環境省保健・化学物質対策化学物質をめぐる国際潮流について第1回シンポジウム
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第1回シンポジウム次第
 
 
 
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1.開会挨拶

(司会)
 皆さま、大変長らくお待たせいたしました。それでは、ただいまより化学物質をめぐる国際潮流に関するシンポジウム「第1回 欧州REACHと我が国の対応」を開始いたします。
 私は、本日の司会進行を務めさせていただきます勝元聡子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)
 それでは、初めに、主催者の環境省より開会のご挨拶を申し上げます。
 本日は、若林正俊環境大臣よりご挨拶をさせていただく予定でございましたが、大臣は急な国会審議のため、この会場に参ることができなくなりました。そのため、大臣挨拶を環境省環境保健部長、上田博三が代読させていただきます。よろしくお願いします。

 
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(上田)
 皆さま方には多数お集まりいただきましてありがとうございます。非常に関心が高いということで、私どもが用意しました会場は少し手狭で、ご窮屈な思いをさせますけれども、よろしく最後までおつきあいのほど、お願いいたします。
 今、司会者のほうからお話がございましたように、本来なら、若林大臣がここに参りまして、皆さんにご挨拶すべきところでございますけれども、急用で参れませんので、私が大臣からのご挨拶を預かってまいりましたので、代読させていただきます。
 「化学物質をめぐる国際潮流に関するシンポジウム『欧州REACHと我が国の対応』」の開催にあたり、一言ご挨拶を申し上げます。
 既にご承知のように、昨年12月に欧州で化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則、欧州REACHが成立しました。この欧州REACHには、これまでの化学物質規制にはない新しい考え方が盛り込まれています。例えば、欧州REACHでは、欧州内で製品の製造を行う事業者や輸入を行う事業者は、製品にどのような化学物質が含まれているかを把握することが必要となっています。このため、欧州に対して、化学物質のみならず、自動車、電機製品などを供給している我が国の事業者の方々も欧州REACHへの対応が求められるようになっています。
 このように、我が国においても、行政や産業界が対応を求められる中で、私は我が国の自動車業界が環境規制の対応として、技術開発を行い、環境性能の極めて高い自動車を開発したことが世界への躍進につながっていることを思い出します。これは環境への取組が経済的にも成功している代表例であります。
 私は、今回の欧州REACHへの対応についても、環境規制の対応が我が国の経済の発展にも寄与するという、成功事例にすることができると思っています。そのためにも、今後、皆さま方が連携・協力しながら取組を進めていくことは極めて重要です。特に、今回は化学物質や部品の製造から一般消費者向けの製品に使用される段階まで、また、大企業のみならず、中小企業の事業者の皆さんも一緒になって、互いに連携・協力しながら取り組まなければならない点はいっそう大変です。しかし、私は日本こそ、さまざまな関係者が一致団結して取り組むことができる力を持った国だと考えています。そして、環境省も、情報発信を含め、そうした皆さまの取組を支援してまいります。
 私は、環境大臣を拝命して以来、豊かな環境を現在そして将来の世代が享受できるような、経済社会システムを構築していくことが自分の責務であると感じております。特に、地球温暖化問題については、来年は京都議定書の第一約束期間が始まるとともに、日本で開催されるG8サミットにおいて、米国、中国、インドを含む、主な国々が参加している気候変動対話の成果が報告されることになっています。
 このような状況下、私は去る1月23日に、安倍総理大臣から「21世紀環境立国戦略を6月までに策定するように」とのご指示をいただきました。今後の世界の枠組みづくりに貢献し、環境立国の実現に向けた中期的かつ戦略的な羅針盤といった戦略を取りまとめるべく、現在、中央環境審議会においてご議論をいただいています。
 化学物質対策も環境立国の実現のためになくてはならない取組です。平成21年には、化学物質審査規制法の見直しの時期を迎えますが、環境と経済の両立という観点から今後の化学物質を考えていきたいと思っています。
 この国際シンポジウムが今後の我が国の化学物質管理の在り方について考えるきっかけになれば幸いです。  平成19年3月2日 環境大臣 若林正俊」
 代読でございます。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)

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(司会)
 ありがとうございました。
 それでは、これより講演者の発表に移りたいと思います。
 まず、「日本及び欧米における化学物質審査規制制度の概要」について、環境省環境保健部化学物質審査室 大井通博より発表させていただきます。それでは、大井さん、よろしくお願いいたします。

  

 
  2.日本及び欧米における化学物質審査規制制度の概要  
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(大井)
 環境省環境保健部化学物質審査室から参りました大井と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 私のほうから、本日、導入といいますか、背景的なご説明を30分ほどお時間をいただきましてさせていただきたいというふうに考えております。「日本及び欧米における化学物質審査規制制度の概要」と題しまして、我が国の規制、それから欧米における規制、それから欧米の最近の動向といったところについて、ご説明させていただくということでございます。よろしくお願いいたします。

◎本シンポジウムのねらい
 まず最初に、本シンポジウムのねらいでございますけれども、大きく分けて2つございます。
 1点目が、欧州のREACH、まもなく段階的な施行が開始されるというところでございますが、欧州のREACHに対する関係者の理解を深めるということでございます。
REACHの背景・制度の特徴でありますとか、施行に向けた今後の見通し、こういったような点につきましては、このあと欧州委員会からデュ・アヴィラさんをお招きしておりますので、アヴィラさんのほうからお話をいただくことにしております。
 また、我が国事業者の取組の状況と課題につきましては、デュ・アヴィラさんの講演のあと、環境省のほうで実施しましたアンケートの結果の一次報告でありますとか、そのあとに続きますパネルディスカッションといったあたりで情報を提供していきたいと考えております。
 また、シンポジウムのねらいの2点目といたしましては、我が国の今後の化学物質管理の在り方について考える機会を提供するということでございます。

◎我が国の制度:化学物質審査規制法
 では、早速、話に入っていきたいと思うのですけれども、我が国の制度でございます。
 お客さまの中には、既によく御存知の方もいらっしゃるかと思いますけれども、お付き合いをいただければと思います。
 我が国におきましては、化学物質審査規制法という法律、正式名称はもう少し長い名前でございますが、このように呼ばれております。あるいはさらに略しまして化審法というふうに呼ばれることもございます。この化学物質審査規制法は昭和48年(1973年)に世界で最初につくられた化学物質の審査規制に関する枠組みということで制定されております。当時問題となりましたPCBによる環境汚染、あるいはPCBに類似の性質を持った有害な化学物質による環境汚染の防止ということを法律の目的としております。その名前のとおり、化学物質審査規制法でございますので、「審査」それから「規制」という大きな2本柱から成っております。
 化学物質の審査規制法なんですけれども、医薬品でありますとか、農薬といったような特殊な化学物質についてはこの法律の対象外となっておりまして、ほかの法律に基づく規制で対応されているということで、他法令との整理がなされているところであります。
 この化学物質審査規制法でありますけれども、昭和48年の制定以降、何回か改正が行われておりまして、直近ですと、平成15年(2003年)に改正が行われております。この改正によりまして、人の健康への影響に加えまして動植物への影響、生態毒性というものも化学物質審査規制の枠組みの中に取り込まれているということでございます。この改正法は、平成16年4月から施行されているところであります。
 さらに、将来的な話をしていきますと、先ほどの挨拶の中でも触れさせていただきましたが、平成21年、今から2年後になりますが、次期見直しを予定しているところでございます。

◎化学物質審査規制法の施行
 もう少し詳細に法律の中をご説明させていただきます。
 先ほど「審査」と「規制」の2本柱というふうに申し上げました。まず、審査のほうに関しましては、ここに書いてあるとおりでございますが、新規の化学物質――これからつくられる、世の中に出てくる化学物質、あるいは輸入されるということで日本に入ってくる化学物質、この新規化学物質に関しまして、行政が事前に審査を行うということでございます。
 審査を行う観点は大きく3つございます。まず1点目が環境中でのその物質の分解のされやすさ、2点目としまして生き物の体の中にたまっていくその蓄積性の問題、3点目としまして人あるいは動植物への影響、毒性、有害性というところでございます。こういった観点から審査を行うということでございます。
 また、この審査の中には、製造される量、輸入される量や環境放出の可能性に応じて審査を軽減するとか、そういったような合理化もなされているところであります。
 ここで注意しておきたいのは、あくまでもこの審査といいますものは、新規――これから出てくる化学物質に限られているということでございます。このあとにも触れさせていただきますが、既存の化学物質――ここで言う既存といいますのは、法律ができた時点での既存、昭和48年時点での既存ということでございますが、その時点での既存化学物質はこの審査の対象外であるということであります。
 2本柱のもう1本のほう、「規制」でございます。「規制」に関しましては、この審査結果等を踏まえまして、物質の性状に応じて、製造・輸入あるいは使用というものに関するさまざまな規制を設けております。具体的にはいくつかのカテゴリーに分けて、一番厳しい規制は、第1種特定化学物質という、PCBと類似の性質を持つ15物質に関しまして、制度が設けられている。具体的にどういう措置かと申しますと、製造・輸入、それから使用を事実上禁止するという、最も厳しい措置がこういうPCB類似の物質に課せられているということであります。そのほか、物質の性状に応じまして、規制を講じているところでございます。

◎既存化学物質
 先ほど審査のところで申し上げました既存化学物質でございます。既存化学物質といいますのは、繰り返しになりますけれども、化学物質審査規制法の公布時(1973年)に既に製造・輸入が行われていた化学物質ということでございまして、これが約2万物質、世の中にございます。この既存化学物質につきましては、先ほど事前審査の対象外であるというふうに申し上げましたが、この法律ができたときの国会審議の附帯決議によりまして、国、行政が責任を持って安全性の点検を行うということが述べられております。
 ということで、これまで関係省庁で既存化学物質の点検ということを進めてまいりましたが、予算的な問題あるいは安全性の確認にも非常に時間がかかったりということがございまして、国の点検がなかなか進んでいない状況にあるということでございます。ここに数字が若干挙げられておりますけれども、環境省のほうで実施しております生態毒性試験の確認に関しましては、400物質を少し上回る程度という状況であります。既存化学物質の全体の数、2万物質という数から比べると非常に少ない数字にとどまっております。
 一方、新規化学物質といいますのは、先ほど申し上げたとおり、この化学物質審査規制法が公布されて以降、新たに製造・輸入される化学物質ということでございまして、年間300~400くらいの物質がその審査を受けて、その性状に応じて、あるものは規制され、あるものは特に規制の必要なく世の中に出回っていくということでございます。

◎諸外国の制度  
 ここで諸外国の制度について簡単に触れたいと思います。例えば、アメリカでありますとTSCAと呼ばれていますToxic Substances Control Actという法律なんですけれども、有害化学物質規制法という法律が日本の化審法に数年遅れでスタートしております。
 あるいは、カナダにおきましては環境保護法の中で化学物質の規制について触れられている。
 オーストラリアにおきましても同様の法律がある。
 欧州は、REACHをまもなく施行開始するわけでございますけれども、従来の仕組みということでいきますと、名前が長くなりますので省略いたしますが、理事会指令によって対応してきているということであります。
 今、4つの例を挙げましたけれども、少なくとも化学物質に関する規制を導入している先進国におきましては、制度そのものは日本と全く仕組みとしては同様でございます。若干、細部で違いはもちろんあるんですけれども、基本的な考え方は同様であると。
 どういうふうに同様であるかというと、要は、新規化学物質の届出、審査、それから規制ということになっていると。さらに言いますと、特殊な化学物質は、例えば農薬とか医薬品とかは、また別の対応をしているといったようなところが基本的には同じであるということであります。
 右のほうに書いてございますけれども、既存化学物質への対応をどうしていくのかというところが、日本のみならず国際的にも大きな関心を呼んでいるところであるということでございます。

◎既存化学物質への国際的対応
 既存化学物質への国際的な対応ということでございますけれども、先ほど申し上げたとおり、新規の化学物質については、事前の審査ということで入念な対応がとられているのに対して、既存化学物質については対応が十分ではないのではないかという認識が高まってまいりまして、1990年代から、特に既存化学物質の中でも、製造量、輸入量が多いもの、HPVと呼ばれるHigh Production Volumeの既存化学物質につきまして、安全性情報の収集をしようという取組が国際的に進んできております。
 その一番代表的なものがOECDで進めておりますHPVプログラムでございまして、これは1992年に開始されたプログラムであります。OECD加盟国のいずれかで年間1,000トン以上製造なり輸入されている約4,800の物質を対象としております。これは、当初、OECD加盟国政府のプログラムということで出発したんですけれども、1999年から世界の化学産業界が積極的にこれに参画いたしましてICCAイニシアティブが始まっております。そういう意味では政府と産業界が一緒になって製造量の多い既存化学物質の安全性の情報を集めようという、そういう取組がスタートしているということでございます。
 また、アメリカにおきましては、USチャレンジプログラムというふうに呼ばれておりますけれども、1998年にスタートしたプログラムがございます。これは、アメリカの国内の年間の製造・輸入量が約450トン以上の3,300物質くらいを対象としたものでございます。
 事業者が個別あるいは共同してスポンサーとなりまして、安全性情報を収集して政府に報告をするというような仕組みでございます。政府においては、その集められた情報を公表していくということでございます。
 このUSチャレンジプログラムは2005年3月にExtended Programということで延長されておりまして、さらに物質が追加されて続いているという状況であります。この500物質、追加されたものについては産業界が自主的に進める自主的イニシアティブという位置づけで行われております。

◎我が国の対応:Japanチャレンジプログラム
 翻って、我が国、日本における対応でございます。
 名称が似ておりますけれども、Japanチャレンジプログラムを現在スタートしております。本日、会場で開演までの時間に画面でもお示しさせていただいております。このJapanチャレンジプログラムに関しましては、背景としましては、先ほどから申し上げているとおり、既存化学物質の安全性点検を加速化していかないといけないということでございます。従来は国が実施してまいりましたが、なかなか点検が進まないという状況、あるいは国際的にも取り組んでいかないといけないという状況を踏まえまして、官民連携で実施すべきであるということがございます。
 概要なんですけれども、我が国の年間の製造・輸入量が1,000トン以上の約660物質を対象としております。そのうち、国際機関等、先ほど申し上げましたOECDのプログラムとか、あるいはアメリカのプログラムで情報収集の予定がない物質、500物質くらいはOECD等の枠組みで情報収集がされている、あるいはされる予定があるということになっておるんですけれども、それでも残ってくる物質が160くらいあるということでありまして、この160くらいの物質につきまして、企業の皆さんにスポンサーを募りまして、スポンサーとなっていただいた企業が安全性情報を収集していただくというものでございます。
 現状なんですけれども、このプログラムが平成17年(2005年)6月に開始されております。現在、160物質のうち約半数についてスポンサー登録済みという状況になっておるんですが、逆にいえば、まだ残り半分くらい、スポンサーの手が挙がらずに残っているという状況であります。
 開演までのスライドでも掲げさせていただいておりますが、事業者の皆さまのご協力を引き続きお願いしているところでありますので、どうぞよろしくお願いいたします。
  このJapanチャレンジプログラムに関しましては、平成20年(2008年)に中間評価を実施する予定であります。

◎WSSD 2020年目標
 少し話は変わりますけれども、国際的な話に戻りまして、WSSDの2020年目標という目標がございます。 
  WSSDと申しますのは、World Summit on Sustainable Developmentの略でございまして、2002年に南アフリカのヨハネスブルグで開催されました国連の世界サミットでございます。持続可能な開発に関する世界サミット、そこにおきまして2020年目標が定められております。どういう目標かといいますと、「2020年までに、世の中にあるすべての化学物質を人の健康や環境への影響を最小化する方法で生産・消費する」ようにしましょうという目標でございます。既存化学物質というのは、まさにWSSD 2020年目標を達成する上での大きな鍵といいますか、乗り越えなければならない一つの大きな壁になっているわけでございます。

◎国際動向①:米国の既存化学物質対応強化
 ここからあとは、最近の諸外国における動向について触れさせていただきます。
 まず、アメリカなんでございますけれども、アメリカは先ほどお伝えしましたUSチャレンジプログラムというものを進めておるんですけれども、そこの中で、昨年の夏なんですが、アメリカの環境保護庁(EPA)がこれまでのUSチャレンジプログラムでスポンサーがつかなかった物質、スポンサーなし物質について、安全性情報の報告を事業者に義務づけるという発表をいたしました。数としては243物質なんですけれども、これについてはそれを取り扱っている事業者、すなわち製造したり、輸入したりしている事業者が情報収集して、行政に報告しなさいということで法的に義務づけを行ったということがございました。これに関しては、産業界のほうも、公平な競争条件の確保に役立つという観点から、これを支持しているというふうに伝えられております。
詳しい状況はここにウェブサイトも掲げておりますので、もしご興味のある方は御覧いただければと思います。(http://www.epa.gov/chemrtk/index.htm)

◎国際動向②:カナダの化学物質管理計画
 もう一カ国、カナダでございます。昨年の暮れにカナダのスティーブン・ハーパー首相が「新たな化学物質管理計画」を公表しております。この中身は、カナダにおける約23,000の既存化学物質をカテゴライゼーション、分類をしたということであります。それを世界で最初に完遂した国となった、という発表をしております。
 要は、カテゴライゼーションをして、優先順位づけを行ったということでありまして、今後はその優先度に沿って行動を起こすということであります。具体的にどういう行動を起こすのかというのは、まさにこれからの話なんだと思うんですけれども、少なくとも今後4年間をかけて、その化学物質管理計画を進めていくということまではその時点で明らかにされているところでございます。
 スライドの下のほうに書いてあるんですけれども、この化学物質管理計画を発表する直前に、リスク評価の結果を公表しておりまして、約4,000物質について詳細な評価を行う必要があるというふうに公表しておりますので、おそらくはこういう物質について優先的に取り組んでいくんだろうなというふうに思っております。
 これにつきましても、ウェブサイト情報をつけておりますので、もしご関心がありましたら、御覧いただければと思います。
(http://www.chemicalsubstanceschimiques.gc.ca/en/index.html)

