保健・化学物質対策

2.調査結果の概要

本調査の結果を以下に示す。なお、図表の番号は報告書中のものとは異なる。

(1)対象者数及び回答率

 平成12年度3歳児健康調査の対象者数は81,212名、回答者数は68,243名で、回答率は84.0%であった。(各地域の回答率及び地域数:表 平成12年度 環境保健サーベイランス調査対象地域参照)

全35地域
回答率と地域数
図:全35地域回答率と地域数

(2)対象者別背景濃度区分ごとの呼吸器症状有症率

 対象者別背景濃度区分ごとの呼吸器症状有症率では、全濃度区分を通してみると、対象者別背景濃度ごとの有症率には一定の傾向は見られなかった。他の呼吸器症状及び汚染因子についても、全般的には対象者別背景濃度と有症率の間に一定の傾向は見られなかった。

図:NO2濃度別ぜんそく有症率図:NOX濃度別ぜんそく有症率

図:SO2濃度別ぜんそく有症率図:SPM濃度別ぜんそく有症率

(3)調査対象地域ごとの対象者別背景濃度平均値と呼吸器症状有症率

 すべての呼吸器症状有症率において、大気汚染物質濃度が低い地域と高い地域で比較した場合、高い地域のほうが有症率が高くなる傾向は見られなかった。。(図中の番号は調査地域を示す:表 平成12年度 環境保健サーベイランス調査対象地域参照)

背景濃度とぜん息の調整有症率の相関  男児
図:背景濃度とぜん息の調整有症率の相関男児
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  • ※調整有症率:各群間におけるアレルギー素因のタイプ(本人及び親のアレルギー素因の有無)別の構成比率の違いによる影響を取り除いた有症率>
背景濃度とぜん息の調整有症率の相関 女児
図:背景濃度とぜん息の調整有症率の相関女児
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(4)オッズ比による検討

 大気汚染物質(NO、NOX、SO及びSPM)濃度と呼吸器症状有症率との関係については、大気汚染物質において1未満のオッズ比が観察され、統計学的にも有意であるものがみられた。(ぜん息では、NO 10ppb増加あたり0.92、NOX 10ppb増加あたり0.96、SO 10ppb増加あたり0.38、SPM 10μg/m増加あたり0.96のオッズ比。NO2 、NOx 及びSO2 で統計学的に有意であった。)

 また、大気汚染物質以外の要因と呼吸器症状有症率との関係については、比較的大きなオッズ比が観察され、統計学的にも有意であるものがみられた。(ぜん息では、性差(男児>女児,オッズ比 1.66)、受動喫煙の指標としての母親の家庭内喫煙(あり>なし,オッズ比 1.33~1.34)、家屋構造(木造木枠>鉄筋,オッズ比 1.30~1.32)、本人のアレルギー疾患既往(あり>なし,オッズ比 2.25)及び親のアレルギー疾患既往(あり>なし,オッズ比 2.00~2.03))

推定オッズ比
NO 10ppbあたり 0.92*
NOX 10ppbあたり 0.96*
SO 10ppbあたり 0.38*
SPM 10μg/mあたり 0.96
性別 男児 1.66*
女児 1.00
家庭内喫煙 1.33~1.34*
母以外 1.04
なし 1.00
家屋構造 木造木枠 1.30~1.32*
木造サッシ 0.99~1.01
鉄筋 1.00
暖房器具 非排気 1.00~1.01
排気・他 1.00
居住年数 生まれてずっと 0.92~0.93
1年以上 0.97
1年未満 1.00
ペットの有無 あり 0.93
なし 1.00
アレルギー疾患の既往(本人) あり 2.25*
なし 1.00
アレルギー疾患の既往(親) あり 2.00~2.03*
なし 1.00
  • *統計学的に有意
  • (注)各モデルとも、性、喫煙、家屋構造、暖房器具、居住年数、ペット、アレルギー疾患既往に当該汚染物質1種を加えた説明変数で計算を行った。

(5)呼吸器症状有症率の経年変化

 呼吸器症状有症率(調査対象地域全体)をみると、「かぜひき回数(5回以上)」、「ぜん鳴」及び「ぜん鳴(かぜなし)」については、平成8年度から特段の変化は見られなかった。「ぜん息」及び「ぜん鳴(かぜなし)+ぜん息」については、平成9年度から特段の変化は見られなかった。

 ぜん息有症率について、経年的な地域別の変動をみると、基準年(平成9年度~平成11年度平均)に比べ、平成12年度は増加している地域が見られる一方、減少している地域も見られた。また、平成9年度~平成12年度で、ぜん息有症率が有意に正の傾き(増加傾向)を示す地域が見られる一方、負の傾き(減少傾向)示す地域も見られた。

 また、大気汚染状況については、大気汚染物質の濃度がかなり低下した地域がある一方、やや上昇した地域もあった。

 以上のような状況の下、大気汚染とぜん息有症率の関係について経年的な傾向に係る各種検討を行ったところ、調査対象地域又は各濃度区分に分類される対象者のぜん息有症率の変化と大気汚染濃度の変化に関連性は見られなかった。

 地域的に見られる有症率の変動についても、より長期の経年的データの蓄積により偶発的な変動の範囲、長期的に見た増減の傾向等が明らかになるものと考えられることから、今後の調査結果の推移を継続的に見守る必要がある。

呼吸器症状有症率と大気汚染物質濃度比較

【呼吸器症状有症率】
  平成8年度 平成9年度 平成10年度 平成11年度 平成12年度
かぜひき回数(5回以上) 24.89% 24.49% 24.32% 24.71% 25.23%
ぜん鳴 13.87% 14.98% 15.61% 15.59% 15.02%
ぜん鳴(かぜなし) 1.25% 1.55% 1.68% 1.79% 1.79%
ぜん息 1.82% 3.36% 3.57% 3.58% 3.53%
ぜん鳴(かぜなし)+ぜん息 3.07% 4.91% 5.25% 5.37% 5.32%
【大気汚染物質濃度】
  平成8年度 平成9年度 平成10年度 平成11年度 平成12年度
NO (ppb) 23 23 23 23 22
NOX (ppb) 41 41 41 40 38
SO (ppb) 6 6 6 6 5
SPM (μg/m) 39 39 38 37 35

基準年と平成12年度のぜん息有症率比較

基準年 平成12年度
3.50% 男児:4.40% 3.53% 男児:4.44%
女児:2.57% 女児:2.60%

地域別のぜん息有症率の推移と大気汚染状況の推移(例)

図:地域別のぜん息有症率の推移と大気汚染状況の推移(例)
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