平成11年(1999年)版 「化学物質と環境」
第1編第1部 平成10年度化学物質環境調査結果の概要
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第4章 環境調査結果の評価

物質名の後ろに◎のあるものは平成10年度調査で検出検体があったもの。
[化学物質環境調査(大気系)]
1. 臭化メチル 2. 臭化エチル
3. 塩化ビニル 4. 1,2-ジブロモエタン
5. 2-ブロモプロパン 6. 1-クロロブタン
7. 3,4-ジクロロ-1-ブテン 8. トルエン
9. クロロベンゼン 10. o-キシレン
11. m-キシレン+p-キシレン 12. スチレン
13. ジクロロメタン 14. 1,2,4-トリメチルベンゼン
15. 1,3,5-トリメチルベンゼン 16. ポリ塩化ナフタレン
17. リン酸トリス(2-クロロエチル) 18. リン酸トリブチル
19. リン酸トリクレジル 20. アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)
21. メチルナフタレン(2物質) 22. ジメチルナフタレン(9物質)
23. クロトンアルデヒド    
[化学物質環境調査(水系)]
〔参考文献〕


[化学物質環境調査(大気系)]
 本調査は、大気中に化学物質がどの程度残留しているか把握することを目的として行っている。
 平成10年度の調査結果の概要とそれに対する評価は、次のとおりである。なお、調査地点では、特定の排出源の直接的な影響を受けないような地点を選定している。
 本調査における試料採取は、ほとんどが9~11月に行われている。環境試料の分析は、主として調査地域を管轄する地方公共団体の公害等試験研究機関で行っており、検出限界については、化学物質環境調査(水系)と同様、各地点の検出頻度を相互に比較するため、同一化学物質に対しては一つの検出限界を設定している。
 今回の調査の結果、32物質(群)中29物質(群)(臭化メチル、塩化ビニル、1-クロロブタン、3,4-ジクロロ-1-ブテン、トルエン、クロロベンゼン、o-キシレン、m-キシレン+p-キシレン、スチレン、ジクロロメタン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、ポリ塩化ナフタレン、リン酸トリス(2-クロロエチル)、リン酸トリブチル、リン酸トリクレジル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、モノメチルナフタレン、ジメチルナフタレン、クロトンアルデヒド)が検出された。調査結果の概要を物質(群)別に示せば、次のとおりである。
 なお、調査した物質によっては、今回の調査の統一検出限界が前回より高くなっているものがあるが、それは主に測定方法の変更(例えば、測定機器をGC-ECDからGC-MS)等によるものであり、その反面信頼性が向上しているものが多い。


1.臭化メチル
(1) 臭化メチルは、食糧および土壌の燻蒸剤、有機合成としての用途がある1)
  (2) 臭化メチルは、平成55年度の一般環境調査の結果、6地点中3地点、27検体中5検体から検出された。(検出限界値:0.015~0.1ppb)
  (3) 今回の調査の結果、臭化メチルは、14地点中13地点、39検体36中検体で検出された。検出範囲は49~340ng/m3であった(統一検出限界値:41ng/m3)。
  (4) 以上の調査結果によれば、臭化メチルは、検出頻度が高く、前回の昭和55年度調査と比べ、増加傾向にあることから、今後より詳細な環境調査を行い、その推移を監視するとともにリスク評価を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○臭化メチルの製造方法
臭化メチルは、リンの存在下でメチルアルコールに臭素を反応させ、蒸留、精製して製造される1)
    ○臭化メチルの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
昭和55年度 19%(5/27) 50%(3/6) 0.015~0.031ppb 0.015~0.1ppb
      (59~122ng/m3) (59~395ng/m3)
平成10年度 92%(36/39) 93%(13/14) 49~340ng/m3 41ng/m3
    ○臭化メチルの急性毒性試験等結果
   
・ヒト TDLo(吸入) 35 ppm
・ヒト TDLo(経皮) 35 g/m3/40月
・ラット LD50(経口) 214 mg/kg
・ラット LD50(吸入) 302 ppm/8時間
・ウサギ LD50(吸入) 2,000 mg/m3/11時間
・マウス LD50(吸入) 1,540 mg/m3/2時間
・毒性の標的は皮膚および呼吸器に対する刺激性、中枢神経系に対する作用および腎障害に要約される110)
・事例: 家屋の燻蒸作業を行った後通風に従事して暴露を受けた作業者の場合、作業中より嘔吐、窒息感があり、入院加療を受けたところ入院中にてんかん様発作を見た。この作業者の同僚数人も暴露当日あるいは翌日に運動失調あるいは四肢ないし全身性痙攣発作が認められた111)


2.臭化エチル
(1) 臭化エチルは、医薬品、塩化ビニル安定剤、農薬、冷凍剤などの原料としての用途1,2)がある。平成9年の生産量は100トン(推定)である1)
  (2) 臭化エチルは、昭和58年度の一般環境調査の結果、34地点中5地点、101検体中15検体から検出され(検出限界値:0.001~0.017ppb)、平成9年度には、10地点中3地点、30検体中5検体で検出された。検出範囲は5.9~53ng/m3であった(統一検出限界値:5.4ng/m3)。
  (3) 今回の調査の結果、臭化エチルは、検出されなかった(統一検出限界値:40ng/m3)。
  (4) 以上の調査結果より、現時点では特に問題を示唆するものではないと考えられる。
  【 参 考 】
  ○臭化エチルの製造方法
臭化エチルはエチルアルコールに赤リンを加え、これに臭素を徐々に作用させて得られる1)
    ○臭化エチルの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
昭和58年度 15%(15/101) 15%(5/34) 0.002~0.059 ppb 0.001~0.017 ppb
      (9.1~268ng/m3) (4.5~77ng/m3)
平成9年度 17%(5/30) 30%(3/10) 5.9~53ng/m3 5.4ng/m3
平成10年度 0%(0/36) 0%(0/12) 不検出 40ng/m3
    ○臭化エチルの急性毒性試験結果
   
