平成12年(2000年)版 「化学物質と環境」
第1編第1部 平成11年度化学物質環境調査結果の概要
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第4章 環境調査結果の評価

物質名の後ろに◎のあるものは平成11年度調査で検出検体があったもの。
[化学物質環境調査(水系)]
1. ジブチルスズ化合物 2. フェニルスズ化合物
3. ジフェニルスズ化合物 4. リン酸トリス(2-エチルヘキシル)
5. リン酸トリキシレニル 6. リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)
7. 1,1-ジクロロエタン 8. 1-ブロモ-3-クロロプロパン
9. メタクリル酸2-エチルヘキシル 10. メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
11. アジピン酸ジブチル 12. ベンゾ[a]アントラセン
13. ベンゾ[e]ピレン 14. ベンゾ[b+k+j]フルオランテン
15. ベンゾ[g,h,i]ペリレン 16. ジベンゾ[a,h]アントラセン
17. ピレン 18. アントラセン
19. フェナントレン 20. アセナフテン
21. 1-ナフトール 22. 2-ナフトール
23. o-フェニルフェノール 24. p-フェニルフェノール
[化学物質環境調査(大気系)]
〔参考文献〕


[化学物質環境調査(水系)]
 水質、底質及び魚類についての平成11年度の調査結果の概要は、次のとおりである。なお、調査媒体及び調査地点は、それぞれの化学物質について、調査の必要性が高い媒体、地点を選んでいる。
 本調査では、試料採取はほとんどが9~11月に行われ、環境試料の分析は主として調査地点を管轄する地方公共団体の公害等試験研究機関で行った。試料の性状や、利用可能な測定装置が異なることから、各機関での検出限界は、必ずしも同一となっていないが、ここでは、調査全体を評価する立場から、同一化学物質に対しては実行可能性を考慮して1つの検出限界を設定している。
 今回の調査結果、24物質(群)中23物質(群)(ジブチルスズ化合物、フェニルスズ化合物、ジフェニルスズ化合物、リン酸トリス(2-エチルヘキシル)、リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)、1,1-ジクロロエタン、1-ブロモ-3-クロロプロパン、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アジピン酸ジブチル、ベンゾ[a]アントラセン、ベンゾ[e]ピレン、ベンゾ[b+J+K]フルオランテン、ベンゾ[g,h,i]ペリレン、ジベンゾ[a,h]アントラセン、ピレン、アントラセン、フェナントレン、アセナフテン、1-ナフトール、2-ナフトール、o-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール)が、何れかの調査媒体から検出された。調査結果に対する評価を物質(群)別に示せば、次のとおりである。
 なお、下記の文章中、水質の単位「ppb」は「μg/L」、底質の単位「ppm」は「μg/g-dry」、魚類の単位「ppm」は「μg/g-wet」を意味している。 また、調査した物質によっては、今回の調査の統一検出限界値が前回より高くなっているものがあるが、それは主に測定方法の変更(例えば、測定機器をGC-ECDからGC/MS)等によるものであり、その反面信頼性が向上している。


1.ジブチルスズ化合物

(1) ジブチルスズ化合物は、塩化ビニールおよび塩化ビニリデンポリマーの安定剤の原料、各種合成用原料、塩化ビニールおよび塩化ビニリデン系樹脂の熱、光に対する安定剤、シリコン樹脂の硬化剤としての用途がある。平成10年度の生産量・輸入量は6,597トン(有機スズ系安定剤総量として)である1)、2)

(2) ジブチルスズ化合物は、昭和58年度の一般環境調査の結果、水質からは検出されず、底質からは、25地点中2地点、75検体中3検体から検出され(検出限界値:水質 0.1~0.4ppb、底質 0.01~0.044ppm)、昭和59年度の精密環境調査の結果、水質及び魚類からは検出されず、底質からは、46地点中2地点、138検体中6検体から検出された(検出限界値:水質 0.08~10ppb、底質 0.003~0.07ppm、魚類 0.003~0.05ppm)。平成10年度には、水質からは13地点中8地点、39検体中20検体、底質で12地点中12地点、36検体中36検体で検出された。検出範囲は、水質で0.003~0.017ppb、底質で0.002~0.27ppmであった(統一検出限界値:水質 0.0021ppb、底質 0.002ppm)。

(3) 今回の調査の結果、ジブチルスズ化合物は、水質からは49地点中40地点、145検体中109検体、底質からは51地点中45地点、153検体中122検体、魚類からは47地点中29地点、140検体中75地点から検出された。検出範囲は水質で0.0011~0.02ppb、底質で0.0027~0.19ppm、魚類で0.0023~0.071ppmであった(統一検出限界:水質 0.001ppb、底質0.0025ppm、魚類0.0023ppm)。

(4) 以上の調査結果によれば、ジブチルスズ化合物は、水質、底質及び魚類から検出され、検出頻度が全て高いことから、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともに、発生源の解明を含めた情報収集にも努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○ジブチルスズ化合物の製造方法1)
1.ジブチルスズオキサイドと無水マレイン酸とアルコールと反応する。
2.ジブチルスズオキサイドとラウリン酸と反応する。
3.ジブチルスズオキサイドとメルカプトプロピオン酸などと反応する。
  ○ジブチルスズ化合物の検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 昭和58年度 0%(0/75) 0%(0/25) 不検出 0.1~0.4ppb
  昭和59年度 0%(0/138) 0%(0/46) 不検出 0.08~10ppb
  平成10年度 51%(20/39) 62%(8/13) 0.003~0.017ppb 0.0021ppb
  平成11年度 75%(109/145) 82%(40/49) 0.0011~0.02ppb 0.001ppb
底質 昭和58年度 4%(3/75) 8%(2/25) 0.02~0.03ppm 0.01~0.044ppm
  昭和59年度 4%(6/138) 4%(2/46) 0.004~0.11ppm 0.003~0.07ppm
  平成10年度 100%(36/36) 100%(12/12) 0.002~0.27ppm 0.002ppm
  平成11年度 80%(122/153) 88%(45/51) 0.0027~0.19ppm 0.0025ppm
魚類 昭和59年度 0%(0/138) 0%(0/42) 不検出 0.003~0.05ppm
  平成11年度 54%(75/140) 62%(29/47) 0.0023~0.071ppm 0.0023ppm
  ○ジブチルスズ化合物の急性毒性試験等結果3)
ジブチルスズジクロリド
LD50(雄ラット、経口) 100 mg/kg
LD50(雌ラット、経口) 112 mg/kg
LD50(マウス、経口) 35 mg/kg
LD50(モルモット、経口)  190 mg/kg


2.フェニルスズ化合物
(1) フェニルスズ化合物は、トリフェニルスズ化合物の分解により非意図的に生成されるほか、過去に一部の化合物(オキソジフェニルスズ)は、ポリ塩化ビニルの安定剤としての用途があった。
  (2) フェニルスズ化合物は、平成元年度の一般環境調査の結果、水質からは、23地点中9地点、67検体中14検体、底質からは、19地点中11地点、55検体中28検体、魚類からは、18地点中11地点、54検体中28検体から検出された(統一検出限界値:水質 0.03ppb、底質 0.015ppm、魚類 0.015ppm)。平成10年度には水質では検出されず、底質で46地点中14地点、134検体中31検体で検出された(統一検出限界値:水質 0.01ppb、底質 0.016ppm)。
  (3) 今回の調査の結果、フェニルスズ化合物は、水質からは検出されず、底質からは51地点中12地点、152検体中28検体、魚類からは45地点中3地点、134検体中5検体から検出された。検出範囲は、底質で0.016~0.16ppm 、魚類で0.0041~0.0083ppmであった。(統一検出限界値:水質0.007ppb、底質0.016ppm、魚類0.0032ppm)。
  (4) 以上の調査結果によれば、フェニルスズ化合物は、底質及び魚類から検出されたが、これまでの調査結果と比べ検出頻度は減少傾向にある。今後は、一定期間をおいて環境調査を行い、その消長傾向を判断するとともに、情報収集にも努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○フェニルスズ化合物の製造方法
フェニルスズ化合物およびトリフェニルスズ化合物中の不純物と推定される。
  ○フェニルスズ化合物の検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 平成元年度 21%(14/67) 39%(9/23) 0.03~47.3ppb 0.03ppb
  平成10年度 0%(0/156) 0%(0/52) 不検出 0.01ppb
  平成11年度 0%(0/153) 0%(0/51) 不検出 0.007ppb
底質 平成元年度 51%(28/55) 58%(11/19) 0.019~1.1ppm 0.015ppm
  平成10年度 23%(31/134) 30%(14/46) 0.016~0.76ppm 0.016ppm
  平成11年度 18%(28/152) 24%(12/51) 0.016~0.16ppm 0.016ppm
魚類 平成元年度 52%(28/54) 61%(11/18) 0.015~1.1ppm 0.015ppm
  平成11年度 4%(6/134) 7%(3/45) 0.0041~0.0083ppm 0.0032ppm
  ○フェニルスズ化合物の生態影響
トリクロロフェニスズ CAS No.1124-19-2
海産珪藻の一種(Skeltonema costatum)  72 h-EC50 (生長) : > 0.5 mg/L 4)
メダカ(Oryzias latipes)  48 h-LC50 (死亡) : 0.361 mmol/L 5)