◎国際動向③:欧州REACHの導入
 最後、3点目、これが本日の中心テーマであります欧州のREACHでございます。
 このあと、アヴィラさんのほうから詳細なご発表があるかと思いますので、私のほうからはあまり詳しくは申し上げませんけれども、この欧州のREACHは、世界的に見ても非常に斬新な取組であるというふうに考えられます。
 特に、一番のポイントとして挙げられますのは、既存化学物質・新規化学物質という、従来の世界の概念であった枠組みをいわば撤廃しまして、既存化学物質、新規化学物質ともにほぼ同一の管理制度を導入するというところがやはり一番のポイントなのかというふうに思っております。
 さらに、追加をするといたしますと、5つ挙げたポイントの一番下になるんですけれども、「サプライチェーンでの情報伝達の強化」ということでありまして、化学物質に関するいろいろな情報を、それをつくる方、輸入される方のみならず、さらに川下といいますか、化学物質を使う方などもいろいろな情報を共有していかないといけない、情報伝達をしていかないといけない。あるいは場合によっては、川下の方から川上の方へ情報を伝えていかないといけないということで、各産業界の間でのいろいろな連携といいますか、そういうところの取組が求められているということであります。
 ポイントとしまして、繰り返しになりますけれども、下にまとめておりますとおり、REACHは、新しい化学物質管理の考え方とか手法の提示をしている。それから、我が国のさまざまな事業者、これは川上のみならず、川中・川下にも影響を及ぼし得るものであるということであります。まさに、本日のシンポジウムを開催させていただいたのも、こういったところが背景になるわけでございます。

◎国際動向:まとめ
 最後のスライドになります。まとめということでございますけれども、最近の国際動向をこういうふうに見てまいりますと、以下のようなことが言えるのではないかと思っております。
 まず、1点目としましては、既存化学物質対策が2つの観点から重要になってきている。既存化学物質対策につきましては、先ほど申し上げたとおり、1990年代くらいからその重要度が認識されてきて、取組が進んでいるという状況でございますが、特に最近2つの観点から重要さが増しているというふうに思います。
 1つには、既存の化学物質規制の枠組みでは、既存化学物質への対応は不十分であるということがもうここに来て明らかになっているということ。
 第2に、WSSD、世界サミットで合意されました2020年目標を達成していく上で、やはり数的には圧倒的に多い既存化学物質をどうしていくんだというところが、目標達成のキーポイントになってきているということでございます。
 そういった背景を踏まえまして、この2020年目標の達成に向けた取組が各国各地域で今進んでいるという状況になってきております。欧州のREACHに関しましても、そうした流れの一つであろうというふうに考えております。
 まとめの2点目になりますが、このREACHに目を向けますと、REACHはサプライチェーンの間の情報伝達など、新たな化学物質管理の在り方を提示しているものだというふうに考えております。すなわち、化学物質規制制度の対象が、従来の化学産業、まさに川上のところからさらにその下、幅広い業種へと拡大してきているということであります。結果としまして、さまざまな業種の間で連携・協力に基づく対応が必要となってきているということであります。
 そういったようなことでありまして、これからアヴィラさんの講演、それからパネルディスカッションというふうに本日のシンポジウムが続いてまいりますけれども、こういったようなことを踏まえまして、お話を聞いていただければと思っております。
 どうもありがとうございました。(拍手)
 それでは、私の講演に関し、ご質問とかありましたら、若干時間があるようですので、お受けしたいと思うのですけれども、何かございますか。

質疑応答
(司会)
 ご質問のございます方、恐れ入りますが、お席で挙手をお願いいたします。ご遠慮なく、どうぞ。
 それでは、マイクをお持ちいたしますので、そのままお待ちくださいませ。前列2列目の方です。ご質問されます方は、恐れ入りますが、まずご所属とお名前をおっしゃってください。また、お時間、限られておりますので、簡潔にしていただきますようお願いいたします。

(質問者A)
 大局的な説明、ありがとうございました。平成21年に次期見直しを予定ということなんですけれども、これがどんな方向に進んでいるのか、REACHとかとの関係がありそうなのか、その辺、話せる範囲のことをちょっとお聞かせいただけますか。

(大井)
 平成19年ということで、まだもう少し先になるんですけれども、実際に見直しに向けた検討プロセスは既にスタートしております。具体的には、先ほど挨拶の中でも少し触れたんですけれども、昨年12月に、中央環境審議会の方で化学物質管理の在り方について検討するということで委員会を立ち上げております。実は、もう一つ、化学物質管理に関して重要な法律がございまして、いわゆるPRTR法と呼ばれている化管法ですね、化学物質の管理に関する法律がございます。この法律の見直しを今年予定しております。ということで、この化管法、それから化審法、両法の見直しということをにらんで、今後の化学物質管理の在り方はどうあるべきかということで、審議会における検討がスタートしているところです。
 当面の議論は、化管法が今年の見直しということになっていますので、化管法の議論を中心に進めていくことになるんですけれども、行く行くはそこの場におきまして、化審法の見直しについても議論が進められていくだろうと思います。
 中身的な話でいきますと、そういう意味では検討の枠組みはできておるんですが、中身についてはまだこれからの議論というふうに思います。ただ、当然ながら、国際的な動向というものはしっかり見ていかないといけないと思いますし、これは、若干、私の個人的な意見になるかもしれませんが、ヨーロッパのREACHというのは、ある意味、すごく参考になると。参考になるというのは、必ずしもREACHと同じものを日本に導入しようということではございませんが、画期的な制度で、さまざまなアイデアを提案している制度でございますので、そういう意味では非常に参考になるのではないかというふうに考えております。

(司会)
 よろしいでしょうか。

(質問者A)
 ありがとうございました。

(司会)
 ほかにご質問のございます方は、どうぞ、お手をお挙げください。
 
(大井)
 よろしいでしょうか。もし、もうないようでしたら、若干時間が余っているんですけれども、おそらく、皆さま、このあとのアヴィラさんの講演を楽しみにいらっしゃっているのだろうと思っておりますので、少し早いですけれども、この辺で私のお話を終わらせていただきます。(拍手)

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(司会)
 環境省化学物質審査室、大井通博より発表させていただきました。
 それでは、続きまして、欧州における新たな化学物質規制REACHについて、欧州委員会環境総局化学物質課、クリスティーナ・デュ・アヴィラさんより発表をしていただきます。
 なおここで皆さまにご案内申し上げます。アヴィラさんがこれより発表にてお使いになりますスライドは英語で書かれておりますが、それを日本語に訳したものをお手元の資料に同封させていただいておりますので、どうぞご参照くださいませ。
 なお、この英語、日本語ともにスライドの一部に変更が生じておりますが、あらかじめご了承いただきたいと存じます。
 それでは、アヴィラさん、よろしくお願いいたします

3.欧米REACHの概要と今後の展望(Introducing REACH-The New Chemicals Legislation for Europe)

 
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(アヴィラ)
 皆さま、こんにちは。本日はありがとうございます。特に、日本の環境省の方々にこのような形でお呼びいただいたこと、そして大勢の方々の前でお話しする機会をいただきましたことを感謝したいと思います。

 
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ヨーロッパのREACHという新しい制度についてご説明させていただきます。
 私はクリスティーナ・デュ・アヴィラと申します。欧州委員会環境総局化学物質課、REACHを取り扱っている部門から参りました。
 
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◎目次
 きょうのプレゼンテーションの中では、なぜREACHが必要なのか。ヨーロッパ全体で新しい化学物質規制法を設けようと考えたのか、それからREACHの主な側面についてご説明します。
 そのあと、どのような形でREACHが採択されたのか、そしてREACHの中身、どういうことを関係者が現在やっているのか、そしてREACHの実施にどうやって備えているのかを説明したいと思っております。

 
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◎なぜREACHが必要か?
 では、まず、なぜREACHが必要なのかということから始めたいと思います。
 大井さんもおっしゃっていましたが、ヨーロッパでは既に化学物質規制法のようなものはございました。REACHは非常に長いプロセスを経てできあがりました。8年ほど前に発端があったのですが、欧州委員会の方で、現在の化学物質の規制の在り方を問い直したわけです。その結果、現在の枠組みでは十分ではないという結論が出ました。十分な情報が得られていない、これが人体あるいは環境にどういう影響を及ぼすのかといった情報が足りない、どういうリスクがあるのかわかったとしても、それがなかなか広まっていかない、またリスク管理についても同じようなことが言えるということがわかりました。
 現行制度では研究開発そのものも滞るのではないかというふうに考えられました。そして、大井さんがおっしゃったとおり、81年以前に市場に出回っていた既存化学物質と、そのあと新規でできたもの、81年9月以降ですね、それぞれについて違った対応がとられております。新規のものについては審査をし、そしてリスクなどについてしっかり調べた上で市場に出回るということになります。量としては10キロ程度が出るという場合です。しかし、それ以前に存在していたものについてはこの対象とはなりません。
 ということで、新しい物質と既存のものとでは扱いが違います。結果的に、古い物質をそのまま使い続けるということで、新しい、安全な化学物質がなかなか広まらない。となりますと、消費者の信頼性も失われてしまうのではないか、そのような考え方が生まれてまいりました。また、ばく露や使用についての情報もなかなか会社側も集めてくれないというような背景がありました。

 
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◎REACHとは何か?
 ということで、現行制度を改正する必要があるというふうに考えまして、2003年、新しい規制に対する案が出されました。それが、今現在、私たちが「REACH」と呼んでいる規制であります。化学物質の登録・評価・認可に関する規制ということになりますが、これは物質そのもの、あるいは調剤に含まれるもの、成形品に含まれるものを含めた物質の製造・輸入、上市、使用に関するものであります。
 労働者及び一般大衆の健康と安全の改善、それから、環境保護、そして競争的・革新的な化学産業の維持ということが目指されております。

 
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◎REACHの主要要素
 REACHの重要な要素ですけれども、まず登録です。そのためには情報が必要でありますが、1年当たり1t以上製造される、あるいは輸入されるものが登録対象となります。それから、評価。特に懸念が高い物質については認可が必要になります。制限ですけれども、こうした物質の使用については制限などが設けられますが、これがセーフティネットとして働くようになっております。そして、新しく化学物質庁というものがつくられることになります。
 REACHの優先順位ですが、リスクが多いもの、量が一番多く使われるもの、そして懸念が一番高いものが対象となっております。

 
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◎REACHの採択
 REACHの採択ですが、これは非常に複雑な規制でありますので、採択に当たっても非常に複雑な手続がとられました。ただ、こちらのスライドを見ていただきますと、それほど長くはかけずに採択いたしました。通常の欧州委員会の手続などと比べますと、比較的素早く進んだと言えると思います。
 2003年10月に、まずこの提案が出されました。そして、欧州議会及び欧州理事会などで、2004年末に向けていろいろな審議を進めてまいりました。2004年には選挙などもありましたが、それから1年後には欧州議会が第一読会を行いました。そして、欧州理事会としての共通の立場というものもその直後に採択されました。政治的な合意が得られたわけです。2005年末には理事会としての立場も明確になりました。
 これほど重要なものについて、これほど素早く出来上がるというのは、なかなか珍しいことではないかと思います。通常、3回くらいの段階を経て規制の採択などをしておりますが、今回は2回だけでありました。やはり、これは政治的な意思が働いた、ということが言えるのではないでしょうか。EUの加盟国だけではなく、市民のレベルでも、これは欧州議会の方で表明されたわけですけれども、この新しい規制はぜひとも採択しなければならないという明確な意思表明がなされました。
 そして、REACHが公示されたのが、2006年12月30日でありました。これが施行するのが今年の6月1日からということになります。

 

 
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◎採択後… REACHはどのようなものか?  
 では、REACHは実際どのようなものであるかという説明に入りたいと思います。

 
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◎REACH-主要要素
 もともとの提案からそれほどは変わっておりません。
 まず、「登録」でありますが、これは1年間で1t以上、使用、製造されるものについて登録します。それから、サプライチェーン全体を通した情報交換とコミュニケーションが必要となります。
 「評価」、これについてはいくつかの物質を当局が行うことになりますが、これは化学物質庁がやることになります。それから、「認可」は懸念が非常に高い物質について必要となります。それから、「制約」「制限」が設けられております。
 そして、「化学物質庁」がこのシステム全体を管理するということになります。

 
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◎登録
 では、「登録」について、まず見てまいりましょう。
 登録では、産業界が証拠などを提供し、そして化学物質の管理をしっかりするということが産業界に要求されることになります。輸入あるいは製造する化学物質について、情報などを提供しなければなりませんが、これはどれくらいのトン数をつくるのかによって、どれくらいの情報が必要かということが決められます。
 1tから10tまで、輸入、製造がされるものについては、基本的な情報が必要である。10から100tまでになりますと、情報についてもう少し詳しく求められます。そして、100から1,000tは、さらに情報の条件が厳しくなります。そして、1,000t以上になりますと、フルのデータセットの提出が求められることになります。
 また、登録のタイミングですが、これもやはりトン数ベースになっています。
 一番量として多いものについて、施行から3.5年以内に登録が必要になります。そして、6年後には化学物質の登録は100tから1,000tまでのもの、そして11年後には残りのものについて登録が必要となります。
 ですから、懸念が高いものについては、第1段階から登録がされます。例えば、発がん性のあるもの、あるいは生殖毒性があるものについては登録が必要になりますが、3年半の期間に登録が求められます。それから、環境に影響を及ぼすものについてもそうです。
 それから、リスクについて、特定の物質についていろいろな情報が求められます。例えば、中間物質は限定的な情報が必要になります。また、研究開発(PPORD)で使われるものについてもそうです。しかし、ポリマーについては除外されます。
 また、REACHのもう一つの重要な側面ですが、成形品に使われるものについても登録が必要になるということですが、これについては後ほどもう少し詳しくお話ししたいと思います。
 では、どのように登録が行われるか。
 基本的には、製造者・輸入者が適切な情報を取得して、提供することになります。
 それから、電子文書を化学物質庁に提出してもらうようになります。一部、機密情報を除いたもの、これは一般に公開されることになります。できれば、化学物質庁のデータベースから公開することになりますが、機密情報についてはこれは守られます。

 
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◎登録の要件(1)
 登録の一式文書の構成でありますけれども、まず、ここで必要な情報、これは10t以上のものに関しては化学物質安全性報告書(CSR)が必要であり、それ以外は固有の性状で十分であります。例えば、人の健康に対する有害性、また環境化学物理的な影響、PBT(Persistent Bioaccumulative Toxic)、例えば、発がん性、変異原性、生殖毒性をはじめ、高残留性、高蓄積性ですね。
  また、このばく露評価といったものになりますが、これはばく露シナリオを通じてやります。いずれにしても、この報告書の中には、常にこういった物質のリスクを管理するための方法を提示するものとなっております。この情報は決して化学物質庁のためではなく、企業がこれを持ち、そして使い、十分なリスクへの対応がとれるようにするということであります。物質の使用に関するリスク、またサプライチェーンにいるすべての人たちに対して、リスクを伝えるという趣旨のものであります。

 
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◎登録の要件(2)
 ここに書いてあるのが、それぞれどういった情報、そして試験がトン数によってどのように異なるかを示しております。
 このREACHの下では、私たちはすべての既存情報をこの化学物質庁に送っていただきたいと思います。再度試験を繰り返すということを極力避けたいと思っております。
 GLPに沿ったものでなかったとしても、情報としては提供していただきたいと思います。一定の質以上のものであれば、ぜひ出していただきたいと思います。この新しい試験、こういった情報のギャップがあるものに関してGLPでなくてはなりませんし、GLP基準を満たすものでなくてはなりません。
  ただ、この試験を物理化学性状のために行うといった場合には、GLPでなくてもいいという規定があります。

 
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◎登録-OSOR
 一つ、REACHの重要な特徴ですが、我々としては業界の皆さんが一緒になって情報共有をしていただきたいと考えております。繰り返しテストを行うということを避けるため、また、この既存の知識を最大化するためにもこれは必要であると思っております。
 登録を共同でやる場合、コンソーシアムでやる場合、いくつかの情報が共同で提出されることになります。例えば、有害情報ですとか、試験提案、これからその試験を開発しなくてはいけないという場合もあると思います。すべての場合ではありませんけれども、ものによっては試験を開発しなくてはいけないということでなります。ですから、情報が十分ではない場合には、登録時に試験の提案も出すことが求められます。化学物質庁がそれを見て、この試験をやる・やらないを決めます。
 ですから、有害性情報、そして試験提案、これは登録者によって出さなくてはなりませんし、分類及びラベリングも同様であります。
 また、個々の企業は個別の情報を出すことになります。企業の個別情報なり、機密情報も別途出します。CSR、安全な使用に関するガイダンス、これは共同でも個別でも構いませんが、提出していただきます。また、共同ないしは個別で、果たしてこれが品質調査されているかの情報を出さなくてはなりません。
 共通のデータを提出する場合、既存の物質とほぼ同等であるといったもの、市場に上市されているものに関して、EUですけれども、こういったものがある場合には、私たちはSIEF(substance information exchange forum)ということをやりまして、SIEFの中で活動することになります。こういったものは予備登録をします。ですから、このREACHが施行されてから18カ月以内に、各企業は基本的な企業に関する情報を出す、そしてこういったものを輸入又は製造しているといった情報を登録したい、このトン数で登録したいといった情報を出します。これを受けまして、化学物質庁はこれらの企業が一緒になることを認めます。ここの中でSIEFと呼ばれる組織、フォーラムをつくります。
 このSIEFの中で、例えば、1t未満のこの物質の製造者、ないしは輸入者であっても構いません。義務を負っていませんけれども、情報共有したい、情報を持っていて共有したいというのであれば、このSIEFに参加することができます。
 ですから、まず最初は、皆さん、業界の中で決めていただくことは、この物質について合意をする、そして各業界、例えばこの物質に関して製造する、輸入しているということで、それを特定していただくことが必要でしょう。この人たちが一緒になって、例えば同じ物質をつくっているところであるならば、彼らが一緒になって、果たして共同で登録するのか、共同で提出するのか、しないのか、またどういった試験を共有するのか等々を決めていただくことになります。また、試験のコスト、費用分担をどうするか等々についても、話し合っていただくことになります。
 また、同じカテゴリーの物質であれば、データの共有をすることができます。ただ、これは完全に同一でないということもあるでしょう。登録者は、そこでカテゴライゼーションをやります。そこである一定の情報――両方の物質に関して有用であるといった場合、登録者はこの登録の中でそのように宣言します。最初の登録者が「自分たちが情報を持っている。もう一人の登録者が登録の際にその情報を使うことを認める」といった場合には、2番目の登録者は「それを参照せよ」ということで登録することができます。
 もう一つ重要なことでありますけれども、「一つの物質に一つの登録」といった要件、これは義務化されております。もし、会社が例えば企業秘密があるといった場合、このコンソーシアムに加わらないというオプションがあります。個別に登録することができますが、これは登録の際に正当化することが必要であります。化学物質庁はそれを見て、果たしてそれが正当であるかどうかの判断を最後は下します。