・ラット LC50(吸入) 26,980 ppm×1時間
・マウス LC50(吸入) 16,230 ppm×1時間
・高濃度では中枢神経系抑制作用があり、モルモットを6,500 ppm×270分曝露した場合、死亡例を生じ、また、24,000ppm×30分曝露でも死亡し肺・脾の病理組織像に変化が認められた。50,000ppm×100分では意識を失う112)
・生殖毒性: ラット及びマウスを100~1,600ppm×6時間/日×5日/週×14週間反復暴露した実験では、1,600ppm群のラットに強い睾丸萎縮が、また800ppm群と1,600ppm群のマウスに卵巣黄体の大きさと数の低下が認められた113)
・催腫瘍性: B6C3FマウスとFischer344ラットを臭化エチル0、100、200、400ppm×6時間/日×5日/104週間反復暴露した実験ではマウスに子宮内膜の腫瘍の発生が濃度に対応して上昇した。雄で肝腫瘍の発生が認められたが推計学的な有意性は限界域であった。雄ラットで褐色細胞腫の発生増加が認められたが濃度には対応していなかった113)
・変異原性: Ames試験は陽性114)。チャイニーズハムスターのCHO細胞を用いた姉妹染色分体交換試験は陽性115)。しかし染色体異常試験は陰性115)
・事 例: 6,500 ppmに5分間曝露した場合、めまい、軽度の頭痛及び軽度の眼の刺激が認められた112)。200 ppmの濃度でエーテル様の臭いを感じる112)


3.塩化ビニル
(1) 塩化ビニルは、ポリ塩化ビニル樹脂、塩化ビニル共重合体(エチレン、エンカビニリデン、プロピオン酸ビニル等)を製造し、ラテックス(一般塗料、船底塗料、紙のつや出し、接着剤、防湿セロファン等)としての用途がある1,2,70)。平成9年度の輸入・生産量は3,124,222トンである1)
  (2) 塩化ビニルは、昭和54年度の一般環境調査の結果、17地点中3地点、45検体中7検体から検出され(検出限界値:0.002~2ppb)、昭和55年度には、22地点中3地点、117検体中10検体から検出され(検出限界値:0.02~2ppb)、平成9年度には、18地点中15地点、53検体中40検体から検出された(統一検出限界値:15ng/m3)。
  (3) 今回の調査の結果、塩化ビニルは、13地点中12地点、36検体中31検体で検出された。検出範囲は、16~1,300ng/m3であった(統一検出限界値:14ng/m3)。
  (4) 以上の調査結果によれば、塩化ビニルは、検出頻度が高く、以前の調査結果と比べ検出濃度レベルも横ばい傾向にあることから、発生源周辺を含めた詳細な環境調査を行いその推移を監視するとともに、リスク評価を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○塩化ビニルの製造方法
塩化ビニルは、1,2-ジクロロエタンを分解して製造される。
    ○塩化ビニルの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
昭和54年度 16%( 7/ 45) 19%(3/17) 0.022~4.0 ppb 0.002~2 ppb
      (57~10400ng/m3) (5.2~5200ng/m3)
昭和55年度 16%(10/117) 9%(3/22) 0.02~1.35 ppb 0.02~2 ppb
      (52~3510ng/m3) (52~5200ng/m3)
平成9年度 75%(40/53) 83%(15/18) 18~2,000ng/m3 15ng/m3
平成10年度 86%(31/36) 92%(12/13) 16~1,300ng/m3 14ng/m3
    ○塩化ビニルの急性毒性試験等結果
   
・ラット LC50(吸入) 18,000 mg/kg
・高濃度では中枢神経系抑制作用があり、モルモットを6,500ppm×270分曝露した場合、死亡例を生じ、また、24,000ppm×30分曝露でも死亡し肺・脾の病理組織像に変化が認められた。50,000ppm×100分では意識を失う112)
・生殖毒性: 父親が塩化ビニルに対する職業的暴露を受けている場合、胎児の死亡率が高まっていることが指摘されている116)。しかし動物を用いた催奇形性実験の結果はなお結論的ではない117)
・催腫瘍性: 動物実験ではラット、マウス、ハムスターのいずれにおいても陽性。腫瘍の種類としては肝血管肉腫の他に肝細胞がん、ジンバル腺がん、神経芽腫等が報告されている。
・事 例: 塩化ビニルに対する職業的曝露に伴い、典型的には重合缶清掃作業者に肝血管肉腫が発生することが国際的に知られており118)、我が国からも症例が報告されている118)。平均的な潜伏期間は18年と推定されている。