3.ジフェニルスズ化合物
(1) ジフェニルスズ化合物は、トリフェニルスズ化合物の分解により非意図的に生成されるほか、過去に一部の化合物(オキソジフェニルスズ)は、ポリ塩化ビニルの安定剤としての用途があった。
  (2) ジフェニルスズ化合物は、平成元年度の一般環境調査の結果、水質からは、24地点中4地点、72検体中5検体、底質からは、19地点中13地点、53検体中31検体、魚類からは、20地点中17地点、59検体中48検体から検出された(統一検出限界値:水質 0.06ppb、底質 0.005ppm、魚類 0.005ppm)。平成10年度には水質で45地点中6地点、133検体中12検体、底質で46地点中30地点、138検体中79検体で検出された(統一検出限界値:水質 0.0003ppb、底質0.00072ppm)。
  (3) 今回の調査の結果、ジフェニルスズ化合物は、水質からは47地点中4地点、141検体中8検体、底質からは50地点中26地点、149検体中65検体、魚類からは45地点中20地点、134検体中41検体から検出された。検出範囲は、水質で0.00026~0.0036ppb、底質で0.00061~0.059 ppm、魚類で0.00013~0.0039ppmであった(統一検出限界値:水質0.00025ppb 、底質0.00061ppm、魚類0.00013ppm)。
  (4) 以上の調査結果によれば、ジフェニルスズ化合物は、水質、底質及び魚類から検出されたが、その検出頻度及び検出濃度レベルは減少傾向にあった。今後は、一定期間をおいて環境調査を行い、その推移を監視するとともに、情報収集にも努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○ジフェニルスズ化合物の製造方法
不明であるが、トリフェニルスズ化合物の不純物と推定される。
  ○ジフェニルスズ化合物の検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 平成元年度 7%(5/72) 17%(4/24) 0.38~27ppb 0.06ppb
  平成10年度 9%(12/133) 13%(6/45) 0.00037~0.0017ppb 0.0003ppb
  平成11年度 6%(8/141) 9%(4/47) 0.00026~0.0036ppb 0.00025ppb
底質 平成元年度 58%(31/53) 68%(13/19) 0.007~0.5ppm 0.005ppm
  平成10年度 57%(79/138) 65%(30/46) 0.00079~0.21ppm 0.00072ppm
  平成11年度 44%(65/149) 52%(26/50) 0.00061~0.059ppm 0.00061ppm
魚類 平成元年度 81%(48/59) 85%(17/20) 0.005~0.99ppm 0.005ppm
  平成11年度 31%(41/134) 44%(20/45) 0.00013~0.0039ppm 0.00013ppm
  ○ジフェニルスズ化合物の急性毒性試験等結果
LDLo(ラット、経口)  410 mg/kg (Diphenyltin dichloride)
LDLo(マウス、経口) 470 mg/kg (Diphenyltin dichloride)
ジフェニルスズジクロリドを780 μeqiv./kg添加した飼料でマウスを7日間飼育した実験では、対照群に比して肝臓の相対重量がやや低下した以外には著変は認めなかった。また、2,340 μequiv./kg添加飼料を4日間投与しても血液像には変化が見られていない6)。

○ジフェニルスズ化合物の生態影響
ジフェニルスズジクロリド CAS No.1135-99-5
緑藻の一種(Ankistrodesmus flacatus) 4h-EC50 (光合成) : 8.0 mg/L 7)
緑藻の一種(Scenedesmus acutus) 72 h-EC50 (生長) : 0.256 mg/L 8)
海産珪藻の一種(Skeletonema costatum) 72 h-EC50 (生長) : 0.031 mg/L 4)
珪藻の一種(Thalassiosira guillardii) 72 h-EC50 (生長) : 0.034 mg/L 4)
オオミジンコ(Daphnia magna) 24 h-EC50 (遊泳阻害) : 0.65 mg/L 9)
メダカ(Oryzias latipes) 48 h-LC50(死亡): 0.089 mg/L 9)


4.リン酸トリス(2-エチルヘキシル)(リン酸トリオクチルを含む)
(1) リン酸トリス(2-エチルヘキシル)は、高分子可塑剤として塩化ビニール樹脂などの難燃可塑剤として用いられ、これらの塩化ビニール樹脂は電線被覆、冷蔵庫用器具、シャワーカーテン、レインコート用生地、塩ビペースト、合成ゴムの耐寒性可塑剤および消泡剤、溶剤としての用途がある1),10),11)。
  (2) リン酸トリス(2-エチルヘキシル)は、昭和56年度の一般環境調査の結果、水質からは検出されず、底質からは、21地点中15地点、63検体中43検体から検出された。検出範囲は、底質で0.0051~0.034ppmであった(統一検出限界値:水質 0.01ppb、底質 0.001~0.005ppm、)。
  (3) 今回の調査の結果、リン酸トリス(2-エチルヘキシル)は、水質から検出されず、底質からは13地点中4地点、39検体中12検体から検出された。検出範囲は、底質で0.0051~0.034ppmであった(統一検出限界値:水質0.19ppb、底質0.005ppm)。
  (4) 以上の調査結果によれば、リン酸トリス(2-エチルヘキシル)は、底質から検出されており、底質からの検出頻度はやや高かった。今後は、一定期間をおいて環境調査を行い、その推移を監視するとともに、情報収集にも努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○リン酸トリス(2-エチルヘキシル)の製造方法10)
五酸化リンと2-エチルヘキシルアルコールとの反応。
    ○リン酸トリス(2-エチルヘキシル)の検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 昭和56年度 0%(0/63) 0%(0/21) 不検出 0.01ppb
  平成11年度 0%(0/42) 0%(0/14) 不検出 0.19ppb
底質 昭和56年度 68%(43/63) 71%(15/21) 0.002~0.07ppm 0.001~0.005ppm
  平成11年度 31%(12/39) 31%(4/13) 0.0051~0.034ppm 0.005ppm
    ○リン酸トリス(2-エチルヘキシル)の急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) 37,000 mg/kg
LD50(ラット、腹腔内) 30,000 mg/kg
LD50(マウス、経口) 12,800 mg/kg
LD50(マウス、腹腔内) 3,200 mg/kg
LD50(ウサギ、経口) 46,000 mg/kg
LD50(ウサギ、経皮) 20,000 mg/kg
LC50(モルモット、吸入)  450 mg/m3/30M
   
刺激性: ウサギの皮膚と眼に対するstandard Draize試験において、中程度の刺激性を示す12)
反復投与毒性: ラットでの9週間経口投与毒性試験において、肝及び膀胱重量の変化と血液検査において血清総蛋白、ビリルビン、コレステロールの変化が認められている13)。また、ラットでの30日間経口投与毒性試験においても体重増加抑制が認められている14)
発がん性: 米国NTPによるF344ラットに1,000および2,000 mg/kg/dayの用量で103週経口投与した発がん実験においては、副腎、肝臓、乳腺に腫瘍の発生を見たが、コントロール値との差は認められず、発がん性を有するとは結論づけられなかった。同じく、B6C3F1マウスに500および1,000 mg/kg/dayの用量で103週経口投与した実験では、肝がんの発生が有意に増加し、NTPは”some evidence”と結論付けている15),16)
変異原性: ネズミチフス菌TA98、TA100、TA1535、TA1537に対し、代謝活性化の有無にかかわらず陰性16)
    ○リン酸トリス(2-エチルヘキシル)の生態影響
ゾウリムシ(Tetrahymena pyriformis, 原生動物)  24 h-EC50 (増殖): 10 mg/L 17)


5.リン酸トリキシレニル
(1) リン酸トリキシレニルは、塩化ビニール樹脂の可塑剤としての用途があり、難燃剤である11),6)
  (2) リン酸トリキシレニル は、昭和56年度の一般環境調査の結果、水質からは検出されず、底質からは、21地点中5地点、63検体中13検体から検出された(統一検出限界値:水質0.2 ppb、底質0.05 ppm)。
  (3) 今回の調査の結果、リン酸トリキシレニルは、水質及び底質からは検出されなかった(統一検出限界値:水質0.46ppb、底質0.035ppm)。
  (4) 以上の調査結果によれば、リン酸トリキシレニルは、現時点では特に問題を示唆するものではないと考えられる。
  【 参 考 】
  ○リン酸トリキシレニルの製造方法10)
五酸化リンとキシレノールとの反応と推定される。
    ○リン酸トリキシレニルの検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 昭和56年度 0%(0/63) 0%(0/21) 不検出 0.2ppb
  平成11年度 0%(0/42) 0%(0/14) 不検出 0.46ppb
底質 昭和56年度 21%(13/63) 24%(5/21) 0.07~3.7ppm 0.05ppm
  平成11年度 0%(0/39) 0%(0/13) 不検出 0.035ppm
    ○リン酸トリキシレニルの急性毒性試験等方法
LD50(マウス、経口)  11,800 mg/kg
   
反復投与毒性: ラットにおいて、体重増加抑制と神経障害を起すことが知られている18)
変異原性: ネズミチフス菌TA98、TA100、TA1535、TA1537に対し、代謝活性化の有無にかかわらず陰性13)
    ○リン酸トリキシレニルの生態影響
ケンミジンコ(Nitocra spinipes, Copepoda)  2 d-LC50(死亡) : 1.9 mg/L 19)
  4 d-LC50(死亡) : 0.88 mg/L 20)
ゼブラフィシュ(Brachyodanio rerio) 4 d-LC50(死亡) : 20 ~ < 30 mg/L 20)


6.リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)
(1) リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)は、難燃剤として、ウレタン樹脂用、エポキシ樹脂用としての用途がある1)
  (2) リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)は、昭和50年度の一般環境調査の結果、水質及び底質からは検出されず、魚類からは、19地点中2地点、94検体中7検体から検出された(統一検出限界値:水質 0.02~0.25ppb、底質 0.002~0.05ppm、魚類 0.005~0.05ppm)。昭和53年度の精密環境調査の結果、水質、底質及び魚類からは検出されなかった。(統一検出限界値:水質 0.001~0.5ppb、底質 0.0001~0.06ppm、魚類 0.0001~0.03ppm)。
昭和59年度の一般環境調査の結果、水質及び底質からは検出されなかった(統一検出限界値:水質 0.25~1ppb、底質 0.03~0.06ppm)。
  (3) 今回の調査の結果、リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)は、水質からは検出されず、底質からは13地点中1地点、39検体中1検体から検出された。検出範囲は、底質で0.0097ppm であった(統一検出限界値:水質0.1ppb、底質0.008ppm)。
  (4) 以上の調査結果によれば、リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)は、底質から1検体検出されただけで、現時点では特に問題を示唆するものではないと考えられる。
  【 参 考 】
  ○リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)の製造方法1),11)
1,1,3-ジクロロ-2-プロパノールと塩化フォスホニルとの反応。
    ○リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)の検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 昭和50年度 0%(0/100) 0%(0/20) 不検出 0.02~0.25ppb
  昭和53年度 0%(0/108) 0%(0/36) 不検出 0.001~0.5ppb
  昭和59年度 0%(0/24) 0%(0/8) 不検出 0.25~1ppb
  平成11年度 0%(0/42) 0%(0/14) 不検出 0.1ppb
底質 昭和50年度 0%(0/100) 0%(0/20) 不検出 0.002~0.05ppm
  昭和53年度 0%(0/108) 0%(0/36) 不検出 0.0001~0.06ppm
  昭和59年度 0%(0/24) 0%(0/8) 不検出 0.03~0.06ppm
  平成11年度 3%(1/39) 8%(1/13) 0.0097ppm 0.008ppm
魚類 昭和50年度 7%(7/94) 11%(2/19) 0.015~0.025ppm 0.005~0.05ppm
  昭和53年度 0%(0/93) 0%(0/29) 不検出 0.0001~0.03ppm
    ○リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)の急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) 1,850 mg/kg
LD50(マウス、経口) 2,250 mg/kg
LD50(ウサギ、経皮)  > 23,700 mg/kg
    ○リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)の生態影響
キンギョ(Carassius auratus)  96 h-LC50(死亡) : 5.1 mg/L
メダカ(Oryzias latipes) 96 h-LC50(死亡) : 3.6 mg/L


