目次に戻る平成16年度(2004年度)版 「化学物質と環境」
第1章目次に戻る 第1章 平成15年度初期環境調査結果

   { }内は平成15年度調査実施媒体の略称。水:水質、底:底質、生:水生生物、大:大気
   ◎印は検出された物質
 
 ◎[1]HCFC類 {大}  ◎[9]3,3'-ジクロロベンジジン  {水}
 ◎[2]直鎖アルキルベンゼンスルホン酸およびその塩 {水}   [10]ピリジン-トリフェニルボラン  {水}
 ◎[3]イソプレン {大}   [11]2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール {大}
  [4]クロルデコン {大}  ◎[12]ブロモメタン {大}
 ◎[5]クロルピリホス {生;大}  ◎[13]1,2,5,6,9,10-ヘキサブロモシクロドデカン  {水;底}
  [6]クロロピクリン {大}   [14]ヘキサブロモビフェニル {水;底}
  [7] ジエチレントリアミン他1物質 {水}  ◎[15]ポリブロモジフェニルエーテル類 {底;生}
 ◎[8]1,4-ジクロロ-2-ニトロベンゼン他3物質 {水;底}
 
 [15] ポリブロモジフェニルエーテル類 【平成15年度調査媒体:底質、水生生物】
     
 

平成15年度調査物質は次のとおり。
ヘキサブロモジフェニルエーテル(CAS登録番号:36483-60-0)
デカブロモジフェニルエーテル(別名:デカブロモジフェニルオキシド、ビス(ペンタブロモフェノール)エーテル、DBDPE、CAS登録番号:1163-19-5)

 

選定理由

 

 ポリブロモジフェニルエーテル類は、化学物質審査規制法指定化学物質(デカブロモジフェニルエーテル)及び化学物質排出把握管理促進法第1種指定化学物質(デカブロモジフェニルエーテル)であり、難燃剤等に使用されている。昭和62年度及び昭和63年度の水質、底質及び水生生物の調査(ヘキサデカブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル)では水質から不検出、底質から検出であり、水生生物からヘキサブロモジフェニルエーテルが検出された。また、平成14年度の暴露量調査(デカブロモジフェニルエーテル)における水質及び底質の調査ではいずれも検出された。
  UNEP の Global Priority Setting Meetingで、その排出源は先進国だけではなく、ゴミ集積場等途上国にも遍在する可能性があり、地球規模での調査が指摘されていることから、平成15年度物質選定検討会において国内における底質及び水生生物の実態把握が必要とされ、調査対象物質としてはペンタブロモジフェニルエーテルを中心に検討するようにとの指示があった。平成15年度は分析法開発済みであるヘキサブロモジフェニルエーテル及びデカブロモジフェニルエーテルを調査した。また、ペンタブロモジフェニルエーテルについては平成15年度に分析法が開発され、平成16年度に底質及び水生生物の調査を実施している。
 なお、平成15年度暴露量調査ではオクタブロモジフェニルエーテルの水質及び水生生物の調査が実施されている。

 
調査内容及び結果

ヘキサブロモジフェニルエーテル

 

 底質中の濃度把握を目的として、検出下限値 0.5 ng/g-dry、7地点で調査を実施し、3地点全てで不検出であった(欠測扱い:4地点)。
 水生生物中の濃度把握を目的として、検出下限値 0.5 ng/g-wet、3地点で調査を実施し、3地点全てで不検出であった。

 

デカブロモジフェニルエーテル

 

 底質中の濃度把握を目的として、検出下限値 9.7 ng/g-dry、7地点で調査を実施し、5地点中2地点、15検体中6検体で検出され、検出範囲は 37~76 ng/g-dryであった(欠測扱い:2地点)。

 

 水生生物中の濃度把握を目的として、検出下限値 1 ng/g-wet、3地点で調査を実施し、2地点全てで不検出であった(欠測扱い:1地点)。

評価
 

ヘキサブロモジフェニルエーテル

 