 
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◎登録・動物実験
 さて、ヨーロッパの人々が最も懸念していることの一つ、これは動物実験であります。
 REACHの初期の段階から、動物実験、例えば脊椎動物の実験を極力避けるための措置がとられることになりました。これは新規のものでありますけれども、ですから、非段階的導入物質、段階的導入物質はいずれも基本的には同じ考え方であります。

 
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◎登録-成形品に含まれる物質
 既に申し上げましたけれども、REACHの非常に重要な点、これは成形品に含まれる物質も対象であるということです。
 例えば、意図的に放出される物質の登録に関して、たとえ意図的に放出される場合であっても、いくつかの条件を満たさないことには登録の対象にはなりません。例えば、この物質は1t超、成形品に存在しなくてはなりません。この物質が登録される必要がないといった場合でも、例えば化学物質庁は自分たちの持っている情報に基づいて登録を要請することができます。
 こういった意図的に放出されない場合に関しては別でありますけれども、非常に懸念が高い物質の場合、届出が必要であります。例えば、発がん性ですとか、変異原性、生殖毒性を有する物質ですとか、非常に毒性が高いものといったようなものに関しては、非常に懸念が高いという見方をしております。必ずしも同じ性状を持たない、同じ分類ができないものである、しかし、今現在、非常に懸念が高い物質に近いものであった場合、このような届出が必要になるかもしれません。
 濃度上限値ですけれども、0.1%超のものであります。その場合には、この物質の全ライフサイクル期間中に一般大衆ないしは環境のばく露が除外されない場合には届出が必要であります。
 では、果たして非常に懸念が高い物質であるかどうかは、どのように見分けをするかということでありますが、これは候補リストがあります。この概念でありますが、これは認可の際に採用されるコンセプトであります。後でご説明したいと思いますけれども、どの物質がこのような認可の対象になるかということに関しては、2つのステップがあります。

 まず、この候補リストが出ます。徐々に、優先順位をつけていき、最終的に認可が必要なものが出てきます。例えば候補リストに載っているものに関して、これらの届出の要件がここで適用されることになります。

 

 
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◎登録のスケジュール
 これがREACHの登録のスケジュールであります。
 ごらんのとおり、2007年6月の段階で、例えばスコープですが、コミュニケーション・サプライチェーン、情報、それから当該当局などの部分、これは既に施行されますけれども、大半の場合は2008年6月からであります。
 さて、この化学物質庁、これはヘルシンキに立地されます。ですから、登録ですとか、情報共有、評価、認可、そして制限、この章は2008年6月から施行されることになります。
 その段階で、登録もスタートします。特に、段階的導入のものであります。そして、また、非段階的導入物質についても始まります。
 登録へのさまざまなアプローチがそれぞれ期限別にあります。最初に登録されるのは、1,000t以上の高生産量物質とCMRs、そしてPBT、いわゆるR50-53と登録される100t以上のものです。
 100~1,000tの間のものがその次にきます。
 それから、1~100tが11年です。

 
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◎情報の入手可能性
 既に申し上げたとおり、登録を通じて提出された情報はインターネット上で無料で公開されます。例えば、物質の特定に関する情報、分類、物理化学的データ、毒性・生態毒性研究の結果、また推定無影響レベル、安全な使用に関するガイダンス等々であります。
 企業が機密性を示さない限りにおいては、例えばトン数量の幅ですとか、また不純物、SDS記載情報、ロバストスタディの概要等々を掲載いたします。

 
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◎川下使用者(DU)
 既に申し上げましたけれども、一つ、今の法律に対する批判項目は、川下使用者はこの情報がないと、特に使用ですとか、ばく露に関する情報、業界全体の知識にアクセスできないという批判がありましたので、彼らを何とか取り込もうというのがこのREACHであります。
 私たちは、いろいろな条項の中にこれを盛り込んでおりますが、その一つは、CSRが川下使用者によって特定された用途をカバーするということであります。ですから、川下使用者は供給者に対し、この情報を提供しなくてはなりません。同時に、持っている情報はすべて供給者に提供することができます。
 また、川下使用者は、 機密上の理由から、供給者のものを享受せず、自らやろうということ、これも一つのオプションとしてあります。
 もし、供給者のCSRを使うといった場合には、自ら特定した用途に関しては、供給者のリスク削減措置(RRM)を実施することになります。もし自ら作るといった場合、自分たちで評価しなくてはなりませんし、そしてまた、化学物質庁に対しても、特定された用途について報告しなくてはなりません。
 例えば、機密性ゆえに自分たちがやると決めたのでなくても、供給者に対し何かを伝えたくない、ないしはこの物質を使用するに当たっては、供給者のばく露シナリオへの範囲には特定されていない用途ということで、彼ら自身がこの評価が行うということになります。

 
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◎供給連鎖を通じた情報
 もう一つ、REACHの主要な特徴は、サプライチェーンを通じて、安全性データシートをさらに改良するというものであります。どういった情報がREACHを通じて改良されるかということでありますけれども、安全性データシートですが、これはこの先、REACHを通じてもっと情報が拡充するだろうというふうに思っております。
 それから、この中にはCSRの情報も含まれますし、CSRの附属書として出されるばく露シナリオも含まれます。
 また、認可、登録、登録番号、リスク管理に関する情報も含まれますし、いわゆる成形品の中の物質に関する情報もありますし、またサプライチェーンの中での新しい危険等に関しての情報も含まれることになるでしょう。
 供給者からの情報がおかしいといった場合には、自分たちの意見が違うということを表明することもできます。その結果、どうなるかといいますと、リスクに関する情報がもっと増えますし、この川下使用者もこのシステムの中に組み込まれ、そしてサプライチェーン全部を通じて対話が進むようになります。

 
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◎評価
 次のREACHの柱、これは「評価」であります。
 評価を通じて、当局はこの産業が義務を果たしているかどうかを確認しますし、今ご説明した、この提案を評価することになります。
 このスライドでは2つしか出てきていないのですけれども、実際に評価は3つあります。
 まず1つ目ですけれども、試験提案のチェックですが、これは不必要な試験を避けるためであります。もう一つが、一式文書の評価、これは化学物質庁が行うものであります。一式文書を見て、REACHの義務を果たしているかどうかを見ます。また、物質の評価があります。これもまた化学物質庁が行います。
 物質に関する情報で、例えば、私たちはローリングアクションプラン(CRP)というものがありますけれども、これに含まれるものがあるかどうかを見ます。今現在ある法律の対象となっている物質、その中で、プライオリティが設定されているCRPの中で、優先順位が設定されているものに関しては、各加盟国当局がもっと詳細を見ることになります。
 この一式文書の評価に関して、もし問題があれば、例えばもっと情報を提出するように求めることがあります。この場合、追加情報の請求がありますし、物質評価に関しても、化学物質庁のほうからもっと追加的な物質に関する情報が欲しいということもあり得るかと思います。

 もう一つ、評価の中で、情報に関する物質はREACHのあらゆるところに供給されますが、ほかの法律にも、例えばある特定の製品の化学物質の規制を行っているところにも、この情報は伝えられます。
 
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◎認可
 3番目のREACHの柱は「認可」であります。
 これは、懸念が非常に高い物質によるリスクが適切に管理されているかどうかということを見ます。先ほど申し上げたとおり、これは発がん性、変異原性、生殖毒性を有する物質、残留性・蓄積性・毒性を有する物質、高残留性・高蓄積性を有する物質、深刻な影響が起こりうるとの科学的証明が存在するのと同程度の懸念がある物質、と書いてあり、例えばいわゆる環境ホルモンといったようなものもここには含まれると思われます。

 
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◎認可-全体
 さて、認可のプロセスです。
 実際にREACHが始まるのは2008年6月になりますけれども、化学物質庁が優先順位をつけることになりますが、それは候補リストをつくってからになります。一つのリストをつくって、それで終わりというわけではありません。まず、リストをつくって、それに追加をどんどんされていくことになります。懸念が非常に高いような物質があれば、それをどんどん追加していきます。そして、今度は化学物質庁がこの候補リストを見て、REACHに基づいて優先順位をつけますが、その中から今度は一部の物質を選んで、これを附属書ⅩⅣに入れます。これが認可の対象となります。
 そして、化学物質庁は、この認可の条件などもつけていきます。いついつまでにという期限もつけます。それまでにもし文書などが提出されなければ、これは使えなくなる、あるいは除外の対象などについても検討することになります。例えば、ある物質がある製品で使われている、それは既に規制の対象となっている、別の規制のもとで規制されているのであれば、これは除外されるというようなこともあります。ということで、その特定の用途については、認可は必要ないというような形になります。
 最初の勧告、候補リストから附属書ⅩⅣに入れるのは2009年6月1日までに入れることになります。いつ最初の候補リストが出るかわかりませんけれども、その6カ月前、あるいはもう少し早く出てくるのではないかと見ております。
 非常に懸念が高い物質が特定されるに従って、候補リストがつくられますが、既に、今、特定されているもの、あるいはまだ特定されていないものなども含まれていくと思います。
 既に特定されているものについては、指令の67/548の中に入っています。附属書Ⅰの中に入っていると思いますが、この中に入っていないものについては、現在、PBTのワーキンググループで検討している対象のものもあります。
 そして、候補リストですけれども、指令67/548の附属書Ⅰに入っているものについては、参照するだけということになります。
 それから、附属書ⅩⅣ上の物質について、化学物質庁の方で持っている情報などをもとにして、この中でも優先順位がつけられます。いったんこうした物質が附属書ⅩⅣに入れられますと、製造者あるいは輸入者は条件に従って使用することになりますが、これは認可を受けて使用することになります。
 認可を受けるに当たっては、いくつかのことを考えなければなりませんが、まず第一に、その代替物質がないのかどうかということです。企業が代替物質があるという場合には、それをどのように使っていくかという計画を示さなければなりません。いつになればこの代替物質が手に入るのか、いつになったら切り替わるのかといったような計画も提出することになります。
 この申請書が出されますと、化学物質庁が委員会に認可を求める文書を提出することになります。そして、最終的に委員会の方で認可を付与するか、あるいは不認可とするか、決定を下すことになります。
 認可がメーカーや輸入者に与えられた場合には、これは川下使用者なども使うことができます。この場合、同じ範囲内で使うのであれば、もう一度改めて申請する必要はありません。

 
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◎認可のフロー図
 では、どういうときに認可が下りるのか、です。2つのルートがあるというふうに言っています。
 通常の管理を受けているルート、つまりCMR、あるいはCMRと同等の懸念がある物質などで、例えば一定の基準値を設けられる場合、つまり十分に管理ができるものについては、その基準値以下のリスクであれば、これは認可が下ります。
しかし、すべてがしっかりと管理できるというわけではありません。CMRの中でも閾値が設けられないものがあると思います。PBTやvPvBと呼ばれるもの、あるいはそれと同等の懸念がある物質については十分な管理はできないでしょう。となりますと、これについては、閾値などは設けることはできません。その場合は、社会経済的な便益があるのかどうか、ということを見ることになります。その便益の方が、リスクよりも大きいかどうか、これを見ることになります。もし、便益の方が環境に対するリスクより大きい場合には、次に適切な代替物質、代替技術があるのかどうかということを検討することになります。そのような代替物質や技術がない場合には、認可が下りるということになります。しかし、例えば、社会経済的な便益の方がリスクよりも大きくない場合、あるいは代わりの物質があるという場合には不認可ということになります。

 
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◎制限
 制限についてですが、先ほども言いましたが、これが既存の指令76/769に代わるものであります。
 これが人の健康あるいは環境に対する影響が理に適った程度に抑えられるのかどうかということを見ていきます。認可を受けるよりも非常に迅速な措置となります。これは化学物質庁の委員会などが検討することになります。リスクとか社会経済的な側面を見ることになります。そして、最終決定ですけれども、これは欧州委員会がコミトロジー手続を通して行われることになります。ですから、現行制度に非常に近い形で、こうした制限という制約が設けられます。

 
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◎欧州化学物質庁
 欧州化学物質庁がつくられることになりますが、これが日常的なREACHの管理を行うことになります。技術的、科学的、そして事務的な側面を取り扱うことになります。
 そして、さまざまな責任を負うことになります。登録について、これは拒否をするか、あるいは受け入れるか。 一式文書の評価、物質の評価も実施しますし、調和のとれたアプローチの確保もすることになります。また、評価に当たっては決定なども行っていきます。もっと情報が必要な場合には、業界側に求めます。
 認可、制限について、このプロセスを促進し、どういう優先順位であるかということも提案していきます。それから候補リストもつくることになります。
 そして、事務局がつくられます。社会経済的なリスク評価ということも行います。また、不服審査の取り扱いも行います。研究開発、評価、あるいは機密性、また登録について何らかの不服などがあった場合には、ここが審査を請け負うことになります。

 

 
◎次になすべきこと  
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◎REACHの実施
 先ほども言いましたけれども、既に公示はされておりますが、2007年6月1日から施行されます。ヘルシンキに化学物質庁が設立されますが、運営開始されるのは2008年6月です。
 登録についての期限などもあります。認可のための物質の最初の優先づけが2009年6月であります。その前に候補物質リストがつくらなければなりません。
 そして、新たな制限。これは2010年6月、新しいというのは指令76/769の下の制限、これは既にREACHの一部に組み込まれております。ですから、今から新しい制限まで、これが施行されることになります。この時点で、もしかしたら指令そのものがなくなるかもしれません。REACHが施行されてから36カ月後ということになります。
 登録については、先ほども言いましたとおり、最初の登録の締め切りは2010年末ですが、2018年に最後の締め切りということになります。ですから、すべての登録が、既存の物質についてですけれども、すべて2018年末までに終わるということになります。ですから、非常に長い、長期的なプログラムとなっています。

 
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◎暫定的戦略
 では、委員会でどのような活動をしてきたかということを見てみます。
 私たちは暫定的な戦略というものも作ってまいりました。REACHのさまざまな側面を見てまいりました。
 既存の活動について焦点を絞り直すということもやってまいりました。今の指令ですとか、リスク評価についてのもの、それからリスク評価・規制についても、今度はREACHに移行していくことが必要になります。
 また、REACHの準備も行われてまいりました。ガイダンス文書を準備したり、それによってさまざまな関係者に自分たちの権利が何なのか、どういう義務があるのかということも明確に示すようにしてまいりました。それから、ソフトウェアツールの開発なども行ってまいりました。
 それから、化学物質庁の設立の準備も進めております。
 さまざまな形でREACHそのものをいろいろな戦略的なパートナーシップを持ちながら、テストを今やっております。例えば、コンソーシアムがどんなふうに機能するのか、登録について、申請の手続はどうなるのか、こういうことを業界と協力しながら、今、準備の段階でテストをしております。

 
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◎REACH実施プロジェクト(RIPs)
 REACH実施プロジェクトですが、これが今申し上げましたガイダンスをつくるに当たって行ってきたプロジェクトです。
 今のところ、RIPは7つあります。最初のRIPが、これが最初に出たものですが、プロセスの記述をしただけのものであって、これはウェブサイト上で入手できます。チャートなどでどういうプロセスがREACHの中ではあるのかといったことが説明されています。
 RIP2はITツールの開発に関連したものです。これは登録のためのITツールです。REACH-ITと呼んでおります。
 RIP3と4、これはガイダンス文書として、業界向け、それから行政向けに出されております。産業、それから行政、それぞれに対して、あまり明確ではなかった条項などについて説明したり、どういう権利があるのかといったことが説明されております。
 RIP5と6、これが化学物質庁の運営開始の準備であります。今現在も、これはヘルシンキで進められております。
 そして、RIP7、これはどちらかといえば内部のRIPでありますが、欧州委員会の準備作業などにかかわるものです。

 
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◎産業界向け・行政向けのガイダンス
 皆さんにとって、一番重要なのはRIP3、RIP4だと思います。これは評価の側面にかかわるものだからです。どういうものが取り上げられているか、ここにリストアップしています。化学物質、安全性報告の準備はどうしたらいいのか、シナリオはどういうふうにつくったらいいのか、どういうふうに申請したらいいのか、どうやってデータを共有するのか、川下使用者にとっての条件は何であるか、それから一式文書の準備はどのように作ったらいいのか、技術文書はどういうものが必要なのか。
 輸入者、製造者などにとって一番重要なのは、おそらくRIP3.8だと思います。どういう義務があるのか、業界側の義務などもこの中で書かれております。
 こうしたRIPですが、今現在も作業中のものがあります。最終版はまもなくできると思いますが、これはガイダンスとして化学物質庁の方で採択することになります。

 
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◎関係専門家グループ(SEG)
 では、RIPsの下でどのように作業を進めるかという関連で申し上げますと、ステークホルダーとの協議を重ねます。それぞれのRIPに参加しているステークホルダー、これはSEGと呼ばれる関係専門家グループを通じて行います。
 その目的は、プロジェクト実施に関する話し合いをするということであります。作業計画、成果物、時期などを含むプロジェクトの実施に関し、検討します。必要に応じて、調整を行うことになります。プロセスを通じ、作業計画を調整し、ガイダンス文書案に関するコメントも出します。
 また、欧州委員会がRIPsの一部を実施しますし、一部はコンサルタントが実施します。この結果がステークホルダーのグループに提示されることもあります。

 
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◎関係専門家グループ(SEG)の代表
 さて、ここでは何人くらいが参加しているかということなんですけれども、今現在 200名ほどの専門家がプロセスに参加し、19の加盟国などが参加しています。
 産業組織に関しては、いくつかの例がここにありますけれども、いろいろなところが参加しております。一部、略称のためわからないものもあると思いますけれども、CEFICとはヨーロッパの化学産業の代表団体、CEPEは製紙産業、それからDUCC、これは川下使用者でありますけれども、随分いろいろなところが入っています。例えば、UNICEは使用者団体です。
 NGOの観点から見ますと、環境NGOがあります。地球の友(FoE)ですとか、世界自然保護基金(WWF)とか、EEB、また組合もあります。ヨーロッパの組合の団体もありますけれども、もう一つ、OECDの事務局など、第三機関があります。それから、また在欧日系ビジネス協議会(JBCE)等々も加わっております。
 皆さん、あとで読んでいただきたいと思いますけれども、RIPの中で、ばく露シナリオが特徴だと思います。CSR、そしてまたデータシートにも添付されるものであり、これは提出が求められるものであります。

 
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◎事例紹介:ばく露シナリオ RIP 3.2
 さて、ばく露シナリオはどのように作成するか。これに関してはRIP3.2を見ていただきたいと思います。関心がある方は、ぜひ、このウェブサイトを見ていただくとわかると思いますけれども、簡単に申しますと、産業界、特に関係するところは、リスク管理措置の優良事例に関して協力すべきだと思いますし、それに基づいて、一般的なばく露シナリオ作成をすることになります。