7.1,1-ジクロロエタン(環境調査(水系)及び環境調査(大気系)を併せて評価することとした。)
(1) 1,1-ジクロロエタンは、溶剤(油脂類、ゴム、合成樹脂など)、抽出剤、ラッカー・ペイントの混合剤、洗浄剤、浮遊選鉱剤としての用途がある21),22)
  (2) 1,1-ジクロロエタンは、昭和52年度の一般環境調査の結果、水質及び底質からは検出されなかった(統一検出限界値:水質 0.05ppb、底質0.0003ppm)。昭和62年度には22地点中4地点、66検体中11検体、底質からは、20地点中2地点、60検体中4検体から検出された(統一検出限界値:水質0.005 ppb、底質 0.00011ppm)。昭和63年度の精密環境調査の結果、水質からは43地点中14地点、129検体中36検体、底質からは39地点中2地点、117検体中4検体から検出された(統一検出限界値:水質0.005ppb、底質0.0001ppm)。大気は、昭和54年度の一般環境調査の結果、検出されず(統一検出限界値:0.2~10ppb)、昭和62年度には、24地点中4地点、73検体中6検体から検出された(統一検出限界値:10ng/m3)。
  (3) 今回の調査の結果、1,1-ジクロロエタンは、水質からは52地点中12地点、156検体中31検体、底質からは46地点中3地点、138検体中9検体から検出された。検出範囲は、水質で0.003~0.072ppb、底質で0.0087~0.028ppm であった(統一検出限界値:水質0.003ppb、底質0.0023ppm)。大気で、7地点中2地点、21検体中5検体で検出された。検出範囲は11~24ng/mであった(統一検出限界値:10ng/m)。
  (4) 以上の調査結果によれば、1,1-ジクロロエタンは、検出頻度の低いものの、水質、底質及び大気からの複数媒体から検出され、また底質の検出濃度レベルが上昇していることから、今後、一定期間をおいて環境調査を行い、その推移を監視するとともに、情報収集にも努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○1,1-ジクロロエタンの製造方法2)
アセトアルデヒドと五酸化リンの反応によって生成する。
    ○1,1-ジクロロエタンの検出状況(水系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 昭和52年度 0%(0/3) 0%(0/1) 不検出 0.05ppb
  昭和62年度 17%(11/66) 18%(4/22) 0.005~0.030ppb 0.005ppb
  昭和63年度 28%(36/129) 33%(14/43) 0.005~0.08ppb 0.005ppb
  平成11年度 20%(31/156) 23%(12/52) 0.0030~0.072ppb 0.003ppb
底質 昭和52年度 0%(0/3) 0%(0/1) 不検出 0.0003ppm
  昭和62年度 7%(4/60) 10%(2/20) 0.00011~0.00027ppm 0.00011ppm
  昭和63年度 3%(4/117) 5%(2/39) 0.00014~0.00048ppm 0.00011ppm
  平成11年度 7%(9/138) 7%(3/46) 0.0087~0.028ppm 0.0023ppm
    ○1,1-ジクロロエタンの検出状況(大気系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
  昭和54年度 0%(0/36) 0%(0/13) 不検出 0.2~10ppb
  昭和62年度 8%(6/73) 17%(4/24) 17~90ng/m 10ng/m
  平成11年度 24%(5/21) 29%(2/7) 11~24ng/m 10ng/m
    ○1,1-ジクロロエタンの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) 725 mg/kg
LC50(ラット、吸入)  13,000 ppm
   
生殖・発生毒性: ラットを妊娠6~18日の間、最高160 ppmに7時間/日で暴露した実験では、母獣毒性が認められたが、明らかな催奇形性は認められていない23)
ラットに200 ppmを添加した飲水を妊娠6~15日の間投与しても催奇形性は認められていない23) 。さらに、ラットを妊娠6~15日の間3,800または6,000 ppm×7時間/日で暴露した実験でも異常は認められていない24)
発がん性: 1群雌雄各50匹のOsborne-Mendel系ラットとB6C3F1マウスに胃ゾンデを用いて本物質のコーン油希釈液を、雄ラットには382、764mg/kg/day、雌ラットには475、950 mg/kg/day、 雄マウスには1,442、2,885 mg/kg/day、雌マウスには1,665、3,331 mg/kg/dayを5日/週×78週投与し、投与後ラットでは33週、マウスでは13週の観察期間をおいて検索した実験では、雌ラットでの乳腺癌と血管肉腫の発生が統計学的に限界域の上昇、雌マウスでのendometrial stromal polypの発生が有意な増加が示し、発がん性陽性の可能性が考えられたが、ラット、マウス共に実験期間中の死亡率が高く結論的な結果は得られていない25)
本物質を835、2,500 mg/L添加した飲水をB6C3F1マウスに52週間投与した実験では、発がん性は見出されなかった26)
変異原性: Ames試験(TA97, TA98, TA100, TA102株)では、S-9 mix添加の有無にかかわらず、陰性27)、また、チャイニーズハムスター培養細胞(CHL)を用いた染色体異常試験でもS-9 mix添加の有無にかかわらず陰性28)である。


8.1-ブロモ-3-クロロプロパン(環境調査(水系)及び環境調査(大気系)を併せて評価することとした。)
(1) 1-ブロモ-3-クロロプロパンは、医薬合成原料、シクロプロパンなどの合成中間体としての用途があ1),21)。平成10年の生産量・輸入量は2,000トン(推定)である1)
  (2) 今回の調査の結果、1-ブロモ-3-クロロプロパンは、水質では検出されず、底質からは49地点中2地点、147検体中6検体から検出された。検出範囲は、底質で0.022~0.055ppmであった(統一検出限界値:水質0.0041ppb 、底質0.0040ppm)。大気で、7地点中2地点、21検体中3検体で検出された。検出範囲は20~34ng/mであった(統一検出限界値:19ng/m)。
  (3) 以上の調査結果によれば、1-ブロモ-3-クロロプロパンは、底質及び大気から検出されており、検出頻度は低いが複数媒体から検出されていることから、今後は一定期間をおいて環境調査を行い、情報収集にも努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○1-ブロモ-3-クロロプロパンの製造方法1)
アリルクロライドに臭化水素酸を吹き込んで得る。
    ○1-ブロモ-3-クロロプロパンの検出状況(水系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 平成11年度 0%(0/150) 0%(0/50) 不検出 0.0041ppb
底質 平成11年度 4%(6/147) 4%(2/49) 0.022~0.055ppm 0.0040ppm
    ○1-ブロモ-3-クロロプロパンの検出状況(大気系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
  平成11年度 14%(3/21) 29%(2/7) 20~34ng/m 19ng/m
    ○1-ブロモ-3-クロロプロパンの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) 930 mg/kg
LC50(ラット、吸入) 5,668 mg/m3
LD50(マウス、経口) 1,290 mg/kg
LC50(マウス、吸入)  7,270 mg/m3
   
反復投与毒性: ラットに40、160 mg/kg/dayを14日間経口投与した実験で、いずれの用量においても体重、精巣重量ならびに腎臓、精巣の病理学的検査では異常は認められていない11)
ラットを0.83、7 ppmに長期間暴露した実験で、7 ppmで血中スルホブロモフタレイン排泄能の低下、肝臓の相対重量増加、肝細胞の脂肪変性、間質の線維化がみられている。また、骨髄細胞では染色体異常の頻度が増加している。精上皮の変化、精巣の相対重量の減少、精子の運動時間の減少がみられ、精祖細胞、精子の変性がみられている29)
変異原性: Ames試験では、代謝活性化の有無にかかわらず陰性11)
    ○1-ブロモ-3-クロロプロパンの生態影響
キンギョ(Carassius auratus)  24 h-LC50(死亡): 75 mg/L 30)
カエル(Xenopus laevis) 48 h-LC50(死亡): 41 mg/L 31)


9.メタクリル酸2-エチルヘキシル
(1) メタクリル酸2-エチルヘキシルは、共重合物として塗料、被覆材料、潤滑油添加剤、繊維処理剤、接着剤、歯科材料、分散剤、内部可塑剤の原料としての用途がある1)
  (2) 今回の調査の結果、メタクリル酸2-エチルヘキシルは、水質からは検出されず、底質からは11地点中1地点、33検体中1検体から検出された。検出範囲は、底質で0.0022ppmであった(統一検出限界値:水質0.027ppb、底質0.00077ppm)。
  (3) 以上の調査結果によれば、メタクリル酸2-エチルヘキシルは、底質から検出されており、検出頻度は低いが生産量が多いことから、今後、一定期間をおいて環境調査を行うとともに、情報収集に努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○メタクリル酸2-エチルヘキシルの製造方法1)
1.メチルメタアクリレートと2-エチルヘキサノールとをエステル交換反応させる。
2.メタクリル酸と2-エチルヘキサノールとをエステル化反応させる。
    ○メタクリル酸2-エチルヘキシルの検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 平成11年度 0%(0/27) 0%(0/9) 不検出 0.027ppb
底質 平成11年度 3%(1/33) 9%(1/11) 0.0022ppm 0.00077ppm
    ○メタクリル酸2-エチルヘキシルの急性毒性試験等結果
LD50(マウス、腹腔内)  2,614 mg/kg
LC50(イヌ、静注) 261μL/kg


10.メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
(1) メタクリル酸2-ヒドロキシエチルは、共重合物として、熱硬化性塗料、接着剤、不織布バインダー、紙加工材、コポリマーの改質としての用途がある1)
  (2) 今回の調査の結果、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルは、底質からは検出されず、水質からは9地点中1地点、27検体中3検体から検出された。検出範囲は、水質で0.12~0.51ppb であった(統一検出限界値:水質0.025ppb、底質0.0014ppm)。
  (3) 以上の調査結果によれば、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルは、水質から検出されており、検出頻度は低いが、関連情報が少ないので、今後、情報収集に努めながら、調査の必要性を検討すべきである。
  【 参 考 】
  ○メタクリル酸2-ヒドロキシエチルの製造方法1)
メタクリル酸とエチレンオキサイドとを付加反応させる。
    ○メタクリル酸2-ヒドロキシエチルの検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 平成11年度 11%(3/27) 11%(1/9) 0.12~0.51ppb 0.025ppb
底質 平成11年度 0%(0/27) 0%(0/9) 不検出 0.0014ppm
    ○メタクリル酸2-ヒドロキシエチルの生態影響
ファヘッドミノー(Pimephales promelas)  96 h-LC50 227 mg/L 32)
魚の一種(種:記載なし) 72 h-LC50 30 mg/L 33)


