気候変動影響評価等小委員会(第13回) 議事録

日時

平成28年12月16日(月)13:00~15:00

場所

大手町ファーストスクエアカンファレンス Room B+C

議事次第

1.開会

2.議事

  1. (1) 民間事業者からのヒアリング

    (2) 気候変動の影響への適応に関する最近の動きについて

    (3) その他

3.閉会

配付資料一覧

資料

議事次第 [PDF 36KB]
資料1

ヒアリング資料(損害保険ジャパン日本興亜株式会社) [PDF 819KB]

資料2

ヒアリング資料(国際航業株式会社) [PDF 1,846KB]

資料3

ヒアリング資料(株式会社ミサワホーム総合研究所) [PDF 1,326KB]

資料4-1 

国連気候変動枠組条約第22回締約国会議の結果について [PDF 717KB]

資料4-2

気候変動適応情報プラットフォームについて [PDF 1,464KB]

資料4-3

モデル自治体との意見交換会の結果について [PDF 1,329KB]

参考資料

参考資料1 気候変動影響評価等小委員会委員名簿 [PDF 88KB]
参考資料2 気候変動影響評価等小委員会における主な論点 [PDF 58KB]

議事録

午後1時 開会

竹本気候変動適応室長

定刻となりましたので、ただいまより第13回中央環境審議会地球環境部会気候変動影響評価等小委員会を開催いたします。

初めに、環境省地球環境局長の鎌形よりご挨拶申し上げます。

鎌形地球環境局長

環境省地球環境局長の鎌形でございます。本日は、お忙しい中ご参集いただきまして、誠にありがとうございます。

今日は、ヒアリングの3回目ということになりますけれども、今日お越しいただいているのは、ビジネス、経済活動に関係ある方々であります。

経済活動と適応ということでございますけれども、気候変動の影響をリスクとしてどう捉えていくのか、それを事業活動の中でどのように考えていくのかというものがございます。また、気候変動による影響や環境の変化、そういうものをある意味ビジネスの対象として捉えていくという見方もできようかと思いますけども、そういう形で今経済活動を営んでいる方々がどのように気候変動というものを捉えているかということを中心に、お話をお聞きしていきたいと考えています。そういう意味で、これまでとはちょっと違った内容のヒアリングになろうかと思いますけれども、活発な議論がなされることを期待したいと思います。

また、私どももそういった事業者、事業活動を営む方々にとってもお役に立てるような情報を整理して提供していくという意味で、気候変動適応情報プラットフォームというものを立ち上げておりますけれども、その中身についても報告をさせていただきたいと思います。

そういった情報の整理、提供に関しましては、この間のマラケシュのCOPでも、アジア太平洋に向けて広げていこうと、その中の核となる役割を日本でも果たしていこうということも発信しておりますので、それも合わせてご報告させていただきたいと思います。

今日も活発なご議論を賜れればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

竹本気候変動適応室長

本日の会議ですが、現在委員総数の過半数の委員にご出席いただいており、定足数に達しておりますので、ご報告いたします。また、本日の審議は、公開とさせていただきます。

先ほど、局長からご紹介がありましたが、本日は民間事業者3社の方にお越しいただいておりますので、ご紹介いたします。

まず、損害保険ジャパン日本興亜株式会社、企業商品業務部リスクソリューショングループのグループリーダーの島村様でございます。

続きまして、国際航業株式会社、上級顧問の前川様です。

株式会社ミサワホーム総合研究所、環境エネルギーセンター環境創造研究室主任研究員の平山様です。同じく、ミサワホーム総合研究所、環境エネルギーセンター環境創造研究室の主任研究員の佐藤様です。

続きまして、配付資料の確認をさせていただきます。

お手元、まず議事次第がございます。続きまして、資料1が、損保ジャパンさんのヒアリング資料、資料2が、国際航業さんのヒアリング資料、資料3が、ミサワホームさんのヒアリング資料です。資料4-1が、国連気候変動枠組条約第22回締約国会議の結果について、資料4-2が、気候変動適応情報プラットフォームについて、資料4-3が、モデル自治体との意見交換会の結果についてです。それから、参考資料1として、委員名簿、参考資料2として、本小委員会における主な論点でございます。資料の不足等がございましたら、事務局までお申しつけください。

それでは、以降の議事進行は住委員長にお願いします。

住委員長

それでは、始めたいと思います。暮れのお忙しい中、お集まりいただきまして、ありがとうございます。

これは適応の今後のことを考えるという会議でございますし、いよいよ本格的に来年度以降、適応に関する作業が進んでいくだろうと思います。

そういう中で、今まで真面目に考えていなかったわけではないのですが、局所的なことを考えていたわけで、これからは全体的なスコープをもってやらざるを得ない時期になってきています。言い換えれば我々の社会全体に影響があるわけですから、社会全体に関してどうするかということを考えていかざるを得ないということです。

今日いろいろ民間事業者からお話を伺うのですが、そのほかにも、例えば、端的に言えば、日本で割と欠けているのは国際的な視点です。これだけ物流が国際化している割には、依然としてグローバルとナショナルとを分けて物を考えるというのは、日本の伝統的考え方です。それで救われている面もあるのですが、昨今の反グローバリゼーションというのは、意外と本質的な部分を持っているかもしれませんので、そういう点では、潮目は変わってきているのだろうと思います。そういうところを非常に我々はケアフルにしなければだめなのだと思います。

先日、銀行の方のお話を聞いていたら、今ゲームチェンジというのが非常に盛んに使われている言葉だと言っておりました。従来やっていたゲームが変わって、新しいゲームが始まる。だから、ずっと今まで慣れ親しんだゲームをやっていると、全然違うゲームが流行ってきて、根底的に価値観や指標が変わるのだということを言われており、そういう点でも、我々がやっているのはゲームなのかどうかわかりませんが、ある程度時代の流れということはよく考えていかなければならないものと思います。そういう点で、今日は非常におもしろい話が聞けると思って期待をしております。

それでは、議事に入りたいと思います。

本日は、民間事業者3社から、適応に関する取組事例の紹介や政府に対する要望をいただきます。それぞれプレゼンテーション15分程度、質疑応答5分程度でお願いしたいと考えております。

それでは、まず損害保険ジャパン日本興亜株式会社からプレゼンテーションをお願いしたいと思います。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社(島村グループリーダー)

では、ご紹介いただきました損保ジャパン日本興亜の島村と申します。よろしくお願いいたします。

今日は、私どものタイトルにございます天候インデックス保険という保険について、またこれを東南アジアの農家の皆さん向けに展開をしている事業を行っておりますので、ご紹介をさせていただきたいと思っております。

全体はこんな形で、まず天候インデックス保険と言うと耳なじみのない保険かなと思いますので、そのご説明から始めさせていただきまして、私どもが実際に事業を展開していますタイですとか、ミャンマーについてのご紹介、また将来像というところで、今もございました、私どもから希望ということで申し上げられるのであればというところで、意見を述べさせていただければというふうに思っております。

初めのページ、まずは私どもの自己紹介をさせていただければと思っております。

SOMPOホールディングスという名前で今私どものグループは名称しておりまして、国内の損害保険事業が中心ではあるのですけれども、その他生命保険であったり、あるいは海外であったり、あるいは保険以外の事業というところに事業分野を広げているところでございます。

先生の中には、ひょっとすると私どもが介護の会社まで取得したというニュースを覚えていらっしゃる方があるかもしれませんけども、実は介護の業界でも、私ども今業界の中で2番目の大きさということで、保険だけではない分野でお客様により広く安心・安全・健康を提供していこうというところで事業展開をしております。

こちらは私どもの事業の中心になります損害保険の会社になります。損害保険ジャパン日本興亜という名称になっておりまして、直近では2014年に合併をしてこの名称になっております。損保ジャパンと日本興亜という保険会社がくっつきまして、現時点では単独の会社としては、国内の損害保険会社では、売り上げで一番大きい規模の会社ということになっております。

私どもは、もちろん損害保険が主業でありますので、損害保険の期待される役割というところで申し上げれば、自然災害への補償のご提供というのがあろうかと思います。

損害保険としてイメージされるものは、まずは、自動車保険ですとか、火災保険ですとか、そういったものがすぐに思い浮かべられるところだと思うのですが、一般的に、日本では火災保険として普及しています財物に対する保険というのは、火災だけではなくて、さまざまな自然災害による物的な損傷について補償をご提供するという機能がございます。

このグラフでお示しをしているのは、1980年以降の自然災害による経済損失、並びにその中で保険会社が保険のご提供をすることによって損害の回復を図ったというところを、緑と、それから青の色で示しております。

ここは、今さら私が言うまでもないところではあるのですが、ご覧いただいておわかりいただけるとおり、右肩上がりで上がってきているところです。理由については、いろいろ言われるところではあると思いますけれども、やはり地球規模の環境変化が一つは大きな理由として挙げられるだろうと考えています。

もちろん、私ども自然災害による損害を補償させていただくという役割を担っておりますので、こういったことがこの右肩上がりの線がこのまま将来続いていくとなれば、私どもにとってみれば、一面では保険金のお支払いする機会が、あるいは金額がより増えるというところで、事業の脅威というところではあるのですが、一方では、補償に対する社会の必要性が高まるという側面では、私どもの事業の機会というところもありまして、両面でこの気候変動を私どもは見ているというところだと思います。

今日は、機会のほうの視点から事業をご紹介したいと思うのですが、ここのページでご紹介していますのは、東南アジアの農業というところです。私ども今日ご紹介する事業は、東南アジアの農家の皆様に補償のご提供をしておりますので、東南アジアにおいて農業というのは、どういうポジションかというところを図でお示ししております。

あまり豊かではない国々がここには並んでいるわけなのですが、産業の中心としてはやはり農業ということになりまして、農業は一般的にはやはり気象災害に非常に脆弱であると言われます。まさにここに私どもの補償をご提供する機会があるのだろうと考えております。

私どもがそこでご提供している保険は、ここで天候インデックス保険というものが出てくるわけですけれども、それは一体どんなものなのかということをこのページでご説明をさしあげたいと思います。

ここは四つのポイントで特徴をご説明さしあげています。最初に、まず極端な気象現象によってこうむる収益の減少や、費用の増大、こういうものに対応する保険だということです。

その気象条件とは一体何なのかというところですが、ここには気象条件として、気温ですとか、風ですとか、降水量、積雪深、日照時間などございます。あらゆる観測されている気象の指標ですね、これを捉えて保険にするというものです。

3番目になります、このインデックス指標が、事前に定めた条件を満たした場合、あらかじめ定めた保険金額、一定の金額をお支払いしますとなります。

事前に定めた条件を満たした場合ということですので、例えば気温が一定の温度になった場合、あるいは一定の温度になった日が何日続いた場合に、決まった金額を幾らお支払いします、こういう保険になっています。

4番目ですけれども、お支払いを受ける際に通常の保険と異なって、事故と損害の因果関係、あるいは実際の損害額を証明いただく必要はありません。

これは損害保険の原則とは、非常に大きく異なる点でありまして、非常にこの保険がユニークなポイントです。一般的に損害保険は、実際に発生した損害額を補填するという機能が期待されるものでありますので、事故が発生したときには、その損害が果たして事故によるものなのかどうなのか、あるいは事故による損害として一体幾らまで損害が発生したのかということをお客様からお示しをいただいて、私どもそれを確認させていただいて、それによって保険金をお支払いさせていただく、これが一般的なのですが、天候インデックス保険は、ここが全く違いまして、もうあらかじめ決まった金額をそのままお支払いするというのが非常に大きな特徴と言えます。