 
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◎アロナネットワーク:主な結論
 RIP3.2のステークホルダーのもとで、ばく露シナリオに関する結論を出しております。アロナネットワークの結論でありますけれども、まず、ばく露シナリオの数は管理できる数でなくてはならないということであります。セクターの中では標準プロセスをカバーできるだけ、多すぎてもいけないし、少なすぎてもいけないということであります。
 ボトムアップアプローチをとることが必要であります。ばく露シナリオに関する情報、これはサプライチェーンを通して提供されるものでなくてはなりません。また、現在やっている慣行について、標準的な記述を活用することが必要であります。
 いずれにしましても、詳細に関しては、このばく露シナリオ、ここにアドレスがありますので、これを見ていただきたいと思いますし、またアロナネットワークを見ていただくと、情報が載っております。

 
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◎非EU地域の製造者向けの準備
 ただ、皆さん、日本の企業の方々から見て、関心があるのは、どういったことかといいますと、まず、原則として、EU域外でありますのでREACHの下での義務を課すことはありません。あくまでもEU域内の製造者、輸入者が対象であります。ですから、その場合のみ、REACHが適用されることになります。したがいまして、製造者ではなく輸入者が義務を担うことになります。ただ、輸入者、又は唯一の代理人を使うということができます。ですから、ヨーロッパ輸出するに際して、唯一の代理人を指名することができます。これに関しては、皆さん、いろいろと質問があると思いますけれども、これはQ&Aの際にぜひお答えしたいと思います。

 
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◎非EU地域の製造者向けの準備:輸入者
  輸入者に対してですが、REACHに備えて何を今からすべきか。
 まず、皆さんがEUに対して輸出する物質の目録を作成し、そして輸入者の義務を調べることになります。まず、どういったトン数で何が求められるかということなど、要件を見ていただきたいと思います。
 また、ヨーロッパのクライアントの方々と密接にコミュニケーションを図り、どういった情報を日本から提供し、そしてこれらのREACHの義務を彼らが果たすことができるのかの協議を重ねるべきでしょう。
 これは、物質そのものに関する情報並びにばく露シナリオを開発するための情報も含まれます。サプライチェーンの対話を通じて、これをぜひやっていかなくてはいけないと思います。
 それから、もう一つ、皆さんにぜひ申し上げたいのは、将来の計画をしていただきたいと思います。ぎりぎりまで待たないでください。まもなくREACHは施行されます。皆さん、もうそれはわかりきっていることでありますので、ですから、これを先送りして、ぎりぎりまで待つ必要はありません。

 
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◎非EU地域の製造者向けの準備:唯一の代理人
 それから、この唯一の代理人を使う場合、特定された用途は何であるかを見ることが必要でしょう。例えば、ばく露シナリオでこれをどういう形でもっともよく表現することができるか、ということもあります。ばく露シナリオをつくるというのはかなりコストがかかるかもしれませんけれども、しかし、必要とされる試験は少ないかもしれません。例えば、特定シナリオがあった場合には、一般的なシナリオよりももっと試験の要件が緩いかもしれません。それから、川下使用者が、果たして用途を特定したいのかどうかということ、これもまた調べなくてはいけないと思います。
 いずれにしても、お互いにできるだけサプライチェーンの中で話し合いを進めてください。できるだけ規制の柔軟性を生かしていただきたいと思います。

 
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◎結び
 結論でありますけれども、ここで強調したいのは、既に申し上げましたけれども、REACHはあと数カ月で施行されます。REACHはいろいろなメリットをもたらします。経済的な有益性ももちろんあると思いますけれども、数字の話をするまでもなく、この新しい規制によって、ほかのいろいろなメリットがあると思います。私たちはこういった有害な化学物質や環境汚染を防ぐことができますし、生物多様性のダメージを取り去ることができるでしょう。
 この化学物質に関する情報が豊富であればあるほど、リスクの管理ができるようになるでしょうし、また汚染を防ぐことができるでしょう。また、既存の汚染防止メカニズムのパフォーマンスを上げることができるでしょう。
 今現在、排出ですとか、またいろいろな化学物質の製品における使用に関する規制ですとか、今ある規制もこういった情報から得るものが非常に多いと思います。その結果、労働者の健康、また一般の国民の健康、安全性が高まるでしょう。また、申し上げたとおり、リスク管理も職場等で強化されることになるでしょう。その場合、職業病も減るでしょう。
 ですから、REACHのさまざまなこういったメリットが既にわかっていると思います。同時に、化学産業の競争力も高まると思います。ですから、信頼できる、責任ある管理をすることによって、化学産業に対する信頼も高まるでしょう。また、一般国民、そして当局も、化学産業に対する信頼の失墜が解消されるのではなかろうかと思います。過去30年間失われた信用を回復するきっかけになるでしょう。
 もう今から準備を始めてください。REACHは目前です。ありがとうございました。(拍手)

 
 

質疑応答
(司会)
 ありがとうございます。それでは、これでは、これより質疑応答に移らせていただきます。ご質問のございます方は、どうぞ、お席にてお手をお挙げください。

(質問者B)
 MSDSについてお伺いします。英語で質問させていただきます。
 今年の6月から、新しいMSDSを我々は使用するべきでしょうか。つまり、もし既につくられているMSDSを使った場合、ただこのMSDSにはEメールアドレスなどが入っていない、あるいは2章、3章が逆転しているような場合、これは新しいMSDSとしてつくり直した方がよいのでしょうか。

(アヴィラ)
 原則的に、このコミュニケーションの義務、サプライチェーン上のコミュニケーションは2007年6月1日からですので、新しいMSDSのフォーマットをぜひお使いいただければと思います。
 もし、適用に時間がかかる場合には、これは違反というふうになってしまいます。多少の柔軟性は持って対応はされると思いますけれども、私たちとしては移行期というのは特に今のところ設けてはおりません。理想的には、移行期があって両方のMSDSが使える期間があればいいのでしょうけれども、規制の中ではそういう期間は設けられておりません。そうはいいましても、多少の柔軟性を持って、実際には対応されるのではないかと思います。

(質問者B)
 柔軟性を持ってということだと思いますが、今朝、化学関係の会社のミーティングがあったのですが、その中で、猶予期間が設けられるという話が出たんですけれども、それは本当でしょうか。

(アヴィラ)
 先ほども言いましたとおり、委員会の立場としては「そういうものがある」と言うことはできません。これは各加盟国次第ということになります。
 私たちとしては、柔軟性を持ってREACHの規制などについては解釈したいと考えております。ただ、弁護士としては、非常に厳しい要件を初日から、つまり5月30日まではこのMSDS、6月1日から別のMSDSというような厳しいことはしないのではないかと思いますが、これについては加盟国各国で聞いていただきたいと思います。実施に当たっては加盟国の方が責任を負うことになります。

(質問者B)
 ありがとうございました。

(司会)
 ご質問のございます方、一番後ろの方、手が挙がりましたので。
 恐れ入りますけれども、できるだけご質問は日本語でお願いいたします。

(質問者C)
 ご質問は3つありまして、1つは、CBI(Confidential Business Information)に関してなんですけれども、これはSIEFには予備登録を行った場合、全員加盟するということになるわけですけれども、この場合、CBIを持っている会社はどういう対応をすればいいのか。SIEFに入るけれども、インフォメーションのシェアをしないということができるのかどうかというのが第1点。
 第2点としては、コンソーシアムとSIEFの関係なんですけれども、登録を行うためにコンソーシアムを形成するというふうに理解しているんですけれども、コンソーシアムに入る、入らないということは、任意でやればいいというふうに了解してよろしいかどうか。
 最後の質問は、いわゆるケミカルがREACHの対象にはなっておりますけれども、金属であるとか、繊維というのも広く対象になっていると了解しているんですが、例えば合金をとった場合、これはどういうふうに理解していけばいいのか、その辺に関してコメントをいただきたいと思います。

(アヴィラ)
 いわゆるCBIということに関するご質問でありますけれども、これに関しては先ほどプレゼンテーションの中でも少し触れましたが、もともとの委員会のプランとしてはCBI、これは任意にしたいということでありましたけれども、今はそうではありません。つまり、私たちは、1物質1登録という原則がありますので、登録の一部に関しては共同でやらなくてはいけない、一部のものに関しては個別にやる、ものによって選択肢があるということになります。
 これは義務化されていますので、オプトアウトする可能性もあります。除外することはあります。オプトアウトする、参加しないという、そういったコンソーシアム、共同登録に参加しないというケースもあります。これは例外として先ほどご説明したとおりであります。
 それから、機密情報に関してSIEFの中でどうなるかということなんですけれども、SIEFの中でも、機密情報は保護することは可能であります。例えば、オプトアウトする、つまり共同登録に参加しないというオプションをとることになります。ただ、それを正当化するだけの理由がなくてはなりませんし、化学物質庁がこれを承認しなくてはなりませんけれども、そのオプションはあるということです。
 それから、金属、繊維、合金に関しては、これはかなり大変な問題なんですけれども、金属はカバーされていますね。繊維は成形品ということに入りますので、この中に入ります。合金でありますけれども、これはREACHのみならず、OECDの中でも調剤として扱われます。これは、REACHの中でもそのように記述されております。
 金属は合金であるか、純粋な金属をあらわしているかによって、違いがあります。

(司会)
 いかがでしょうか。

(質問者C)
 2つ目の質問のコンソーシアムに関して教えていただきたいんですけれども、コンソーシアムに入ると登録料をシェアできるというふうに認識しているのですが、もしコンソーシアムに入らないで一人で登録するということになれば、登録料が100%になると。これを入る・入らないは、インポーター(輸入者)ないしはマニュファクチャラー(製造者)の任意であって、これはあくまでヨーロッパサイドでコンソーシアムも形成するということになると了解してよろしいでしょうか。

(アヴィラ)
 REACHの中を見ていただきますと、「コンソーシアム」という言葉は出てきません。例えば、SIEFですとか、どういった情報を登録時、共同提出しなくてはいけないのか、共同でないものは何であるかを記載しておりますけれども、コンソーシアムというのは、私たちが説明する際に使う表現であります。
 この共同登録をあらわす言葉として使ったがために混乱が起きてしまっているのだと思います。ですから、例えば、今、登録しようとしている製造者であろうと、輸入者であろうと、その場合、SIEFに参加することは義務づけられ、コストをどのくらい負担するかということにどの情報を適用するかを見ます。必要なものに関しては、共同提出をするということになります。
 さて、SIEFに関して任意性があるもの、これは登録の義務がないところに関しては任意となります。先ほど申し上げましたけれども、例えば、1t未満の輸入者、製造者の場合、それでもSIEFに情報提供したいというのであれば参加しますけれども、義務づけはなりません。
 それから、もう一つの可能性としては、例えば川下使用者で供給者の方が登録していない、したがってSIEFの一部ではないといった場合、川下使用者が自らその予備登録をすることも可能であります。共同で情報を提出する場合には、コストを分担することになります。これはSIEFによって取り決められることであります。

(司会)
 ご質問されました方、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 それでは、ほかにご質問のございます方、前におかけの女性の方、お願いいたします。

(質問者D)
 医薬品の中間体について教えていただきたいんですけれども、現在、開発用として医薬品の中間体を輸出しております。REACHのときに、医薬品の中間体という言葉は条文に出てこないようなんですけれども、輸送する単離中間物を追っていけばいいということになるんでしょうか。
 それからもう一つ教えていただきたいんですけれども、制限と認可の関係がもうひとつわからないんですけれども、早い話、制限物質を認可申請したら、これはオッケーになるということもあるということなんでしょうか。以上です。

(司会)
 ありがとうございます。いかがでしょうか。ただいま2つの質問をいただきました。お願いいたします。

(アヴィラ)
 そうですね。中間体についておっしゃっていたことですけれども、医薬品などに使われているもの、人あるいは動物などについて使われるものについてはREACHから除外されます。これはREACHの2条に書かれております。
 この物質が医薬品などに使われているのであれば、除外されます。医薬品として、登録されたり、あるいは規制される対象になるからです。

(質問者D)
 医薬品の中間体はだめなんですね。医薬品の中間体は除外されないと思っているんですけれども、よろしゅうございましょうか。

(アヴィラ)
 私の理解では、私自身、医薬品などの登録については専門ではないんですけれども、REACHの条文を見ますと、もし扱っている物質が医薬品などに使われている、そして医薬品などの規制の対象となっている場合には、REACHの中では取り扱われないと。ですから、登録、認可、評価、それぞれその中間体がどういうふうに使われているか、見ていかなければなりません。
 REACHの中で区別しているのではなく、医薬品などの規制の方を見ていただかなければなりません。ですから、除外されるかどうかについては、REACHではなく、医薬品の方の規制の方を見てください。医薬品の中の規制に入っていなければ、これはREACHの対象ということになります。まずは、医薬品の規制の方を確認してください。

(司会)
 では、すぐ後ろの方、どうぞ。

(質問者E)
 物質の中で、1t未満のものを使用して、部品等をつくっている場合、1t未満の場合ですと、登録とか規制対象なんですけれども、それを使っていないとか、その辺を表明するとか、そういうようなことで除外になるというようなことを明確に知らしめることが必要なのかどうか。それとも、何もしないで、そのまま販売できるのか、その辺のところはどうなんでしょうか。

(アヴィラ)
 登録の要件、特に成形品の中のものを含めて、調剤も含めて、登録に関しては業界側が決めなくてはいけません。登録する・しないは、業界で参加する。登録をしないと決めた場合には、上市することはできません。もし、それが見つかった場合には処罰対象になります。
ですから、登録しないといけないか、しなくてもいいかということは、皆さん、判断していただくことになります。そして、登録をしないということになります。

(質問者E)
 対象になっていない範囲でも登録が要るということになるんですか。

(アヴィラ)
 それは、単独で作られている物質なんですか、それとも成形品の中の物質ですか。

(質問者E)
 成形品の中です。

(アヴィラ)
 その場合には、あくまでもそのトン数を超えてしまった場合ですね。ですから、1t未満であれば、要りません。意図的な放出がなければ、そちらの場合はそうかもしれませんけれども、その場合には登録は必要ありません。逆にいうと、意図的な放出がある場合には登録は必要であります。
 まず、意図的な放出があるかどうかということを見て、そのあと、トン数を見て、いずれも該当しない場合には登録する必要はありません。

(市川)
 パネルディスカッションに参加する日立の市川です。多分、翻訳が間違っているので誤解があると思うんですけれども、アヴィラさんが言っているのは、1トン以下であれば、法的義務がない。ですから、登録はする必要がないということであって、それを判断するのはあなたたち企業の責任であることが一つと、それから登録する必要がないことを表明する必要も特にありません。あなた自身の判断で、必要がなければ、そのままで終わりです、というふうにアヴィラさんはおっしゃっているわけですが、多分、翻訳が違うので誤解があったと思います。

(奥村)
 一つ抜けています。電機製品はアーティクルです。したがって、その中の物質が意図的に放出されるというものであれば、1t以上であれば登録が要りますね。それがなければ、何にも要りません。ただ、懸念物質だとまた違う要請があるんですけれども。

(司会)
 ご質問された方、いかがでしょうか。

(質問者E)
 わかりました。ありがとうございました。

(司会)
 アヴィラさん、パネルディスカッションに参加される方から補足説明という形で入りましたが、ただいまの説明でよろしいでしょうか。

(アヴィラ)
 そうですね、今の追加説明で十分説明していただけたと思います。ありがとうございます。

(司会)
 もうお一方、後ろの方でお手が挙がったようですけれども、マイクをお持ちいたしますので、少々、お待ちください。

(質問者F)
 昨年12月30日に官報が出されましたけれども、それの33条に情報伝達に関しての条項がありまして、消費者の方から製造者に対して、「成形品の中に化学物質がどういうものがあるのか」という質問が寄せられるという前提で、その場合には「無料で化学物質がどういうものがあるかというのを45日以内に提出する義務がある」というふうにうたわれているというふうに理解しているんですけれども、それが間違いでないかということ。
 それから、その45日というのが手元に質問の書面が来てからということらしいんですけれども、それがいつから、要するに今年の6月1日から、それがもう開始になるのかどうか。
 正直なところ、当社の場合は、まだその対応はできておりません。今から調べるとなると、とても対応できないというような状況にあります。その辺のところをちょっと教えていただきたいんです。
 それから、トン数とか、あるいは含有率については、一切、触れていないように思いますので、その辺もご確認させていただけると非常にありがたいです。以上です。

(アヴィラ)
 33条ですけれども、それから消費者から質問が出るという可能性ですね。成形品の中に含まれる化学物質についての質問、これはREACH規制の第4章の一部になっております。これは2007年6月1日から施行ということになります。
 登録とまた違った理屈があるんですね。登録は単に登録する、そのあと、また情報がいろいろと出されなければなりません。登録は当局の方にするわけですね。そして、企業に対しては一定の時間を設けて、いろいろな義務を果たしてもらおうというふうに考えております。
 ただ、第4章のコミュニケーション、これはコミュニケーションそのもの、サプライチェーン上下でのコミュニケーション、それから消費者に向けてのコミュニケーションについてのものです。ですから、これについては移行期間というものはありません。
 供給者に対して、消費者が質問を出すことができる。成形品の中の物質、これが非常に懸念が高いものであれば、ということになりますが、これは認可のための候補リストという話に戻りますけれども、もし、ある一定の濃度以上、0.1%以上の濃度で含まれている場合ですね。
 この規制は、通知とは無関係に施行されます。ですから、ちょっと混乱すると思うんですが、一部は2011年までの移行期間がある半面、こちらについてはすぐ施行するということで、混乱は多少あると思います。
 ただ、網羅している問題点は多少違うのだということはおわかりいただきたいと思います。情報は消費者に対して提供しなければならない。消費者から質問を受け取ってから、45日以内ですね。そして、十分な情報を出さなければならない。会社側が何を十分と見るかですけれども、それはこの物質を安全に使うためにも十分な情報ということになります。
 ただ、会社がどれくらいの情報が必要であると考えるか、最低限どれくらいが必要であるか、それによって安全な使用が確保されるということを考えて情報を出すことになります。成形品の中の化学物質ということであれば、こうした情報は、ほかに会社が持っているいろいろな情報ツールの中に含まれているものもあるのではないでしょうか。

(質問者F)
 こんなことは変な質問かもしれませんけれども、もし45日以内に答えられないというようなことがあった場合、どういう処罰みたいなものがあるんでしょうか。