11.アジピン酸ジブチル
(1) アジピン酸ジブチルは、塩化ビニール樹脂の可塑剤としての用途が推定される。
  (2) 回の調査の結果、アジピン酸ジブチルは、水質からは検出されず、底質からは12地点中1地点、36検体中2検体から検出された。検出範囲は、底質で0.022~0.023ppmであった(統一検出限界値:水質0.054ppb、底質0.021ppm)。
  (3) 以上の調査結果によれば、アジピン酸ジブチルは、底質から検出されており、検出頻度は低いが、関連情報が少ないので、今後、情報収集に努めながら、調査の必要性を検討すべきである。
  【 参 考 】
  ○アジピン酸ジブチルの製造方法
アジピン酸とブタノールとのエステル化反応と推定。
    ○アジピン酸ジブチルの検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 平成11年度 0%(0/36) 0%(0/12) 不検出 0.054ppb
底質 平成11年度 6%(2/36) 8%(1/12) 0.022~0.023ppm 0.021ppm
    ○アジピン酸ジブチルの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) 12,900 mg/kg
LC50(ラット、吸入) > 17 mg/m3/4H
LD50(ラット、腹腔内)  5,244 mg/m3/4H
LD50(マウス、経口) 16,890 mg/kg
LC50(マウス、吸入) > 17 mg/m3/2H
LD50(マウス、経皮) 20 mL/kg
    ○アジピン酸ジブチルの生態影響
ファットヘッドミノー(Pimephales promelas)  96 h-LC50(死亡): 3.64 mg/L 34)


12.ベンゾ[a]アントラセン
(1) ベンゾ[a]アントラセンは、コールタールとして、道路用、防水および防錆塗料、製鋼用燃料、油煙、電極粘結材、漁網染料、屋根塗装、鋳鉄管塗装としての用途がある1),35)
  (2) ベンゾ[a]アントラセンは、平成元年度の一般環境調査の結果、水質からは検出されず、底質からは、51地点中41地点、145検体中112検体、魚類からは、37地点中1地点、 111検体中1検体か検出された(統一検出限界値:水質 0.1ppb、底質 0.003ppm、魚類 0.001ppm)。
  (3) 今回の調査の結果、ベンゾ[a]アントラセンは、水質及び魚類からは検出されず、底質からは13地点中13地点、39検体中38検体から検出された。検出範囲は、底質で0.0083~0.55ppmであった(統一検出限界値:水質 0.023ppb、底質0.0051ppm、魚類0.00069ppm)。
  (4) 以上の調査結果によれば、ベンゾ[a]アントラセンは、底質から検出されており、検出頻度が高く、前回調査(平成元年)と同様の傾向が示していることから、検出状況や関連情報を整理し、多環芳香族炭化水素全体としてリスク評価を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○ベンゾ[a]アントラセンの製造方法2)
コールタール及びアスファルト中の成分で、非意図的生成物としてガソリン及び
ディーゼルの排ガス、たばこの煙、石炭などの燃焼ガス中に含まれる。
    ○ベンゾ[a]アントラセンの検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 平成元年度 0%(0/159) 0%(0/53) 不検出 0.1ppb
  平成11年度 0%(0/39) 0%(0/13) 不検出 0.023ppb
底質 平成元年度 77%(112/145) 80%(41/51) 0.0032~2.1ppm 0.003ppm
  平成11年度 97%(38/39) 100%(13/13) 0.0083~0.55ppm 0.0051ppm
魚類 平成元年度 1%(1/111) 3%(1/37) 0.0012ppm 0.001ppm
  平成11年度 0%(0/39) 0%(0/13) 不検出 0.00069ppm
    ○ベンゾ[a]アントラセンの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、静脈内)  > 200 mg/kg
LD50(マウス、静脈内) 10 mg/kg
   
発がん性: マウスに対する反復経口投与によって肺腺腫、肝癌および前胃の乳頭腫が36),37) 反復皮膚塗布によっても塗布量(0.002~1%)に比例して悪性腫瘍38)が、1回の皮下投与によっても投与量(0.05~10.0 mg)に比例して腫瘍39)が発生する。
マウスに対する発がん性は2~8日令の新生児に仔よりも著明に現れる40) 。また、マウスの膀胱内に埋没させると膀胱癌および乳頭腫を発生させる41) 。マウスの皮膚癌を発生させる作用はベンゾ(a)ピレンの方が強い。
変異原性: 本物質は代謝活性化の存在下でAmes試験42)、イースト43)、および哺乳動物の培養細胞3-12), 3-13)に対し変異原性を示す。
    ○ベンゾ[a]アントラセンの生態影響
オオミジンコ(Daphnia magna) 96 h-LC50 0.010 mg/L 44)
  12.5 h-LT50 0.0018 mg/L 45)
ファットヘッドミノー(Pimephales promelas)  76 h-LT50 0.0018 mg/L 46)


13.ベンゾ[e]ピレン(環境調査(水系)及び環境調査(大気系)を併せて評価することとした。)
(1) ベンゾ[e]ピレンは、コールタールとして、道路用、防水および防錆塗料、製鋼用燃料、油煙、電極粘結材、漁網染料、屋根塗装、鋳鉄管塗装などとしての用途がある1),35)
  (2) ベンゾ[e]ピレンは、平成元年度の一般環境調査の結果、水質及び魚類からは検出されず、底質からは、25地点中25地点、74検体中72検体から検出された(統一検出限界値:水質 0.1ppb、底質 0.0008ppm、魚類 0.003ppm)。大気からは、平成元年度の一般環境調査の結果、13地点中12地点、39検体中29検体からされた(統一検出限界値:0.3 ng/m)。
  (3) 今回の調査の結果、ベンゾ[e]ピレンは、水質及び魚類からは検出されず、底質からは13地点中13地点、39検体中38検体から検出された。検出範囲は、底質で0.0041~0.35ppmであった(統一検出限界値:水質0.015ppb 、底質0.0041ppm、魚類0.00041ppm)。大気からは、11地点中11地点、32検体中30検体で検出された。検出範囲は0.074~3.7ng/mであった(統一検出限界値: 0.054ng/m)。
  (4) 以上の調査結果によれば、ベンゾ[e]ピレンは、底質及び大気から検出されており、検出頻度が高く、前回調査(平成元年)と同様の傾向を示していることから、検出状況や関連情報を整理し、多環芳香族炭化水素全体としてリスク評価を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○ベンゾ[e]ピレンの製造方法2)
コールタール及びアスファルト中の成分で、非意図的生成物としてガソリン及びディーゼルの排ガス、たばこの煙、石炭などの燃焼ガス中に含まれる。
    ○ベンゾ[e]ピレンの検出状況(水系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 平成元年度 0%(0/75) 0%(0/25) 不検出 0.1ppb
  平成11年度 0%(0/39) 0%(0/13) 不検出 0.015ppb
底質 平成元年度 97%(72/74) 100%(25/25) 0.0009~1.8ppm 0.0008ppm
  平成11年度 97%(38/39) 100%(13/13) 0.0041~0.35ppm 0.0041ppm
魚類 平成元年度 0%(0/66) 0%(0/22) 不検出 0.003ppm
  平成11年度 0%(0/39) 0%(0/13) 不検出 0.00041ppm
    ○ベンゾ[e]ピレンの検出状況(大気系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
  平成元年度 74%(29/39) 92%(12/13) 0.30~5.43ng/m 0.3ng/m
  平成11年度 94%(30/32) 100%(11/11) 0.074~3.7ng/m 0.054ng/m
    ○ベンゾ[e]ピレンの急性毒性試験等結果
   
発がん性: 本物質の0.1%アセトン溶液をマウスの皮膚に週3回反復塗布した実験では、乳頭腫とがんが発生した47) 。また、本物質の1.0 mgを含むアセトン溶液を1回塗布した場合は腫瘍の発生はみられなかったが、上記の塗布後にクロトン樹脂を反復投与すると乳頭腫が発生している48)
雌マウスに本物質を週2回30週間反復投与した実験では、68%に乳頭腫が、24%にがんが発生した49)
他方、マウスに生後1、8、15日の3回1.6μmolを腹腔内投与した実験では発がん性を認めなかった50)
1群30~50匹の雌ラットの肺に本物質を1回注入した実験では、1.0および5.0 mg投与群にそれぞれ肺肉腫1例と肺癌1例が発生した。対照群では腫瘍の発生を認めなかった51)
変異原性: Ames試験(TA100株)ではS-9存在下で陽性52)、イースト43)および哺乳動物の培養細胞の系53),54), 55)ではいずれも陽性の報告がある。
    ○ベンゾ[e]ピレンの生態影響
オオミジンコ(Daphnia magna)  0.0007 mg/L-LT50 15.4 h 45)
     