ここは天候インデックス保険としてご紹介しているのですけれども、実はこの中身をどこかで聞いたことがあるかもしれないなというふうにお思いになる方がいらっしゃるかもしれません。国内においては、天候デリバティブとして普及をしているものです。下の四角の中には、日本国内のお客様にご覧いただいているチラシを抜粋しております。例えば酪農家の方がいらしたとして、猛暑になると牛乳の生産が落ちてしまうというようなことがあったとすれば、夏の間、例えばある一定の気温を超える日をカウントしていって、そのカウントの日数に応じて一定の金銭をお支払いするという天候デリバティブのお勧めをしております。

これと同じ、全く基本的には機能としては同じものが、ほかの国にいきますと、保険という名称で、天候インデックス保険ということでご提供しているという、そんな関係にあります。

次のページは、今ご紹介さしあげました天候インデックス保険と一般的な損害保険、ここでは農業保険との比較になっていますけれども、を対比してその特徴をお示ししているものです。

天候インデックス保険、概要のところをご覧いただくと、今までのお話しさしあげたとおりですが、天候指標の条件に従って、定額の保険金をお支払いします。これに対して一般的な農業保険は、実額、収入減少の実額をお支払いしますよということになっています。

支払いの要件は、指標要件を満たすこととなっていますけれども、一般的な保険になりますと、損害が実際に発生することが必要になります。

トリガーというのは、保険で対象とする、いわゆる保険事故のことですけれども、天候の不順等、これは任意にご契約の時点で、気温ですとか、降水量ですとか、一定の条件を定めて、ここで何をもって事故とするかということを決めます。

一方で、農業保険というのは、何か事故、一般的ないわゆる常識としての事故、台風がやってきましたとか、あるいは病虫害とか、こんなことによる収入の減少というのを補償するということになります。

実損/定額とありますが、まさにここが大きな特徴ですけれども、定額でお支払いするものが天候インデックス保険です。

ベーシスリスクと記載させていただいています。これは何かといいますと、実際に発生した損害額とそれから保険でお支払いする金額が必ずしも一致しないこと、このリスクのことを指しております。ベーシスリスクによって、お客様に発生した損害よりも場合によっては多く保険金をお支払いしてしまうことになるかもしれない、あるいはお客様に発生している損害額を保険金で十分に賄えない可能性もある、こういったリスクは確かに存在しています。

支払の迅速性というところですけれども、天候インデックス保険は、申し上げましたとおり、一定の指標の条件に基づいて自動的にお支払いするものですので、迅速にお支払いができると、一方で、農業保険になりますと、先ほど申しましたとおり、一定の立証資料が必要で、確認作業が必要になりますので、時間がどうしてもかかるということになります。

これと同時に事故の対応体制ですが、天候インデックス保険は指標さえわかれば、すぐにお支払いの手続ができますので、特段大きな体制を構築する必要はないのですが、一般的な農業保険、損害保険になりますと、損害を確認する人員というのが必要になりますので、どうしてもこういったコスト負担というものも出てくるということになります。

さらにモラルリスクとありますが、これは保険があることによって、例えば農業保険ですと、生産活動を熱心に行わないというリスクが発生してきてしまいます。天候インデックス保険の場合には、これは気象条件に応じて保険金をお支払いしますので、保険があることによって保険を期待し過ぎて生産活動に従事しないということは基本的にはなかろうということが考えられます。

こういった特徴があるものですから、特に新興国において、新興国の特に農家の皆様においては、例えば支払いの迅速性、やはりあまり豊かでない地域であって、経済損失に対して非常に脆弱な層には、やはり迅速にキャッシュをお届けすることが必要ですので、迅速性というのは、非常に意味があると考えられます。また、有無責のわかりやすさとありますが、これは保険のお支払い対象になる、ならないということを有無責というふうに申し上げているのですが、これはわかりやすいと、保険になじみのないお客様にとってもこういった仕組みは非常に受け入れられやすいというところです。

それから3番で、最後にご紹介いたしましたモラルリスク、保険があることによって生産活動をしないで、保険をもらうことで収入を維持しようとする、そういったモラルリスクを排除することができる、こういったところが特長で、新興国においては、特にこの天候インデックス保険の役割というところが期待されているというところかと思います。

次のページでご紹介しますのは、私どもの実際の事業でございまして、これはタイで行っております。2010年からタイで事業を始めていますけれども、天候インデックス保険は、このタイからスタートをいたしました。2008年ぐらいから研究を始めまして、JBICさんの気候変動の勉強会に参加をさせていただいたのがきっかけですが、タイの地図でお示ししていますが、タイの東北部のこの地域の農家の皆様は、あまり豊かでない地域ということもあって、かんがい設備が十分でないところもあって、天水に頼った農業をしていると。干ばつが発生してしまうと、それはそのまま収入の減少ということにつながってしまって、これが地域の経済発展を阻むリスクになっているとお聞きしまた。そこで私どもの天候インデックス保険を、ここで展開をしようということになり、継続して今日までずっと事業を続けているところです。

ここでは、タイのこの地域における稲作のサイクルを図でお示しをしていますが、特にこの7、8、9月の干ばつというのが稲の生育にとっては非常に重要でありましたので、この7、8、9月の雨量を対象とするような天候インデックス保険をここで設計いたしました。

次のページはちょっと細かくなりますので、細かいところは割愛させていただくのですが、7、8、9月の雨量が一定量下回ると保険金をお支払いするというような仕組みのものにしております。

タイにおきましては、地元の農業銀行と私どもが提携をさせていただきまして、農業銀行が農家の皆様にローンを提供する際に、同時に私どもの保険の募集もいただいて、これはあくまでも任意になるのですが、保険料を賦課してお支払いいただけるお客様は、この保険をご購入いただくということになっております。

これはタイの、その地域の衛星写真になりますが、私ども天候インデックス保険を運営するに当たって、やはり重要なのは天候データであります。すなわち天候の気象を観測する十分なインフラがなければ、その地域では保険の提供ができないということになります。タイは幸いなことにほぼ10kmメッシュ程度で観測所が設けられていまして、ここで雨量を実際に観測しておりますので、このデータをご提供いただくことで保険の運営を行っております。

次のページは、ミャンマーの事例です。ミャンマーにおきましても、同じような保険のご提供を開始しようとしているところです。まだ開始する段階には至ってはいないのですが、2014年にご提供できる段階にまで保険商品を開発しましたので、これを社外にリリースさせていただきました。ただ、開発までにいろいろ困難な点がありまして、先ほど、タイでは地上の観測網が十分にそろっていて、これを活用してというお話をさしあげたのですが、ミャンマーにも一定の観測設備はあるとはお聞きはしているものの、過去のデータについては、なかなか入手が難しいというところです。どうしても過去は軍政下にあったというところもあって、なかなかデータの開示が十分ではなかったり、そこに至るアクセスルートをなかなか私どもが持てなかったりというところがあって、そこは非常に大きな障害になりました。ただ、そこで解決手段として私どもが見出したのは、人工衛星の活用でして、人工衛星で観測されたデータを元に計算をした雨量で、それを地上の観測データに代えて保険の運営をするということを行いました。

保険のご提供を考えている地域は、ここにお示ししているとおり、中央地帯の干ばつリスクであったり、あるいは南部のほうの、こちらのほうは逆に雨が多過ぎてというところであったりするのですけど、洪水リスク、こういったものを対象に衛星のデータを活用しながら保険のご提供を検討して開発を進めたというところでございます。

12ページは、人工衛星のデータの活用で、ちょっと絵を張りつけていますけれども、これはJAXAが公開していますGSMaPというもので、ご存じの方は多いかと思いますけれども、全球の雨量のデータをここで入手ができるようになっております。

私どもがリモート・センシング技術センターさんと提携をさせていただきまして、こちらから実際のデータ、加工したデータをご提供いただきまして、これをベースに保険の設計をミャンマーにおいて行いました。

これは現地の調査の様子ではあるのですが、保険を運営する上で重要なもう一つのポイントは、実際に農業に関する収穫のデータでありまして、気象の指標とそれから農業の収穫が実際にどういう相関をしているのかと、あるいは収穫が減少する際には、一体どういう気象条件というのが致命的なポイントになるのかというところを現地へ行って、足で情報を稼ぐというところが必要なところがありまして、実際に私どもミャンマーの農家を訪問して、いろいろヒアリングをさせていただいております。

これは実際にリリースしたときのものですけれども、2014年12月に、RESTECさんと共同で保険商品を開発しましたということをリリースさせていただきました。

ただ、その後、皆さんご存じのとおり、ミャンマーは政権も交代しまして、私どもが保険をお客様にご提供するには、保険というのは、どうしてもどの国においても認可事業でありまして、政府の認可が必要になるのですが、政権が代わったということもあって、認可をいただくのにちょっと時間を要しております。現在も政府の皆様との情報交換を続けさせていただいておりまして、また事業の地域も当初の予定とは別の地域でも展開を今検討しているところで、実は今日も担当者が現地に行って農家のヒアリングをしているという、そんな状況です。

今タイとミャンマーをご紹介させていただいたのですけれども、そのほかの国でも既に今事業を展開しています。

まず一つは、フィリピンですけれども、フィリピンにつきましては、南部のミンダナオ島の大規模な農家を対象に台風のリスクをヘッジするような天候インデックス保険というのをご提供しております。これは台風の到来の個数に応じて自動的に金額をお支払いすることになっていまして、日本の気象庁で台風のデータが全部とれますので、台風の通過データというのをそこからとって、保険の運営を行っております。

インドネシアにおきましては、これはまだ調査中ですけれども、実はJICAさんのご支援をいただいて、今BOPビジネスというところで、インドネシアの農家の皆様にマイクロインシュアランスという、小口の保険をご提供する事業も今実証実験の途中であります。

16ページ、これは天候インデックス保険の将来像というふうに書かせていただいています。まだまだ私どもの事業は、2010年から行っておりますけど、事業の規模としては本当に小さなものですけれども、これがどんどん広がってきたときに何が必要なのかというところを図で示しております。

いろんな国でこの事業が展開されることになったときに、当然保険会社が引き受けるリスク量というのも一定程度の大きさになってきます。そうしますと、保険会社1社ではそのリスクに耐えられないということになりまして、一般的にはこういうときに再保険市場を使ってリスクの分散を世界的に図ってそのリスクを負担するということを行っていきます。しかし、自然災害を対象にしますので、どうしてもそのリスクが顕在化したときに、巨額なものにならざるを得ないというところで、民間の市場だけでは、場合によっては支えられないという可能性もあるのではと考えています。その場合には、何らか国際的な枠組、その中に各国の政府の支援などが、場合によっては必要になるのかもしれないなということをイメージしたものでございます。

最後に、私どもが天候インデックス保険事業をしている中で、こういったご支援があれば大変ありがたいなというところを4項目まとめさせていただきました。まずは、①開発費用に対する資金の支援というところですけれども、開発費用はそれほど大きなものではないとはいえ、今日も担当者が現地に行っていますが、現地のいろいろな調査であったり、あるいは例えば気象データを活用する、観測データを活用するという場合にも、場合によっては有料なところがあったりします。中には、例えば人工衛星のデータを使おうと思うと、一定の地上の観測データよりはちょっと高い資金、フィーが必要になるというところはありますので、こういった費用です。次は②気象の観測インフラ、これがなければやはり始まらないので、このインフラを整備する、これも財政面の支援ということになるかもしれませんけども、こういったものが必要になるだろうと。