(アヴィラ)
 先ほどMSDSの質問もありましたけれども、各加盟国が責任を持ってこれを実施することになります。規制サイドとしては、しかるべき罰則などは設けるようにということは言っております。ですから、各加盟国がどういう決定をするか、それぞれ加盟国間で違うかもしれません。どういう罰則を設けられるかということは、規制に対するコンプライアンスがなかった場合の罰則はそれぞれ違うかもしれません。ただ、違反に見合った罰則になるということだけ、申し上げたいと思います。
 ちゃんとそれに見合ったというのはどういうことかというと、効果的な、そして二度と違反をしないようにさせる、そういう効果のあるものでなければならないと言っています。ですから、各加盟国はそういうような罰則を設けるように言われておりますが、どういう罰則を実際に設けるかは加盟国次第です。

(司会)
 それでは、お時間となりましたので、このあたりで質疑応答を終了とさせていただきたいと思います。ただいまの発表は、欧州における新たな化学物質規制REACHにつきまして、欧州委員会環境総局化学物質課のクリスティーナ・デュ・アヴィラさんでございました。どうもありがとうございました。(拍手)
 ただいまのアヴィラさんの発表につきまして、お手元にお渡しさせていただきました資料からスライドに追加並びに修正がございました。本日の発表に用いられた資料につきましては、後日、環境省のウェブサイトに掲載させていただきますので、ぜひごらんいただきたいと思います。この環境省のウェブサイトのURLは、講演資料集の裏表紙に記載してございますので、どうぞご確認くださいませ。
 それでは、これより休憩とさせていただきます。次の開始は15時45分ごろより始めさせていただきますので、お時間になりましたら、お席にお戻りくださいますよう、お願い申し上げます。
なお、休憩の間、地球温暖化問題に関するビデオを上映させていただきます。皆さま、御存知のとおり、地球温暖化は私たちにとって大変身近な脅威となりつつあります。地球温暖化防止に向けた取組に、皆さまのご理解とご協力をお願いいたします。

                 〔休憩〕

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                 〔再開〕

(司会)
 皆さま、お待たせいたしました。これより再開させていただきます。
 まず、「国内事業者のREACHへの対応に関するアンケート報告結果(一次報告)」を環境省環境保健部化学物質審査室、平塚二朗より発表させていただきます。
 では、平塚さん、よろしくお願いいたします。

4. 国内事業者のREACHへの対応に関するアンケート報告結果(一次報告)

 
hiratsuka

(平塚)
 環境省化学物質審査室の平塚でございます。
 私の資料もアヴィラさんと同様に別刷りになっておりますので、こちらをごらんください。
 一次報告ということで、私の方から事業者の皆さまへのREACHの対応に関するアンケートについての結果報告をさせていただきます。
 最初に、お断りがございますけれども、この一次報告は本日のためにとりあえず暫定的に集計した結果のものでございます。今後、最終的な集計結果が決まりましたらご報告いたしますが、現時点での考察等ということでご理解ください。
                
◎アンケート実施の背景
 まず、本アンケートの実施の背景でございますが、昨年12月にREACHが成立いたしました。それに伴いまして、国内の製造・流通事業者の皆さま方にも大きな影響が想定されているというところでございます。
 そういったところで、我々としましては、事業者の皆さま方がREACHへの理解度はどの程度なのか、あるいはREACHへの対応状況、対応に向けた課題は何なのか、さらにREACHに関してどのような情報が求められているのかといったことについて情報収集をすることとしております。
 このアンケートの目的は、事業者のREACHへの対応状況を把握する、対応を進める際の課題を明らかにする、こういったことによりまして、国、環境省が適切な情報発信を行うための参考資料を収集することとしております。

◎アンケートの実施方法
 アンケートの実施方法でございます。
 平成19年1月25日にアンケートを発送いたしまして、先々週になりますでしょうか、2月16日までを締め切りということでご提出をお願いしております。
 アンケートの対象ですが、回答者を特定した形で郵送を行っております。さらに、任意回答ということで、ウェブサイト上に公表いたしまして、ご自由にご回答いただけるようにしております。
 対象は、製造業事業者、流通事業者の2種類になっております。製造事業者は、PRTR届出事業場を有する事業者を693社選定しております。事業者の選定につきましては、基本的には無作為抽出ということと、できるだけ大規模事業者の方々の具体的な取組状況を把握するために、②ということで、従業員数が上位1%の事業場を有する事業者の方にもお送りしております。
 流通事業者につきましては、無作為というわけにはサンプルが足りませんで、日本貿易会、日本化学工業品輸出組合・輸入協会の所属企業にお送りしております。
 任意回答につきましては、アンケートの請負先であります海外環境協力センターのウェブサイト上に掲載しております。
                         
◎アンケートの構成・調査項目
  本アンケートですが、こういうアンケート票を実際に事業者の皆さま方にお送りしておりまして、4つのパートから構成しております。調査票のⅠからⅣまでとなっております。
 調査票Ⅰが属性、Ⅱが全般的な理解について、調査票Ⅲは個別の事業者のお立場ごとに異なるアンケート票を用意しておりまして、こちらについてご回答いただいております。最後にⅣといたしまして全体的な評価についてお伺いしております。環境省の方からお尋ねということで個別にお伺いしている事項もございます。

◎結果(1) 回答状況・回答企業の属性
 結果に移らせていただきます。
  こちらは、現時点、暫定的な状況でございますけれども、調査票の発送が777社、それについての回答率が約4割という状況でございます。現在、回収率を高めるような作業をしているところでございます。
 製造、流通の割合で見ますと、流通事業者の方がまだ回収率が低いということで、この点をご承知おきいただいた上で、考察の方をご確認いただければと思います。
 属性でございますが、川上、川中、川下という分け方をしております。今回の整理の仕方としましては、化学物質・調剤を製造されている事業者を川上としております。アーティクル、うち部品の製造をされている方を川中、最終製品を川下という形にしております。
 複数にまたがる方につきましては、主たるものについてお答えを伺っておりますので、主たる取扱いのもの、ということで川上・川中・川下を整理しております。
 流通事業者の方が23社、合計で309社の方からお伺いしております。

◎結果(2)-1 欧州REACHへの理解
 結果です。
 まず、製造、流通すべて合わせた全体でございますが、最初としまして、「欧州でREACHが導入されることを御存知ですか」ということで、「よく知っている」「ある程度知っている」という方が合わせて約7割ということで、それなりに導入されること自体はご理解があるのかなと思っております。

◎結果(2)-2 欧州REACHへの理解
 これを大企業、中小企業で分けております。この境界につきましては、中小企業基本法の定義に基づいて、中小企業の方と大企業を分けております。
 その結果、やはり大企業の方の約9割が「よく知っている」「ある程度知っている」、それに対して中小企業の方は約5割ということで、事業規模によってある程度大きな差が出ているというふうに思われます。

◎結果(2)-3 欧州REACHへの理解
 さらに、川上から川中、あるいは流通という形で、横で切った形のグラフをお見せしますが、若干でございますが、川上、川中の事業者が認識度は高い傾向がございます。流通事業者の方は、かなりの方はご理解されているということでございます。
 
◎結果(2)-4 欧州REACHへの理解
 続きまして、今度は社内で、ご担当者ではなくて、「御社の中でのREACHに対する理解度はどの程度ですか」ということで、複数回答のご質問をしております。
 中で囲った部分でございますが、まだ理解されていないという方、さらには理解を深めたいが、何をすればよいかわからないという方もいらっしゃいます。個人といいますか、その担当組織としては御存知かもしれませんが、社内全体としての理解はまだ不十分な方も多いというふうに思っております。
 
◎結果(2)-5 欧州REACHへの理解
 続きまして、REACHの具体的な中身でございますが、「既存化学物質についても事業者ごとに登録が必要になるということを御存知ですか」ということをお伺いしております。
 こちらについては、全体で見ますと約6割の方は御存知と。川上と流通を例として挙げておりますけれども、若干、全体よりも高い割合でご理解されているということでございます。

◎結果(2)-6 欧州REACHへの理解
 REACHの内容のもう一つでございますが、「事業者がリスク評価を行い、リスク管理方法を提案しなければならないことを御存知ですか」ということで、こちらも全体で約6割の方が御存知と。大企業と中小企業で分けておりますが、大企業の方は約8割、それに対して中小企業の方はまだ3割ということで、事業規模によって若干違いがある。ですが、川上、川中、川下という横で見たときの傾向の違いはあまり大きくなかったということでございます。データをお示ししておりません。

◎ 調査票Ⅲ(REACHへの対応と課題)の選択
 続きまして、調査票Ⅲ。実際、具体的な詳細事項についてお伺いしているのですが、これについては、お手元のフローチャートをご確認いただければと思いますが、A、B、C、Dという4種類に分けております。
 それぞれ、調査票にご回答いただいた数というと、流通事業者は数が少ないという形で今の時点ではなっております。

◎結果(3)-1 対応と課題(化学物質製造事業者)
 結果(3)-1ということで、これは化学物質、調剤を製造されている事業者についてお聞きした問でございます。
  1つ目が「化学物質庁への登録についての検討状況は、今のところ進められていますか」という問でございます。全体で98事業者にご回答いただいておりますが、「すべて終了」「進行中」という方が合わせて約3分の1、このアンケートではさらに別の問をしておりますが、検討の結果、EUとのビジネスを断念したという物質もあるというふうに聞いております。

◎結果(3)-2 対応と課題(化学物質製造事業者)
 続きまして、「登録はどのように行う予定ですか」という問をしております。
 これは自社のEU支社、あるいはEU本社の日本支社という方については、EU域内の関連会社を通じて行うという方が16%、あるいはEU域内の唯一の代理人を通じて行うという方もほぼ同数になっております。
 ただし、現時点では「分からない」「検討していない」という方が半数近くを占めておりまして、登録の具体的な検討につきましてはこれからということでございます。

◎結果(3)-3 対応と課題(化学物質製造事業者)
 続きまして、データ収集を複数事業者は共同で行うという話でございます。こちらについての理解度も7割近くの方が総数でご理解されております。
 大企業、中小企業を見ますと、やはりこれについても大企業は理解が高くて、中小企業のご理解がまだ十分ではないということでございます。
 

◎ 結果(3)-4 対応と課題(化学物質製造事業者)
 同じく共同でのデータ収集でございますが、「どのような問題が考えられますか」という問をしております。最も多いのは人材の確保という形、これも複数回答でございまして、ほぼ同じような数字で外部の漏洩、情報漏洩の防止といったデータの情報管理、あるいはコストの配分方法、それから言語上のコミュニケーションといったことを問題点に挙げている方もいらっしゃいます。

◎結果(3)-5 対応と課題(化学物質製造事業者)
 続きまして、「製造する化学物質が認可の対象とされた場合、どのような対応をとる予定ですか」ということで、当然、代替を進めるということで、認可が要らない、認可の対象にならないような化学物質の代替を進めるということでございますが、この結果として、環境への負荷が低い化学物質への代替化が期待されるということになっております。
 ただ、「今後、検討する」「まだ検討していない」という方も相当程度いらっしゃる状況です。

◎ 結果(4)-1 対応と課題(成形品製造事業者)
 続きまして、アーティクル、成形品の製造事業者にお伺いした問です。
 まず、「成形品から化学物質を意図的に放出するケースの特定を進めていますか」という問です。こちらについては、すべての成形品に終了、進行中という方が全部で2割程度、ほかの方はまだ未着手ということでございます。「意図的放出」の定義が明らかになってから進めるという方が4割程度いらっしゃいまして、まだまだ具体的な着手については進んでいないという状況です。

◎結果(4)-2 対応と課題(成形品製造事業者)
 続きまして、「成形品中の高懸念物質への対応について、どのようにお考えですか」という問です。こちらについても同様で、「未着手」という方がほとんどです。アーティクルの方は全体で150弱の方にご回答いただいております。

◎結果(4)-3 対応と課題(成形品製造事業者)
 続きまして、川下事業者への情報提供についてです。「成形品に含まれる高懸念物質の情報を川下事業者に提供しなければならないことを御存知ですか」という問でして、こちらは御存知の方が約6割程度でございます。

◎結果(4)-4 対応と課題(成形品製造事業者)
 御存知の方に続けてお伺いした事項でございますが、具体的に情報提供に当たって、「どのような情報が必要ですか」ということをお伺いしております。
 これは順位をつけてもらう回答方式にしておりましたが、まず、第1位、最も重要だというふうにお考えのものを集計しております。その結果、一番多かったのが、「川上事業者からデータが提供されない場合の対応」ということを挙げておられます。

◎結果(4)-5 対応と課題(成形品製造事業者)
 では、こういった場合はどのように対応されますかということでお伺いしておりますが、「どのようにデータを収集することになるとお考えですか」というふうに伺ったところ、最も多かったのが「他の川上事業者に変更する」。こちらもやはり「対応を検討中」という方が同数いらっしゃいますし、「まだ検討していない」という方も相当程度いらっしゃいますが、現時点ではそのデータが提供される川上事業者への変更も検討されているということです。

◎結果(4)-6 対応と課題(成形品製造事業者)
 続きまして、再生、リサイクルされた原料を供給されている方、それを使って成形品を作られている事業者の方につきましては、「含有する化学物質に関するデータ収集が困難になるケースも考えられる。そういった場合はどのように対応される予定ですか」とお伺いしております。
 その結果、先ほどと同様に、「データが入手可能な再生原料のみ調達する」という方が今のところ一番多いということでございます。こういったことが、原料供給の判断基準として、情報が入手できるかどうかということが一つのメルクマールになるのではないかということでございます。

◎結果(5)-1 対応と課題(EUに輸出されるか不明な場合)
 続きまして、成形品、化学物質にかかわらず、EUに御社がつくられた製品が輸出されるかどうか、現時点で把握されていない事業者――具体的にいいますと、自社では国内あるいは第三国に製品を供給しているのですが、それがめぐりめぐって形を変えてEUに供給されているかどうかという情報を現時点で把握されていない方にお伺いした問です。
 まず、最初が「製品を納入する事業者がどのような対応を求められることになるか、把握されていますか」と聞いたところ、これについては「把握されている」という方が2割程度、対応が必要になる可能性があるんですが、それについてのご理解は低いという状況でございます。

◎結果(5)-2 対応と課題(EUに輸出されるか不明な場合)
 同様な問ですが、化学物質に関連するデータを納入先に提出する必要が生じる場合があるということで、「その準備は進められていますか」と聞いたんですが、これについてもほぼ同様、2割程度の方は準備をされているという状況でございます。REACHの対応が求められるということ自体、今のところ、知らなかったという事業者の方もいらっしゃいます。

◎結果(6)-1 対応と課題(流通事業者)
 最後に、流通事業者でございます。流通事業者の方は、「REACHへの対応が必要になると認識されていますか」という問は、約4分の3の方が認識されている。よく認識しているプラスある程度認識されているということでございます。

◎結果(6)-2 対応と課題(流通事業者)
 あと2つお伺いしておりまして、「EU域内に供給する製品のリストが作成されていますか」という問、あるいは「だれが登録するのか、あるいはそもそも登録する必要があるのかどうか、ということについては、ご確認されているでしょうか」というお伺いをしたのですが、これについてはいずれも7割程度の方が「これから作業を進める予定」というご回答でございました。

◎結果(7)-1 REACHに対する全般的な評価
 最後に、またすべての事業者の方にお伺いしております。「御社ではREACHをどのようにとらえていますか」という全般的な評価をお伺いしたんですが、これにつきましては、「肯定的」「どちらかと言えば肯定的」という方が約3割、32%です。「どちらかと言えば否定的」あるいは「否定的」という方が24%ということで、今の時点では肯定的な評価が若干上回っていると。これにつきましては、川上、川中、川下といった業種であるとか、あるいは大企業、中小企業といった規模にかかわらず、同様の傾向が今のところ示されております。
 それでも、なお、現時点では「どちらでもない」「評価ができない」という方も相当程度いらっしゃるので、これらの方がどちらになるのかというのは将来的な検討を確認していきたいというふうに思っております。

◎結果(7)-2 REACHに対する全般的な評価
 最後に、「REACHの導入は、御社の事業分野にどのような変化を与えるとお考えですか」と聞いております。これにつきましては、選択肢としましては、まず国内の競争力と国際的な競争力を伺っております。全体で見ますと、いずれにしても、「向上する」というふうにお考えの方のほうが多いという傾向になっております。若干、事業形態によって傾向が異なっている場合がございます。それから、「取扱い製品の絞り込み」という方もいらっしゃいます。それでも、なお現時点では「その他」という方が相当程度ありまして、情報がまだわからないというお答えをたくさんいただいております。

◎終わりに
 以上で発表を終わりますが、たくさんの方にご回答をいただいておりまして、さらに本日、実は「アンケートに答えたから来たいんだ」という方もいらっしゃったのですが、会場の規模が限られておりまして、ご参加いただけない方もいらっしゃいまして、ご協力いただいたことにここで感謝申し上げたいと思います。
 結果につきましては、環境省ウェブサイトの方で随時新しい情報をお伝えしたいと思っておりますので、ご参照いただければと思います。ありがとうございました。(拍手)

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(司会)
 続きまして、パネルディスカッション「欧州REACHと我が国の対応」に移らせていただきます。コーディネーター、パネリストの皆さま、どうぞご登壇ください。
 それでは、ここからの進行はパネルディスカッションのコーディネーターでいらっしゃいます関東学院大学法学部、織朱實助教授にお願いしたいと存じます。それでは、織先生、よろしくお願いいたします。

5. パネルディスカッション「欧州REACHと我が国の対応」

 
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(織コーディネーター)
 では、ここから司会をさせていただきます、関東学院大学の織と申します。私の専門は環境法、行政法で、化学とは直接は関係ないのですが、PRTR法の制定から化学物質管理について議論に加わらせていただいておりまして、先ほど大井さんから説明がありました中央環境審議会の化学物質政策の在り方の議論にも入らせていただいております。
 時間ですが、5時が終了時間になっているのですが、実はかなり時間が押しておりますので、申しわけないのですが、もしかしたら15分延長するという前提で議論を進めさせていただきたいと思います。
 さて、先ほど会場からいろいろな質問があったように、REACHというのはいろいろな関係者がかかわってきているので、ここに来ていらっしゃる企業の皆さんの関心事は細かい物質がどうなってくるのだろうか、自分たちの適用はどうなるのだろうか、自分たちはどうやって対応していけばいいのかということだと思います。しかし今回はもう少し大きな観点からこのパネルディスカッションをしていきたいと思っております。
 というのは、REACHは、今までは化学物質管理というと化学会社だけが関係しているというふうに思われていましたが、今回は、川上の化学会社だけではなくて、川中の部品メーカー、川下のいわゆるメーカーさん、それから消費者と、すべての関係者、サプライチェーンを通じてどのように情報を伝達していくのか、どのようにコミュニケーションをとっていくのかということが非常にキーポイントになってくるかと思います。ですから、それぞれの関係者がREACHに対して、どういう関心を持っているのか、どういう点を問題として考えているのかということについてお話しいただいて、その上で、一体、REACHというものの新しい考え方が、我が国の化学物質管理にどういう影響があるのかということについて議論していきたいと考えております。

