■一覧へ■

生態系保全等に係る化学物質審査規制検討会(第4回)
議事要旨


日  時 平成14年1月25日(金)14:30~17:30

開催場所 環境省第1会議室(合同庁舎5号館22F)

出席委員
中杉委員(座長)  飯塚委員  池田委員  大塚委員  鳥居委員
中下委員  畠山委員  吉岡委員  若林委員  
事務局
岩尾環境保健部長  小沢企画課長
安達環境安全課長  早水化学物質審査室長
鈴木環境リスク評価室長  江口企画課課長補佐
森下環境安全課課長補佐  新田化学物質審査室室長補佐 他
オブザーバー 厚生労働省医薬局化学物質安全対策室
経済産業省製造産業局化学物質安全室 他

前回議事要旨案について
前回議事要旨案について、次の質問があった。
・「参考」の部分の10行目に「EU全体で法的に禁止された例は2物質ある」とあるが、具体的には何か。→新規化学物質のため不明。なお、既存化学物質で同じカテゴリーに属する例としては、短鎖塩素化パラフィンがある。
 修正(p5の下6行目「しきい値」→「閾値」)の後、本議事要旨案を確定した。

議事
(1) 議題1 生態系保全に係る審査・規制のあり方について
 事務局より資料2、参考資料1について説明。主な意見は以下の通り。
[1] 検討会の経過の概略(資料2)
  • 生態系保全の観点から化学物質の審査・規制を行うことは必要であろう、また、技術的対応可能性については一応最低限のことはできるであろう、ということで合意が得られた。
[2]OECD環境保全成果レビューについて(参考資料1)
  • 化学物質関連の「結論及び勧告」の部分に「排出削減に係る数値目標」が設定されていないとあるが、規制だけでなく、企業の自主努力により排出量を削減していくことが重要であり、そういった趣旨が踏まえられていないのではないか。→自主的取組については評価されており、「数値目標の設定」は必ずしも規制を意味するものではない。
  • 従来型の規制と自主的取組は、どちらか一方だけで進めていくのではなく、ともに必要な手法であろう。
  • 本勧告に対し、環境省としてどのように対応していくのか。→措置義務を負うものではないが、指摘を踏まえて今後の施策に反映していくことになる。次回のレビューで成果が評価されるものと考えられる。
 続いて、事務局より資料3、参考資料2について説明。その後、飯塚委員、鳥居委員、中下委員より各意見の補足説明が行われた。資料の内容への追加的なコメントは以下のとおり。
  • 「10トン」は重要であり、これに対応した法改正を前提として、生態系保全を追加することを検討してほしい。提案している免除規定についてはユーザーと協力して担保するようにしたい(飯塚委員)。
  • 表示制度が複雑なものになっており、総合的化学物質管理の枠組みは必要(中下委員)。
 また、欠席委員より、事前に以下のような意見の提出があり、事務局より紹介した。
  • 規制区分の考え方について、タイプIをハザードで、タイプIIをリスクで判断することに賛成。
  • 「良分解性」のものについて、「良分解性」のものでも生態影響試験を課すべきであり、生態影響については分解性の判定を厳しくする。
  • タイプIIについて、厳しい排出規制(用途規制)を行うべき。
  • 審査・判定方法について、資料3のタイプIとタイプIIの審査・判定方法については賛成。
  • 製造・輸入量の基準は1t/年以上とする。水溶性ポリマー、特にカチオンポリマーなどについては生態影響試験を要求すべき。
  • 試験法について、GLPが必要である。
  • QSARについて、データの蓄積が不十分であるので、QSARを用いることにより生態影響試験を免除することには反対。
1)規制スキームについて
 [1]規制区分の考え方について
  • 資料3では、規制区分のイメージとして化審法をベースに、タイプI(指定化学物質に相当)、タイプいいII(第二種特定化学物質に相当)及びタイプIII(第一種特定化学物質に相当)と分類しているが、これらをスクリーニング試験を行ってから分類するのか、それとも分解性試験等の後でこれらにタイプ分けをするのか。→今回は、まずどのような規制を行うべきかを先に検討し、試験方法については後で検討していただきたい。
    → どういう規制をすべきかということについて、絶対禁止すべき物質や、そこまでではないが生産量や用途を規制すべき物質があると思う。化審法は、健康影響に注目しているが、環境汚染を防止するという考え方を持っており、第1種特定化学物質は物質の性質を見て禁止すべきと判断される物質、第2種特定化学物質は環境汚染の状況を見て規制する物質という概念である。生態系に影響を与えるものについても、この2つに分けられると考えられ、分類したのが、タイプIIとIIIである。タイプIの位置づけについては議論する必要があるが、上市の際に要注意と認識されるものがあっても良いのではないかと思われる。