14.ベンゾ[b+k+j]フルオランテン(環境調査(水系)及び環境調査(大気系)を併せて評価することとした。)
(1) ベンゾ[b+k+j]フルオランテンは、コールタールとして、道路用、防水および防錆塗料、製鋼用燃料、油煙、電極粘結材、漁網染料、屋根塗装、鋳鉄管塗装としての用途がある1),35)。
  (2) ベンゾ[b+k+j]フルオランテンは、平成元年度の一般環境調査の結果、水質からは検出されず、底質からは、53地点中42地点、159検体中118検体、魚類からは、40地点中1地点、120検体中1検体から検出された(統一検出限界値:水質0.1 ppb、底質 0.01ppm、魚類 0.003ppm)。大気からは、平成元年度の一般環境調査の結果、13地点中13地点、39検体中36検体からされた(統一検出限界値:0.2 ng/m)。
  (3) 今回の調査の結果、ベンゾ[b+k+j]フルオランテンは、水質からは検出されず、底質からは13地点中13地点、39検体中38検体、魚類からは13地点中2地点、39検体中4検体から検出された。検出範囲は、底質で0.0048~1.1ppm、魚類で0.00024~0.0004ppmであった(統一検出限界値:水質0.018ppb、底質0.0048ppm、魚類0.00022ppm)。大気からは、12地点中12地点、36検体中36検体で検出された。検出範囲は0.36~7.8ng/mであった(統一検出限界値:0.06ng/m)。
  (4) 以上の調査結果によれば、ベンゾ[b+k+j]フルオランテンは、底質、魚類及び大気から検出されており、底質及び大気では検出頻度が高く、前回調査(平成元年)と同様の傾向を示していることから、検出状況や関連情報を整理し、多環芳香族炭化水素全体としてリスク評価を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○ベンゾ[b+k+j]フルオランテンの製造方法58)
コールタール及びアスファルト中の成分で、非意図的生成物としてガソリンおよびディーゼルの排ガス、たばこの煙、石炭などの燃焼ガス中に含まれる。
    ○ベンゾ[b+k+j]フルオランテンの検出状況(水系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 平成元年度 0%(0/159) 0%(0/53) 不検出 0.1ppb
  平成11年度 0%(0/39) 0%(0/13) 不検出 0.018ppb
底質 平成元年度 74%(118/159) 79%(42/53) 0.01~5.5ppm 0.01ppm
  平成11年度 97%(38/39) 100%(13/13) 0.0048~1.1ppm 0.0048ppm
魚類 平成元年度 1%(1/120) 3%(1/40) 0.004ppm 0.003ppm
  平成11年度 10%(4/39) 15%(2/13) 0.00024~0.0004ppm 0.00022ppm
    ○ベンゾ[b+k+j]フルオランテンの検出状況(大気系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
  平成元年度 92%(36/39) 100%(13/13) 0.24~16.83ng/m 0.2ng/m
  平成11年度 100%(36/36) 100%(12/12) 0.36~7.8ng/m 0.06ng/m
    ○ベンゾ[b+k+j]フルオランテンの急性毒性試験等結果
ベンゾ[b]フルオランテン
   
発がん性: マウスに対する反復皮膚塗布および反復皮下投与で発がん性が認められている。ただし、発癌最小量はベンゾ[a]ピレンの値に比べて少なくとも10倍量である47) 。本物質はイニシエータとして作用していると解釈されている59)
マウスの皮下に本物質0.6 mgを2ヶ月以内に3回投与した実験では、生存個体の注射部位に肉腫が発生した60)
変異原性: チャイニーズハムスターを用いた骨髄細胞姉妹染色分体交換試験では陰性である61)
    ベンゾ[k]フルオランテン
   
発がん性: マウスの皮膚に本物質の0.1、0.5%アセトン溶液を週3回反復投与した実験では、乳頭腫の発生がみられ、さらに7~9ヶ月以内に動物の少なくとも95%に悪性腫瘍が発生した47)
0、0.65または17mgをラットの肺に注入した実験では、投与量に対応して扁平上皮癌の発生をみた62)
    ベンゾ[j]フルオランテン
   
発がん性: マウスの皮膚に本物質3.4、5.6、9.2 μg/頭を週2回生涯にわたり反復投与した実験では、1年後に5~20%(対照群では8%)、2年後に75~90%(対照群は70%)が死亡したが、この間に投与群では高用量群での皮膚癌1例、低用量群での肉腫1例を含む計4例の腫瘍発生を認めた。対照群に腫瘍の発生は認められなかった63)
また、ラットの肺に本物質0、0.2、1.0、5.0 mgを直接注入した実験では、各群35匹中0、1、3、18匹に肺の扁平上皮癌を認めた64)
変異原性: Ames試験は、S-9存在下で陽性である65)
    ○ベンゾ[b+k+j]フルオランテンの生態影響
ベンゾ[b]フルオランテン
オオミジンコ(Daphnia magna)  24 h-EC50(遊泳阻害): > 1.024 mg/L 66)

ベンゾ[k]フルオランテン
オオミジンコ(Daphnia magna)  0.0014 mg/L-LT50 13 h 45)


15.ベンゾ[g,h,i]ペリレン(環境調査(水系)及び環境調査(大気系)を併せて評価することとした。)
(1) ベンゾ[g,h,i]ペリレンは、コールタールとして、道路用、防水および防錆塗料、製鋼用燃料、油煙、電極粘結材、漁網染料、屋根塗装、鋳鉄管塗装としての用途がある1),35)
  (2) ベンゾ[g,h,i]ペリレンは、平成元年度の一般環境調査の結果、水質からは、24地点中1地点、72検体中1検体、底質からは、25地点中25地点、72検体中72検体、魚類からは、22地点中1地点、66検体中1検体から検出された(統一検出限界値:水質 0.05ppb、底質 0.003ppm、魚類 0.005ppm)。大気からは、平成元年度の一般環境調査の結果、13地点中12地点、39検体中32検体からされた(統一検出限界値:0.4 ng/m)。
  (3) 今回の調査の結果、ベンゾ[g,h,i]ペリレンは、水質及び魚類からは検出されず、底質からは13地点中12地点、39検体中33検体から検出された。検出範囲は、底質で0.0091~0.42ppmであった(統一検出限界値:水質0.027ppb、底質0.009ppm、魚類0.0002ppm)。大気からは、12地点中11地点、36検体中32検体で検出された。検出範囲は0.1~4.1ng/mであった(統一検出限界値:0.086ng/m)。
  (4) 以上の調査結果によれば、ベンゾ[g,h,i]ペリレンは、底質及び大気から検出されており、検出頻度が高く、前回調査(平成元年)とほぼ同様の傾向を示していることから、検出状況や関連情報を整理し、多環芳香族炭化水素全体としてリスク評価を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○ベンゾ[g,h,i]ペリレンの製造方法
コールタール及びアスファルト中の成分で、非意図的生成物としてガソリン及び
ディーゼルの排ガス、たばこの煙、石炭などの燃焼ガス中に含まれる。
    ○ベンゾ[g,h,i]ペリレンの検出状況(水系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 平成元年度 1%(1/72) 4%(1/24) 0.05ppb 0.05ppb
  平成11年度 0%(0/39) 0%(0/13) 不検出 0.027ppb
底質 平成元年度 100%(72/72) 100%(25/25) 0.003~1.31ppm 0.003ppm
  平成11年度 85%(33/39) 92%(12/13) 0.0091~0.42ppm 0.009ppm
魚類 平成元年度 2%(1/66) 5%(1/22) 0.016ppm 0.005ppm
  平成11年度 0%(0/33) 0%(0/11) 不検出 0.0002ppm
    ○ベンゾ[g,h,i]ペリレンの検出状況(大気系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
  平成元年度 82%(32/39) 92%(12/13) 0.41~7.0ng/m 0.4 ng/m
  平成11年度 89%(32/36) 92%(11/12) 0.1~4.1ng/m 0.086ng/m
    ○ベンゾ[g,h,i]ペリレンの急性毒性試験等結果
   
発がん性: 雌マウスの皮膚に本物質の0.01~0.05%溶液を反復塗布(総量最高200mg)し675日観察した実験67) 、雌マウスの皮膚に1回0.1 mgを反復投与し60週観察した実験68)では、いずれも発がん性は認められていない。
ただし、本物質はベンゾ[a]ピレンと混合投与すると、ベンゾ[a]ピレンの発癌性を増強することが知られている69),70)
    ○ベンゾ[g,h,i]ペリレンの生態影響
オオミジンコ(Daphnia magna)  0.0002 mg/L-LT50 14 h 45)


16.ジベンゾ[a,h]アントラセン(環境調査(水系)及び環境調査(大気系)を併せて評価することとした。)
(1) ジベンゾ[a,h]アントラセンは、コールタールとして、道路用、防水および防錆塗料、製鋼用燃料、油煙、電極粘結材、漁網染料、屋根塗装、鋳鉄管塗装としての用途がある1),35)
  (2) ジベンゾ[a,h]アントラセンは、平成元年度の一般環境調査の結果、水質からは、25地点中1地点、75検体中1検体、底質からは、20地点中19地点、60検体中55検体、魚類からは、21地点中1地点、63検体中1検体か検出された(統一検出限界値:水質 0.1ppb、底質 0.006ppm、魚類0.003ppm)。大気で平成元年度の一般環境調査の結果、13地点中3地点、39検体中7検体から検出された(統一検出限界値:0.6ng/m)。
  (3) 今回の調査の結果、ジベンゾ[a,h]アントラセンは、水質及び魚類からは検出されず、底質からは11地点中10地点、33検体中30検体から検出された。検出範囲は、底質で0.0011~0.088ppmであった(統一検出限界値:水質0.023ppb 、底質0.001ppm、魚類0.00078ppm)。大気からは、11地点中7地点、34検体中12検体で検出された。検出範囲は0.24~1.4ng/mであった(統一検出限界値:0.23ng/m)。
  (4) 以上の調査結果によれば、ジベンゾ[a,h]アントラセンは、底質及び大気から検出されており、検出頻度は底質で高く、大気でやや高く、前回調査(平成元年)とほぼ同様の傾向を示していることから、検出状況や関連情報を整理し、多環芳香族炭化水素全体としてリスク評価を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○ジベンゾ[a,h]アントラセンの製造方法
コールタール及びアスファルト中の成分で、非意図的生成物としてガソリン及び
ディーゼルの排ガス、たばこの煙、石炭などの燃焼ガス中に含まれる。
    ○ジベンゾ[a,h]アントラセンの検出状況(水系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 平成元年度 1%(1/75) 4%(1/25) 0.1ppb 0.1ppb
  平成11年度 0%(0/39) 0%(0/13) 不検出 0.023ppb
底質 平成元年度 92%(55/60) 95%(19/20) 0.0081~0.34ppm 0.006ppm
  平成11年度 91%(30/33) 91%(10/11) 0.0011~0.088ppm 0.001ppm
魚類 平成元年度 2%(1/63) 5%(1/21) 0.003ppm 0.003ppm
  平成11年度 0%(0/39) 0%(0/13) 不検出 0.00078ppm
    ○ジベンゾ[a,h]アントラセンの検出状況(大気系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
  平成元年度 18%(7/39) 23%(3/13) 0.89~4.6ng/m 0.6ng/m
  平成11年度 35%(12/34) 64%(7/11) 0.24~1.4ng/m 0.23ng/m
    ○ジベンゾ[a,h]アントラセンの急性毒性試験等結果
LD50(マウス、静脈内)  10 mg/kg
   