実際の事業をしていますと、現地のいろいろな関係機関とどうしても協力が必要になります。民間の保険会社が事業を展開するということで、現地の門を叩いても、なかなか普通は開けてくれないということがありますので、こういったところは、ぜひ③ネットワーキングのご支援をいただけると、民間の事業者としては大変ありがたいなというところでございます。

こういった形で保険の事業が展開できるとなったときに、後は④普及のフェーズになるのですけれども、農業保険は世界のあらゆる国において、保険料の補助が政府から一般的に行われております。日本におきましても、農業共済というのがありますけど、これは政府のいわゆる補助金がしっかり支給されておりまして、その中で運営されています。

やはり現時点で私どもが行っていますタイの事業などは、完全に民間の資金でお客様の保険料のご負担で運営しているのですが、やはりこれを普及していくためには、こういったご支援が必要なのかなと思います。また、再保険とありますけれども、先ほどちょっとご紹介さしあげたとおり、この市場の規模が非常に大きくなったときには、市場の参加者、民間だけではリスクには耐えられない可能性も出てきますので、その場合には一定の政府などからの再保険の支援というのもあり得るのかなというところで、4項目書かせていただいたというところでございます。

私からの発表は、以上とさせていただきます。ありがとうございました。

住委員長

どうもありがとうございました。それでは、ご質問があればお願いします。

高藪委員

気象研究所の高藪と申します。三つ質問がありますが、まず一つは、この保険の対象者という方がどういうのかちょっとよくわからなくて、農業といいましても、自作農さんなのか、それとも小作農さんなのか、それともそれを雇ってらっしゃる地主さんなのか、どれを対象にした保険なのかを知りたいということ。

もう一つは、モラルリスクのことで、モラルリスクがこの辺はないとおっしゃいましたけれども、季節予報とかそういう情報を使えば、次年度にどういう種を、乾燥に強い種をまくべきなのかということがわかると思うのですね。そういう努力も農業の人がやらなくなっちゃうんじゃないかという意味で、モラルリスクがないというのは、ちょっと大げさじゃないかなと思いました。

もう一つですけれども、最後の天候インデックス保険の開発・販売の事例のところで、フィリピンのミンダナオ島でリスクが台風と書いてあったのですけれども、ミンダナオ島は緯度が低いので、ほとんど渦は、台風は来ないと思うのですが、そこでどうやって台風保険が成り立っているのかということも知りたいと思います。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社(島村グループリーダー)

ありがとうございます。では三つお答えさせていただきますと、最初にまずこの保険を購入される方々ですけど、基本的には地主の方々が多いかと思います。地主の方々は銀行から借り入れを行って、例えば種を買う、あるいは人を雇って営農をするわけですけれども、この資金を銀行から借り入れると同時に、収入が途絶えてしまうと、この返済ができなくなってしまうので、ここに保険活用の有意義性を見出していただいているというところでございます。

モラルリスクのところは、確かに先生ご指摘のとおり、ゼロとはちょっと言い過ぎかなというところは確かにあります。ただ一般的に農業保険で問題とされるモラルリスクの事例というのは、例えばそもそも種をまかないとか、営農活動をそもそもしないとかいったところのレベルのモラルリスクというのが事例としては確認されています。こういったものは排除できるのではないかなというふうに考えています。

最後に、ミンダナオ島の事例ですけれども、ご指摘のとおり、台風はめったに来ない地域でありまして、そのため大規模農園がそこで展開されているということです。ところが、年は忘れましたけど、数年前にやはり台風が到来したことがございまして、ここでリスクを皆さんが認識をされて、保険の必要性ということを私どもも耳にして、それでご提供を始めたというのが経緯でございます。

中北委員

ありがとうございます。京大の防災研究所の中北と申します。

保険率というか、そちらのことで1点だけお聞きしたいのですが、損害保険料を考えるときだと、損害の確率ベースで決めていきますね。今回の場合は、気象の幾つかの指標がある閾値を超える確率というのを事前に算定されて保険率を決められていると思うのですが、と同時に指標と、先ほどおっしゃっていた実際の被害との関連というのを多分見られているという話が少しありました。そこの保険率を決めるときに、実際に指標と損害の関係というのは、どれぐらい今回の中で、こういうデリバティブの中では考えられるのか教えていただけませんでしょうか。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社(島村グループリーダー)

ありがとうございます。私どもが保険設計をする上では、非常に重要なポイントでありまして、先生ご指摘のあったとおりです。まず被害がどれぐらい発生するかというところではあるのですが、これは私ども開発の段階では、まず被害がどれぐらい発生するかというところと、ある気象の条件がどういう相関があるのかというところを見るときに、この損害がどれぐらい発生するのかというところを見にいきます。ただし、保険料率算定に当たっては、もうここの損害のところは考慮しておりません。あくまでも何を指標にとるべきか、何を保険の事故として定義するべきか、というところで損害を見にいきます。保険料率を決める上では、定義するその事象がどれぐらいの確率で起こるのかというところを純粋に見にいくことになるのですけれども、これは過去の私ども一般的には20年程度の過去の気象のデータを遡って調べ、その中で発生確率を導きます。本来でしたら、農家の皆様に発生する損害額をそのまま再現できるような事故の定義というのができればいいのですが、これはまさに民間事業者なのかもしれませんけれども、お客様にどれぐらいの保険料をご負担いただけるかというところによって、むしろ値段が決まってしまうというところがあります。農家の皆様の被害を全て補償しようとすると、かなり高い保険料をいただかなければいけないと。ところが、民間で運営するには、その保険料をお客様からなかなか頂戴するのは難しいとなると、一定の極端な事象を定義して、ここだけを保険にして、保険料を頂戴するというようなことを実際には行っております。

沖委員

今のお話に関連しまして、答えにくかったら大体でいいですが、結局今のお話ですと、支払ってもらえそうな保険に金額が決まっているとして、ある程度カバーしようと思うと、やっぱり、かなりまれなものに設定しないと、なかなか魅力がない商品になってしまって買ってもらえないということになると思うのですが、どのぐらいの、20年に一度とか、50年に一度ぐらいの干ばつを想定されているのでしょうか。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社(島村グループリーダー)

ここもなかなかさじかげんが難しいところでありまして、お客様にお支払いいただきやすいような安い保険料を目指すと、本当に極端な事象になってしまう。ところが、あまりにも極端過ぎるとこんな保険は要らないんじゃないかという、一方では思いをお持ちになります。あまりにも確率が高いと買っていただけないというところで、実際には工夫をしているところではあるのですけれども、頻度が一定程度高い事象と、頻度が低い事象というのを想定して、組み合わせて補償の金額を、差をつけてセットにして保険をご提供しております。

増井委員

ありがとうございました。1点だけですけれども、契約数の推移というのは、どういうふうになっているんでしょうか。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社(島村グループリーダー)

これはあまりはっきりとした数字は、実は公表はさせていただいていないのですけれども、まだまだ事業としては、本当に小規模でありまして、一番多い年でも数千件ぐらいのご契約件数です。地元の農家の母数をベースに普及率というところでどれぐらいかと見ると、まだまだ数%程度でありまして、その意味では、本当に先ほど再保険が必要になるとか、国際的なリスクの分散をというお話をさしあげましたが、あそこまで行くには相当まだまだ時間がかかるなというのが私どもの今の事業の状態です。

山田委員

2011年のタイの大洪水のときに、主に日本のメーカーの工業団地が随分11カ所ぐらいやられましたよね。その後、タイ政府も治水事業をやろうかと、やりましたけど、クーデターのどさくさで何が何だかわからなくなってしまったのです。ああいう大きな川だと、上流のほうの水位を見てみると、下流の水位がもう読めてしまうので、洪水インデックス保険というのはあり得るのだけれども、つまり公が治水事業をやることと保険でカバーするというのは、今後日本なんかでも洪水保険というのは、もっと充実させたら治水投資が要らないのではないかという議論もあり得て、まさにこの今日の会議なんかも、そういうために話題に、大いに参考になると思うのですけど、タイではどうですか、そういう洪水インデックス保険の普及は大分進みますか、それともあんまり進まないか教えてください。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社(島村グループリーダー)

実は、洪水インデックス保険は私どもチャレンジの一つのポイントだと思っていまして、研究は進めているところではあるのですが、実はここでご紹介さしあげた降水量のインデックスと比べると、かなりハードルが高いなというふうに思っています。確かに水位を把握すればというところはあるのですけれども、なかなかそれがそのまま洪水という事象にストレートにはリンクしないというところが実際にはございます。また先生もご指摘のとおり、インフラが整備されてきますと、そのリスクがどんどん時々刻々変わってきますので、そうすると私どもが一体何を捉えてこの発生確率を正確に求められるかというのは、なかなか難しくて四苦八苦しているところではあります。

タイにおいても、洪水インデックス保険があるというのは、私はまだ聞いたことはありません。世界においても洪水インデックス保険というものが普及して、世に出た事例はほんの数えるほどしかなかろうというふうに私は認識しております。

原澤委員

ありがとうございます。2点質問します。一つは、保険を買った方の評価といいますか、非常に喜んでいるのか、あるいはたまに失敗するのかというその1点と、御社にとってこれはビジネスとして成り立っているのか、将来的に成り立つのかというのが一つ目です。

あと二つ目が、今回の場合は、20年ぐらいのデータをもとに、要するに、現状の気候というのを対象にしているかと思いますが、やっぱり20年後、30年後将来の気候変動みたいなものというのをお考えかどうかというのと、それに関連して、毎年条件を見直して変えるのか、ちょっと細かな話ですけど、よろしくお願いします。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社(島村グループリーダー)

ありがとうございます。お客様のご評価ですが、これは非常に手前みその話ではあるのですが、一定のご評価いただいているのかなと思っています。といいますのは、私ども実際に事業をする中で、何度か干ばつでお支払いをしているのですけれども、お支払いをすると、受け取っていただけると、やはりそれは役に立ったのだということでご認識をいただいて、恐らく口コミをしていただけていると思うのですが、翌年の加入件数が非常に増えるのです。それは逆に言えば、ご評価いただいているということでよろしいのかなと思っています。

ただ、これがビジネスとして、私どもが本来ビジネスとして純粋な民間事業者として望ましい規模にあるかというと、まだまだ実はそこには至っておりませんで、現時点では純粋に保険の収支という意味では、いただいた保険料とお支払いした保険金のバランスはとれていますが、これに運営に要する費用を賄えているかというと、その規模には今のところはなっていません。

私どもがこの事業を続けることの意義は、直接的には今々の時点ではこれは社会貢献の活動という側面が非常に大きいのだとは思っています。ただ一方では、私ども、この事業を通じて、例えばタイにおいては、農業関係者との関係を構築することができました。これは将来の投資にもなるというふうに思っています。

また、農村のお客様と私ども日系の保険会社がコンタクトを持つ機会というのは、まずなかなかこういうことがなければないのですけれども、私どもが地元の保険市場に参入していくときに、こういった形で私どものプレゼンスを上げていくというのは、将来的な投資にはなるのだろうというふうには認識をしているところであります。

今のこの発生確率の求め方、考え方ですが、現時点ではこれはビジネスの規模の裏腹ですけれども、私どもがご提供している補償のこのリスクというのが、それほど今の時点では大きくないものですから、比較的シンプルに過去のデータから発生確率を求めているのが現状であります。

ただ、これがやはり事業の規模が大きくなって、私どもが引き受けさせていただくリスクも大きくなれば、将来的な予測の精度というのを上げていかなければいけないというふうに考えておりますので、そのときには、非常に大きな課題になるのだろうなというふうに認識をしています。