  • 今の体系と、生態系保全のための体系のフローを並べて考えるとわかりやすい。
  • 新規物質、既存物質とも、この3分類で考えるのか。また、新規物質については、タイプIからII、IIIへのtiered アプローチを考えているのか。→そうである。
  • Tierで危険な物質を絞り込んでいく場合、今まで行われなかったような(3点セット以外の)試験も盛り込んでいく必要があるのではないか。
  • 3つの分類については、リスクと有害性から分かれているが、規制の内容や後から必要な試験で分けるとまた違った分類になるのではないか。例えば用途規制などを盛り込む必要はあると思うが、用途規制を行うとされているタイプIIはリスクから選ばれることとされており、用途規制はリスクを見て行われるだけで十分だろうか。規制の内容ごとにタイプを分けた方がよいと思われ、その場合には、3つ以上に分類されることもあると考えられる。
  • 人と生態系では暴露の仕方がかなり違っている。例えば、人については、魚類などの生物に蓄積したものを摂取するという仮定を考えているため、生分解性で区分しても良いが、生態系の場合は、ある物質が流域に大量に排出された場合、死滅することも考えられる。タイプIIIについては、高等生物のみで良いかという問題はあるが、すっきりしている。タイプIIについては、実際に使用して環境汚染の状況を見てから、用途規制などを行う方法になっているが、それでは生態系を守れないのでないか。モデル予測やハザードで評価し、用途規制などで管理をするシステムにした方が良いのではないか。
  • 例えば、タイプIで物質の使用用途や使用場所について細かく管理するやり方もある。
  • 案の区分は化審法の枠に当てはめただけなのでよくない。化審法を大前提にすることなく生態系保全の観点で整理するとどうなるか、という検討が必要。→案はたたき台として化審法に貼り合わせるとこうなるというものを示したもの。化審法に入れることが大前提にあるわけでなく、新しい枠組みもあり得る。
  • タイプIIIの説明として、「環境中の多寡に関係なく生態リスクがあると認められる物質」というのは、環境中から検出された濃度にかかわらず、毒性がある程度以上ある物質という意味か。→リスク管理ができないので、ハザードのみで評価し、製造・使用を禁止するという考え方。これは、ある安全な濃度レベルであったとしても、技術的にその濃度を測定することが難しい、あるいは系外に出てしまうと監視できないなどの理由から禁止をするという考え方と思われる。
  • 諸外国でタイプIIIの考え方で製造を禁止された例はあるか。→例えば近い例として短鎖塩素化パラフィンがあるが、用途規制である。将来的にはより厳しい規制になる可能性はある。生態毒性だけからタイプIIIに相当するような物質は非常に少ないか、あるいはないかもしれないが、現在の化審法第1種特定化学物質は概ね非常に生態毒性が強く、生態毒性の面から見ても、タイプIII相当であると言えると思う。
 [2]良分解性物質の扱いについて
  • 農薬のようにある種の生物に対して急性的な影響がある化学物質が繁殖時期に環境中へ出てくると、その生物が死滅する。良分解性であっても継続して汚染が続く場合は、対象外にすることはできないのではないか。
  • 生分解試験と同時に生態影響試験を行うべきである。この場合の生態影響試験は3点セット、あるいは3点セットのさらにスクリーニングとなる費用の安い試験があればなおよい。
  • 本来、良分解性のものが環境に残留するのはおかしい。良分解性物質の定義を明確にすべき。→ここでいう「良分解性」とは、現行の化審法のスキームを考えた場合を指している。
  • 化審法の分解性試験は、環境中に比べると高い濃度の活性汚泥の中で28日間かけて行われるが、これをそのまま自然界に当てはめて見た場合、我が国においては河川の流下時間は28日間もかからないこともあり、このような時間的な条件や微生物量などを考えれば、良分解であるから一概に無視することはできないのではないか。
  • 今の化審法では、化学物質が環境中に流出して、残留し、やがて人間に戻ってくるという考えのもと、人の健康保護をターゲットとしているため、環境中でも長時間分解せずに、環境中に残留することを判定の前提としている。人の健康と生態系への影響を見た場合には、大きなタイムラグがある。
  • ある物質が環境中に負荷をかけている場合、そのターゲットは何か。生態系の生物が10~20%が減少したとき意味があるとされている。→生態における10~20%というのは、その復元能力への期待と、その程度減少しなければ、検出することが出来ないということの両方の意味がある。