発がん性: マウス(肺癌、乳癌、注射部位の肉腫など)、ラット(肺癌、注射部位の肉腫)、モルモット、カエル、鳥類など各種の動物に、かつ種々の投与法法で発癌性が確認されている71)~85)。本物質の発癌性の強さは、ほぼベンゾ[a]ピレンと同程度でメチルコランスレンよりも強いと考えられている。本物質の催腫瘍性には動物の系統により強弱が認められている86)
変異原性: 本物質の変異原性については、Ames試験では代謝活性化の存在下でも陰性87)と報告されているが、大腸菌の系では代謝活性化の存在下で陽性52)、その他、イースト、哺乳動物の培養細胞および哺乳動物個体でいずれも陽性と報告されている。
    ○ジベンゾ[a,h]アントラセンの生態影響
オオミジンコ(Daphnia magna)  24 h-EC50(遊泳阻害): 0.496 mg/L 66)
  0.0004 mg/L-LT50 3.12 h 45)


17.ピレン(環境調査(水系)及び環境調査(大気系)を併せて評価することとした。)
(1) ピレンは、コールタールとして、道路用、防水および防錆塗料、製鋼用燃料、油煙、電極粘結材、漁網染料、屋根塗装、鋳鉄管塗装としての用途がある1),35)
  (2) ピレンは、平成元年度の一般環境調査の結果、水質からは、23地点中3地点、69検体中8検体、底質からは、24地点中23地点、71検体中68検体、魚類からは、21地点中6地点、63検体中10検体か検出された(統一検出限界値:水質 0.009ppb、底質 0.006ppm、魚類0.001 ppm)。大気からは、平成元年度の一般環境調査の結果、13地点中13地点、39検体中39検体から検出された(検出限界値:0.2ng/m)。
  (3) 今回の調査の結果、ピレンは、水質からは12地点中2地点、36検体中4検体、底質からは13地点中13地点、39検体中39検体、魚類からは13地点中4地点、37検体中8検体から検出された。検出範囲は、水質で0.006 ~0.012ppb、底質で0.0066~0.54ppm、魚類で0.00037~0.0016ppmであった(統一検出限界値:水質0.006ppb、底質0.0062ppm、魚類0.00034ppm)。 大気では、13地点中13地点、39検体中39検体で検出された。検出範囲は0.39 ~8.1ng/mであった(統一検出限界値:0.05ng/m)。
  (4) 以上の調査結果によれば、ピレンは、水質、底質、魚類、及び大気から検出されており、検出頻度は底質及び大気で高く、前回調査(平成元年)と同様の傾向を示していることから、検出状況や関連情報を整理し、多環芳香族炭化水素全体としてリスク評価を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○ピレンの製造方法2)
コールタール及びアスファルト中の成分で、非意図的生成物としてガソリン及び
ディーゼルの排ガス、たばこの煙、石炭などの燃焼ガス中に含まれる。
    ○ピレンの検出状況(水系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 平成元年度 12%(8/69) 13%(3/23) 0.01~0.065ppb 0.009ppb
  平成11年度 11%(4/36) 17%(2/12) 0.006~0.012ppb 0.006ppb
底質 平成元年度 96%(68/71) 96%(23/24) 0.02~3.9ppm 0.006ppm
  平成11年度 100%(39/39) 100%(13/13) 0.0066~0.54ppm 0.0062ppm
魚類 平成元年度 16%(10/63) 29%(6/21) 0.0013~0.0096ppm 0.001ppm
  平成11年度 22%(8/37) 31%(4/13) 0.00037~0.0016ppm 0.00034ppm
    ○ピレンの検出状況(大気系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
  平成元年度 100%(39/39) 100%(13/13) 0.26~9.07ng/m 0.2ng/m
  平成11年度 100%(39/39) 100%(13/13) 0.39 ~8.1ng/m 0.05ng/m
    ○ピレンの急性毒性試験等結果
   
LD50(ラット、経口) 2,700 mg/kg
LC50(ラット、吸入) 170 mg/m3
LD50(マウス、経口)  800 mg/kg
LD50(マウス、経口) 800 mg/kg
LD50(マウス、腹腔内)  514 mg/kg
ラットにピレン150mg/kgを腹腔内投与した実験では、投与後24時間後に血清ALAT活性の軽度の上昇が認められた89)
   
発がん性: ベンゾ[a]ピレン等との関連性において、発がん性の可能性が注目される物質であるが、ピレン自身には発がん性は証明されていない。ただし、ベンゾ[a] ピレンの発がん性を増強させることを示した実験報告がある。例えば、0.1%ピレンアセトン溶液をマウスに0.2 ml/回×2回/週×78日間反復塗布しても腫瘍発生は認められず90) 、ハムスターに5 mg/回×3回/週×10回気管支内注入を反復し、6週間観察した実験でも腫瘍発生は認められていない。91) しかし、マウスの皮膚にピレン(12 μg)とベンゾ[a]ピレン(5 μg)を単独または混合して3回/週反復塗布した実験では、ピレン+ベンゾ[a]ピレン群での腫瘍発生はベンゾ[a]ピレン単独群での発生を上回っていた70)
変異原性: ピレンは細菌を用いた系では代謝活性化の有無にかかわらず陰性42),92)(ただし陽性とする報告もある93))。
哺乳動物培養細胞を用いた実験では陰性42),92),94),95)、あるいは陽性95)とする報告があるがインビボ試験ではいずれも陰性である96),97),98)
    ○ピレンの生態影響
オオミジンコ(Daphnia magna) 1.01 h-LC50 0.004 mg/L 99)
  3.36 h-LTC50 0.0057 mg/L 45)
アミの一種(Mysidopsis bahia) 48 h-LC50 0.0025 mg/L 100)
  48 h-LC50 (UV): 0.0009 mg/L 100)
  48 h-LC50 (FL): 0.0248 mg/L 100)
蚊(Aedes aegypti) 24 h-LC50 0.035 mg/L 101)
二枚貝の一種(Mulinia lateralis, Calm)  96 h-LC50 (UV): 0.0016 mg/L 100)
  96 h-LC50 (FL): 9.454 mg/L 100)
ファットヘッドミノー(Pimephales promelas)  3.12 h-LC50 0.0256 mg/L 46)

光条件(UV: Ultraviolet light, FL: Fluorescent light)により、毒性が著しく変化する。


18.アントラセン
(1) アントラセンは、コールタールとして、道路用、防水および防錆塗料、製鋼用燃料、油煙、電極粘結材、漁網染料、屋根塗装、鋳鉄管塗装としての用途がある。平成5年の製造・輸入量は4,960トンである102)
  (2) アントラセンは、昭和51年度の一般環境調査の結果、水質からは検出されず、底質からは、1地点中1地点、20検体中4検体から検出された(統一検出限界値:水質0.1ppb、底質 0.01ppm)。昭和52年度には、水質からは検出されず、底質からは5地点中4地点、9検体中6検体から検出された(統一検出限界値:水質0.02~3ppb、底質 0.004ppm)。
  (3) 9検体、魚類からは12地点中1地点、36検体中2検体から検出された。検出範囲は、底質で0.0017~0.13ppm 、魚類で0.00061~0.00075ppmであった(統一検出限界値:水質0.013ppb、底質0.0011ppm、魚類0.00054ppm)。
  (4) 以上の調査結果によれば、アントラセンは、底質及び魚類から検出されており、検出頻度は底質で高く、前回調査(昭和52年)と同様の傾向を示していることから、検出状況や関連情報を整理し、多環芳香族炭化水素全体としてリスク評価を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○アントラセンの製造方法2),58)
コールタール及びアスファルト中の成分で、非意図的生成物としてガソリン及び
ディーゼルの排ガス、たばこの煙、石炭などの燃焼ガス中に含まれる。
    ○アントラセンの検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 昭和51年度 0%(0/20) 0%(0/1) 不検出 0.1ppb
  昭和52年度 0%(0/9) 0%(0/5) 不検出 0.02~3ppb
  平成11年度 0%(0/36) 0%(0/12) 不検出 0.013ppb
底質 昭和51年度 20%(4/20) 100%(1/1) 0.01~0.28ppm 0.01ppm
  昭和52年度 67%(6/9) 80%(4/5) 0.015~1.2ppm 0.004ppm
  平成11年度 100%(39/39) 100%(13/13) 0.0017~0.13ppm 0.0011ppm
魚類 平成11年度 6%(2/36) 8%(1/12) 0.00061~0.00075ppm 0.00054ppm
    ○アントラセンの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) > 17,000 mg/kg
LD50(マウス、腹腔内)  430 mg/kg
経口投与、皮膚塗布による毒性は軽度であるが、日光照射により皮膚に急性発赤をみる103) 。純品には発がん性がないが、不純物を含有する工業用品では発がん性を有する104)
    ○アントラセンの生態影響
セレナストルム(Selenastrum capricornutum, 緑藻) 0.92 d-EC50(生長): 0.0053 mg/L 105)
オオミジンコ(Daphnia magna) 24 h-EC50(遊泳阻害): 0.211 mg/L 106)
オオミジンコ(Daphnia magna) 48 h-EC50(遊泳阻害): 0.178 mg/L 107)
アミの一種(Mysidopsis bahia) 48 h-LC50(死亡): 0.0036 mg/L 100)
ブルーギル(Lepomis macrochirus) 48 h-LC50 0.0101 mg/L 108)
  96 h-LC50 0.0068 mg/L 108)
ファットヘッドミノー(Pimephales promerlas)  0.019 mg/L-LT50(死亡): 7 h 109)