 底質は、昭和62年度の調査では検出下限値 5.1 ng/g-dryにおいて調査し、23地点中2地点で検出され、検出範囲は 7~77 ng/g-dryであった。昭和63年度の調査では検出下限値 3.5 ng/g-dryにおいて調査し、47地点中2地点で検出され、検出範囲は 4.5~18 ng/g-dryであった。平成15年度は検出下限値 0.5 ng/g-dryにおいて調査が実施され、3地点全てで不検出であった。過去の検出地点を調査していないため環境中濃度の傾向は判断できないが、今回調査した範囲内においては底質からはヘキサブロモジフェニルエーテルが検出されないことが確認された。

 

 水生生物は、昭和62年度の調査では検出下限値 2 ng/g-wetにおいて調査し、25地点中3地点で検出され、検出範囲は 3.8~14 ng/g-wetであった。昭和63年度の調査では検出下限値 2 ng/g-wetにおいて調査し、48地点中3地点で検出され、検出範囲は 2~6 ng/g-wetであった。平成15年度は検出下限値 0.5 ng/g-wetにおいて調査が実施され、3地点全てで不検出であった。過去の検出地点を調査していないため残留状況の傾向は判断できないが、今回調査した範囲内においては水生生物からはヘキサブロモジフェニルエーテルが検出されないことが確認された。

 ○   ヘキサブロモジフェニルエーテルの検出状況
 
水質 検出頻度 検出範囲 検出下限値
検体 地点 μg/L μg/L
昭和62年度 0/75 0/25 不検出 0.04
昭和63年度  0/150  0/50 不検出 0.04
 
底質 検出頻度 検出範囲 検出下限値
検体 地点 ng/g-dry ng/g-dry
昭和62年度 4/69 2/23 7~77 5.1
昭和63年度 4/141 2/47 4.5~18 3.5
平成15年度 0/9 0/3 不検出 0.5
 
水生生物 検出頻度 検出範囲 検出下限値
検体 地点 ng/g-wet ng/g-wet
昭和62年度 5/75 3/25 3.8~14 2
昭和63年度 5/144 3/48 2~6 2
平成15年度  0/9  0/3 不検出 0.5
 
大気 検出頻度 検出範囲 検出下限値
検体 地点 ng/m3 ng/m3
平成13年度 28/36 12/12 0.00011~0.011 0.00010
 
 

 デカブロモジフェニルエーテル

 

 底質は、平成8年度の調査では検出下限値 25 ng/g-dryにおいて11地点を調査し、11地点中6地点で検出され、検出範囲は 30~580 ng/g-dryであった。平成14年度の調査では検出下限値 9.7 ng/g-dryにおいて62地点を調査し、62地点中34地点で検出され、検出範囲は 10~4,400 ng/g-dryであった。平成15年度は検出下限値 9.7ng/g-dryにおいて調査が実施され、5地点中2地点で検出があり、検出範囲は 37~76 ng/g-dryであった。調査地点数が少ないため、環境中濃度の傾向は判断できない。

 

 水生生物は、昭和62年度の調査では検出下限値 5 ng/g-wetにおいて25地点を調査し、不検出であった。昭和63年度の調査では検出下限値 5 ng/g-wetにおいて46地点を調査し、不検出であった。平成15年度は検出下限値 1 ng/g-wetにおいて調査が実施され、2地点全てで不検出であった。水生生物中のデカブロモジフェニルエーテルは過去の調査において不検出であり、今回調査した範囲内においても調査地点数が少ないものの、検出されないことが確認された。

 

 なお、デカブロモジフェニルエーテルは水質及び底質で検出され、特に底質の濃度が高く、難分解・低濃縮18)との情報に符合しているが、水生生物からは検出されていない。これは、当該物質の分子が大きく(C12Br10O)、生物には蓄積されないことを示していると考えられる。