  • 瞬間的に強い負荷がかかって、その生物群が全滅した場合でも、通常当該生物にとって生息できる環境であれば他からの移動により置き換えできるという考え方もあるのか。事例研究がないとわからないが。→一概には言えない。その地域によって違ってくるので、本来は、地域ごとに機動的な対策を行う事が大切である。
  • 良分解性であるにもかかわらず環境から検出されている物質は、概ね生産量が多い。生産量の多い物質については、企業は利益を得られるのだから、多少費用がかかっても試験を行うべきではないか。また、試験の費用はいずれ製品の価格に転嫁されてくる。消費者側にも、化学物質は安価で何でも得られるものではないことを認識させることも重要である。→生産量を把握するには、毎年全ての物質について生産量の報告を義務づけることとなり、これは指定物質という枠組みをなくすということになるとも言える。
  • 生産量によって段階的に届出項目が決められるのであれば、業界としては生産量を毎年報告しなければならないと考えている。あるいは累積量がある段階に達したときに届け出るという案も出ている。
    → 生産量1トン以上の物質について全て生産量の報告を義務づけることになると、毎年膨大な書類が集まることになるため、例えば報告が必要な物質を決め、その物質を生産している事業者にのみ報告を義務づけるような方法もある。→生産量を全国のトータルで判断するのではなく、事業者ごとで判断することにすると毎年の報告は必要なくなる。EUでも事業者単位と割り切っている。
  • 生態影響に関しては、分解性に関係なく量をみてリスクで切り分けるのがよいのではないか。
  • 今の定義での良分解性の物質について、生態影響を無視するわけにはいかない。
[3]タイプIIの用途規制の導入について
  • TBT化合物は、条約によって船底塗料としての使用禁止が求められているという例がある。
  • 化審法では原則使用禁止という規制があり、使用に着目した規制という考え方は既に入っている。ここで考えている用途規制はそれよりも緩い規制なのであるから、検討すべきである。法的な枠組みとしてあって良いのではないか。
  • どのようなものにするかを明らかにしないといけないが、用途規制の考え方は採り入れる必要があるのではないか。
  • 予測濃度を計算する際に用途によって大きく異なってくることからも、使用規制は有効と考えられるので、必要ではないか。
  • 開放系や閉鎖系の判定は難しく、具体的にどのように扱うかを検討しなければならない。トルエンのようなものでも密閉系に近い形で使用できることがある。
    → 用途規制の手法は2通りあると思う。1つは用途の限定であり、もう1つはその逆の特定用途の禁止である。新規物質については、前者の規制がよいという考え方もある。担保が難しいが、例えば米国のSNURのように特定の用途に限定する方法もあると思うが、その場合は最初からリスク評価を行わなければならない。
  • 用途規制を行う際には、化審法で提出されている情報だけで対応できるかという問題もある。ある用途については、この物性情報が必要といった状況が出てくる可能性がある。
  • 用途規制は、個々の物質によって違ってくる。物質によっては状況によって用途が変わったり、追加されたりすることもある。その中で禁止や規制が行われるのであれば、柔軟に変更できるよう具体的な規制の内容については政省令レベルで決めることにして、法律では「用途規制をする」という内容にとどめるべきである。
  • 全ての用途について禁止されるのは、化学工業界としては非常に困惑する。用途の限定やある用途の禁止という形にすべきではないか。
2)導入すべき生態影響試験法とその結果に基づいた審査・判定方法について
 [1]タイプIのスクリーニング段階における試験要求に係る対象物質の範囲について
  • 3点セットを10トン以上から課す、あるいは1トン以上から課すという意見がある。また、1~10トンには魚類の試験のみを課すという考え方もある。
  • 簡易な試験方法についても考えるということであれば、QSARの導入も考えられる。例えば、1~3トンはQSARでという考え方もある。ただし、結果があう場合とあわない場合があるので、試験結果と比較して、使用できる範囲を見て使用する必要がある。QSARで予測した結果で毒性が高い場合に試験実施を求めるなど、部分的にQSARを活用する事も考えてはどうか。
  • QSARについては、今後データが集まってくれば精度も上がってくると思われる。範囲を限ってもよいから利用できるところから使いたい。
  • タイプIではいろんな形が考えられる。3点セットではなく1点について行うという考え方もある。物質によって影響は全く異なるため、物質群で試験方法を選ぶことは可能であると思うが、その場合は審査のシステムが複雑になりすぎるのではないか。しかし、一方で例えば一律ミジンコでよいというような判断は難しい。