4.1,2-ジブロモエタン
(1) 1,2-ジブロモエタンは、昭和58年度の一般環境調査の結果、12地点中10地点、108検体中 71検体から検出(検出限界値:0.0003~0.001 ppb)、平成9年度には検出されなかった(統一検出限界値:90ng/m3)。
  (2) 今回の調査の結果、1,2-ジブロモエタンは検出されなかった(統一検出限界値:71ng/m3)。
  (3) 以上の調査結果より、現時点では特に問題を示唆するものではないと考えられる。
  (4) 以上の調査結果によれば、アニリンは、水質及び底質で検出され、底質からの検出頻度は高いことから、一定期間をおいて環境調査を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○1,2-ジブロモエタンの製造方法
1,2-ジブロモエタンは、エチレンの臭素化反応または、鉄の存在下で臭化エチルに臭素を反応させて製造される42)
    ○1,2-ジブロモエタンの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
昭和58年度 66%(71/108) 83%(10/12) 0.001~0.067ppb 0.0003~0.001 ppb
      (7.8~524ng/m3) (2.3~7.8ng/m3)
平成9年度 0%(0/57) 0%(0/19) 不検出 90ng/m3
平成10年度 0%(0/39) 0%(0/13) 不検出 71ng/m3
    ○1,2-ジブロモエタンの急性毒性試験等結果
   
・ラット LD50(経口) 108 mg/kg
・ラット LC50(吸入) 4,300 mg/m3×30分
・動物の反復蒸気曝露実験によれば 50~100 ppm×数日の曝露でラット、モルモット、ウサギ、サルに肝の脂肪変性、腎障害を生じて死亡する例が認められ、無毒性濃度は、モルモット、ウサギ、サルに対して 25 ppm(最高200日反復曝露)であった119)
・催腫瘍性: 本物質をラットに雄雌とも約40mg/kg/日×110週、マウスには雄雌とも 62mg/kg/日及び 107mg/kg/日×78~90週投与した実験ではいずれの群でも前胃の扁平上皮がんが、またマウスではさらに肺がんの発生率が上昇し、発がん性が確認された120)
・生殖毒性: 雄のウシに 4mg/kg/日の反復投与により精子形成障害が生じた120)
雄のウサギに本物質を0,15,30,45 mg/kg/日×5日皮下投与した実験では投与量に対応して射精量が低下し、45 mg/kg群では精子の運動量の低下が見られたが、受胎させる能力及び胎仔の発育には変化がなかった121)
・変異原性: Ames試験で陽性122)


5.2-ブロモプロパン
(1) 2-ブロモプロパンは、医薬中間体、農薬中間体、感光剤中間体、各種有機合成用、溶剤としての用途がある1,2)。平成9年の生産量は100トン(推定)である1)
  (2) 2-ブロモプロパンは、平成9年度の一般環境調査の結果検出されなかった(統一検出限界値:200ng/m3)。
  (3) 今回の調査の結果、2-ブロモプロパンは検出されなかった(統一検出限界値:170ng/m3)。
  (4) 以上の調査結果より、現時点では特に問題を示唆するものではないと考えられる。
  【 参 考 】
  ○2-ブロモプロパンの製造方法
2-ブロモプロパンはイソプロピルアルコールと臭化水素との反応、あるいはイソプロピルアルコールと臭素との反応で合成により製造される13)
    ○2-ブロモプロパンの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成9年度 0%(0/57) 0%(0/19) 不検出 200ng/m3
平成10年度 0%(0/39) 0%(0/13) 不検出 170ng/m3
    ○2-ブロモプロパンの急性毒性試験等結果
   
マウス LC50(吸入) 31,171 ppm×4時間
・生殖毒性: 雄ラットを300,1,000,3,000 ppm×8時間/日×7日/週×9週(3,000ppm群では最高11週迄)で反復曝露した実験では濃度に対応した精子形成阻害及び骨髄の造血機能低下123,124)が認められた。また、雌ラットを100,300,1,000ppm×8時間/日×7日/週×9週で反復曝露した実験では、性周期の乱れ(発情休止期の延長など)が生じ卵巣では閉鎖卵胞の増加と黄体数の減少が認められた125)14)
・変異原性: TA100及びTA1535株ではS9-Mix添加の有無に係わらず陽性、染色体異常試験及び小核試験は陰性126)
・事 例: 本物質を用いた部品洗浄作業は1994年2月に開始され、1995年の夏に女子従業員に月経不順が多発していることが報告された。作業者(19~49才)は女子25名、男子8名で、自覚症状及び臨床検査によりこのうち女子17名、男子8名中の女子全員に卵巣機能障害、男子6名に精子数減少が認められた127)
 なお、日本では、労働省はこの事例を受け、平成7年末に2-ブロモプロパンの製造等行っている関連企業に対し、健康障害予防のための措置を要望した。


6.1-クロロブタン
(1) 1-クロロブタンは、有機金属化学物中間体、医薬品製造、アルキルアミン、界面活性剤、アルキルソジウムスルホネート、塩化ビニル安定剤、ブチルメルカプタン、駆虫剤としての用途がある1,2,42)
  (2) 1-クロロブタンは、平成9年度の一般環境調査の結果、19地点中1地点、57検体中2検体で検出された(統一検出限界値:200ng/m3)。
  (3) 今回の調査の結果、1-クロロブタンは、13地点中9地点、37検体中19検体で検出された。検出範囲は、38~1,400ng/m3あった(統一検出限界値:37ng/m3)。
  (4) 以上の調査結果によれば、1-クロロブタンは、検出濃度レベルは直ちに問題となるレベルではないが、検出頻度が高いことから、今後一定期間をおいて環境調査を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○1-クロロブタンの製造方法
1-クロロブタンは、n-ブチルアルコールを塩酸と無水塩化亜鉛で加熱することで得られる13)
    ○1-クロロブタンの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成9年度 4%(2/57) 5%(1/19) 210~290ng/m3 200ng/m3
平成10年度 51%(19/37) 69%(9/13) 38~1,400ng/m3 37ng/m3
    ○1-クロロブタンの急性毒性試験等結果
   