保険条件につきましては、現状は、毎年毎年見直しをしまして、直近の年度の気象条件を含めて、改めて発生確率を毎年出しております。

住委員長

ありがとうございました。まだ多々あろうと思いますが、時間の都合がございますので、次に移りたいと思います。それでは、国際航業株式会社からお願いします。

国際航業株式会社(前川上級顧問)

国際航業の前川と申します。本日は弊社の気候変動による影響への適応に関するビジネスとしての取組及びそれに関する意見について発表する場を与えていただき、誠にありがとうございます。

では、最初に弊社の気候変動適応に関する取組について、その経緯も含めてご紹介させていただきます。

弊社は、1947年に設立されました地理空間情報技術をベースにしましたエンジニアリングとコンサルティングサービスを提供する企業でございます。

当社は、グリーンエネルギーから防災・減災、環境保全等々のさまざまなサービスを国内外のお客様に提供しています。

また、持続可能な社会に向けての当社独自の取組も行ってまいりました。その一つが大規模太陽光発電事業、メガソーラーへの挑戦です。今ではメガソーラーは一般的に普及しておりますけども、当社は再生可能エネルギーの長期固定買い取り制度がない時代から、この事業へのチャレンジを行っております。

その第1号となりましたのが、2009年4月に着工いたしまして、2011年の2月に完成いたしました宮崎県都農町の宮崎ソーラーウェイです。これはこの写真にありますように、リニアモターカーの実験線の高架部分を用いた、全長およそ3.9km、規模が1,050kWの太陽光発電所となっております。これをつくることによって、この地域の地域貢献にも寄与しております。

また2009年から、仙台市の郊外におきまして、エネルギー消費の抑制や安全・安心で快適に暮らせる仕組み、自然との融合などをコンセプトといたしましたモデルタウン事業の開発を行っております。東日本大震災後には、災害に強い都市基盤も、このコンセプトに加えています。

また、持続可能な社会のために民間企業は何ができるかということについて、世界に情報発信をするということも続けております。

特に、防災に関しましては、2013年から2015年の間、弊社の会長でありますサンドラ・ウーが国連国際防災戦略事務局UNISDRの民間セクターの議長を務めておりまして、さまざまな国際会議におきまして、民間セクター代表として情報の発信を行っております。この成果は、仙台防災枠組みなどに生かされています。

さらに、気候変動に関する取組といたしましては、2015年4月に弊社は世界経済フォーラムのClimate CEOに署名しております。

また、同じ年の10月には、国連Global Compact等が主催いたしておりますCaring for Climateの活動にも参加しております。

そして先月、COP22が開かれましたが、それと同時に開催されましたCaring for Climateのハイレベル会議に招待されまして、民間会社としての取組についての発表を行う機会をいただいております。

これらの取組を行っておりますが、これらは弊社の親会社であります日本アジアグループが会社のミッションとしています、安心で安全そして持続可能なまちづくりによって社会に貢献しよう、という理念に基づくものです。

弊社もこれに基づきまして、中期経営戦略におきましては、持続可能な開発への貢献、とりわけ気候変動対策への取組を中心に置いております。

では、その中で当社のコアであります地理空間情報とICTを活用した取組の幾つかを紹介させていただきます。

最初は、GIS技術を活用した営農支援の取組です。

これは衛星画像などを用いまして、空から地上を測定する技術、これが私どもの得意とする技術ですが、これを生かしまして、広い範囲の農作物の生育状況などを面的にリアルタイムで把握し分析を行います。さらに、それにさまざまな地理空間情報を組み合わせることによって、異常気象や高温に対する適切な農地管理、営農を支援し、そして収穫量や品質の向上、労力や人件費の削減などを効率化するというサービスとなっております。

2番目の事例は、GPS自動計測を用いた斜面の集中管理の事例です。

今後、気候変動に伴いまして、降水量の増加、また降水パターンの変化、さらに気温の寒暖差の拡大によって、斜面の安定性もさらに悪化してくることも危惧されます。

これに対しまして、このシステムは、GPSの自動計測システムを用いて、斜面や、あるいは鉱山の最終残壁の状態を高精度でリアルタイムに計測し、そしてその結果を弊社の集中監視センターに転送し、そしてこの集中監視センターで24時間監視するというシステムです。

この集中監視センターには、弊社の専門家が常駐していまして、送られてきたデータを自動的に解析及び専門家の目から見て判断し、そして異常が検知された場合には、迅速にその情報を伝達するという仕組みを持っております。

これによって、今後リスクが高まる斜面の安定性について、高精度かつ効率的、また低コストで情報を提供するというシステムとなっております。

3番目は、地理空間情報とICTを活用した医療支援です。

気候変動が今後高まってきますと、それによって猛暑日が増加するとか、あるいは天候が不順となるなどの外力が発生するわけですけども、これとは別に日本が抱える課題として、高齢化であるとか、あるいは首都圏への人口密集、また地方の過疎化などの社会の脆弱性があります。この気候変動と社会の脆弱性というものが相まって、気候変動による健康へのリスクというものが、ますます高まってくると考えられます。例えば、高齢者の増加等が原因となりました救急搬送の件数と搬送時間の増加という問題、これは既に社会的な問題として全国の問題となっております。これに今後、猛暑日が増えるといったようなことが合わさりますと、この問題がさらに拡大することが懸念されています。

この問題に対しまして、弊社は、佐賀県におきまして、iPadとクラウド、そして地理情報を利用した救急搬送支援システムの導入を行っております。これによりまして、毎年毎年伸びてきた搬送時間がその導入によって短縮されたという成果が得られています。

この成果の理由といいますのが、このシステムの導入によって、現在どこの病院にどの程度の患者が入っているかということであるとか、あるいはどこに送るのが最適かといったようなことについて、救急隊員が一目瞭然にわかるという効果があるからです。

そして四つ目が、GISを用いた地域の脆弱性の評価です。

皆さんよくご存じのように、気候変動のリスクといいますのは、外力とそれにさらされているもの、曝露、そしてその脆弱性という三つの要素が合わさって発生するものですけども、これらの分布を的確に把握するということ、そしてその特徴と関係性を評価するということ、これらが気候変動リスクを把握する上で重要となります。

加えて、適応に行うに当たりましては、ステークホルダー間で、リスク、あるいはその原因となる脆弱性等の分布がどうなっているかについての共通の理解を深めることも必要となると思います。

このような点におきまして、GISで視覚的に訴えることは有効な武器になると考えております。

以上、四つの弊社の取組について紹介してきましたけども、これらは全て当社の従来の技術やサービスをベースとしているものです。

当社では、コア技術であります地理空間情報に加えまして、防災や環境保全、エネルギー等の各分野での経験と強みを持っております。これらの技術、サービスの組み合わせ、さらには社外のリソース、例えば社外の技術であるとか、サービス、また金融の力といったものを組み合わせることによって、新たに融合が生まれ、そしてそこから新たなソリューションが生まれて、これからさらに高まり多様化してくる気候変動の影響への適応サービスが生まれてくるものと考えております。

では次に、今後、適応への取組を促進する観点での弊社の意見及び要望について述べさせていただきます。

当社は、コンサルタント企業といたしまして、各地の温暖化防止対策計画であるとか、環境管理計画、また地域防災計画などの策定のお手伝いをしてきました。これらの経験から見て、今後、各地域で策定される適応計画が実効性、実現性あるものとなるためには、大きく二つのポイントがあるのではないかと考えています。

一つ目は、地域、特に自治体のトップを初めとして、その地域が気候変動に適応するということが重要な課題であると認識し、そして自治体のトップがそれに対して明確な方針を示すということであろうと考えています。

各自治体には、それぞれ特有のさまざまな重要課題があります。その中で、気候変動への適応が重要な課題であると認識されるためには何が必要かといいますと、気候変動への影響そのものを目的とするというのではなくて、その先にあります持続可能な地域づくりということに焦点を当てるということが必要であろうと考えております。

そして、このような持続可能な地域づくりという目的の中で、気候変動の影響の評価とそれに対する適応策の計画を行うということが重要と考えております。

なぜかといいますと、持続可能なまちづくりというのは、全ての自治体に共通した課題でありますけども、その中で気候変動への影響を組み入れる。これによって自治体のトップがそれが地域の重要な課題であることについてリアルに認識できるということが言えると思います。そして、そこから明確な方針も生まれてくるのではないかと思います。

そのためには、具体的には、国が定めた適応計画、昨年11月に閣議決定されました適応計画の中では、目指すべき社会の姿として安全・安心で持続可能な社会の構築を目指すということが示されておりますけども、これが非常に重要なところで、これについての理解の促進をするような啓発活動が必要であろうと考えております。

2番目のポイントといいますのが、地域の実態を的確に反映して、そして、それとともに住民等のステークホルダーの参加を行うということだと考えております。

気候変動による影響というのは非常に多様でして、また影響を受ける主体によってもそのリスクの認識であるとか、リスクの大きさというものは異なります。これは従来の防災計画などとは大きく違うところではないかと思います。

このような中で、自治体の限られた予算であるとか、マンパワーを何に投入するかという判断においては何が必要かといいますと、一つには地域の実態、特にその地域独自の課題を的確に把握するということが重要であろうと考えています。また、そのためには住民を初めとしたステークホルダーの参加ということが欠かせないと考えています。

そして、さらに重要なことが、立場や基礎知識が異なるステークホルダー間での共通理解を深めるということが必要だと考えています。このために有効なこととしては、気候変動が及ぼす外力の変化、例えば気温や降水量の変化であるとか、あるいは地域の脆弱性、また曝露される対象物の分布、これらを視覚的に表すということが重要、有効ではないかと考えています。

このためには気候変動適応情報プラットフォームのようなプラットフォームを用いて、気候変動の評価に必要な情報を誰もが簡単に入手できるという環境を整備することが望ましいと考えています。

そして、このような地域の気候変動の適応におきましては、その地域で活動を行う企業も重要なステークホルダーであるということの認識も必要だと思います。

企業は雇用であるとか、経済活動、また税収等におきまして、その地域における重要な構成主体となっています。また、環境保全活動や防災活動といったような点におきましては、企業と地域の連携も進んでいます。これは今後の気候変動の適応においても全く同じでありまして、地域の適応においては、企業と地域の連携が必要であると考えています。

しかしながら、日本の企業は、多くの場合、防災計画あるいは緊急時の事業継続計画、BCPについての策定は進んでいますけども、気候変動の影響という観点での取組は、諸外国と比べたら遅れているということが言えるかと思います。

海外の事例を見ますと、例えば事業活動の全てのバリューチェーンを対象に、短期~中長期的な変化も含めた影響評価を行い、その中でどこに事業活動のリスクがあるかを評価している例が多く見られます。

さらに、気候変動そのものをビジネスチャンスと考えて、これを企業の競争力拡大につなげていこうという活動も多く見られます。

そして、これらの活動を促進するための国家レベルで参考情報の整備、作成であるとか、公開も進められているという特徴があると思います。

これに対しまして、先ほど言いましたように、日本の企業は遅れが見られますけども、今後拡大する気候変動によるリスクあるいはビジネスチャンスに対して、日本企業が遅れるということは、日本企業の経営リスクとなってくるだけではなくて、企業が活動する地域の気候変動への適応という面においても課題になってくると考えられます。

したがいまして、気候変動の影響への適応は、企業の持続的成長に関わる経営課題であるということの理解を深めるための啓発活動であるとか、あるいはこれに取り組むための情報整備を進めることが望ましいのではないかと考えています。