  • 米国EPAでは、カテゴリーによって最も感受性の高い生物について試験を行うような方法を採用していると聞いたが。→全ての物質についてQSARを行い、最も感受性の高い生物について試験の実施を求めている。
  • EUでは、3点セットの試験を1トン以上の物質について行っている。EUではなぜその負担に耐えられるのか。→EUでは、日本の2分の1程度の費用で試験ができると聞いている。また、届出に必要な試験項目が違うため、試験費用は日本の方が一般に高くなるようである。
  • ポリマーについても、一定の条件のものは生態影響を見なければならないのではないか。
  • ポリマーについて、不純物はある形で封じ込められていれば問題ないが、例えば水溶性や生分解性のポリマー中に存在している場合は安全とは言えないかもしれない。また、ポリマーの製品から水中に未反応物質や反応途中の物質が溶け出す可能性があり、その物質のチェックは必要である。→現在の高分子フロースキームでは、低分子の物質の量をチェックしている。
 [2]対象生物及び試験法について
  • 他の試験生物の結果がある場合、これを審査・判定に用いることができるか。→付属データとして添付するのは良いが、3点セットは必須である。例えば、吸着性の強い物質については底生生物試験を入れることとすることができるなど、基本的なスキームを作ることが大切である。
  • 農薬類似の物質の場合、ターゲット生物に対する生態影響は必ず出てくる。従って、一番低い値のデータを採用して、用途規制をするのは難しい場合がある。
  • 3点セット以外の生物に対するリスクの高いデータがあれば、そのデータも考慮すべきである。→例えば、新規でシロアリ駆除剤が届け出された場合は、昆虫の試験についてのデータを求めることが必要ではないかと思われる。バイオサイド(非農薬用の殺生物剤)については、欧州では生態影響データを要求しており、日本の業者も提出しているところがある。
    →国際的な整合性の問題を考慮していただきたい。
  • 追加試験を審査で求めたり、その結果を利用するかどうかについては、少し先の話であると思うが、当面は制度上利用しなくても、まず枠組みとしては作っておき、具体的な導入については段階的に考えていくのがいいのではないか。
  • 水生生物以外の生物に対する試験の実施については、技術的には可能であり、例えばミミズや底生生物の試験も行われているが、実際、民間の試験機関において試験が行えるかどうかについては、現段階では対応できる試験機関が少ないと思われる。
3)その他
  • 化学物質に関する法律は、ただでさえ多く、新たに生態系について法律を作るのは必ずしも好ましいことではないと思う。基本的には既存の法律に追加するということで考えて行くべきと思う。
  • 資料3の「環境リスク初期評価」のPNEC値について、信頼できるデータを元に求めているのか。→国内外の文献データを元に、信頼性のあるもので最も低い値にアセスメント係数を考慮して求めている。また、各データの詳細については既に公表している。
4)まとめ
 中杉座長が、次のようにとりまとめた。
  • 良分解性物質について、現在の化審法で定義する良分解性物質についていえば、生態影響試験を免除する理由にはならない。良分解性の枠を変えるか、量を評価するなど、別の手当が必要であろう。
  • 用途規制については、検討すべきであろう。ただし、その内容についてはいろいろ意見があった。
  • 規制区分については、単にタイプI~IIIでは整理できない。良分解性物質の扱いや用途規制の導入の考え方も踏まえて、次回はフローを用いてスキームを示して欲しい。あるいはフローにしないで検討課題を並べて整理するやり方もある。
  • タイプIの対象物質の範囲については、製造・輸入量の基準についていろいろ意見があり、また、用途によって範囲を考慮することも考えられるのではないか。
  • ポリマーについては、水溶性のものについて試験対象とすることを検討する方向である。
  • 試験対象生物については、できるだけ広く対象とした試験を求められるような枠組みを設けておき、他の生物に係る試験の要求についても、検討していく必要がある。
  • QSARについては、ある一定の範囲で使えるのではないかという意見がある一方、慎重に扱うべきとの意見がある。
  • どういう方向で検討すべきかということで、全体としての検討課題が整理できた。次回は、本日の議論を踏まえて、事務局の方でどういうまとめ方にするのか、フロースキームか検討課題という形で整理して欲しい。また、報告書の骨子案についても示して欲しい。さらに、本日3委員から出された提案は、化審法そのもののあり方に係わるため、次回に論点整理ぐらいになると思うが議論したいので、その関係の資料も用意していただきたい。

(2) 議題2 その他
  • 次回検討会は平成14年3月7日(木)、次々回検討会は3月27日(水)に開催することとされた。