 

 
  そういった観点から、今回は川上の化学会社から住友化学の奥村さんにご参加いただいています。それから、川中の部品メーカーとして村田製作所の片岡さん、川下のメーカーとして、電機関係で日立の市川さん、自動車関係でトヨタの浅田さん、またキーパーソンとなってくるNGOの代表としてTウォッチの中下さんにご参加いただき、さらに環境省の森下さんより化学物質管理政策全般について伺いたいと思います。
 では、今のご紹介の順番でそれぞれ自己紹介を含めて、化学物質管理の取組みについてお話しを伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。
 
okumura

(奥村)
 住友化学の奥村です。よろしくお願いします。

◎REACH
 お手元の資料の方には英語で書いてあるかと思うんですが、ここは日本だから日本語でつくれと言われて、慌てて私なりの独断に基づく訳をつくりました。
まず、そのREACHの目的ですが、そこに引用してあるのはDGエンタープライズのホームページに出ているものをそのまま持ってきたんですが、平たくといいますと、人の健康及び環境の保護。これは、私、社内でレスポンシブルケア室というところにおりまして、まさに社内に向かって叫んでいることなので、これは全く同感で、賛同できると。
 それから、もう一つは、ヨーロッピアンケミカルインダストリーと書いてあるんですが、欧州の化学産業の、要するにどう言うたらいいんでしょうか、ビジネスの世界ふうに言うたら、競争力を高めると。この「欧州」というのがついていなければ、全く、これ、私も賛成なんですけれども。
 そういったことで、現在、直接ヨーロッパに輸出しておる化合物をリストしまして、データギャップを調べるとか、そういう作業に既に着手しております。これはあとでいろいろなガイダンスが出てくると思いますので、それに応じて修正していくということです。

◎次、お願いします。
 このREACHの考え方、私のやっている仕事と一緒だと申し上げましたけれども、概念といいますか、理念といいますか、これはすばらしいと言わざるを得ないんですが、よく見てみますと、本当にこんなことできるのかな?という懸念を持っています。
 つまり、およそ3万物質と言われていますけれども、3万のSIEFというのができることになりまして、会社によって物質の数は違うと思いますが、例えば、2,000物質ほど持っておれば、その2,000のSIEFに参加して、これは会議の数だけでも、情報のやりとりでも、ものすごい量になるなと。グルーピングといいますか、いくつかの物質をグルーピングして一つにまとめるというようなことはもちろん考えられると思うんですが、それでも桁違いに下がるというふうにはちょっと思えにくいなというふうに思っています。
 それから、さらにコンソーシアム。法律上、これはないらしいですが、みたいなものをつくってやっていかなければしようがないと。そのときに、例えば異性体とか同族体で、SIEFは1つだといっても、現実にやっている人は違うということで、また違うコンソーシアムが必要かもしれない。そうすると、そのSIEF以上の数が出てくるのかなと。では、一体、いくつになるのかなというのをものすごく懸念しております。
 それから、もう一つは、先ほど環境省の方の発表でもOECDのHPVプログラムにICCAとして産業界が協力しているという話がございましたけれども、それでやってきたんですが、つまり同業者が一緒にデータを集めるという作業なんですが、この場合は、直接、自主的なプログラムですから、ビジネスに結びついていません。ただし、今回は登録をしないという決断をすれば、このビジネスをやめるということを意味します。化学の特性として、ある物質を作っている人が集まると、大体、原料とか化学反応の関係で、よく似たものをいくつか作っていると思うんですが、SIEFで「うちはもうこれはコスト的に合わないからやめた」というので、そこから抜けますと、自動的にビジネスをやめるというのを宣言することになります。みんなで一緒になってやめてしまったと。これは不当に競争を阻害しておるというので、後で怒られるのではないかなと。
 この間、日本の重電メーカーがものすごい課徴金を取られていましたけれども、「入札に応じない」ということを決めた。それがけしからんというので、普通は入札に応じて、談合しておった、それで怒られるんですが、応じないのも欧州の、しかも域外適用がありますので、日本で日本人だけが集まって話しておっても域外適用ということになりますので、これ、ものすごく心配しています。
 そんな意味で、何らかの非関税障壁につながらないかなという懸念です。

◎最後のもう一枚、お願いします。
 化学物質の適正管理というのを我々やってきたんですが、これは言うまでもなく、川上、川中、川下、それぞれ化学物質を取り扱っているところで適切に取り扱ってもらわねば困ります。これはもう完全に自分の責任になりますから、それが原則であると。
 そのためには、情報の適切な交換。ややもすると川と間違って、上流から下流にしか流れないと思っておられると大きな誤解でありまして、一体、どんな使い方をしているのか、最終的に消費者に行くときは、どういうことになっているのか、教えてもらわないとこちらのアドバイスのしようがない、こういう事態です。
 それから、既存物質――今の話題ですけれども、例えば、皆さん、考えてもらいたいのは、もう何十年とやっている塩酸みたいなものをだれかに売っておると。私がたまたま市川製作所に塩酸を売りましたと。市川製作所の人はそれを全然知らなかった、それでやけどした、どないしてくれると。
 極端な言い方をすると、そういうことがないように、我々、情報提供していますので、適切に読んでいただきたいし、また逆にそれを人や物に使うのか、使わないかというのはこちらに教えていただいたら適切なアドバイスができます。以上です。

 

 
 

(織コーディネーター)
 ありがとうございました。片岡さん、お願いいたします。

 
kataoka

(片岡)
 村田製作所の片岡と申します。

◎自己紹介
 川中ということで呼ばれたのだと思うんですが、今、現在は、仕事は、主として製品環境にかかわる業界活動をやっておりますけれども、その中で、化学物質に関した仕事をメインにしております。実際、川中でございますので、データを提供というか、プレパレーションを購入してアーティクルに変換する、そういった最初の部品ですね。それを提供するので、含有量とか物質の名がそこで固定されます。
 ここに書いております、3番目のJGPSSI(グリーン調達協議会)の管理ガイドラインの中では、オリジナルパーツという表現をいたしました。最初に、アーティクルに変換する部品という意味で、そういう名前をつけて管理をしていこうというような趣旨で、3番目の仕事は成立しているわけですが、あくまで重要なのはプレパレーションを扱って、最初にアーティクルに変換するというところが正確な情報を提供する限り、あとは伝言ゲームでいけるずです。そういう考え方ですね。そういう意味で頑張っております。
 実際に、順序が逆になって申しわけないんですけれども、そういった仕事の仕組みを考えつつ、どういった正確なデータを情報提供するのか、というようなところのツールなり、考え方なりを、2番のJAMPの中で検討しているということになります。そこは、まだちょっとこれから皆さんの知恵を絞りながら、一生懸命やりたいというところですね。
 1番目は、RoHSを初め、EU委員会にコンサルティーションに応じているのが主体になるんですけれども、日本としては鉛フリーハンダもちゃんとできているんだから、といって、「鉛フリーハンダの除外なんかするのはおかしい」という意見を出している。日本だけがそういうような除外追加にクレームをつけたんですが、ここは日本ですからいいかなと思うんですけれども、アメリカの企業がドカドカと「鉛の除外を認めろ」とかなんか言っていますけれども、これから論争せなあかんと。そんな仕事をしております。
 具体的に、会社の仕事になりますと、今、お隣の奥村さんがおっしゃっていただきましたように、今度は素材側からものを買って、つくっていかなあかんわけですから、要は現実に生産しないとかいうことになってきますと、我々から見れば調達リスクということになります。そういうようなものを回避しつつ、正確なデータを川下の、これから市川さんのほうに提供させていただかなくてはならない。
 最後に、あの自転車、ロボットですけれども、あれ、絶対、倒れないんですね。川中としては、川下側からあるいは川上側からいろいろ要件を言われても、絶対に倒れないように頑張っていきたい。私の頑張りたいという意思表示で自転車を出しました。終わります。

 

 
 

(織コーディネーター)
 ありがとうございました。それでは、JAMPの話しも出たところで、市川さん、お願いいたします。

 
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(市川)
 ◎日立の市川でございます。私は、二股をかけて今まで働いてきまして、同じ日立ですけれども、コンサルタントという仕事と環境本部とあります。4月からは、ラッキーなことに、環境本部のほうに専従になりますので、より、うちの会社をしっかりさせなければいかんというところで力を発揮することになります。

◎日本企業にとってのREACHの困難
 私どもの会社は、幅広い範囲の業務を持っていますので、川上、川中、川下、全部入ってはいるんですね。しかし、もちろん、川下としての役割がかなり大きいわけであります。そうした中で、ざっと見て、私、REACHの項目の中で、特に日本の企業にとって難しいというのは、このピラミッドであらわせるのではないかと思ったんです。
 この底辺になるのは、右上からいきますと、まず既存物質が対象であるということですね。これは、普段から使っている物質ですから、対象が広い。それから、左側に回りますと、成形品というやつが対象になる。成形品というのは、これまで対象になったことがないわけでして、私たちは、ほとんど成形品をつくっていますので、自分たちがいきなり化学物質管理という法律の世界にデビューした瞬間になります。
 それから、Downstream userの義務というやつですね。やはり化学物質をつくっていない我々が義務を負うということで、この三角形が底辺で、頂点にあるのは、これは実は欧州域外でのサプライチェーンの情報伝達なんですね。欧州の中では、アヴィラさんがおっしゃったように、33条等があって、サプライチェーンの情報の伝達が義務として行われていくわけです。でも、日本にはそんな義務はありませんので、私たちは情報が来ないのに、ヨーロッパに輸出するときに、その情報は提供しなければいけないのです。ここのところが一番大きな問題だと思っております。

◎サプライチェーン情報共有の新たな挑戦
 今、JAMPのお話がありましたが、JAMPという協議会を作ったのがつい昨年で、私や片岡さんはじめ、どうしてもこういうものが要るなという有志が集まって、細々とはじめてから、今は88社の方が入っていただいている。実は、ここにいる企業4人はみんなメンバーだという感じになっているんですけれども、考え方はみんな一緒です。今まで業界内の活動というのは、比較的やりやすいんですけれども、業界を超えた情報伝達というのはあまり例がなくて、JAMPのメンバーは川上、川中、川下が3分の1ずついるんですね。みんな真剣に毎日議論していまして、どうやったら、情報をきちんとお互いに伝達できるか。なにしろ日本には33条がないわけですから、そういうことを話し合っています。

◎JAMPは同時に世界を目指します
 最後ですが、JAMPにJがついているというのは結構評判が悪くて、今週は、実はIECという国際電気標準会議の東京大会があったんです。環境部門ですね。私はそこの国際役員をやっていますので、1週間、いろいろな会議に出てきましたけれども、このJAMPの話も2回ほどしました。このJを、もちろんすぐにもGに変えます、globalに変えますというふうには皆さんに申し上げているんですけれども、アーティクルマネジメントはもともと私たち日本の中だけで当然考えておりません。
 そういう意味で、皆さんもぜひこれにご参加いただいたら、REACHの対策のために一緒に考えようというグループができていくのではないかと思います。どうもありがとうございます。

 

 
 

(織コーディネーター)
 ありがとうございます。では、続いて、トヨタの浅田さん、お願いいたします。

 
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(浅田)
 トヨタ自動車の浅田と申します。このような化学物質の場に自動車会社が出てくるというのも、時代が変わったかなと個人的には思っております。
 私たち自動車会社でこのような化学物質というのは、実は欧州の廃車指令ということで、鉛、カドミ、六価クロム、水銀の4物資をコントロールしたことの経験が非常に使えるのではないかと思って、きょう、この情報伝達を中心にお話しさせていただきたいと思っております。

◎自動車業界の化学物質管理状況
 私たち自動車業界で化学物質の管理といいますと、まず生産部門でやっていることがございます。これは、どこの工場でもやっていることで、ごく当たり前で、製品に含まれる、アーティクルに含まれる化学物質ということは、実はほとんど管理しておりませんでした。これが初めて来たのが2003年から発効した欧州のELV指令でございます。対象は4物質でございますが、これを把握するだけでも非常に難しい状態でございました。

◎欧州ELV(廃車)指令について
  この欧州ELV(廃車)指令をもう一度振り返ってみますと、2つの部分からなっています。リサイクル可能率。リサイクル可能率をなぜここで言っているかというと、ここで実は「サプライチェーンを通じて収集した部品構成材料情報を用いてリサイクル率を出せ」という要件が入っているということでございます。これで、私たち、サプライヤーを管理しなければいけないという事態になりました。
 次に、この環境負荷物質。さっきの4物質でございますが、これについても認証になるということで、全部データを揃えなければいけないという、非常に難しい対応をしております。

◎参考:欧州ELV指令環境負荷物質規制日程
 これが欧州廃車指令の製品関係の規制のタイムテーブルでございます。私たちの場合で、2003年でかなりの部分、規制されまして、部品点数で8,000点、つい最近終わった六価クロムは20万点に及ぶ部品を設計変更して、全部、変えなければいけないという、非常に大きな仕事となりました。

◎トヨタでの製品含有環境負荷物質管理仕組み
 このため、弊社におきましては、全社的な取組が必要だということで、かなりいろいろな仕組みを変えました。例えば、図面を書く設計部門では、管理する物質名を全部図面に書くとか、技術標準をつける。調達部門におきましては、先ほど言った環境データを出していただくということを部品取引基本契約すべて改訂するとか、また宣言書を出していただくということをやりました。
 品質保証部門では、抜き取り検査も行っております。通常の品質監査と同じような形をすべて行うということで、この4物質の保証をやっております。これだけで非常に多くのことになっています。

◎自動車の構成部品
 というのは、自動車というのは、部品点数は非常に多いと。1台の車、実は自動車会社で管理しているのは、一番向こうのボディだと白いボディ、あれで1部品点数なんですね。エンジンも1部品、トランスミッションも1部品。
 トランスミッションを例にしますと、これが細かい部品にすると2,500くらいになります。ボディも、当然、下の図のように細かく分かれてきます。これ1個1個に品番がついておりまして、このレベルで管理しなくてはいけない。サプライヤーさんが全部違うものですから、管理しなくてはいけないということで、実は最近数えましたら、この間のカローラで、ネジまで入れると15万点くらいですね。非常に細かく分かれてしまうというのが実態でございます。
 このサプライチェーンをどうやって伝言ゲームするかというのが、こういう材料管理の一つの大きなキーだと思っております。

◎IMDS(International Material Data System)概要
 自動車業界では、このELVを行うに当たって、ドイツの自工会が中心になりまして、IMDSというシステムをつくりました。2000年からこれは稼働しております。
 このシステムにつきましては、欧州系の自動車メーカーとルノー、ヒュンダイ、トヨタでスポンサー会議というので運営しております。この運営費がなんと6億5,000万円、これは毎年払っております。これは自動車会社がすべて負担しております。ただ、サプライヤーさんは、このデータを入れるための分析費用とか、そういったものをまた多大に払っております。
 会員は、ほとんどの自動車メーカーです。現在、このデータ数でございますが、実際に入力しているのが世界中で5万4,000社、ユーザーが14万人、総データが1,800万枚、これは部品単位でございます。構成までわかりますと、これの10倍程度になると言われています。
 今、現在の3分の1程度が日本企業でつくっております。日本の場合、自動車業界の場合は先ほどのJAMPではないんですけれども、業界をクロスでわたるこういうデータベースがあるものですから、かなりいろいろなことがやれております。ただ、残念ながら、4物質をやるだけでこれだけの負荷になっていると。

◎IMDSのしくみ(データ伝達の流れ)
  これがIMDSの仕組みです。先ほど言っていたように、普通の場合ですと、MSDSとかAISといったものが上流から流れてくるということですけれども、私たちは車を売るという単位がございますので、新車を売るときに、データをよこせということを言います。1台分の構成分データをとってくると。
 もう一つのキーコンセプトは、化学物質というのはすべて材料に含まれるという考え方をしております。材料のデータと化学物質のデータを別々に入れていただく、非常に精緻なデータベースとなっております。右下のほうに入れ方がございますけれども、この中で、例えば「鉛」とか入れますと、そこは赤く変わって、どういう使い方をしているか、用途情報を入れろ、という形です。
 最終的にデータを集めると、これは自動車をコンピュータの中でもう一度再構築するに等しいことをやっていく形になります。

◎IMDSの利用と利便性向上
 仕入れ先さんからこのIMDSを入れて、伝言ゲームをやるんですけれども、正直言って、入るのがなかなか大変です。サポートディスク、時には脅したり、なだめたりすかしたり、始まって5年くらいかかって、やっとレッドラインまで入るというふうになっています。
 それもサポートする上で、今、自動車会社は全世界共通で、統一の化学物質リストをつくっています。GADSLということで、これは住友化学さんが日化協さんの代表で入られて、一緒にやっております。これは毎年改訂していまして、現在、94物質、2,500化合物、キャスナンバーベースで登録されております。自動車会社はこの物質からデータを要求しないと。ただ、現実には弊社の場合は、まだ4物質だけでございます。
 もう一つは、中小企業さんが非常にやりにくいということで、エクセルベースのデータシステムも別でこれは動かしております。これは日本国内だけ運用でございますが、このように、REACHを目指す世界になった場合、サプライチェーンの管理をする、そこでコミュニケーションするということが非常に大変であると。ここに書いた、時間をかけながら、また、サプライチェーンが海外に伸びているということも考えながら進めないといけないということで、きょうは例をお話しさせていただきました。

 

 
 

(織コーディネーター)
 ありがとうございました。それでは、NGOの立場から、中下先生、お願いいたします。

 
nakashita

(中下)
◎有害化学物質削減ネットワーク(Tウォッチ)とは
 中下裕子です。私は、所属がTウオッチとダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議ということで、本日はお話しさせていただきたいと思います。