最後に、企業と地域の連携についての意見などを述べさせていただきます。

国連Global Compact等が主催していますCaring for Climateという機関は、企業は自社の適応に取り組むだけではなくて、その活動を通じて地域の持続可能性に係る社会問題の解決にもつながるような取組を行うべきであるということを呼びかけています。これはResponsible Corporate Adaptation、日本語に訳すと、恐らく、責任ある企業の適応という形になると思います。

この活動は、特に発展途上国などのような脆弱性の高い地域では有効であると言われておりますけども、我が国の今後の気候変動適応における地域と企業との連携における一つの方向性を示しているかと考えられます。

地域と企業が連携して取り組むことによって、双方の情報や資源を活用できるため効率的に適応を進めることができるだけではなく、これらの連携を通じて、双方に共通した課題、例えば持続可能性に関する課題などを双方で解決することによって、その会社のみならず、その地域の持続可能性の課題を解決できるというような社会的な価値も生み出すということが期待されると思います。

したがって、このような企業の適応への取組によって、地域の持続可能な発展に関する課題を解決するような場合には、これに対して専門家の派遣であるとか助言を行う、あるいは、それにかかる費用の優遇融資や税制上の優遇措置などの支援が望ましいかと考えております。

以上、駆け足となりましたけども、弊社の取組のご紹介と意見等を述べさせていただきました。ありがとうございます。

住委員長

ありがとうございました。それでは、ご質問、ご意見をお願いします。

原澤委員

どうもありがとうございました。

2点質問ですが、一つは12ページの地域の脆弱性評価は非常に重要なことだと思うのですけども、この仕組みそのものは、ある程度汎用的にいろんな項目も入れたりとか、いろんな地域に適用できるような形になっていたりするのか、あるいは最終的にインデックス化というか、そういったものもできるかどうかというのが1点目。

2点目は、15ページに、地域が明確な方針を示すこと、そのとおりだと思ったのですけども、赤いところ、「啓発活動が望ましい」ということをお書きいただいていますが、企業の立場から、何かこうやるといい啓発活動ができるような、もし事例があれば教えていただきたいというのが2点目です。

国際航業株式会社(前川上級顧問)

まず、1点目ですけども、どのような情報をそこに反映させるかということ、それと、その精度ということもありますが、共通理解を深める目的という点におきましては、幾らでもできると思います。

一方、それをどう分析するかという細かな分析になってきた場合には、当然その限界もあると思いますが、基本的には問題は少ないと思います。

2番目に関しましての具体的な提案として一つ言えるのは、気候変動への適応に関する例えばガイドライン等を見ると、最初にその地域とちょっと離れた話や自分のところとはあまりなじみがないような話であるとか、もっと極端な話、海面が上昇するとかが記載されています。そうではなくて、なぜ適応をやるのかというところに注目し、その地域の持続可能な発展のためである、というところを最初に置いたほうがいいのではないかと思っております。

沖委員

ありがとうございます。実は、今の原澤委員の2点目の質問と同じですけれども、私も、まさにおっしゃるとおりで、気候変動への適応策は持続可能な開発目標と非常に親和性がよくて、それらを進めることは、普通の企業のトップは、やはり慈善事業で、おまけとしてやらなければいけないと思ってやっていらっしゃる方が多いですね。それに対して、御社の場合は、たまたま気候変動適応策そのものが業務にもつながるので、非常に違和感なくそれが大事だと言えると思うのです。例えばメーカーであれば、やはり緩和策は関係があるけれども、適応策はちょっとうちには関係ないなと思われる企業の一部の方は気にしていても、トップは気にしないという事例が多いのではないかと。

そうしたときに、今、原澤委員からコメントがあったように、何か具体的にそういう適応策をやることが、回り回って、あるいは直接的にビジネスの持続性の構築に役立っているのだというのをぜひお示しいただくように、グローバルコンパクトなりで人員を集めていただきますと、非常によろしいのではないかと思います。これ、コメントになります。

国際航業株式会社(前川上級顧問)

ありがとうございます。先ほど紹介いたしましたCaring for Climateという団体があります。これは国連グローバルコンパクトと国連環境計画とUNFCCCが共催している団体ですけども、ここからいろんな図書が出ています。その中で、彼らは、おっしゃっているような企業の取組とその地域との関係についての価値を強調しています。このような図書を日本でもどんどん紹介することによって、そして、それを企業のトップに示すということによって理解が深まっていくのではないかと思います。

住委員長

ありがとうございました。まだ、いろいろとあると思いますけども、時間が限られていますので、先へ行きたいと思います。次に、株式会社ミサワホーム総合研究所からお願いします。

株式会社ミサワホーム総合研究所(平山主任研究員)

それでは、住宅分野における気候変動の緩和と適応について、スマートシティの開発事例のご紹介と課題を、ミサワホーム総合研究所の平山と、あと、後半部分を佐藤からご説明させていただきます。

まず、住宅分野における気候変動の緩和と適応ですけれども、緩和については、エネルギーの使用量ですとかCO2排出量というような定量的な評価が可能であること、また、光熱費など、入居者にとってもコストメリットが出やすいということもありまして、この緩和策が中心に進められてまいりました。

ただ、近年、健康や快適性というものが、実際適応策には該当するのですけれども、こちらに関する項目も注目を浴びているのですが、評価基準や設計指針自体が明確でないということもありまして、支援が少ないというのが現状であります。

一方で、断熱性や気密性というような両方に関係してくるようなものもありまして、緩和策が進むことによって、適応策も間接的に進んでいるというのが現状ではありますが、本来であれば、さらに健康や快適性という意味で、もっと評価されてもいいものが過小評価されているというのが現状です。

このような動向の中で、今回ご紹介させていただきます熊谷のスマートタウンについてです。こちらが、熊谷市さんが当初提示しましたプロポーザルの内容ですが、ここでもやはりエネルギーを中心としたスマートタウンの整備を行う事業を募集するという内容になっておりました。これに対して弊社の提案としましては、当然、要件にあります一次エネルギー消費量がネットでゼロになるような住宅を標準とすることは提案しているのですが、それだけでは居住者にとってよいまちができないということで、この「夏を涼しく冬を暖かく暮らす」という快適性にも着目した提案を行いました。

その結果、熊谷市及びそこの委員の方々が、この重要性というものを非常に理解してくださって、このまちの実現につながったという経緯があります。逆に言えば、熊谷市さんの理解がなければ、エネルギー中心のほかのスマートシティと変わらないまちになっていただろうということが言えます。

こちらがまちの概要ですけれども、73戸の住宅と、あと、公園とそれから集会所からなるまちとなっております。

夏涼しく住まうための工夫としまして、最初に、この地域の気候特性を調べましたところ、夏の日中は東からの風が吹くことがわかりましたので、風上側に公園を設けました。日本一暑い熊谷ですので、35度、38度となるような風が吹いてきても涼しくは感じられませんので、それを公園で少しでも緩和して、涼風となったものをまちの中に導くような道路設計となっております。

こちらがまちのコンセプトになりまして、冒頭に説明しましたとおり、全棟ZEHとすること、それから、熊谷の気候風土に合わせて微気候デザインを導入すること、また、まちの中にクールスポットを点在して、それを住民が利用できやすいようなエコアクションを誘導することという三つを柱としております。

このようなクールスポットにおいて、体感温度マイナス3.5度が達成されるような設計指針を作成して、そちらを設計目標としてまちの開発を行っていたのですが、やっぱりこれに関しては明確な基準がないため、誇大広告になるおそれがあるという指摘を受けまして、結果的には、「涼を呼ぶまちづくり」というコンセプトに変更しております。ただし、実際には、やはり非常に抽象的な表現でして、ほかのまちでも言えることですので、どれぐらいの快適性を目指してまちを設計しているのかということが具体的に数値で言えるようになっていく必要があると考えています。

こちらが実際に涼を呼ぶ仕掛けを行った概要になりますが、まち全体、それから個々の住宅の外部、そして住宅の内部、そして住民による環境行動というまち全体から家の中まで総合的に取り組んでおります。

ただ、実際これを数年がかりで73戸という住宅地を実現していくためには、住宅の設計者、それから外構、エクステリアの設計者、そして評価機関である私たち研究部隊、それから営業という横断的な体制の構築が必要になるのですけれども、これを今回実現できたのは、一つに国や自治体からいただいた補助金、それから販売につながるような認定制度があったからだと考えております。

今回、熊谷のまちをつくっていくに当たっていただいた補助金を、下の、小さい字で申しわけないですが、書いてありますとおり、ZEH関連については熊谷市さんから、また、パッシブクーリングアイテムや、住民がクールスポットを使うというようなことに関する気象台に関しては国交省から、また、まちが完成した後の入居者による評価、そのライフスタイルの評価検証に関しましては環境省から、それぞれ補助金をいただいておりまして、違うフェーズで、いろいろな視点からいただいた結果、設計から始まり、そしてポスト評価まできちんと行うことができたと非常にありがたく思っております。

では、実際に、クールスポットの形成に一番寄与しておりますこのパッシブクーリングアイテムについて、ご説明させていただきますと、パッシブクーリングアイテムで今回特に着目しているのは、いわゆる打ち水による効果を応用したものでして、単純に日射遮蔽して風を通すというだけでは、やはり35度以上になるような環境で涼しくは感じられませんので、この水をうまく使って、蒸発冷却による涼しい空間をつくるということを設計しております。

この中で使っているアイテムを見ていただきますと、実際は舗装面に関するアイテムがいろいろありますけれども、立面や天面というほかの空間を構成する要素に関しては、緑化ですとか、これまでの伝統的に用いられてきた手法と同じものが使われております。

ただ、住宅の設計においては、緑を増やせば増やすほど効果はあるのですが、維持管理も大変ということもありまして、ここにありますクールルーバーという自社で開発しました立面にも打ち水を応用しまして、顔の高さで涼しさを感じられるというようなアイテムも増やしていく必要があると感じております。

ただ、このようなアイテムというのはまだ少ないのが現状ですし、また、これらのアイテムの個々の評価指針ですとか評価方法というものは確立されつつあるのですが、総合的に住宅の庭ですとかまちの中に取り入れるためには、どれくらい入れればいいのか、どのようなものを組み合わせればいいのかという設計指針はまだまだないのが現状でして、このような指針づくりが今後さらに必要になってくると考えております。

そのような指針がないこともありまして、今回、研究所のほうでこのようなシミュレーションをまち全体、また、一戸一戸の建物について詳細な予測評価を行って、設計指針を作成したのですが、緩和策と適応策におけるシミュレーションの着眼点の違いというものを簡単にご説明させていただきたいと思います。

まず、緩和策につきましては、総量としてのエネルギーの排出量や熱量を減らすことが重要となりますので、広域の数ヘクタールというようなシミュレーションが重要になってきます。そのため、建物については、直方体でモデル化されたりと、比較的簡易化されたシミュレーションになったりしてくるのですが、適応策においては、人の滞在、歩行空間に注力した、人が快適性を感じられるレベルの対策が必要となりますので、右上にありますような、このような実施設計に従った精緻なモデルが必要になってきます。ただ、そうしますと、設計が進んでこないとこういうモデルも作成できませんので、やはり設計段階、開発段階での補助金の申請ですとか支援を受けるということには間に合ってきません。したがって、こういったデータを蓄積して、今後は簡単なシミュレーションでもその評価を予測できて、信用される体制づくりが必要であると考えております。

こういったシミュレーションをもとに、設計指針を作成しまして、実際にできたまちがこちらになるのですが、道路ですとか公園といった共通な部分、それから各住宅内のエクステリアの部分で、それぞれ取り組んだおかげで、かなりまちとしてもきれいに、つくり込んだことが伝わってくるようなまちになりました。こういったまちなみのよさというものも副次的な効果として住民に高く評価されております。