19.フェナントレン(環境調査(水系)及び環境調査(大気系)を併せて評価することとした。)
(1) フェナントレンは、コールタールとして、道路用、防水および防錆塗料、製鋼用燃料、油煙、電極粘結材、漁網染料、屋根塗装、鋳鉄管塗装としての用途がある1),35)
  (2) フェナントレンは、昭和52年度の一般環境調査の結果、水質からは検出されず、底質からは、5地点5中地点、9検体中9検体から検出された(統一検出限界値:水質 0.02~5ppb、底質 -)。
  (3) 今回の調査の結果、フェナントレンは、水質からは検出されず、底質からは、13地点中13地点、39検体中38検体、魚類からは、13地点中10地点、39検体中25検体から検出された。検出範囲は、底質で0.0058~0.26ppm、魚類で0.00072~0.0037ppmであった(統一検出限界値:水質0.012ppb、底質0.0056ppm、魚類0.00069ppm)。大気では、13地点中13地点、39検体中39検体で検出された。検出範囲は1.6~29ng/mであった(統一検出限界値:0.019ng/m)。
  (4) 以上の調査結果によれば、フェナントレンは、底質、魚類及び大気から検出されており、検出頻度が高く、前回調査(昭和52年)と同様の傾向を示していることから、検出状況や関連情報を整理し、多環芳香族炭化水素全体としてリスク評価を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○フェナントレンの製造方法2)
コールタール及びアスファルト中の成分で、非意図的生成物としてガソリン及び
ディーゼルの排ガス、たばこの煙、石炭などの燃焼ガス中に含まれる。
    ○フェナントレンの検出状況(水系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 昭和52年度 0%(0/9) 0%(0/5) 不検出 0.02~5ppb
  平成11年度 0%(0/36) 0%(0/12) 不検出 0.012ppb
底質 昭和52年度 100%(9/9) 100%(5/5) 0.009~2.8ppm
  平成11年度 97%(38/39) 100%(13/13) 0.0058~0.26ppm 0.0056ppm
魚類 平成元年度 64%(25/39) 77%(10/13) 0.00072~0.0037ppm 0.00069ppm
    ○フェナントレンの検出状況(大気系)
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
  平成11年度 100%(39/39) 100%(13/13) 1.6~29ng/m 0.019ng/m
    ○フェナントレンの急性毒性試験等結果
LD50(マウス、経口) 700 mg/kg
LD50(マウス、腹腔内)  700 mg/kg
LD50(マウス、静脈内) 56 mg/kg
急性、慢性局所作用はないが、皮膚に光感作性を有する110)。全身的な毒性は未詳である。
   
変異原性: Ames試験では、代謝活性化の存在下で陽性である111)
    ○フェナントレンの生態影響
セレナストルム(Selenastrum capricornutum, 緑藻) 72 h-EC50(生長): 0.324 mg/L 112)
オオミジンコ(Daphnia magna) 24 h-LC50(遊泳阻害): 0.861 mg/L 106)
  48 h-EC50 0.843 mg/L 113)
  48 h-EC50 0.700 mg/L 114)
  16 d-LOEC(繁殖): 0.06 mg/L 115)
アルテミア(Artemia salina) 24 h-LC50(遊泳阻害): 0.52 mg/L 116)
ゴカイ(Nereis arenaceodentata, 多毛類)  96 h-LC50 0.60 mg/L 117)
ユスリカの一種(Chironomus tentans) 48 h-LC50 0.490 mg/L 115)
ニジマス(Oncorhynchus mykiss) 23 h-LC50 0.04 mg/L 116)
  60 d-NOEC(生長): 0.038 mg/L 116)


20.アセナフテン
(1) アセナフテンは、コールタールとして、道路用、防水および防錆塗料、製鋼用燃料、油煙、電極粘結材、漁網染料、屋根塗装、鋳鉄管塗装としての用途がある1),35)
  (2) アセナフテンは、昭和58年度の一般環境調査の結果、水質からは検出されず、底質からは、11地点6中地点、33検体中13検体から検出された(統一検出限界値:水質 0.09~0.4ppb、底質0.008 ~0.041ppm)。昭和59年度には、水質からは46地点中1地点、138検体中3検体、底質からは46地点中24地点、138検体中58検体、魚類からは42地点中7地点、138検体中15検体から検出された(統一検出限界値:水質0.001~1ppb、底質0.00004~0.088ppm、魚類0.0001~0.05ppm)。
  (3) 今回の調査の結果、アセナフテンは、水質からは、13地点中1地点、39検体中1検体、底質からは、13地点中12地点、39検体中35検体、魚類からは、13地点中6地点、39検体中11検体から検出された。検出範囲は、水質で0.012ppb、底質で0.00062~0.24ppm、魚類で0.00081~0.0047ppmであった(統一検出限界値:水質0.011ppb、底質0.00045ppm、魚類0.00077ppm)。
  (3) 以上の調査結果によれば、アセナフテンは、水質、底質及び魚類から検出されており、検出頻度は底質で高く、前回調査(昭和59年)とほぼ同様の傾向を示していることから、検出状況や関連情報を整理し、多環芳香族炭化水素全体としてリスク評価を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○アセナフテンの製造方法2)
コールタール及びアスファルト中の成分で、非意図的生成物としてガソリン及び
ディーゼルの排ガス、たばこの煙、石炭などの燃焼ガス中に含まれる。
    ○アセナフテンの検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 昭和58年度 0%(0/33) 0%(0/11) 不検出 0.09~0.4ppb
  昭和59年度 2%(3/138) 2%(1/46) 0.05~0.1ppb 0.001~1ppb
  平成11年度 3%(1/39) 8%(1/13) 0.012ppb 0.011ppb
底質 昭和58年度 39%(13/33) 55%(6/11) 0.008~0.13ppm 0.008~0.041 ppm
  昭和59年度 42%(58/138) 52%(24/46) 0.00004~0.084ppm 0.00004~0.088ppm
  平成11年度 90%(35/39) 92%(12/13) 0.00062~0.24ppm 0.00045ppm
魚類 昭和59年度 11%(15/138) 17%(7/42) 0.001~0.50ppm 0.0001~0.05ppm
  平成11年度 28%(11/39) 46%(6/13) 0.00081~0.0047ppm 0.00077ppm
    ○アセナフテンの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、腹腔内)  600 mg/kg
皮膚および粘膜に対し刺激性があると記述されているが、詳細は不明である118)
マウスの皮膚に12ヶ月間反復と付した実験119)、あるいはラットに1回経口投与した実験120)では、いずれも発がん性は確認できなかった。
    ○アセナフテンの生態影響
セレナストルム(Selenastrum capricornutum, 緑藻)  48 h-EC50(クロロフィル量): 0.322 mg/L 121)
海産珪藻の一種(Skeketonema costatum,) 96 h-EC50(光合成): 0.50 mg/L 121)
オオミジンコ(Daphnia magna) 48 h-EC50(遊泳阻害): 3.450 mg/L 122)
  48 h-EC50(遊泳阻害): 1.275 mg/L 106)
  48 h-LC50 41.0 mg/L 123)
ニジマス(Oncorhynchus mykiss) 24 h-LC50 1.57 mg/L 124)
  48 h-LC50 1.13 mg/L 124)
  72 h-LC50 0.80 mg/L 124)
  96 h-LC50 0.67 mg/L 124)
マスの一種(Salmo trutta) 48 h-LC50 0.65 mg/L 124)
  96 h-LC50 0.58 mg/L 124)


21.1-ナフトール
(1) 1-ナフトールは、染料中間体、医薬原料、合成香料合料としての用途がある。平成10年の生産・輸入量は350トンである1),2),10)
  (2) 1-ナフトールは、昭和52年度の一般環境調査の結果、水質及び底質からは検出されなかった(統一検出限界値:水質 0.4~4.5ppb、底質 0.04~0.29ppm)。
  (3) 今回の調査の結果、1-ナフトールは、水質からは、10地点中5地点、30検体中から14検体、底質からは、12地点中1地点、36検体中3検体、魚類からは、11地点中1地点、33検体中1検体から検出された。検出範囲は、水質で 0.005~0.049ppb、底質で0.033~0.11ppm、魚類では 0.0096ppmであった(統一検出限界値:水質0.005ppb、底質0.0078ppm、魚類0.0031ppm)。
  (4) 以上の調査結果によれば、1-ナフトールは、水質、底質及び魚類から検出されており、検出頻度は水質でやや高く、複数媒体から検出されていることから、今後も一定期間をおいて環境調査を行い、その推移を監視するとともに、情報収集にも努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○1-ナフトールの製造方法1),10)
1.ナフタレンスルホン酸ナトリウムのアルカリ溶融。
2.クロロナフタレンのアルカリ加水分解。
    ○1-ナフトールの検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 昭和52年度 0%(0/6) 0%(0/2) 不検出 0.4~4.5ppb
  平成11年度 47%(14/30) 50%(5/10) 0.005~0.049ppb 0.005ppb
底質 昭和52年度 0%(0/6) 0%(0/2) 不検出 0.04~0.29ppm
  平成11年度 8%(3/36) 8%(1/12) 0.033~0.11ppm 0.0078ppm
魚類 平成11年度 3%(1/33) 9%(1/11) 0.0096ppm 0.0031ppm
    ○1-ナフトールの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) 1,870 mg/kg
LC50(ラット、吸入) > 420 mg/m3/1H
LD50(ラット、腹腔内)  250 mg/kg
LD50(マウス、経口) 275 mg/kg
LD50(ウサギ、経口) 9,000 mg/kg
LD50(ウサギ、皮膚) 880 mg/kg
LD50(モルモット、経口) 2,000 mg/kg
   
刺激性: 本物質は、Standard Draize試験で皮膚および眼に対し、強い刺激性を有する12)
反復投与毒性: ラットを用いた28日間または14日間反復投与毒性試験で、体重増加抑制、肝重量の増加および尿量の増加が見られている125)
生殖・発生毒性: マウスを用い、妊娠6~14日に静脈内投与した実験では、胎児毒性が見られている126)
変異原性: Ames試験では陰性127)と陽性128)の報告がある。
    ○1-ナフトールの生態影響
ユスリカの一種(Chironomus riparius, 幼虫) 24 h-EC50 (遊泳阻害): 1.5 mg/L 129)
二枚貝の一種(Scrobicularia plana) 10 mg/L-LT50 (死亡): 9 d 130)
ファットヘッドミノー(Pimephales promelas) 24 h-LC50 7.01 mg/L 131)
  48 h-LC50 4.33 mg/L 131)
  72 h-LC50 4.24 mg/L 131)
  96 h-LC50 4.24 mg/L 131)
  96 h-LC50 4.63 mg/L 34)
  96 h-LC50 3.57 mg/L 132)
ナマズ(Chana punctatus, catfish) 96 h-LC50 (死亡): 2.99 mg/L 133)