・ラット LD50(経口) 2,670 mg/kg
・ウサギに本物質500mgを点眼した場合軽度の刺激性を示す。また、ウサギの皮膚に本物質500mgを塗布した場合の刺激性も軽度である。


7.3,4-ジクロロ-1-ブテン
(1) 3,4-ジクロロ-1-ブテンは、平成9年度の一般環境調査の結果、検出されなかった(統一検出限界値:60ng/m3)。
  (2) 今回の調査の結果、3,4-ジクロロ-1-ブテンは、12地点中1地点、36検体中1検体で検出された。検出値は80ng/m3であった(統一検出限界値:60ng/m3)。
  (3) 以上の調査結果によれば、3,4-ジクロロ-1-ブテンは、検出頻度は低く、現時点で特に問題となるものではないと考えられる。
  【 参 考 】
  ○3,4-ジクロロ-1-ブテンの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成9年度 0%(0/57) 0%(0/19) 不検出 60ng/m3
平成10年度 3%(1/36) 8%(1/12) 80ng/m3 60ng/m3
    ○3,4-ジクロロ-1-ブテンの急性毒性試験等結果
   
・ラット LD50(吸入) 2,100 ppm×4時間


8.トルエン
(1) トルエンは、染料、香料、火薬(TNT)、有機顔料、クレゾール、甘味料、漂白剤、TDI(ポリウレタン原料)、テレフタル酸等の原料、ベンゼンおよびキシレン原料(不均化法)、塗料、インク用溶剤としての用途がある1)。生産量は、平成9年に1,418,694トン(石油系)である1)
  (2) 今回の調査の結果、トルエンは14地点中14地点、42検体中42検体で検出された。検出範囲1,100~85,000ng/m3はであった(統一検出限界値:80ng/m3)。
  (3) 以上の調査結果によれば、トルエンは、検出頻度が高く、検出濃度レベルも相対的に高いことから、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともにリスク評価を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○トルエンの製造方法
トルエンは、石油溜分中に含まれる芳香族を溶剤抽出し蒸留する、又はガソリン成分のナフテン炭化水素の脱水素化することにより製造される1)
    ○トルエンの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成10年度 100%(42/42) 100%(14/14) 1,100~85,000ng/m3 80ng/m3
    ○トルエンの急性毒性試験等結果
   
・ヒト LDLo(経口) 25 mg/kg
・ヒト LDLo(吸入) 100 ppm
・ラット LD50(経口) 636 mg/kg
・ラット LDLo(吸入) 49 g/m3/4時間
・マウス LC50(吸入) 400 ppm
・トルエンは中枢神経系に働き、低濃度での中枢興奮作用と高用量での抑制作用を持つ128)
・トルエンに変異原性はなく、実験動物およびヒトのいずれにおいても発がん性は認められていない70)
・事例: トルエンは工業的に最も広く使用されている溶剤の一つであるが、大部分混合溶剤として用いられているため、トルエン単独の暴露例は少ない。有機溶剤の取扱い者の中で最も多くみられる症状は頭痛、頭重、下肢倦怠感などで129)、工場内でインキ、ペイントの製造作業やこれらを使用した塗装作業の従事者(トルエン濃度100~2,300ppm)で大学病院外来を訪れているものの自覚症状は頭痛、頭重、吐気、眩暈、心悸亢進などであり、他に数例の四肢の知覚異常が認められている130)極めて高濃度暴露があったと思われる主婦によるトルエンを主成分とする混合溶剤を用いる塗装内職の場合の症状は重く、全身倦怠感、健忘症、吐気にはじまり、さらに3ヶ月作業を継続したところ、頭痛、腰痛、息苦しさの程度が強くなり、過呼吸中の脳波に高電圧徐波群と鋭波がみられた。作業をさらに3ヶ月継続すると、安静時脳波にも軽度徐波がみられるようになり、自覚症状も強くなった。作業を中止したところ、7ヶ月後には自覚症状、異常脳波はほぼ消失した。この間、血液像、肝機能検査に著変はなかった131,132)


9.クロロベンゼン
(1) クロロベンゼンは染料、フェノール、アニリンなどの合成中間体、ペイント、ラッカーなどの溶媒、医薬品、香料の原料70)、エチルセルローズの溶媒1)、熱媒体13)としての用途がある。平成9年の生産量は27,203トンである1)
  (2) クロロベンゼンは、昭和58年度の一般環境調査の結果、12地点中12地点、91検体中91検体から検出された(統一検出限界値:0.001ppb)。
  (3) 今回の調査の結果、クロロベンゼンは、11地点中10地点、32検体中24検体で検出された。検出範囲は、20~160ng/m3であった(統一検出限界値:20ng/m3)。
  (4) 以上の調査結果によれば、クロロベンゼンは、検出濃度レベルは直ちに問題となるレベルではないが、検出頻度が高いことから、今後一定期間をおいて環境調査を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○クロロベンゼンの製造方法
クロロベンゼンは、ベンゼンを触媒の存在下塩素化することにより得られる70)
    ○クロロベンゼンの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
昭和58年度 100%(91/91) 100%(12/12) 0.001~0.022ppb 0.001ppb
      (4.7~103ng/m3) (4.7ng/m3)
平成10年度 75%(24/32) 91%(10/11) 20~160ng/m3 20ng/m3
    ○クロロベンゼンの急性毒性試験結果
   