では、ここからは、実際に建設された建物の効果を実測した結果をご紹介したいと思います。

隣接する2棟ですけれども、工事中ということもありまして、左側が完成して、パッシブクーリングアイテムが入っている住宅、右側が、まだ植栽も外構工事もされていない状態の住宅になります。これによって、パッシブクーリングアイテムの効果を見ていきますと、アプローチ部分からこのテラスに向けて、パッシブクーリングアイテムのあるところでは、気温以下となるような表面温度分布が見られまして、熱放射温度の低減効果が見られる結果となっております。さらに、テラス部分で、人が滞在した場合の体感温度というものを、こちらで、気温、湿度、平均放射温度、風速というパラメータをそれぞれ測定した結果と、さらにこの体感温度という一つのSET*という指標に算出した結果を見ていきますと、こちら、縦がパッシブクーリングアイテムのある建物で、横がない建物で、この点線が二つの建物において同じ値ということを示しますが、高温になればなるほど差が開いている、大体30度を超えてくると、体感温度3.5度の差が得られているという当社の設計どおりの結果が得られていることが確認されたのですが、やはりこれも温度帯によってその効果も変わってくるということで、広告に使うには、確かにさまざまな条件設定を説明しなければいけないので、それをいかにシンプルにできるかというような全国共通の基準というものが今後必要になると考えております。

株式会社ミサワホーム総合研究所(佐藤主任研究員)

次に、居住者へのアンケート結果について一部紹介させていただきます。

こちらは、住宅地の選定理由として実際に住まわれた方がアンケートに答えた結果の一例でございます。

一般的な不動産評価としては、駅からの距離といったことが挙げられると思うのですけれども、ここでは、先ほど説明させていただいたとおり、まちなみですとかまちづくりのコンセプト、省エネ技術、創エネ技術といったものに取り組んでおります。涼を呼ぶまちの取組というものも、こちらを見ていただくとわかりますように、住宅地の選定理由の一つとして選んでいただいているということがわかるかと思います。

したがって、一般的な不動産評価に加えまして、省エネですとか快適性の評価が住宅地の選定を後押ししていることから、これらを資産価値へと反映できるような検討を進めていくことで、省エネですとか快適性の取組が住宅購入者に受け入れやすくなると考えております。

また、こちらは、実際に居住した後に、夏を過ごした方に限定して、涼しさを、当初期待した取組と、また、さらには夏を通して体感できた取組について回答していただいた結果になります。

こちらを見ていただきますと、低木や芝生による表面温度の低下ですとかクールルーバー散水による涼風の形成、また、保水性舗装や樹木への散水システムといったパッシブクーリングのアイテムに対して、期待していたよりも体感できた取組のほうが、回答者の割合が多いということから、期待以上の体感ができたと回答していただいております。

また、さらにトップライトの天窓の排熱ですとかシーリングファンの排熱の促進、窓開放による風の取り込みといった通風や排熱に関しても、期待していたよりも体感できた取組が、こちらは回答者の8割程度の方々が体感できたと答えていただいておりまして、初めてそのよさを体感したという方が多くいらっしゃいましたので、こういった手法に関する知見の蓄積もそうですし、情報の公開や訴求を図る必要性があると感じております。

また、通風や排熱の促進のシステムとして弊社として販売をしているものとして、この涼風制御システムというものがあります。こちらは、外と中に温度のセンサーがついていまして、この温度のセンシングによって、外気が下がってきたときにはトップライトが開き、また、シーリングファンが回ることによって、排熱を促進するという取組です。

また、屋外の温度が上がってくると、今度はこのトップライトとシーリングファンを閉じまして、エアコンが自動的に稼働するといったものでして、この窓の自動開閉とエアコンとの連動によって、最高・最低室温の制御を行っております。

こういった取組というのは、熱中症対策としてエアコンをつけるという話はもちろんあるのですが、室内にいますと、外気の温度が下がってきてもなかなかそれに気づかないということがありますので、そういったときにこういったセンシングを使って、自然の換気をすることによって、省エネと熱中症対策の両方を図れる技術というものも導入しております。

こういったものも、他社さんも同様の取組を実施し始めてはいるのですが、具体的にどれくらいの開口部があればいいのかとか、どういう制御をすれば一番省エネと熱中症対策につながるのかといったことに関する評価方法というのはまだ確立されておりませんので、こういったものもこういった技術の普及には必要になるだろうと考えております。

こちらはまだ開発中のものになるのですが、先ほど申し上げたような自然換気をするといったときに、夏は特に夜間の冷涼な空気というものが蓄冷できると、室内の日中の室温上昇に有効であるということがありますので、こちらは、床にこういった蓄冷の建材を敷設しまして、日中の最高室温の抑制に寄与するといったことも現在開発しているところです。これによって、自然環境をより効率的に利用しまして、さらなる省エネ、熱中症対策を同時に図れる技術にしていきたいと考えております。

ただし、現行の省エネ法ではこういった蓄冷の技術といったものが評価できませんので、こういったものも評価できるような仕組みづくりというものも課題としては挙げられます。また、こういう夜間の蓄冷技術というのは、日較差が大きいような、また、適度な風速が得られる場所で特に有効ですので、こういった地域特性に関するデータベースの構築なども積極的に利用するためには必要だろうと考えております。

以上をまとめますと、スマートシティの開発要件としては、エネルギー関連のものが現在多いのですが、パッシブ手法ですとか健康、快適性に対する認定や支援は少ないというのが現状です。そこで、明確な評価基準を作成することで、設計段階での認定ですとか支援が可能になると考えます。また、新しい基準の作成に向けて、部品や設備の導入だけでなくて、造成や設計手法、入居後の評価など、各段階において評価に対する支援があることが望ましいと考えております。

また、住宅単体の取組に加えまして、まち全体として取り組む場合の相乗効果に関する知見がまだまだ少ないと思っておりますので、モデル街区の支援ですとか、居住者やまちを維持していく上での支援があることが望ましいと考えております。

また、住宅の単体の技術としましても、省エネ対策と熱中症対策を両立する取組を推進する枠組みというのは現在ほとんど見られませんので、こういった技術開発や評価手法確立に向けた推進策をお願いしたいと考えております。

我々からは以上です。

住委員長

ありがとうございました。何かご質問がございましたらお願いします。

高橋委員

ありがとうございます。国立環境研の高橋です。

居住者へのアンケート結果ということでお話しいただいたのですが、今日ご紹介いただいたのは、何でそこを選んだのかとか、そこで実際体感した点はどういう点だったかという点でした。加えて、こういうところに住むという経験をしたことで、何か環境問題に対する行動の変容があったとか、そういったことについての調査も質問事項の中に含まれていたかどうかということについてお伺いしたいと思います。

株式会社ミサワホーム総合研究所(平山主任研究員)

はい。そういった項目も聞いておりまして、実際省エネに関して非常に意識が高まったとか、やっぱり太陽光発電という部分もありますが、天気について非常に敏感になってきたとか、あと、実際に転居前の住宅でどれぐらい窓をあけていたか、入居後、転居されてどれぐらい窓をあけるようになったかをお聞きしますと、やっぱり窓の開放率が何倍にも増えていますので、ほとんどこれまで窓をあけていなかった方が、窓をあけた生活をするようになったというような結果も得られております。

高橋委員

ありがとうございます。今回ご紹介いただいたのは、どちらかと言えばハード側の対策だと思うのですが、結局それは、住む人がどういうソフトの形で使っていくか、また、さらにハードの部分を広く展開していく際のきっかけになるのかなと思いますので、質問させていただきました。ありがとうございます。

株式会社ミサワホーム総合研究所(平山主任研究員)

ありがとうございます。まさに、住宅メーカー、つくり手側としては、仕掛けづくりですか、ハードをつくるところが精一杯でして、結局打ち水だって水をまかなければ効果がないようなものもたくさんある中で、いかにそれを入居された方に引き継ぐかというのが非常に大きな課題であります。ありがとうございました、貴重なご意見をいただきまして。

倉根委員

感染症研究所の倉根と申します。

樹木があり、そして常に水があり。樹木があると、葉っぱも増えるだろうと。そうすると、きちんとそれを処理しておかないと、夏に蚊の発生する地点がやっぱり増えるということになるだろうし。ここに雨水タンクがあり、窓をあけ、網戸はありますが入るということになる。そういう、期待しない動物なり蚊の数がそこに増えてくるとか、そういう調査というのはなさるわけですか。

株式会社ミサワホーム総合研究所(平山主任研究員)

アンケートに加えまして、生態調査も実際に行っております。まだ開発途中段階なので、完全なまちの完成の状態ではないのですけれども、ちょっと蚊は増えているという話はありました。ただ、それは、一部まだ造成前の更地になっている敷地があって、そこでシートをかぶせているという原因もあるのではないかということもあるので、まちが完成してから、ちゃんとした経過報告というものはさせていただきたいと思っております。

増井委員

どうもありがとうございます。コストのところについてお伺いします。何段階かの補助金で対応することができたというお話だったのですけれども、大体コスト的に見て、通常の住宅と比べてどれぐらい高いのかということと、こういう住宅が標準になってくれば、そのコストの低下というのはどの程度期待できるのか。その2点をお伺いしたいと思います。

株式会社ミサワホーム総合研究所(平山主任研究員)

はい。地場のビルダーさんと、もともと弊社の価格帯の差がちょっとあるので、弊社の基準、標準住宅と比較させていただきますと、大体1.5倍ぐらいの費用がかかっておりまして、その結果として、入居いただいた方も比較的所得の高い方ということがあります。

今回は、そこでぎりぎりのラインでおさまったのですが、さらに技術者としてはもっとできることはあるのですが、これ以上つくり込むと、そもそも市場に見合わないものができるということもありまして、そこの折り合いをつけたのが今回の住宅ということになります。

今後こういうアイテムも普及しまして、もっと認知度も高まって、こういった取組を行ったまちの資産価値自体がもっと上がるというようなことも、入居者の方が判断していただければ、今の価格帯でももっと普及することも考えられるのではないかと、そこも期待しているところであります。

松井委員

森林総合研究所の松井と申します。

一つお伺いしたいのが、まず、木材的な需要というのは、この住宅の場合、従来の住宅と比べてどのぐらい多いのか、少ないのか。

もう一つは、地域的に、例えば多雪地帯とか、あと、温暖化先進地域の九州とかでも今回ご紹介いただいた住宅というのは使えるものでしょうか。

株式会社ミサワホーム総合研究所(平山主任研究員)

木材の使用量に関しましては、もともと木質パネル工法を用いておりますミサワホームですので、従来の木造住宅と同じ量の木材を使用しております。外構に関しましても、植栽を多く使用しているのですけれども、木材という観点で言うと、特に多いというわけではありません。

株式会社ミサワホーム総合研究所(佐藤主任研究員)

ほかの地域につきまして、九州地方でも、今の都内などと同じような湿度環境の場所であれば、同じように冷却されますので、使える技術であると思うのですが、沖縄のように湿度が高い地域では、今度はなかなか冷えず、蒸発冷却がうまく利用できないということがありますので、そちらに対しては、我々のほうでは、太陽熱を使った除湿技術といったものについて、今現在、取り組んでいるところであります。