 
 ○  デカブロモジフェニルエーテルの検出状況
水質 検出頻度 検出範囲 検出下限値
検体 地点 μg/L μg/L
昭和52年度 0/15 0/7 不検出 0.2~2.5
昭和62年度 0/75 0/25 不検出 0.1
昭和63年度 0/141 0/47 不検出 0.06
平成8年度 0/33 0/11 不検出 0.2
平成14年度 2/114 1/38 0.24~0.59 0.12
(暴露量調査)
底質 検出頻度 検出範囲 検出下限値
検体 地点 ng/g-dry ng/g-dry
昭和 52年度 0/15 0/7 不検出 25~87
昭和 62年度 16/60 6/20 10~1400 7
昭和 63年度 39/129 15/43 4~600 4
平成8年度 15/33  6/11 30~580 25
平成14年度 82/186 34/62 10~4400 9.7
平成15年度 6/15  2/5 37~76 9.7
 


 
(暴露量調査)
 
 
水生生物 検出頻度 検出範囲 検出下限値
検体 地点 ng/g-wet ng/g-wet
昭和 62年度  0/75  0/25 不検出 5
昭和 63年度 0/138  0/46 不検出 5
平成15年度 0/6 0/2 不検出 1
 
     
○  参考:オクタブロモジフェニルエーテルの検出状況
水質 検出頻度 検出範囲 検出下限値
検体 地点 μg/L μg/L
昭和 62年度 0/75 0/25 不検出 0.1
昭和 63年度 7 0/49 不検出 0.07
平成15年度 0/114 0/38 不検出 0.003
(暴露量調査)
底質 検出頻度 検出範囲 検出下限値
検体 地点 ng/g-dry ng/g-dry
昭和 62年度 3/51 1/17 8~21 7
昭和 63年度 3/135 1/45 15~22 5
水生生物 検出頻度 検出範囲 検出下限値
検体 地点 ng/g-wet ng/g-wet
昭和 62年度 0/75 0/25 不検出 5
昭和63年度 0/144 0/49 不検出 4
平成15年度 23/27 8/9 0.0011~0.064 0.0007
(暴露量調査)
 

環境省内の他の調査結果

 
  デカブロモジフェニルエーテル

臭素系ダイオキシン類に関する調査(環境保健部環境リスク評価室)

 (平成12年度は、底質・大気・降下ばいじん・土壌・食事試料を調査、平成13年度は底質・大気・降下ばいじん・土壌・食事試料・水生生物(ムラサキイガイ、イソガニ、スズキ、ボラ)・野生生物(カラス、トビ、タヌキ)を調査、平成14年度は水質・地下水・底質・大気・降下ばいじん・土壌・食事試料・水生生物(コイ、オイカワ、フナ、カワムツ、ムラサキイガイ、ボラ、マダイ)・野生生物(ドバト、イノシシ、クマネズミ、シカ、アナグマ)・ハウスダストを調査)

媒体 年度 検出頻度 検出範囲 検出下限値
検体 地点数
ng/L ng/L
水質 平成 14年度 12/12 12/12 0.12~0.72 0.05
地下水 平成 14年度 1/1 1/1 0.20 0.05
ng/m 2・d ng/m 2・d
降下ばいじん 平成 12年度 7/7 7/7 5~240  4
降下ばいじん 平成 13年度 6/7 6/7 16~77 12
降下ばいじん 平成 14年度 12/12 12/12 0.52~44 0.2
ng/g ng/g
底質 平成 12年度 4/5 4/5 11~90  2
底質 平成 13年度 2/5 2/5 1.7~8.8 0.5
底質 平成 14年度 12/12 12/12 0.30~210 0.02
ng/g ng/g
土壌 平成 12年度 8/9 8/9 2~195 1
土壌 平成 13年度 5/9 5/9 0.30~15 0.25
土壌 平成 14年度 12/12 12/12 0.07~0.45 0.02
ng/g ng/g
食事試料 平成 12年度 0/5 0/5 不検出 0.00025
食事試料 平成 13年度 0/5 0/5 不検出 0.0001
食事試料 平成 14年度 11/12 11/12 0.002~0.008 0.002
ng/m 3 ng/m 3
大気 平成 12年度 1/1 1/1 0.03 0.02
大気 平成 13年度  6/7  6/7 0.014~0.034 0.006
大気 平成 14年度 12/12 12/12 0.0008~0.014 0.0001
ng/g ng/g
水生生物 平成 13年度 0/5 0/5 不検出 0.005
水生生物 平成 14年度 1/12 1/12 0.011 0.005
ng/g ng/g
野生生物 平成 13年度 3/4 3/4 0.9~1.7 0.5
野生生物 平成 14年度 9/9 9/9 0.007~23 0.005
    ng/g ng/g
ハウスダスト 平成 14年度 2/2 2/2 46~280 10