・ラット LD50(経口) 1,110 mg/kg
・マウス LD50(経口) 2,300 mg/kg
・ウサギ LD50(経口) 2,250 mg/kg
・中枢神経系の抑制、麻酔作用が主な症状である133)
・皮膚に付けた場合は、一週間連続して接触していても、中等度の紅斑と軽い表皮の壊死しか見られていない。目には痛みと軽い一過性の結膜刺激症状を呈する133)
・イヌに5日/週×13週反復経口投与した場合の無毒性値(NOAEL)は、19mg/kg/日、ラットに同様に13週、あるいは2年間反復経口投与した場合の無毒性値は 250及び120 mg/kg/日であった。いずれの場合にも標的臓器は肝臓で、小葉中心性の肝細胞障害と壊死が認められた134)
・変異原性: TA98,TA100,TA1535,TA1537株を用いた試験では、S9-Mix 添加の有無に関わらず陰性であった11)


10.o-キシレン
(1) o-キシレンは有機合成原料としての用途がある41)。平成9年の輸入・生産量は、212,355トンである1)
  (2) 今回の調査の結果、o-キシレンは、14地点中14地点、42検体中42検体で検出された。検出範囲は330~9500ng/m3であった(統一検出限界値:60ng/m3)。
  (3) 以上の調査結果によれば、o-キシレンは、検出濃度レベルは直ちに問題となるレベルではないが、検出頻度が高く、生産量が多いことから、今後一定期間をおいて環境調査を行うとともに、情報収集に努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○o-キシレンの製造方法
o-キシレンは、混合キシレンを蒸留することにより製造される1)
    ○o-キシレンの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成10年度 100%(42/42) 100%(14/14) 330~9,500ng/m3 60ng/m3
    ○o-キシレンの急性毒性試験等結果
   
・ヒト LCLo(吸入) 6,125 ppm/12時間
・ラット LDLo(経口) 5,000 mg/kg
・ラット LCLo(吸入) 6,125 ppm/12時間
・マウス LD50(吸入) 30,000 mg/m3
・マウス LD50(腹腔内) 1,550μl/kg
・o-キシレンの毒性は混合物や他の異性体と本質的な差はないと考えられている。動物実験における急性毒性は比較的弱いが、ヒトでは高濃度暴露による死亡例が報告されている。吸入および経口による体内への吸収性は高く、主に中枢神経系の抑制作用を示し、大量あるいは長期暴露により肝臓および腎臓の機能障害を生じる。また、眼、上気道、皮膚に対する刺激性を有し、反復および長期接触により皮膚炎を生じる。ヒトおよび動物のいずれにおいても胎盤通過性を有し、実験動物では胎児毒性や催奇形性が認められるという報告もある。ヒトにおいては妊娠中の暴露と新生児の先天奇形の関連性が疑われているものの、これらの症例の多くが種々の溶剤による混合暴露であるため、キシレンの催奇形性については明らかではない41)
・キシレンに変異原性はなく、動物実験ではラットおよびマウスにおける発がん性試験で陰性の報告がある。ヒトではキシレンの暴露により造血器系の悪性腫瘍の発生が増加するとの疫学報告があるが暴露と発がんの関連性を示唆するデータは不十分であり、IARCではGroup3に分類している41)
・事例: キシレンは通常混合溶剤中の一成分として使用されるため、キシレン単独による中毒例の報告は少ない。キシレン90%含有溶剤を使用した狭い室内塗装作業において、推定10,000 ppmの高濃度暴露を受けた作業者3名のうち1名は死亡、2名は意識を喪失した。意識喪失の2名は酸素吸入により数時間後に意識を回復したが、両者とも意識喪失直前の記憶が失われていた。死亡例の剖検の結果は肺臓のうっ血と水腫および間質内出血、肝臓のうっ血と細胞変性、脳白質および灰白質内の微細出血および酸素欠乏による細胞変性が記載されている135)