 もともと、職業は弁護士でございまして、実は日本弁護士連合会で2003年に人権大会の中で、化学物質問題を取り上げたシンポジウムを開催いたしました。「蓄積する化学汚染と見えない人権侵害」と題したシンポジウムを開催させていただきまして、その折、EUにも伺いまして、アヴィラさんがおいでの環境総局ではないんですけれども、企業総局の方にお話を聞かせていただきまして、ちょうどそのときREACHの草案が発表された当日、私たちが調査でEUの経済総局をお訪ねしまして、皆さん、非常に前向きに、「やるんだ」というふうな姿勢が示されましたので、それは非常に印象的に残っております。そして、それをまとめられて、ことしから施行までこぎ着けられたということに対して、心から敬意を表したいというふうに思います。
 私が所属しております2つのNGOなんですけれども、1つは、有害化学物質削減ネットワーク(Tウオッチ)でございます。これは、先ほどもちょっとお話がございました化管法が制定されまして、PRTR情報が出てまいりますので、それを市民サイドでいろいろと加工して、皆さんに情報提供することによって、地域の問題から広く地球規模に至るまで、有害物質削減に取り組むという、こういうことを目的として活動しております。

◎主な活動内容
 そういうことですので、ウェブサイトの開設についても当然のことでありますけれども、REACHにつきましても、2004年11月に初めての市民セミナー、国際市民セミナーを開催いたしまして、これまで2回、そして明後日も開催を予定しておりまして、こちらにもアヴィラさんにおいでいただくことになっております。
 こういうREACH国際市民セミナーを開催したときに、日本でもこういった大きな方向転換ですね。REACHは御存知のように、既存の40くらいの指令とレギュレーションを統合したもので、大変困難な作業だったと思うんですけれども、そういうことをEUが成し遂げられたということで、日本でもぜひそういう取組をしていただきたいということで、「化学物質汚染のない地球を求める東京宣言」を大会で、セミナーの会場で採択いたしまして、署名活動いたしました。そして、約2万人、この問題はなかなか一般の方に理解していただくのは難しいので、2万人でも大勢の方が理解していただいたなと私どもは思っておるんですけれども、これを提出いたしました。
 
◎ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議とは
 次のダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議なんですけれども、こちらのほうは日本で、いわゆるダイオキシンや環境ホルモン汚染が大きな社会問題になったときに設立したNGOでございます。私を含めて158名の女性弁護士が呼びかけ人になりまして、50名の学際的な発起人の方々。
 次のスライドをお願いします。

◎発起人
 こちらがメンバーなんですけれども、さまざまな分野の学者の方々や医師や作家や、法律家はもちろんですけれども、そういった学際的な発起人とともに設立いたしました。
戻していただけますでしょうか。
 代表は、立川涼という、日本で初めてダイオキシン汚染やPCB汚染を報告された環境化学分野のパイオニアでいらっしゃるんですけれども、立川が務めております。
目的としましては、物言えぬ野生生物と未来の子ども達に成り代わって、具体的な政策を提言し、ダイオキシン・環境ホルモン――これだけに限らないんですけれども、有害化学物質汚染による地球規模の危機といいますか、次世代の危機あるいは野生生物の危機といったものを回避する、ということを目的に、ある意味では政策提言に活動の主眼を置いたNGOでございます。

◎主な活動内容(その1)
 今までダイオキシン対策あるいは循環型社会、あるいは土壌汚染対策、容器包装リサイクル法とか、子ども環境保健法、最近ではアスベスト、あるいは鉛といったようなことについて、さまざまな提言を申し上げてまいりました。

◎主な活動内容(その2)
 御存知のように、化学物質に関しては、POPs条約が採択されておりますけれども、それについても、成立過程で国際的なロビー活動を行わせていただきました。
 さらに、さまざまなブックレット等も刊行しているという活動を行っております。
 以上でございます。

 

 
 

(織コーディネーター)
 ありがとうございます。では、森下さん、お願いいたします

 
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(森下)
◎今後の化学物質対策に関する環境省の基本的な考えと取組
 環境省の化学物質審査室の森下です。私のほうからは今後の化学物質対策に関しまして環境省がどういうふうな考え方をしているのか、あるいは問題意識を持っているのか、そして、どのような取組を進めようとしているのか、ご紹介させていただきたいと思います。

◎我が国の化学物質対策の今後のポイント
 まず、今後のポイントということなんですけれども、1つ目にありますのは、先進国の仕組みと親和性を持った効果的・効率的な管理スキームをこれからつくっていく必要があるのではないかという問題意識でございます。
 化学物質審査規制法は、1973年にできました。これは世界に先駆けてできた法律ということで、非常に有意義な、世界に誇れる法律だと思っておりますし、また非常によく考えられた、その後何回か大きな改正がありましたけれども、いい法律だと思ってはいるんですけれども、ただ、骨格を見たときに、非常に早くできたということもありまして、どうしてもハザード、有害性に主眼を置いた仕組みになっているのかなというような印象を持っております。
 ほかの先進国を見てみましても、いずれにもリスクということを非常にきちんと見ていくというアプローチをとっておられまして、そういった先進国の仕組みと今後親和性を高めていくというようなことが必要なのではないかという問題意識を持っております。
 それから、2点目のポツですけれども、世界最高品質の製品を供給できるよう、情報管理システムを導入すべきではないかということでございます。これは本日、JAMPの話もございましたけれども、REACH対応として大きな論点の一つではないかというふうに考えております。
 それから、3番目ですけれども、最近は化学物質、国際的な取引が非常に増えております。そういうことを考えますと、今後は国内だけではなくて、海外から流入してくる有害化学物質についても十分な目配りをする必要があるのではないだろうかというふうに考えております。
 それから、4点目ですけれども、リスク情報や技術ノウハウを国内で蓄積していく、それを将来の日本の発展のベースにしていくというようなことが重要なのではないだろうかという問題意識でございます。
 最後のポイントでございますが、さまざまな関係者、NGO、市民、国民の方々にご参加いただいて、そして理解を得た上で、化学物質対策に取り組むということが社会に認知されて、評価をされて、そしてそれがまた経済発展にもつながっていくというような世の中をぜひつくっていきたいというふうに考えております。
 
◎海外の動向を把握するために
 今、私どもが取り組もうとしていることを書いてございますけれども、まず、海外の動向をきっちり押さえていくということは重要だろうというふうに考えております。
 中でも化学物質は、最近はアジア、特に北東アジアで取引が増えております。そういう意味で、今後、日本と中国と韓国、この3カ国の連携が非常に重要だろうというふうに思っております。昨年12月に日中韓環境大臣会合が開催されました。TEMMと私ども略称しておりますけれども、この日中韓環境大臣会合におきまして、今後、この3国で化学物質管理に関しまして情報交換を進めていこうというようなことがこの中で合意されてございます。そのスタートとしまして、今月、3月中に事務レベルで日中韓の会合を持ってキックオフをしていこうというふうなことを考えているところでございます。
 それから、欧米と中国、韓国の動向でございますけれども、これにつきましては、公開シンポジウムを開催して、皆さまに情報提供していきたいというふうに思っております。3月30日でございますが、横浜で公開シンポとして諸外国における化学物質管理の最新動向を各国の専門家からプレゼンテーションしていただくということを考えております。欧州委員会から企業総局、アメリカからは環境保護庁の担当官、カナダは保健省、中国は環境保護総局、韓国からは環境部の担当官においでいただくということを考えております。
 現在のところ、唯一、中国の方とまだ調整中ということでございますが、かなり準備も整ってきているということでございまして、海外の動きを踏まえながら、我々、どう今後対応していけばいいのか、将来を考える機会を提供させていただきたいと思います。

◎さまざまな関係者が協調するために
 やはりポイントということになりますと、さまざまな皆さま方、関係者が今後協力していく、協調していくというところにまず尽きるのではないかというふうに思っております。ニーズといたしましては、特に今回のREACHの対応も含めまして、今後、川上企業だけではなくて、川中の企業、そして川下の企業、それぞれサプライチェーンを通じて連携した取組が必要ではないかということでございます。
 そして、情報提供、リスクコミュニケーションということを推進していくということによって、消費者、NGOの認知、理解を獲得していく、こういうことが今後のニーズになるのではないかと思います。
 今後の課題としましては、そういったこの取組を進めるために関係者の間で情報の共有を進めていくこと、これが必要ではないか。そして、さまざまな関係者が協力していく上で、将来の見通しについても、そのさまざまな関係者の間で共有していくということも大事なことではないだろうかというふうに考えているところです。以上です。

 

 
  (織コーディネーター)
 ありがとうございました。アヴィラさん、EUのREACHと異なる、日本のJAMPや自動車業界でおこなっているIMDSの話しをしました。どのように思われましたか。
 
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(アヴィラ)
 ご質問ありがとうございます。これだけ日本の産業界の皆さんが参加され、REACHに積極的に働きかけていらっしゃることを大変感銘を受けております。
 このJAMPといったような試み、これはとてもいいことだと思います。特に、これによって、現行のやり方、トヨタのほうからもおっしゃったような、実施、このELVの指令等の取組があると思いますけれども、これによっていかにこの規制の課題に取り組むべきか、そしてここで学んだ教訓をこのREACHとのコンプライアンスにおいても生かすことができるのではないかと思います。

(織コーディネーター) 
 REACHを川上、川中、川下の業界の方々がそれぞれどう受け止めていらっしゃるのか、現在の課題、あるいは欧州委員会へのご要望について少し伺いたいと思います。
 先ほど片岡さんから、正確なデータをどうやって出すかというお話しがありました。また市川さんからは、欧州ではもう情報のネットワークができている、日本ではできていない中、どうしていこうかというお話しもありました。奥村さんからは、実際にSIEFが3万もできて、実現可能かどうかというような課題も出されております。これに加えて、新しい問題がありましたら是非伺わせてください。それからアンケート結果で少し意外な結果が出ておりまして、私が産業界の方に今までお話を伺っていた感じでは、REACHについて否定的なご意見が圧倒的に多かったのですが、アンケートでは肯定的な意見も出ています。
 ということは、REACHが何か日本の産業界にとってプラスに、ビジネスチャンスになってくるような、そういう側面のお話しも伺えればと思います。
 では、時間も押していますので、申しわけないのですが、簡潔に、川上の奥村さんからお願いいたします。

(奥村)
 先ほど申し上げたように、私は独占禁止法のことを一番心配しているのですが、それは置いておきまして、先ほど森下室長のお話の中に、サウンドサイエンスに基づくというか、そういう軸がなかったように――もしあったらごめんなさい、というのが残念だと思っているんですが、あくまでサウンドサイエンスに基づいて化学物質のリスク管理というのは考えていくべきであるというふうに我々は思っております。
 サイエンスに基づく限り、これは世界中、共通ですから、ヨーロッパの会社ができることは日本の会社もできる、ただ人手とお金がかかる。これはヨーロッパも日本も同じことで、そこは法律ですから仕方がないんですが、一方、これがハードウェアとしますと、ハードウェアは対応できると。ところがソフトウェア、これが何とも難しいといいますか、文化というか、商習慣が違いますね。先ほどご紹介があったアンケート調査のようなことになるのかもしれませんけれども、社内でREACHとはこうである、という話をしますと、事業部門によって、一発で理解できるといいますか、スッとわかるところと、何べん言うてもわからないところと、これが違いがあります。
 これはビジネスの性質にもよりますし、日ごろ、例えばヨーロッパで新しい物質をここ数年間上市してきたという人はかなりピンと来るわけですが、そんなこと、全然したことがないと。古いものを大事に、ビジネスを維持しているというような人は、そういう経験がありませんと、「はー? それ、なんや?」、そういう感じになりまして、アンケートのように「よくわかっている」ところと「よくわかっていない」というのが業態によって随分違うなというのが私の印象です。
 特に、日本は世界に冠たる総合商社に代表されるように、商社機能が充実しておりまして、それはビジネスを助けてきたと思うんですが、こういうケース、それがどちらに転ぶのかなというふうに思っています。
 したがって、ハードウェアについては人手とお金がかかるんですが、問題ない。ソフトウェアのほうは何か仕組みが必要だなと。JAMPももちろんその一つでしょうが、いろいろな業種があります、今、八十何社とおっしゃいましたね。正直、さみしいなというふうに感じております。

(織コーディネーター)
 ありがとうございました。では片岡さん、川中の苦悩というか、あまり直接出てこないところですが、ぜひそのあたりを・・・。

(片岡)
 このアンケートでもありましたように、会社の中で一般的に教育することに対してはまだまだこれからということですね。私どもでも同じでして、ただ、REACHはある意味では肯定的に評価しています。それは会社の中で、プレパレーションのものとアーティクルのものと混在しているんですね、川中があるえゆえにね。川中以外でも混在していますけれども、特に混在している。
 そうすると、適正なものの判断をやはりプレパレーションであったり、アーティクルであったり、その役割について議論していかなくてはならない。そういう意味では、登録があって、届出があって、認可があって、制限がある、それは非常に適切な、正しい考え方だと思うんですね。
 逆に、RoHSのほうは、最初から6物質禁止ありき、という形で欧州が入ってきましたので、今から思えば、REACHを先にやって、それからRoHSをやればすごくわかりが良かったのではないかと思っております。

(織コーディネーター)
 なるほど、おもしろいご意見だと思います。市川さん、お願いいたします。

(市川)
 今のRoHSのことにも関連しまして、私、REACHがいいなと思いましたのは、レストリクションから入った場合、ちゃんとした情報管理するということ以前に、遵法であるという部分のサインだけいただいて、あと自分たちは管理をしないで過ごすという人が実は非常に多かったと思うんですね。RoHS指令は、それでもまだ良かったかもしれないんですけれども、ある意味で、REACHというのはきちんと化学物質の含有についての情報を伝えていきましょうというポジティブな姿勢で、この大きな違いは、測る・測らないにも関係してくるんですね。
 いまだに、RoHSの物質を測ろうという人がいるというわけなんですけれども、それはある意味でばかげた話でして、もしこのSVHCのリストが欧州委員会さんの言うように1,000物質を超えるほどのものであれば、測るという考え方は決定的にあり得ない。
 ですから、やはりきちんと管理をしていきましょうというマネジメント側のアプローチがこれからむしろエンカレッジされてくる、これによって盛り上がってくると思いますので、その点では川下としても非常に評価したいと思います。

(織コーディネーター)
 ありがとうございます。浅田さん、どうでしょうか。

(浅田)
 REACHの評価についてでございますけれども、まず、一般的には、私たち組立メーカーが「材料の中のことをわかっていなかった」ということをもう一度見直すという意味では、非常に意味があると思っております。これはまた同時に、社会の中で、最近、化学物質のVOCとかいろいろなことで関心が高まっている中、これは非常に今の社会の動きに合致した動きだということで評価しております。
 ただ、実際にお願いしたいことは、住友化学の奥村さんが言われたように、非常にたくさんの物質をいっぺんにやるのではなく、やはりプライオリティづけとか、実際にやれるのはどこかということを議論しながら、ある程度、企業の自主性をいかに伸ばすかという形で進めさせていただきたいと考えております。

(織コーディネーター)
 はい、ありがとうございます。中下先生、NGOとしてどうでしょうか。

(中下)
 REACHについては、本当に画期的な、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、画期的な法律だと思うんですね。それはなぜかというと、当たり前のことなんですけれども、私たちが使っているものについて何が含まれていて、これがどのぐらいの毒性があって、我々に対してどのくらい危険性があるのかというようなことがわからないで、やはり現実にはほとんどのものを使っているわけですね。
 こういう体制では、持続可能ではないんですよ、と思うんですね。私は弁護士でこういうことをやっているものですから、やはりシックハウスであるとか、化学物質過敏症の患者さんのご相談を受けるんですけれども、残念ながら、これは何が原因でこうなったか、ということの特定は非常に難しい。でも、かかってしまうと、日常生活一つすら、まともにできない。あるいは、子どもさんは学校に行くことすらできない。こういう人権が奪われるわけなんですね。
 私たちからすると、我々が人工のものをつくり出して、自分の生活の利便性のためにつくり出したわけですけれども、それによって被害をこうむってしまうのでは、何にもならないんですね。だから、やはり安全に管理して使うという発想に立ったときには、REACHのような基本的にデータはわかったものを使う、その中でも特に懸念なものについてはきっちりとしたリスク管理をした上で使う――これはもう当たり前のことだと思うんですが、残念ながら、日本の法制度というのはそういうふうになってこなかった。もちろん、日本だけではありません。各国でもなかなかそれは難しい問題でした、既存物質の問題は。
 でも、それをEUはいち早く決断されて、転換されたということで、私は大変高く評価していますし、先ほど森下さんからお話もありましたように、化審法というのは、日本はカネミ油症事件が起きて、これを反省して、その教訓の中で、世界に先駆けて、これ、つくったんですね。今、日本が何をすべきか、ということだろうと思うんですね。ここを考えていきたいなというふうに思います。

(織コーディネーター)
 熱く中下さんに語っていただきました。森下さん、いかがでしょうか。

(森下)
 サプライチェーンでの情報共有ということについて、ちょっとお話しさせていただきますと、私はJAMPのように、自主的に事業者の方々が製品中の化学物質の情報を共有していこうという、すばらしい動きだというふうに思っています。ぜひ、こういった取組が進んで、さらに発展していくということが非常に望ましいと思っております。
 こういうふうに製品中の化学物質情報を把握していくこと、これを何から何まで、例えば国が規制をかけてコントロールしていく、一から十まで目配りをしていくということはきっとあり得ないことだろうというふうに思っています。むしろ、事業者の方々の自主的な取組を尊重して、それをうまく機能するように、例えば私ども国はどういうふうな役割を今後担っていくべきなのか、そういったことを考えたいというふうに思っております。
 ちなみに、ご参考でございますけれども、冒頭で、海外から流入してくる有害化学物質についても、国内のみならず目配りを行うべきだというふうに申し上げましたけれども、日本の市場に流通している化学物質の中で、例えば化学物質審査規制法の第1種特定化学物質に該当するようなものがごく微量含まれるというようなことも起こっております。私ども、来年度から「製品モニタリング」ということを始めようといたしております。これは製品中に、成形品とか製品とかいろいろ用語がありますけれども、どういった有害化学物質が含まれているのか、これを実際に分析するというようなこともやってみたい。
 といいますのは、皆さまが自主的に取組を進めておられますけれども、そういうグループに入っていない方々も多数おられるわけで、せっかく頑張っておられる方の努力が水泡に帰すということがないように、製品の中に何が入っているのかということもチェックする仕組みというものがやはり必要なのではないだろうか、というふうに思っております。

(織コーディネーター)
 ありがとうございます。会場の方からも、いろいろな細かい、「うちの製品はどうだろうか」という質問が多分あろうかと思いますが、少し大きな質問を私のほうからアヴィラさんに2つしたいと思います。先ほど、片岡さんや市川さん、浅田さんからもお話が出てきたように、今まで成形品と調剤を区別なくやっていたのが、今回はその区別をしなければいけないところが非常に大きいと思います。ところが、実際にはどれがプレパレーションなのか、アーティクルなのかというのが少しわかりにくいので、その辺の基本的な考え方はどういう思想に基づいているのかということ、また、認可の一番ポイントになる「意図的な放出」が、どれをもって意図的な放出になるかという2点をアヴィラさんに伺いたいと思います。