22.2-ナフトール
(1) 2-ナフトールは、医薬品(殺菌剤、防カビ剤、皮膚病薬)合成中間体、合成ゴム酸化防止剤、染料合成中間体、香料原料、防腐剤、α-ナフトールスルホン酸原料、選鉱剤原料としての用途がある。平成10年の生産・輸入量は1,600トン(推定)である1),2),10)
  (2) 2-ナフトールは、昭和52年度の一般環境調査の結果、水質及び底質からは検出されなかった(統一検出限界値:水質 0.4~6ppb、底質 0.04~0.39ppm)。
  (3) 今回の調査の結果、2-ナフトールは、水質及び底質からは検出されず、魚類からは、11地点中1地点、33検体中1検体から検出された。検出範囲は、魚類で0.014ppmであった(統一検出限界値:水質0.009ppb、底質0.0068ppm、魚類0.0051ppm)。
  (4) 以上の調査結果によれば、2-ナフトールは、魚類から1検体検出されただけであるが、生産量が多いことから、今後も一定期間をおいて環境調査を行い、その推移を監視するとともに、情報収集にも努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○2-ナフトールの製造方法1),10)
ナフタレンスルホン酸ナトリウムのアルカリ溶融、クロロナフタレンのアルカリ溶融、キユメン法。
    ○2-ナフトールの検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 昭和52年度 0%(0/6) 0%(0/2) 不検出 0.4~6ppb
  平成11年度 0%(0/36) 0%(0/12) 不検出 0.009ppb
底質 昭和52年度 0%(0/6) 0%(0/2) 不検出 0.4~0.39ppb
  平成11年度 0%(0/36) 0%(0/12) 不検出 0.0068ppm
魚類 平成11年度 3%(1/33) 9%(1/11) 0.014ppm 0.0051ppm
    ○2-ナフトールの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) 1,960 mg/kg
LC50(ラット、吸入) > 770 mg/kg
LD50(ラット、皮下)  2,940 mg/kg
LD50(マウス、経口) 100 mg/kg
LD50(マウス、皮下) 100 mg/kg
LD50(ウサギ、経口) 3,800 mg/kg
LD50(ウサギ、皮膚) > 10,000 mg/kg
LD50(ウサギ、皮下) 3,000 mg/kg
LD50(マウス、腹腔内) 97,500 mg/kg
LD50(モルモット、経口) 1,335 mg/kg
LD50(モルモット、皮下) 2,670 mg/kg
   
刺激性: 本物質は、Standard Draize試験で皮膚および眼に対し、中程度の刺激性を有する12)
反復投与毒性: ラットを用いた28日間経口反復投与毒性試験で、体重増加抑制のほか膀胱重量の変化が認められている134)
変異原性: Ames試験では陰性である127)
    ○2-ナフトールの生態影響
セレナストルム(Selenastrum capricornutum, 緑藻) 4 h-EC50(光合成): 18.8 mg/L 114)
オオミジンコ(Daphnia magna) 48 h-LC50 3.54 mg/L 114)
ヨコエビ(Gammarus minus) 48 h-LC50 0.85 mg/L 114)
ユスリカの一種(Chironomus riparius, 幼虫) 48 h-LC50 0.432 mg/L 114)
オオクチバス(Micropterus salmoides) 7 d-LC50 1.77 mg/L 115)
ニジマス(Oncorhynchus mykiss) 27 d-LC50 0.07 mg/L 115)
  27 d-LC50 0.07 mg/L 114)
ファットヘットミノー(Pimephales promelas) 96 h-LC50 3.46 mg/L 114)


23.o-フェニルフェノール
(1) o-フェニルフェノールは、合成樹脂原料、染色キヤリヤー、各種合成原料、殺菌剤、防腐剤、ゴム加工剤、防カビ剤でカンキツ類に対して抗菌剤としての用途がある1),2)
  (2) o-フェニルフェノールは、昭和53年度の一般環境調査の結果、水質及び底質からは検出されず、魚類から9地点中1地点、27検体中1検体から検出された(統一検出限界値:水質0.02~12.5ppb、底質0.02~0.63ppm)。
  (3) 今回の調査の結果、o-フェニルフェノールは、水質及び底質からは検出されず、魚類からは、11地点中1地点、33検体中1検体から検出された。検出範囲は、魚類で0.013ppmであった(統一検出限界値:水質0.008ppb、底質0.0068ppm、魚類0.0032ppm)。
  (4) 以上の調査結果によれば、o-フェニルフェノールは、魚類から1検体検出されただけで、現時点では、特に問題を示唆するものではないと考えられる。
  【 参 考:主な非イオン系界面活性剤 】
  ○o-フェニルフェノールの製造方法2)
フエニルエーテルより合成。
  ○o-フェニルフェノールの検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 昭和53年度 0%(0/30) 0%(0/10) 不検出 0.02~12.5ppb
  平成11年度 0%(0/30) 0%(0/10) 不検出 0.008ppb
底質 昭和53年度 0%(0/30) 0%(0/10) 不検出 0.02~0.63ppm
  平成11年度 0%(0/36) 0%(0/12) 不検出 0.0068ppm
魚類 平成11年度 3%(1/33) 9%(1/11) 0.013ppm 0.0032ppm
    ○2-ナフトールの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) 2,000 mg/kg
LD50(マウス、経口) 1,050 mg/kg
LD50(マウス、腹腔内)  50 mg/kg
   
刺激性: 本物質は、Standard Draize試験で皮膚に対し中程度の、眼に対し強い刺激性を有する12)。
反復投与毒性: ラットに1,250 mg/kg/day相当量(2%)を90日間混餌投与した実験で、血尿、肝臓及び腎臓の重量増加、腎臓の退色、組織学的には肝細胞肥大、腎臓の皮質萎縮、尿円柱及び嚢胞変性がみられている135)
ラットの雄に98.4、210.3、409.9、815.1、1,492.8 mg/kg/day相当量、雌に108.5、221.1、432.3、888.4、1,622.6 mg/kg/day相当 (0.16、0.31、0.62、1.25、2.5%)を13週間混餌投与した実験では、最高用量で雌雄に死亡がみられ、生存例では最高用量で雌雄に摂餌量減少、腎盂腎炎及び間質性腎炎、2高用量で雌雄に体重減少、雄に膀胱の結石及び移行上皮過形成がみられている135)
発がん性: (C57BL/6 × CH3/Anf)F1及び(C57BL/6 × AKR)F1マウスに7日齢から100mg/kg/dayを強制経口投与し、離乳後から280mg/kg/day相当量を18ヵ月齢まで混餌投与した実験では、腫瘍の誘発はみられていない3-5)
Wistarラットに10、100、1,000mg/kg/day相当量 (0.02、0.2、2%)を2年間混餌投与した実験では腫瘍の誘発はみられていない136)
F344ラットの雄に98.4、210.3、409.9、815.1、1,492.8 mg/kg/day相当量、雌に108.5、221.1、432.3、888.4、1,622.6 mg/kg/day相当量 (0.16、0.31、0.62、1.25、2.5%)を13週間混餌投与した実験で、雄815.1 mg/kg/dayで膀胱に移行上皮乳頭腫の誘発がみられている136)
さらにF344ラットの雄に269、531、1,140 mg/kg/day相当量 (0.625、1.25、2.5%)を91週間混餌投与した実験で、531 mg/kg/day以上で膀胱の移行上皮乳頭腫/がんの誘発がみられている136), 137)
変異原性: Ames試験では、陰性138)と陽性136)の報告がある。チャイニーズハムスターの培養細胞(CHO)を用いた染色体異常試験と姉妹染色分体交換試験では陽性である3-7)。マウスを用いた小核試験は陰性である138)
生殖・発生毒性: マウスに1,450、1,740、2,100 mg/kg/dayを妊娠7日目から15日目までの9日間投与した実験で、母動物および胎児に体重減少がみられたが、奇形はみられていない136)。 ラットに100、300、700 mg/kg/dayを妊娠6日目から15日目までの10日間投与した実験で胎児毒性および催奇形性はみられていない136)
ラットに150、300、600、1,200 mg/kg/dayを妊娠6日目から15日目までの10 日間投与した実験で、300 mg/kg/day以上で母動物に体重増加抑制、運動失調等の毒性がみられ、600 mg/kg/day以上で吸収胚の増加、胎児体重の減少等の毒性がみられている135)
ラットに36、125、457 mg/kg/dayを投与した2世代繁殖試験で、125 mg/kg/day 以上でF0、F1世代の雌雄の腎臓に影響がみられ、457 mg/kg/dayでF0、F1世代 の雌で体重増加の抑制、F1世代の雄で腎臓に影響がみられている135)
    ○o-フェニルフェノールの生態影響
オオミジンコ(Daphnia magna) 24 h-EC50(遊泳阻害): 1.5 mg/L 139)
  24 h-LC50(死亡): 0.71 mg/L 140)
ニジマス(Oncorhynchus mykiss) 96 h-LC50 2.75 mg/L 131)
ファットヘッドミノー(Pimephales promelas) 24 h-LC50 6.24 mg/L 131)
  48 h-LC50 6.11 mg/L 131)
  72 h-LC50 6.11 mg/L 131)
  96 h-LC50 5.99 mg/L 131)
グッピー(Poecilia reticulata) 96 h-LC50 5.80 mg/L 140)


24.p-フェニルフェノール
(1) p-フェニルフェノールは、合成樹脂原料、酸化防止剤、染色キャリヤー、各種合成原料、ゴム加工剤としての用途がある1),2)
  (2) p-フェニルフェノールは、昭和53年度の一般環境調査の結果、水質及び底質からは検出されなかった。(統一検出限界値:水質0.02~50 ppb、底質0.06~2.5 ppm、)。
  (3) 今回の調査の結果、p-フェニルフェノールは、水質からは、9地点中1地点、27検体中2検体、底質からは、12地点中1地点、36検体中1検体、魚類からは、11地点中1地点、33検体中1検体から検出された。検出範囲は、水質で0.007~0.009ppb、底質で0.002ppm、魚類で0.01ppmであった(統一検出限界値:水質0.006ppb、底質0.0016ppm、魚類0.002ppm)。
  (4) 以上の調査結果によれば、p-フェニルフェノールは、水質、底質及び魚類から検出されており、いずれも検出頻度が低いが、関連情報が少ないので、今後も情報収集に努めながら、調査の必要性を検討すべきである。
  【 参 考 】
    ○p-フェニルフェノールの検出状況
   
    (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
水質 昭和53年度 0%(0/30) 0%(0/10) 不検出 0.02~50ppb
  平成11年度 7%(2/27) 11%(1/9) 0.007~0.009ppb 0.006ppb
底質 昭和53年度 0%(0/30) 0%(0/10) 不検出 0.06~2.5ppm
  平成11年度 3%(1/36) 8%(1/12) 0.002ppm 0.0016ppm
魚類 平成11年度 3%(1/33) 9%(1/11) 0.01ppm 0.002ppm
    ○フェノールの急性毒性試験等結果
LD50(マウス、腹腔内)  150 mg/kg
   
変異原性: Ames試験とDNA修復試験で陰性である142)
    ○p-フェニルフェノールの生態影響
ゾウリムシ(Tetrahymena pyriformis, 原生動物)  48 h-EC50(生長): 7.05 mg/L 143)
オオミジンコ(Daphnia magna) 48 h-LC50 3.666 mg/L 144)




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