11.m-キシレン+p-キシレン
(1) m-キシレンは有機合成原料、キシレン-ホルムアルデヒド樹脂原料、溶剤としての用途がある1)。p-キシレンは有機合成原料、溶剤としての用途がある1)。平成9年の輸入・生産量は、2,927,704トン(p体)である1)
  (2) 今回の調査の結果、m-キシレン+p-キシレンは、14地点中14地点、42検体中42検体で検出された。検出範囲は550~35,000ng/m3であった(統一検出限界値:100ng/m3)。
  (3) 以上の調査結果によれば、m-キシレン+p-キシレンは、検出濃度レベルは直ちに問題となるレベルではないが、検出頻度が高く、生産量が多いことから、今後一定期間をおいて環境調査を行うとともに、情報収集に努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○m-キシレン+p-キシレンの検出状況
3,4-ジクロロアニリンは、o-ジクロロベンゼンをニトロ化し、さらに還元して、又はp-クロロアニリンを塩素化することにより合成される1,13)
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成10年度 100%(42/42) 100%(14/14) 550~35,000ng/m3 100ng/m3
  <m-キシレン>
    ○m-キシレンの製造方法
m-キシレンは、混合キシレンに濃硫酸を加え、m-キシレンと選択的に反応して付加物を作り、分離・分解することにより得られる1)
    ○m-キシレンの急性毒性試験等結果
・ヒト LCLo(吸入) 424 mg/m3/6時間/6日
・ラット LCLo(吸入) 8,000 ppm/4時間
・ラット LD50(経口) 5,000 mg/kg
・マウス LC50(吸入) 2,010 ppm/24時間
・o-キシレンの毒性は混合物や他の異性体と本質的な差はないと考えられている。動物実験における急性毒性は比較的弱いが、ヒトでは高濃度暴露による死亡例が報告されている。吸入および経口による体内への吸収性は高く、主に中枢神経系の抑制作用を示し、大量あるいは長期暴露により肝臓および腎臓の機能障害を生じる。また、眼、上気道、皮膚に対する刺激性を有し、反復および長期接触により皮膚炎を生じる。ヒトおよび動物のいずれにおいても胎盤通過性を有し、実験動物では胎児毒性や催奇形性が認められるという報告もある。ヒトにおいては妊娠中の暴露と新生児の先天奇形の関連性が疑われているものの、これらの症例の多くが種々の溶剤による混合暴露であるため、キシレンの催奇形性については明らかではない41)
・キシレンに変異原性はなく、動物実験ではラットおよびマウスにおける発がん性試験で陰性の報告がある。ヒトではキシレンの暴露により造血器系の悪性腫瘍の発生が増加するとの疫学報告があるが暴露と発がんの関連性を示唆するデータは不十分であり、IARCではGroup3に分類している41)
・事例: キシレンは通常混合溶剤中の一成分として使用されるため、キシレン単独による中毒例の報告は少ない。キシレン90%含有溶剤を使用した狭い室内塗装作業において、推定10,000 ppmの高濃度暴露を受けた作業者3名のうち1名は死亡、2名は意識を喪失した。意識喪失の2名は酸素吸入により数時間後に意識を回復したが、両者とも意識喪失直前の記憶が失われていた。死亡例の剖検の結果は肺臓のうっ血と水腫および間質内出血、肝臓のうっ血と細胞変性、脳白質および灰白質内の微細出血および酸素欠乏による細胞変性が記載されている135)
  <p-キシレン>
    ○p-キシレンの製造方法
p-キシレンは、混合キシレンからの抽出するか、異性体法により得られる1)
    ○p-キシレンの急性毒性試験等結果
   
・ラット LD50(経口) 5,000 mg/kg
・ラット LC50(吸入) 4,550 ppm/4時間
・ラット LD50(腹腔内) 3,810 mg/kg
・マウス LC50(吸入) 15,000 mg/m3
・マウス LD50(腹腔内) 2,400 μg/kg


12.スチレン
(1) スチレンは、ポリスチレン、合成ゴム、不飽和ポリエステル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、イオン交換樹脂、エマルジョン、合成樹脂染料としての用途がある。平成9年の輸入・生産量は3,102,667トンである1)
  (2) 今回の調査の結果、スチレンは、14地点中14地点、42検体中42検体で検出された。検出範囲は、39~2,700ng/m3であった(統一検出限界値:33ng/m3)。
  (3) 以上の調査結果によれば、スチレンは、検出濃度レベルは直ちに問題となるレベルではないが、検出頻度が高く、生産量が多いことから、今後一定期間をおいて環境調査を行うとともに、情報収集に努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○スチレンの製造方法
スチレンは、エチルベンゼンを触媒を用いて脱水素するか、又はエチルベンゼンを過酸化物とし、これにプロピレンを反応させてスチレンと酸化プロピレンを併産することにより得られる1)
    ○スチレンの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成10年度 100%(42/42) 100%(14/14) 39~2,700ng/m3 33ng/m3
    ○スチレンの急性毒性試験等結果
   
・ラット LD50(経口) 2,650 mg/kg
・ラット LD50(吸入) 12 g/m3×4時間
・マウス LD50(経口) 316 mg/kg
・ウサギにスチレン100mgを点眼すると強い刺激性を示す。
・スチレンを胃ゾンデを用いて Fischer344 ラット(投与量:500、1,000、2,000 mg/kg)に78週(但し少量群は103週)、B6C3Fマウス(投与量:150、300mg/kg)に78週経口投与した実験では雄マウスで肺のがん及び腺腫の発生率が投与量に対応して上昇したが、対象群(historical control)と比較した場合には催腫瘍性ありとは結論し得なかった。雌マウス及び雌雄ラットの所見を含めてこの実験からは催腫瘍性についての確証は得られなかったと結論されている136)
・変異原性: Ames試験(TA98、TA100、TA1535、TA1537、TA1538株)で陰性137)
チャイニーズハムスター(CHL、S9-Mix添加)で陰性138)