化学物質の環境リスク評価 第2巻(環境保健部環境リスク評価室)

媒体 年度 検出頻度 検出範囲 検出下限値
検体  
  ng/g ng/g
食事試料 平成 13年度 0/50 不検出 0.0005
ng/L ng/L
公共用水域・淡水 平成13年度 3/4 0.00003~0.000058 0.00003
 
  【参考:ヘキサブロモジフェニルエーテル】  文献一覧へ
 

用途  : ポリブロモジフェニルエーテルは、主に 5,8,10臭素化物として販売され難燃剤として使われており、ヘキサブロモジフェニルエーテルはこれら市販物の含有成分である。1),95)

生産量・輸入量 : 不詳

PRTR集計結果・排出量 (kg /年) : 無し

分解性 : 難分解(化審法) 18)

濃縮性 : 中濃縮(化審法) 18)

媒体別分配予測 : 不詳

反復投与毒性 : 不詳

発がん性、催腫瘍性 : 不詳

生態影響 : 不詳

急性毒性等 : 不詳

規制・基準 : 無し

 
 
  【参考:デカブロモジフェニルエーテル】  文献一覧へ
 

用途  : 
難燃剤(スチレン系樹脂(BS、ABS)、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリプロピレン樹脂用)56)
合成原料(ポリエチレン・ABS樹脂・ポリスチレン・ポリエステル樹脂用難燃剤)39)

生産量・輸入量 :

平成5年度4,320t(製造1,022t、輸入3,298t) 38)
平成12年度 3,773 t、平成13年度 2,323 t、平成14年度 2,986 t55)

PRTR集計結果・排出量 (kg /年) :

年度 届出外 大気 公共用水域 排出量合計
平成13年度 0 2,702 879 3,581
平成14年度 0 1,003 533 1,536
   ※排出量合計=届出外排出量+大気排出量+公共用水域排出量

分解性 : 難分解(化審法) 18)

濃縮性 : 低濃縮(化審法) 18)

媒体別分配予測 :(フガシティーモデル等)

 
媒体 大気 水質 土壌 底質  
質量割合(%) 0.00 0.28 96.88 2.84 (EUSESモデル)99)

反復投与毒性 : 
  経口投与(ラット)     NOAEL = 61.9 mg/kg・d(30日間、肝臓、腎臓への影響)32),91)
  経口投与(ラット)     NOEL = 1 mg/kg・d(30日間、肝臓肥大)88)

発がん性、催腫瘍性 : IARC(1999年)グループ3 40)

生態影響 : 
  藻類(珪藻)nbsp;       72hEC50≧ 1 mg/L(増殖阻害)23)
  魚類(ヒメダカ);       48hLC50≧ 500 mg/L23)

急性毒性等 : 
  LD50(ラット、経口) >5,000 mg/kg 91),92)
  LC50(ラット、吸入1h)     >48,200 mg/kg 91),92)
  LD50(ラット、経皮)       >3,000 mg/kg 91),92)

規制・基準 :

[化審] 第2種監視化学物質(429デカブロモジフェニルエーテル(含混合物)) 60)
[PRTR] 第1種指定化学物質(197 デカブロモジフェニル=エーテル(1質量%以上を含有する製品))37)
 
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