野尻委員

JSTあたりの社会実験のようなものでは、住んでいる方の間で競争させるというか、データを示すことによって、自分が今どういうポジションにいるかという、そういうことをやると、意識も高まるし、実際にも進むようなことをやっていらっしゃるようですが、こういうまとまった街区だったら、きっとそういうことができるだろうなということを考えたのが一つと。もう一つは、これは結構集合的な住み方をするわけですけど、離散的にもう少し周辺部だったら、なかなかこの技術は使えないところもあるのかなと思って、もう一つ何か切り札になるようなものとして、地中熱利用なんていうのは、やはりちょっとコストで無理でしょうかね。結構、実際的に蓄熱材としては、大きいものがあるはずのようにも感じるので、その辺まで踏み込んでいるところはまだないのかというのをお聞きしたいと思いました。

株式会社ミサワホーム総合研究所(佐藤主任研究員)

地中熱利用に関しては、我々も取り組んだことはありますが、くいを打つための価格が非常に高いということと、あと、あまり利用し過ぎると、地中の中の温度が高くなってしまって、効果が小さくなって、なかなか利用ができないということがありまして、今のところは、新しいくい打ちの技術ですとか、そういったところのコストが下がってこないと、なかなか普及は難しいのかなと考えているところです。

株式会社ミサワホーム総合研究所(平山主任研究員)

地域ごとに関しましては、もともと微気候デザインというのが気候・風土に合わせたデザインを行っていくということで、今回は日本一暑い熊谷だったので、このような涼しさに特化したものになっております。場所によって、通風ポテンシャルがより高いところであれば、通風に特化したものですとか、そういったデザイン手法は幾つか持っていますので、適応させていきたいと思っています。

打ち水については、特により乾燥した地域ですと、今度は水が希少過ぎて、水を外にまくなんてもったいないという話になる中で、日本は日中の湿度差、湿度の低下と、あと雨水が夏前に梅雨があってたくさん降るということで、実は、日本においては、打ち水というのは、非常にマッチした手法であるということで、今回、改めて着目しているというところがあります。

野尻委員

その住民の意識、その情報ネットワークみたいなのは、ここではチャレンジはされないと。

株式会社ミサワホーム総合研究所(平山主任研究員)

環境アクションのための町の気象台と、どこまでその内容を表示させるかということですが、競争意識をあおるようなことは、今回はしていません。73戸だと個人を特定できてしまうのではないかという懸念があったので、今後もっと母数が増えれば、そういうことも考えられると思います。

野尻委員

では、地方で離散的に住んでいるところ、そちらのほうが先に地中熱利用というのを進めるべきというわけですね。

株式会社ミサワホーム総合研究所(佐藤主任研究員)

くいを打つスパンの話で、広い敷地があって、相互に影響しないようなくい打ちの仕方であれば、利用はできると思います。

野尻委員

農家のようなところは、それがまず先に使うべき場所であろうと。

株式会社ミサワホーム総合研究所(佐藤主任研究員)

そうですね。

秋元委員

どうもありがとうございました。コメントなので、質問ではありません。

やはりこういう非常にコストのかかる話だと弱者層に対してどうかということが非常に適応では重要なような気がしていています。そこに対して、私が言いたいのは、こういう支援は必要だとは思うのですが、そういう支援がお金を持っている人たちだけにメリットがあるような形になってはいけないと思います。こういう住宅を開発することによって、リターンが企業において選べるのであれば、そこに対しては、基本的には補助金を出すべきではないというふうに思います。補助金を出すときには、何らかの外部性みたいなものがないと正当化されないと思いますので、こういうのを考えるときには、私も補助金は部分的には必要だと思うのですが、その辺の精査というか、金持ちだけに優遇されるような形での補助金が出ないようにしていく必要が政策としてあるかなと思います。全体として、政策として考えるときに、そういうことは必要だろうなと思いますので、コメントです。

住委員長

それは、民間企業としては関係ない、とは言いませんけど、政府に考えてほしいという話だと思います。

木本委員

今日、初めて聞く話が多くて、大変参考になっていいと思います。こういう会をもっと前からやっていればよかったのにと思いました。私のように、専門の研究者が現場の方のご意見を聞かないと、出口もアウトカムもないのではと思います。そういうことを繰り返し申し上げますが、今日、特に、皆さんの発表が印象に残ったのですが、2番目に国際航業の方の最後のほうで、論点に対してご意見をいただいて、どれもなるほど、そうだなと思ったんですが、16ページにあります、影響評価をするのに、対策をとるのに必要な情報が誰もが手に入るようにしてほしいというようなご希望がありました。この後、プラットフォームのお話もあるのかもしれませんが、もう少し一般的に言って、環境省でも他の役所でもそうですが、温暖化の対策について研究プロジェクトなどを進めていますが、そちらの側から見て、何をやっているのかよくわからない、あるいは、もっとこうやってほしい、大変結構であるなど、何かご感想がございましたらお聞かせいただきたいと思います。我々は研究をやっているので、あなた方のお役に立てているのかどうか、とても心配なところがありますので、もし、ご希望がありましたら、忌憚のないところをお聞かせ願いたいと思います。

国際航業株式会社(前川上級顧問)

個人的な意見となりますが、二つあります。

一つは、海外のサイトを見ていると、各省庁がばらばらではなくて、一つにまとめています。だから、日本においても、それぞれの省庁ごとにつくっておられるのがありますけれども、一つにまとめるべきだと思います。

もう一つは、その中で、特に、先ほども言いましたけれども、一般の方、企業にしても、住民にしてもわかりやすくするというのは、やっぱり地図なんですね。それで、日本の気候変動適応情報プラットフォームを見ると、一応、面的に脆弱性の分布であるとか、気温の変化とか、そういうのが示されていますが、地図情報としては、市町村の境界があるだけで、自分はどこに住んでいるかがわからないのです。一般の方にわかりやすくするためには、自分の家と気候変動の関係がどうなっているのかということを示すのが重要になります。

その点で、例えば、イギリスにしても、アメリカにしてもサイトがありますけれども、その中にも地図情報があります。それらでは、グーグルの地図などの上に情報を載せています。そうすると、自分のところがどういう状態なのかというのがわかります。それによって、気候変動が自分と関係するものである、他人事ではないというのがわかると思うので、そういう点を整備されるということが、理解を深めるという点では重要だと思います。

山田委員

同じく国際航業さんに感想を聞きたいのですが。私は防災的な研究をやっていますので、日本における防災のいろんな事業というのは、起きちゃったことに対して、じゃあ、どうするかというもので、これから起きるかもしれない、起きる確率も高いということに対しては、日本の国民も政府も、気が小さいというか及び腰というか、そんなところがありますよね。

つまり、将来起きるかもしれないということに対して、ほとんど防災的な意味で何も対策を打っていないのは日本だけです。そういう意味でいうと、例えば、資料の中にあった水循環基本法に対してこうやる、水循環をやるというのだけど、水循環基本法は、二、三年前にできて、動き出しましたけど、やっていませんよね。そういう観点からいうと、これから起こることに対してもう言えるのは、民間企業のほうが言えるのではと思っています。民間企業のグルーピングで、もっとどんどん提案していただくということはあり得るかどうか、ちょっと1社だけでも結構ですけど、同業他社みたいなグルーピングで、こんなことになっちゃうよというのが言えるかどうかとか、ちょっとその辺のコメントをお願いします。

国際航業株式会社(前川上級顧問)

民間企業の立場でいいますと、やはりビジネスにならないといけないわけです。ということは、お金を出す人がいないといけないわけです。そして、一方、日本の社会で見た場合に、地方自治体にしてもお金がないような状態がありますが、そういう中で、これがその地域の価値につながっていくということを示す必要があるのですが、そういうことを我々が示していかないといけないと思います。これは、民間企業に対しても同じで、それが企業の持続的成長と、言い換えれば、企業の競争力を高めるためには、どういう価値があるのかということ、自治体も同じで自治体の競争力を高めるためには、どういう価値があるのかということを示す。そういうのを民間グループが集まってやるということが必要だと思います。

ただ、そういうグループをどういうふうにやるかのアイデアはまだありません。しかし、やらなくてはいけないと思っています。

住委員長

どうもありがとうございました。時間に限りがありますので、このあたりで終わりにしたいと思います。

それでは、次の議題2に移りたいと思います。議題2は、気候変動の影響への適応に関する最近の動きということで、資料の4-1から4-3までを続けてご説明をお願いいたします。

小沼気候変動適応室室長補佐

ありがとうございます。私のほうから資料4-1から4-3までをまとめてご報告をさせていただきます。時間の関係がございますので、ポイントを絞って、ご説明をさせていただきます。

まずは、資料4-1、COP22の結果についてのご紹介でございます。

スライドの1にございますが、COP22、本年11月に開催されたものでございますけれども、主な成果といたしまして、まず、ご承知のとおり、11月4日にパリ協定が発効いたしました。それに伴って、パリ協定の第1回の締約会合も開催されたところでございまして、一致団結して気候変動の問題へ取り組んでいくという、改めてそういう機運の高まりを確認できたところでございます。

二つ目の成果としまして、パリ協定の実施指針のスケジュールについて、2018年までに指針を策定するということが決定されたということでございます。

三つ目としては、途上国支援の充実ということでございまして、効果的な途上国の支援に向けて、JCMの推進や、適応の分野についてはアジア太平洋のプラットフォームの構築を含むイニシアティブについて、山本大臣から発信したところでございます。

このほか、企業や自治体等の行動の高まりというものが改めて出てきているというようなことでございました。

ページをめくっていただきまして、山本環境大臣の主な対応でございますけれども、一つ目、日本政府の代表ステートメントにおいて、日本も11月8日にパリ協定を締結したことを報告するとともに、日本が中心的な役割を果たしていく決意を表明したところでございます。

二つ目としては、ケリーアメリカ国務長官とのフォーラムにも参加をしてまいりまして、アメリカに対しても、改めてパリ協定が京都のような形になってはいけない、共通の財産になるようにしてほしいということを呼びかけました。

このほか、JCMのパートナー国会合や関係閣僚とのバイ会談などを精力的にこなしていただきました。

下にございますのは、パリ協定に関する今後のスケジュールでございますけれども、COP22がちょうど終わったところでございますが、COP23、24に向けて、主にパリ協定の特別作業部会のほうで議論が進められて、2年後に実施指針に最終合意をしていくというスケジュールでございます。

次のスライド4でございますが、こちらが日本の気候変動対策支援イニシアティブでございます。山本大臣から発信いただいたものでして、項目としましては、緩和、適応、透明性、フロン対策、SDGsと、多岐の項目にわたっているものでございます。

この中で、適応につきましては、下のスライドにありますとおり、主に八つの取組を紹介させていただいております。この中には、環境省の取組だけではなくて、文部科学省、国土交通省、農林水産省、JICAなど、さまざまな関係省庁等の取組も紹介をしております。

この目玉として、1番目にあるアジア太平洋適応情報プラットフォームについて発信させていただいて、途上国からも高い評価が得られたということでございます。こちらにつきましては、別の資料でまた改めて説明いたします。

残りの資料はそれぞれの取組の概要でございますので、時間の関係上、割愛させていただきます。

次に、資料の4-2をご覧いただきたいと思います。気候変動適応情報プラットフォームということでございまして、本日もさまざま話題に出てきておりましたけれども、改めて情報を整理しておりますので、ご紹介をさせていただきます。

こちらのプラットフォームにつきましては、昨年、閣議決定をされた適応計画に従いまして、その基本戦略である気候リスク情報等の共有と提供を通じた理解と協力の促進、これを進める中核的な取組として、関係府省庁が連携しながら、設置をしたものでございます。本年の8月に設置をしまして、事務局である国立研究所に運営をしていただいております。このプラットフォームは、地方公共団体、民間事業者、国民などの適応の取組を支える情報基盤として機能をしているものでございます。