13.ジクロロメタン
(1) ジクロロメタンはペイントはく離剤、プリント基板洗浄剤、金属脱脂洗浄剤、ウレタン発泡助剤、エアゾール噴射剤、低沸点用有機溶剤(不燃性フィルム、油剤、樹脂、ゴム、ワックス、セルロースエステルおよびエーテル用混合剤)、ポリカーボネートの反応溶剤、冷媒、ラッカー用、織物、皮革、香料の抽出分析用、リノリウム、インキとしての用途がある1)。平成9年の輸入・生産量は109,881トンである1)
  (2) ジクロロメタンは、昭和54年度の一般環境調査の結果、17地点中10地点、46検体中25検体から検出され(検出限界値:0.006~10ppb)、昭和55年度には、44地点中18地点、135検体中47検体から検出され(検出限界値:0.005~8ppb)、昭和58年度には、12地点中12地点、101検体中99検体から検出された(検出限界値:0.001~0.01ppb)。
  (3) 今回の調査の結果、ジクロロメタンは、14地点中14地点、42検体中42検体で検出された。検出範囲280~24,000ng/m3はであった(統一検出限界値:70ng/m3)。
  (4) 以上の調査結果によれば、ジクロロメタンは、検出頻度が高く、以前の調査結果と比べ検出濃度レベルも増加傾向にあることから、発生源周辺を含めた詳細な環境調査を行いその推移を監視するとともに、リスク評価を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○ジクロロメタンの製造方法
ジクロロメタンは、塩化メチルを塩素化し、蒸留・精製するか、メタンを触媒存在下で直接塩素化することにより製造する1)
    ○ジクロロメタンの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
昭和54年度 54%(25/46) 59%(10/17) 0.07~1.5 ppb 0.006~10 ppb
      (247~5300ng/m3) (21.2~35300ng/m3)
昭和55年度 35%(47/135) 41%(18/44) 0.026~0.8ppb 0.005~8 ppb
      (92~2830ng/m3) (17.7~28300ng/m3)
昭和58年度 98%(99/101) 100%(12/12) 0.001~0.01ppb 0.002~5.6 ppb
      (3.5~35ng/m3) (7.1~19800ng/m3)
平成10年度 100%(42/42) 100%(14/14) 280~24,000ng/m3 70ng/m3
    ○ジクロロメタンの急性毒性試験等結果
   
・ヒト LDLo(経口) 375 mg/kg
・ヒト TCLo(吸入) 550 ppm/1年
・ヒト TCLo(吸入) 500 ppm/8時間
・ラット LD50(経口) 1,600 mg/kg
・ラット LC50(吸入) 52,000 ppm/m3
・ウサギ LD50(経口) 1,900 mg/kg
・マウス LD50(腹腔内) 437 mg/kg
・刺激性試験では、490-500 ppmで炎症反応、角膜の厚肥、眼内圧の上昇等軽度の眼刺激性を示す41)
・実験動物に対する反復投与毒性では、経口投与で肝臓(小葉中心性脂肪化)が、吸入暴露では肝臓(脂肪浸潤、肝重量増加、小葉中心性水腫性変化)、免疫系(ラットでの脾臓の線維化、イヌでの脾臓の萎縮)、中枢神経系(ラットでの小脳酵素レベルの減少)に対する影響が報告されている41)
・変異原性: 多くの試験系で陰性の報告がなされている。しかし、in vivo試験では、マウスを4,000 ppm以上の濃度に10日間吸入暴露した場合に肺細胞および末梢血リンパ球の姉妹染色分体交換、肺細胞の染色体異常、末梢血のの小核、骨髄細胞の染色体以上を有意に誘発したとの報告がある41)
・生殖発生毒性: マウスおよびラットを1,250 ppmに暴露した実験で、胸骨化骨遅延、顆状胸骨など骨格異常の増加がみられている。ラットに4,500 ppmを暴露した実験では母動物の間重量が増加し、胎児体重が減少したが、催奇形性は認められていない。ラットを1,500 ppmに2世代に渡り長期間暴露した実験では、母動物の体重が減少した他に大きな変化はみられていない41)
・発癌性: マウスに60-250 mg/kg、ラットに5-250 mg/kgを経口投与した実験では、雄マウスおよび雌ラットで肝細胞腺腫/癌の発生率のわずかな増加がみられたが、明らかな発癌性は示唆されていない。また、マウスおよびラットに500 mg/kg/dayを64週間強制経口投与した実験では、雄マウスで肺腫瘍、雌ラットで乳腺の悪性腫瘍が増加したとの報告がある。一方、吸入暴露では、ラットを用いた500, 1500, 3500 ppmに6時間・日 X 5日・週 X 2年間暴露の実験では、雌雄ともに乳腺の良性腫瘍の発生率あるいは総数が増加し、雄においては頸部肉腫に増加傾向が認められている。
・事例: 塩化メチレンを取り扱う職場で問題になるのは、酩酊状態で災害の原因になりやすい。強度の暴露では、眩暈、吐気、四肢の知覚異常などがおこり、昏睡ないし酩酊状態となる139)


14.1,2,4-トリメチルベンゼン
(1) 1,2,4-トリメチルベンゼンはトリメリット酸、ビタミンEなどの合成用、染料、顔料、医薬品の中間体、メチル化してデュレンを経てピロメリット酸の合成原料としての用途がある1)。平成9年の輸入・生産量は3,000トン(推定)である1)
  (2) 今回の調査の結果、1,2,4-トリメチルベンゼンは、14地点中13地点、42検体中39検体で検出された。検出範囲は、370~10,000ng/m3であった(統一検出限界値:370ng/m3)。
  (3) 以上の調査結果によれば、1,2,4-トリメチルベンゼンは、検出頻度が高く、検出濃度レベルも相対的に高いことから、今後も環境調査を行いその推移を監視すとともに、情報収集に努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○1,2,4-トリメチルベンゼンの製造方法
1,2,4-トリメチルベンゼンは、タールまたは石油溜分(特に改質ガソリン)の中に存在し、蒸留により分離される、若しくはベンゼンまたはキシレンのメチル化または不均一化によって合成することにより製造される1)
    ○1,2,4-トリメチルベンゼンの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成10年度 93%(39/42) 93%(13/14) 370~10,000ng/m3 370ng/m3
    ○1,2,4-トリメチルベンゼンの急性毒性試験等結果
   
