各省とも調整しつつ、3月に入りまして3月中旬以降、今度は自然環境野生生物合同部会に2回ほどお諮りをして答申をいただければと思っております。その上で、最終的に3月末には地球環境保全関係閣僚会議での決定ということを予定してまいりたいと思います。
 今後のスケジュールは以上でございます。よろしくお願いいたします。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。
 それでは、これで本日の会議を終了いたします。大変ですけれどもどうぞよろしくお願いいたします。
 どうもありがとうございました。

午後4時22分閉会