どんな情報があるかと言いますと、ページをめくっていただきまして、まず、スライドの2に全国都道府県情報という形になっております。クリックをしていただくと、都道府県別に過去からの気温の変化、降水量の変化、さらには将来にどれだけ変わるかという予測や、さまざまな影響項目についても、例えば、米の収量・品質、自然生態系の劣化、斜面崩壊の確率、熱中症の搬送患者数などの予測結果などが示されているところでございます。こちらにつきましても、順次、バージョンアップをしていく予定でございまして、現在のところ、一部のデータのみしか示されていないところがございますけれども、新しい知見も入れていきたいと考えています。また、現在、GIS化をして、地図情報として整備をしていくということにも取り組んでいるところでございます。

下のスライドは、地方公共団体の取組ということで、環境省として策定した地方公共団体向けの適応計画策定のガイドラインを紹介するとともに、それぞれの地方公共団体の適応計画についても紹介をしております。

次のスライド4でございますけれども、事業者の取組でございます。こちらは、今月から改めて情報を整備したものでございますけれども、事業者の取組については、大きく分けて二つございます。気候リスク管理と適応ビジネスに大きく分けられます。

一つ目の気候リスク管理につきましては、気候変動の影響がそれぞれの事業者の営業活動に影響を及ぼす可能性があるということで、そのリスクにどう対応するかという事例を紹介しています。ただし、我が国における事例というのは、情報が十分に集まっていないという状況でございますので、まずは第一段階として、英国の事例を紹介しています。英国におきましては、それぞれの公益な活動を行う企業が気候リスク管理の取組を進め、政府に取組を報告し、ホームページで取組事例を紹介しておりますので、その事例を紹介させていただいているところでございます。

もう片方の適応ビジネスでございますけれども、これは商品やサービスを提供することで、他者の適応を促進していこうというものでございます。本日、ご紹介いただいた三社の民間事業者さんの取組につきましても、このプラットフォームの中で紹介をさせていただいております。こちらの取組事例については、常時、募集をしておりまして、新しい民間企業さんの取組につきましては、逐次アップデートして紹介していきたいと思っております。

さらには、その下にあるスライド5、個人の取組でございます。個人の取組については、難しい面もございますが、できるところについてはご紹介していきたいということで、例えば、水不足に備えた行動をしましょう、ハザードマップを活用しましょう、熱中症の予防に気をつけましょうといった情報を公開しているところでございます。

次のページでございますが、影響評価に関する文献ということでございまして、これまでこの小委員会の中で気候変動影響評価報告書を取りまとめいただきましたけれども、その文献につきまして、文献情報をそのまま見られるような形で掲載しております。新しい知見もこれから順次収集して、掲載をしていきたいというふうに考えております。

また、ニュース&イベント情報としましては、関係府省庁や自治体のイベントなんかも含めてご紹介をしているというものでございます。

最後のページが、先ほども申し上げましたアジア太平洋適応情報プラットフォームということで、山本大臣から発信していただいたイニシアティブでございます。これまで紹介をしたプラットフォームの取組を、2020年までにアジア太平洋地域まで展開をしていくというものでございます。特に途上国を対象とし、情報を整備するに当たっては、途上国の行政、研究機関と協働することで、さまざまな気候変動影響予測のデータセットを開発していきたいと考えています。こういった過程を通じて、人材育成にも貢献をしていきたいと考えています。また、我が国の民間企業がアジア太平洋地域に今後、投資をしていくに当たって、さまざまなリスク情報を参照し、活用できるというような情報基盤となるよう、整備をしていきたいと考えているところでございます。

早足で恐縮ですけど、最後に、資料の4-3をご紹介させていただきます。

こちらは、モデル自治体との意見交換会の結果についてです。環境省では、これまでモデル自治体におけるモデル事業を実施しているということをご紹介いたしましたけれども、11月8日に11のモデル自治体をお招きした意見交換会を実施しております。モデル自治体のそれぞれの取組を共有していただこうということと、環境省の来年度以降の地域での取組についてご示唆をいただくということを目的として、開催しました。

ページをめくっていただきまして、初めに、モデル自治体の取組の概要でございますけれども、このモデル事業におきましては、文献調査や専門家の紹介等を通じて、さまざまな知見の整理等を行ってきました。その成果も含めてご紹介をいただいたところでございますけれども、ポイントは、各モデル自治体とも環境部局が中心となって、関係部局、農政部局や土木、保健などの部局が多岐にわたっておりますけれども、そういった組織を集めた連絡会議のようなものを設置して、適応策の推進体制を整備していることです。また、既存の知見などを整理しながら、気候変動の影響評価を行って、適応策を行政計画に位置づけているということです。

最近の主な取組として、中心的なところでは、例えば、福島県では福島大学と連携をして、福島県の気候変動の影響評価の報告書を取りまとめたということや、埼玉県におきましては、県としての適応計画として、かなり具体的なものを今年の3月に公表したというようなものがございます。

個別の事例につきましては、スライドの3以降に紹介をさせていただいております。このように、自治体ごとに推進体制をつくって、かなり多くの部局にわたりますけど、適応に取り組んでおられます。

また、スライドの5にありますのは、影響評価の方法でございますけれども、多くの自治体は、例えば、環境省の推進費で行ったS-8プロジェクトの成果を用いて、影響評価等を行っておりますけれども、一部の自治体は、モデルを用いて自ら気候予測を行って、影響評価を行ったというような事例などもございます。

スライドの7、8は、行政計画への位置づけというものでございますが、多くの自治体は適応策につきまして、地球温暖化対策の実行計画に位置づけているものが多いところでございます。ただ、それ以外にも、先ほど紹介した埼玉県のように、別の計画をつくって、かなり具体的な適応策の計画をつくっているものもあるということでございます。

最後に、スライドの9に移っていただきたいのですが、この後は、環境省の取組に対して、さまざまな意見・ご要望をいただきました。

まずは、先ほども紹介しましたプラットフォームに対する意見・要望でございます。一つ目として、先進自治体の計画策定の取組事例の共有ということでございますけれども、モデル自治体などでさまざまな取組を進めてまいりましたが、取組をわかりやすく整理・紹介することで、他の自治体の取組をもっと促せるのではないかというようなご意見をいただきました。

二つ目として、適応策の具体的な事例の共有ということで、適応計画をつくるのはプロセスだけではなくて、もっと個別の適応策につきましても事例を整理してほしいというものでした。例えば、自治体では農政部局や土木部局などに適応に関する事業化をしていただく必要がありますけれども、そういったときに、もっと具体的な事例がわかりやすく発信されれば行動しやすいということで、そういう情報を整備してほしいということでございます。

影響予測結果の解像度や確度につきましては、いろいろ意見もございましたが、必ずしも細かいデータが必要だというわけではなく、数キロメッシュ単位でも良いということでした。むしろ市民や事業者に説明していく上では、あまり不確実性が高い情報だと、なかなか活用しにくいということで、なるべく確度が低い情報ではなくて、高い情報を出してほしいというようなご要望もございました。

また、地域の影響に関するデータの継続的な蓄積というものが必要だということや、他の研究プロジェクト、他省庁がやっているプロジェクトの情報なども載せてほしいという要望がございました。

次のページになりますが、スライドの10、地方公共団体の適応取組支援についての意見・要望ということでございます。

一つ目は、環境省の来年度の取組として、地域適応コンソーシアム事業というものを進めていきたいと思っています。具体的には、国の地方支分部局や地域の大学、研究機関などに参加いただいて、地域ニーズに応じた影響評価や適応策の検討などを進めていきたいと思っております。こういった事業を実施していくに当たって、誰に参加をしてもらって、何をしてほしいかということについて、共通理解をよく醸成した上で進めていかなければならないというコメントをいただきました。

二つ目としては、都道府県、市町村と、それぞれステークホルダーがございますけれども、役割分担を明確化してほしいということでした。

三つ目としては、地域特有の影響評価ニーズ、例えば、地域の農産品などについては、特に地域として守っていきたいものということで、きちんと科学的な知見を集めて対応を考えていきたいということで、そういったものを優先してほしいというお話もございました。他方で、必ずしも個別の地域にこだわるわけではなくて、地域で評価を進めるべきものもあれば、全国レベルで情報を整備していくものもあるだろうということで、その辺を考慮すべきだという意見もございました。

最後のスライドが適応の普及啓発の進め方についての意見・要望でございます。普及啓発については、各自治体に頑張っていただいておりますけれども、なかなか難しいということで、適応の普及啓発を効果的に進められるようなパンフレットや事例集などを整備してほしいというご要望がございました。その上で、個人の具体的な活動事例の共有ということで、個人に何ができるかというものを事例として整理をしてほしいということでした。また、地球温暖化防止活動推進員という主に緩和の普及啓発について地域で活動している団体がございますけれども、こういった推進員の活動の幅を広げて、適応についても普及啓発の活動を進めていったほうが効果的ではないかというようなご意見などもいただいたところでございます。

以上、早足でございましたけれども、最近の取組を紹介させていただきました。

住委員長

ありがとうございました。何かと聞きたいことがあると思いますが、時間もございますので、もしご質問があれば、個別に環境省のほうにご質問していただければと思います。

最後のほうで述べられたように、これから、適応の事業化をするわけです。研究計画を練るわけでありませんので、そこは皆さん間違えないようにしてください。研究の場合は好きなことをやって、できなければ仕方がないで良いのですが、事業というのはそういうわけにいきません。それから、やはりサステイナブルに持続的に事業が展開できるような仕組みにしていく必要があると思いますので、そういう点でも、民間事業者も含めて、やっぱり新しいスキーム、新しいレジームというのを考えていく必要があるだろうと思います。それがこの委員会の課題でもありまして、今後、会議が続くのですが、来年度以降の具体的な事業展開の指針なりを作っていくことになるのだろうと思います。

そういう点で、この委員会では、次回から事務局に論点整理をしていただきたいと思います。しかしながら、本小委員会の論点は、1、継続的な観測・監視、研究調査の推進及び情報や知見の集積、2、定期的な気候変動による影響の評価、3、地方公共団体等の支援、4、海外における影響評価等の推進と、多岐にわたっており、これまでのヒアリングにおいて、必ずしもこれらの全て論点・意見が出ているわけではありません。そこで、次回の小委員会では、事務局より論点の整理に必要となる追加的な情報や材料も合わせて提示していただき、それも踏まえつつ、論点の整理をしていただきたいと思います。場合によっては、相談の上、追加的ヒアリングを入れることもあり得ますので、よろしくお願いします。

ただ、やっぱりよく考えてほしいのは、施策に関する議論だということです。研究計画と施策は全然違うものだということを、よく考えていただくことは非常に大事だろうと思います。例えば、研究だったら論文を書いてなんぼで、それでいいという認識がありますが、施策はコストパフォーマンスとか、地域のニーズに応えることをしていかなければならないので、その辺はよろしくお願いしたいと思います。

それでは、議事録についてはホームページに、皆さんの確認を得て載せるということです。次回の小委員会については、事務局からお願いします。

竹本気候変動適応室長

本日もありがとうございました。ホームページの掲載については、今、委員長からご発言があったとおりでございます。

次回の小委員会でございますけれども、ご案内のとおり、来年の1月17日(火)15時から17時を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。

住委員長

それでは、どうもありがとうございました。若干時間が過ぎましたが、これで閉会したいと思います。どうも本日はありがとうございました。

午後3時00分 閉会