(アヴィラ)
 ご質問、ありがとうございます。私、こういう機会を使って、いくつかコメントもしたいと思います。これまでほかのパネリストがおっしゃったことについてもコメントしたいと思います。
 当初、私はあまりお話しするつもりはなかったのですが、しかし、いくつかどうしても申し上げたいことが出てきましたので、あえてお話しさせていただきたいと思います。
 まず、欧州委員会の立場から見た場合、このREACHは決して課題が小さいとは思いません。これは些細な規制ではありません。このようにつくられ、そしてまたいろいろな当事者によって進化してきたものでありますので、コンプライアンスの実施が非常に難しいというものもあるということは十分わかっております。
 もう一つ、解釈の上でもいろいろな課題があると思います。今、言われたようなご質問からもわかるように、解釈が難しい部分があると思います。これについてはあとでお話ししたいと思います。
 また同時に、私たちは誇張してもいけない。ですから、課題が大きすぎると必要以上に誇張してはいけないと思います。例えば、独禁法に関してのお話もありましたけれども、REACHの存在によってすべての独禁法がだめになるということではありません。ヨーロッパにおいてもありますし、REACHに適用される、そしてまたこの法律に基づいて保護されることはあると思います。
 それから、またシックハウス症候群が何であるかということについても、私たち、3万の物質を特定し、この3万の物質の1t以上のものに関しては登録しなくてはいけないと。そして、この3万のうち、2万が1から10tの間に該当すると思っております。ですから、この1から10tの間に含まれるものは非常に限られていると思います。私たちはコストを負担するということに関しては、既にあるもの、そしてないものということは、それだけの話であります。
 それから、またこれは物理化学的性状の話をしている。いわゆる、これは非常に基本的な情報であるということを理解していただきたいと思います。必要以上にデータを共有してほしいということは申し上げていないので、これが3万物質に関することであります。
 もちろん、これは非常にチャレンジであると。コンソーシアムを開き、そしてまた共同提出が難しいことであることはわかっておりますけれども、SIEFがあります。例えば、ある物質、100tのものと、これは2万のSIEFとおっしゃったのですけれども、それからまた1,000t以上のものは同じものとして考えてはいけないと思います。
 それから、もう一つ、本当の課題は、先ほど話がありましたように、古いものであります。古き良きということでありますけれども、こういったものが問題だと思います。ですから、このREACHはもっと厳しい規制となっておりますし、既存物質に関しても非常に厳しいものになっております。今まで以上に多くの情報を求めることになります。既に上市されている10キロ以上のものですね。私たちは、新規物質に関してこの要件を変えているというのは、古いものがあるゆえにであります。これは課題であることはわかっておりますけれども、しかし、これはトレードオフとも言えるでしょう。この既存物質に関して、この99%の物質ですね、古いものについてもっと知りたいということで、むしろ古い物質の方の情報を欲しいと。そして、新規物質に関しては要件を少し緩めていると言えると思います。
 それから、また、成形品と調剤の違いということに関してですが、これはなかなか解釈が難しいところだと思います。
 さて、成形品ということの定義でありますけれども、成形品とは何か。これは、調剤の中でも特定の形、表面を持っている、機能上、機能を果たすためにこの形をとっているものを指しております。ですから、これは企業によってバランスをとることが必要でしょう。もちろん、私どもの方でもガイダンスを用意します。これに関して今仕上げている最中であります。これは非常にチャレンジの多い部分であることはわかっております。
 私たちは、既にガイダンスがほとんどでき上がっていたんですけれども、いろいろな加盟国、利害関係者から線引きに関してコメントが来てしまいました。これはすべていずれウェブサイトに公表されます。それまで、私の言うことをちょっと注意をもって聞いていただきたいと思いますけれども、形、デザイン、表面ないしは化学構成、機能に基づいた形で決まっているか、ないしはそうではないのかということ――半々であったら、これは調剤に入ります。
 もう一つ区別しなくてはいけないのは、ここで成形品の話をしているか、調剤の容器の話をしているか。例えば、調剤を含んだスプレー缶、これは調剤がたまたまパッケージに入っていると。缶そのものは成形品かもしれませんけれども、中に入っているもの、これは調剤で、別のものと考えていただきたいと思います。ですから、使い方も違ってきます。一方は調剤であり、もう一方はパッケージ、容器のほうは成形品になります。
 これは、ほかのケースにも当てはまると思います。例えば、プリンターのカートリッジですけれども、この場合には調剤が一方であります。機能するための技術、カートリッジそのものがプラスチックでできておりますけれども、その他の材料を含んだものがあります。これは特定の形、特定のデザインを持って機能を果たしている、これは成形品ですが、中のインクは調剤になります。
 それから、もう一つが「意図的な放出」ですね。これがどういう意味かということなんですけれども、私たちが使う場合は、通常、予見可能な使用条件のもとでの「意図的な放出」と言っております。「意図的」という言葉が、今、長い文章を申し上げた中で重要な部分であります。「予見可能」――例えば、成形品の製造者にある程度の本質があることが想定できると思いますが、場合によっては、これは使用上、意図的なものではないかもしれません。受け入れることは可能かもしれない。使用することの結果、そうなってしまうことはわかるけれども、しかし、機能のための意図的なものではない、というところ、これが重要であります。
 例えば、繊維の例を挙げたいと思います。染料がありますね。染料が色落ちすると。色落ちしないほうがいいんですけれども、いつまでも新品同様であってほしいと思うんですけれども、しかし、通常の条件のもとで色落ちをするということがわかっていますが、これは意図的な放出ではありません。ただ、繊維によっては意図的に放出するものもあるわけです。例えば、ファッション上、そういったものもあるでしょう。特定のもの、ジーンズなどはそうですね。あたかもブリーチしたようなもの、あたかも色落ちしたかのように見せると。ただ、これはわざわざ色落ちを意図的にしているわけですね。これによって、洗えば洗うほど、その点が強調される、これは意図的な放出と言えるかもしれません。
 なかなかわかりにくいことはわかります。細かいことは見なくてはなりません。今、ガイダンスをつくっている最中でありますので、近く、これが出されればと思っております。これを見ていただきますと、業界の皆さま方ももう少しわかってくれるのではないかと思います。皆さん、自問自答するしかないんですけれども、申し上げたとおり、業界の皆さんの責任のもと、判断をしなくてはいけないんですけれども、私たち、いろいろとお手伝いをしたいと思います。そのためのガイダンスも用意いたします。業界の方々がもっと簡単に質問に対する答えを見出せるようにしたいと思いますし、もう一つ、いろいろな事例のリストを作成いたします。例えば、調剤なのか、成形品なのか、容器の中に含まれている調剤なのか、どうかといったような事例も用意いたしますので、それを見て判断していただきたいと思います。

(織コーディネーター)
 REACHはまだまだ完成したものではなくて、これからガイドライン等で詰めていくというお話でした。成形品、それから調剤との違い、シェープとファンクション、またコンテーナーとの違いというのも非常に重要になってくるでしょう。意図的な放出ということに関してはサプライヤーの意図というものが重要になっているということを、ジーンズを例にお話しいただきました。
 これに関連してもしなくてもいいんですが、パネラーの方からアヴィラさんに何か質問がありますでしょうか。どうぞ。

(片岡)
 昔、意図的というのは、インテンショナリーということで、ELVで使った定義は、REACHで使っている定義と意味がちょっと違うんですね。だから、ここを間違えないように、どこかのガイドラインにきっちりアナウンスしていただきたいと思います。

(織コーディネーター)
 わかりました。ご要望ということですね。ほかに何か。

(市川)
 情報伝達にきょうは時間がないので絞ってご質問しますけれども、33条では、最小限、物質の名前ということが言われていますね。一方で、7条のほうでは、「過去にだれかが登録をレジスターしたものについてはノーティファイは要らない」と書いてある。ここのところなんですけれども、では、過去にだれかがノーティファイしたものについて、ダブルでノーティファイ、川下の人がまたする必要があるのか。もっといえば、こういうことを知るために、物質の名前だけではなくて、だれかがいつレジスターしたとか、だれかがノーティファイしたという情報も一緒に33条で流さなくていいのかなと。これについては、実際上、どのようにお考えですか。

(アヴィラ)
 ご質問とELVについてのコメント、ありがとうございました。
 意図的な放出について、もちろん、はっきりわかるようにということを念頭に置きたいと思います。今、現在、私たちがいろいろな条項、それからその解釈を見るに当たっては、どんな解釈を加えようとも、この規制の精神にのっとった形でなされるようにということを考えております。
 また、そのほかの規制にも合致した形で解釈されるようにということを考えております。ですから、ELVですとか、RoHS指令などのほうも念頭に置きながら、同じようなアプローチがとれるように、解釈できるようにということを考えております。ですから、その点をしっかりと見ていきたいと思っております。いろいろな意見が合致するようにしていきたいと思っております。
 今のところの解釈は、暫定的なものであります。RoHSにしても、ELVにしても、例えばRoHSの場合、ホモジェナイゼーション(均質)の話があります。これははっきりと委員会の決定の中に出てきております。そういう点も考えながら、REACHについても取り組んでいきます。
 さて、33条、7条の問題です。プレゼンテーションでも申し上げましたが、それぞれ背景が違いますし、意図も違います。非常に懸念される物質について、既に登録されていて、ほかの人が使用する場合であればこれは通知しません。というのは、これは既に登録されて、当局は情報を持っているからです。当局が既に情報を持っているというのであれば、もう要らないわけですけれども、33条、これはサプライチェーンのコミュニケーションに関するものです。それから、消費者に対する情報についてのパラグラフもあります。ですから、これは視点が違うのです。お互いに依存し合っているわけではないんですね。通知しなくてもいいと言ったからといって、消費者の方から質問があったら、安全に使用できるようにするために最低限の情報は出さなければならない、最低限、名前だけは出さなければなりません。

(市川)
 BtoBの場合はどうなんだろうか、ということを考えております。
 それから、7条のほうでは、もし、だれかが上流のほうで既に登録した場合にはやらなくていいということですが、例えば上流のほうで、だれかが通知したと。その場合は、やはり2度目も通知が必要なんでしょうか。

(アヴィラ)
 これは7条のことですね、33条とは関係ないですね。

(市川)
 ただ、33条と関連してお聞きしました。だれが通知をするのか、だれが登録するのか、そういう情報もあればとてもわかりやすいと思うんです。33条のもとでそういう情報も提供されれば、その情報を使うことができるからです。

(アヴィラ)
 実は、7条のほうは、通知の義務がなくなるのは登録されている場合だけです。通知ではありません。

(市川)
 では、だれかが通知をした、そして下流の方でも通知がされたと。また、別な人が、もっと下流の方の人が通知をした、同じ物質について、同じ成形品について、通知をするということはあり得るわけですね。

(アヴィラ)
 はい。でも、通知というのは、届出というのは非常に基本的な情報であって、登録とは違います。

(織コーディネーター)
 趣旨が違うということが一番のキーポイントになっているのかと思います。アローアンスとしていただいている時間があと5分ほどになってきましたので、最後に、皆さん方に、このREACHを受けて、日本の化学物質管理が今後どうあるべきかということについて、一言ずつご意見をいただきたいと思います。
 特に、奥村さんには、住友化学は自主的に年間100t以上の化学物質のリスク評価を進めていらっしゃいますので、そのあたりも絡めて、既存化学物質対策への取組について、1分でお考えをいただきたいと思っております。よろしくお願いします。

(奥村)
 中下さん、よく御存知のように、漢の劉邦は法三章と言いましたですね。秦の始皇帝が規則でがんじがらめにして世の中が動かなくなった、すぐ滅びましたね。したがって、規制はなるべく少ないほうがいいと。ただ、人健康とか環境が大事ですから、これは当然必要であると。
したがって、自主的な取組と法規制とのベストミックスといいますか、つまり化学物質というのは物質ごとに性格が千差万別ですので、なかなか一律に規制というのは難しいと。また、3万も4万もSIEFのようなものを日本でつくってやるのか、といったときに、電車が時刻表どおりに動くという珍しい国ですから、もうガチガチになったら、これはどうしようもない。REACHのほうは、私は、Learn by Doingといいますか、やりつつ学んでいくというか、試行錯誤といったら言い過ぎなんですが、そういう側面が非常にあるのではないかと理解しております。以上です。

(織コーディネーター)
 片岡さん、お願いします。

(片岡)
 川中ですと、アーティクルという概念が日本社会で初めて導入されます。ですから、これは教育とはもう切り離せないと。中学生、高校生はじめ、そういったところからアーティクルという用語がなじむような時代にならないと、実際の化学物質の適正管理というのはなかなか到達しない話ではないかなと、そんな気がします。

(織コーディネーター)
 ありがとうございます。市川さん、お願いします。

(市川)
 私どもは最後にヨーロッパにものを輸出しているという立場がありますので、法的責任を負うんですが、かといって、日立だけで、あるいはどこかの会社で単独にこれに対処するということではなく、サプライチェーンの企業の全体の協力の中で、一緒にこのコンプライアンスを実現していきたいと思います。

(織コーディネーター)
 ありがとうございました。浅田さん、お願いいたします。

(浅田)
 基本的には、昨年度の産構審での考え方と一緒ですけれども、規制と自主管理のミックス、あともう一つ、やはり先ほど皆さんが言われているようにサプライチェーンのみんなが一緒に議論して進めるということが重要だということで、これからもよろしくお願いしたいと思っております。

(織コーディネーター)
 はい、中下さん、お願いいたします。

(中下)
 私は、予防原則に基づく総合的管理のシステムをつくるということがすごく大事なことだと思うんですね。そういう点でいうと、確かに自主的取組は非常に重要なんですけれども、システムの大きな転換のときには、枠組みをきちんと決めないと正直者が損することになるんですよ。だから、ここは産業界も皆さん、一致合致して、どういうシステムにしていけばいいのかというところに叡知を結集していただきたいと思います。
 それから、先ほど、サウンドサイエンスに基づくとおっしゃったんだけれども、気持ちはわかりますが、3万の物質の複合的影響なんていうのは、わかりようがないんですよ。それから、次世代の子どもたちの影響というのだって、今測ったって、この子たちが大きくなるまでといったら、また大分先の話なので、わかりようがないんですよ。人間の叡知にも限界があるんです。そこを私たちが「無知の知」を自覚して、という、これが予防原則だと思うんです、そういうことを働かせる。
 ただし、それを働かせるにしても、総合的に管理システムがないと、省庁ごとに予防原則の温度差も相当違います。さっき成形品は化学物質の管理の対象、初めて導入とおっしゃったんだけれども、立派に日本では「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」という法律がございまして、それが本当は管理がかっているのに、かかっているという認識すらない。なぜか、それは20物質しか対象になっていないんです。そして、それは悪いんだけれども、厚労省の人数が非常に少ない――厚労省のせいではないんですよ、人数に偏りがある。そうすると、その省庁の予算によって、国民の健康の安全性に差が出てきていいんですか。そんなことはおかしいんじゃないですかと。
 だから、これは化学物質安全庁みたいなものをやっぱり日本もつくって、そこで総合的な化学物質管理をして、届出の方法もみんな統一して、企業さんに余分な負担をかけないで済むようにしたらどうかと。ここは、産業界もNGOも、そういう点では一致団結して考えていったらどうかなと思っております。

(織コーディネーター)
 ありがとうございます。森下さん。

(森下)
 今後の化学物質対策、日本の対策を考えるに当たって、国際的な動きを踏まえることは非常に重要だと思っています。欧州のREACHを見てみますと、これは欧州委員会もおっしゃっていますけれども、非常にアンビシャスな、野心的なものだという内容でございまして、私ども、これから学ぶことはたくさんあるというふうに考えております。
 ただ、欧州REACHの仕組みそのものが欧州域外でそのままベストな適用になるのか、ベストなスキームになるのかというと、それはちょっと違うだろうと。欧州REACH自身は、これまでの欧州の規制のベースの上に乗っかってできているというものでありまして、今後、我が国の対策を考えるに当たっては、我々が諸外国から学びつつ、どういった形のものが効率的で、本当に効果的な仕組みなのか、これを考えていきたいというふうに思っています。
 自主的な取組と規制とのベストミックス、これは非常に重要なことだと私どもも思っております。自主的な取組、特にREACHへの対応ということを皆さま方がこれから進めていくに当たりまして、できるだけ私どももアシストさせていただきたいと思っています。
 今日、いろいろアヴィラさんにQ&Aでお答えいただきましたけれども、実はお答えのものについては、きょうお配りしています資料集の中に答えが書いてございます。ぜひそういったものも参考にしていただきまして、またさらに私ども、情報提供も含めて、皆さま方にREACHの動向、あるいはそれ以外の欧州、アメリカ、カナダ、そういった国々の取組、そして中国、韓国の取組、情報提供をさせていただきたいと思っております。今後、皆さま方と情報共有をしながら、意見をお聞かせいただきながら、新しい仕組みをつくっていく、これが非常に重要なことではないかと考えております。

 

 
panel01
 
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(織コーディネーター)
 ありがとうございます。REACH、すなわち日本の化学物質管理政策というわけではもちろんなくて、そこから出てくる課題や、議題をいろいろ検討しなから、今後の日本の化学物質管理政策の在り方をみんなで考えていく場がつくれればいいと思います。
 先ほど森下さんもおっしゃったように、今回の添付資料でついているQ&Aで、皆さんの質問にもいろいろ答えていると思いますので、ぜひ帰ってご検討いただければと思います。不手際で15分オーバーしてしまったことをお詫びして、今日の会議を終わりたいと思います。ご清聴、ありがとうございました。(拍手)

6.閉会

(司会)
 ありがとうございました。それでは、コーディネーター、パネリストの皆さま、とりわけはるばる欧州からいらしてくださいましたアヴィラさんに今一度大きな拍手をお願いいたします。(拍手)
 本当にありがとうございました。
 以上をもちまして、化学物質をめぐる国際潮流に関するシンポジウム「第1回 欧州REACHと我が国の対応」を終了とさせていただきます。
 本日は、皆さま、お忙しい中、本シンポジウムにご参加いただき、誠にありがとうございました。
                                    -以上-

※日本語以外の言語による発言は、同時通訳されたものを文章に起こしています。実際の発言との整合について環境省では十分に精査していませんので、御了承願います。

 
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