・ラット LD50(経口) 5,000 mg/kg
・マウス LD50(腹腔内) 1,752 mg/kg


15.1,3,5-トリメチルベンゼン
(1) 1,3,5-トリメチルベンゼンは染料、顔料、医薬品および工業薬品の原料としての用途がある1)
  (2) 今回の調査の結果、1,3,5-トリメチルベンゼンは、13地点中13地点、38検体中38検体で検出された。検出範囲は90~3,200ng/m3であった(統一検出限界値:40ng/m3)。
  (3) 以上の調査結果によれば、1,3,5-トリメチルベンゼンは、検出頻度が高く、検出濃度レベルも相対的に高いことから、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともに、情報収集に努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○1,3,5-トリメチルベンゼンの製造方法
1,3,5-トリメチルベンゼンは、コールタール中性油から蒸留する、ベンゼンまたはキシレンのメチル化、不均一化により合成する、若しくはプソイドクメンの異性化することにより製造される1)
    ○1,3,5-トリメチルベンゼンの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成10年度 100%(38/38) 100%(13/13) 90~3,200ng/m3 40ng/m3
    ○1,3,5-トリメチルベンゼンの急性毒性試験等結果
   
・ヒト TCLo(吸入) 100 ppm
・ラット LC50(吸入) 24 g/m3/4時間


16.ポリ塩化ナフタレン
(1) 今回の調査の結果、ポリ塩化ナフタレンは、14地点中14地点、42検体中42検体で検出された。検出範囲は0.011~0.86ng/m3であった。
  (2) 以上の調査結果によれば、ポリ塩化ナフタレンは、検出頻度が高く、PCBと構造が類似した化学物質であることから、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともに、情報収集に努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○ポリ塩化ナフタレンの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲
平成10年度 100%(42/42) 100%(14/14) 0.011~0.86ng/m3
    ○ポリ塩化ナフタレンの急性毒性試験等結果
   
・1-クロロナフタレン
ラット LD50(経口) 1,540 mg/kg
マウス LD50(経口) 1,091 mg/kg
・2-クロロナフタレン
ラット LD50(経口) 2,078 mg/kg
マウス LD50(経口) 886 mg/kg
・トリクロロナフタレン
ヒト TCLo(吸入) 30 mg/kg
・ヒトでは職業的140)、実験的141)に塩素座瘡が知られている。
・事例: クロロナフタレンが防水用浸清剤などに使われ出したのは第一次大戦頃であり、すでに1918年にはその作業者に塩素座瘡の多発が報告されている142)
1937年頃から高塩素化合物が絶縁油として多用されるようになり、黄疸をともなう肝障害の発生が報告された143)。この3名の死亡者のうち2名は5塩化および6塩化ナフタレン、1名は4塩化および5塩化ナフタレンにPCB数%を含むワックスの蒸気に暴露されていたものである。日本においても、1938年にはその取扱者の皮膚障害の最初の報告がなされている142)


17.リン酸トリス(2-クロロエチル)
(1) リン酸トリス(2-クロロエチル)は塩化ビニル、ポリウレタンフォーム、エポキシ樹脂用及びポリエステル用難燃剤としての用途がある1)
  (2) リン酸トリス(2-クロロエチル)は、平成5年度の一般環境調査の結果、13地点中8地点、39検体中21検体からされた(統一検出限界値:1 ng/m3)。
  (3) 今回の調査の結果、リン酸トリス(2-クロロエチル)は、15地点中12地点、37検体中24検体で検出された。検出範囲は0.3~1.4ng/m3であった(統一検出限界値:0.24ng/m3)。
  (4) 以上の調査結果によれば、リン酸トリス(2-クロロエチル)は、検出頻度が高いことから、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともに、情報収集に努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○リン酸トリス(2-クロロエチル)の検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成5年度 54%(21/39) 62%(8/13) 1~7.4ng/m3 1 ng/m3
平成10年度 65%(24/37) 80%(12/15) 0.3~1.4ng/m3 0.24ng/m3
    ○リン酸トリス(2-クロロエチル)の急性毒性試験等結果
   
・ラット LD50(経口) 1,230 mg/kg
・マウス LD50(経口) 1,866 mg/kg
・マウス LD50(腹腔内) 250 mg/kg


18.リン酸トリブチル
  (1) リン酸トリブチルはビニルブチラール、溶剤、金属抽出剤、合成ゴムの可塑剤及び柔軟性付与剤、製紙用の繊維加工消泡剤としての用途がある1,144)
  (2) リン酸トリブチルは、平成5年度の一般環境調査の結果、14地点中6地点、39検体中9検体からされた(統一検出限界値:1 ng/m3)。
  (3) 今回の調査の結果、リン酸トリブチルは、15地点中13地点、40検体中29検体で検出された。検出範囲は0.22~7.5ng/m3であった(統一検出限界値:0.2ng/m3)。
  (4) 以上の調査結果によれば、リン酸トリブチルは、検出頻度が高いことから、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともに、情報収集に努めることが必要である。
  【 参 考 】
    ○リン酸トリブチルの製造方法
リン酸トリブチルは、金属のブトキシドに塩化ホスホニルを反応させて得られる144)
    ○リン酸トリブチルの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成5年度 23%(9/39) 43%(6/14) 1.2~45ng/m3 1ng/m3
平成10年度 73%(29/40) 87%(13/15) 0.22~7.5ng/m3 0.2ng/m3
    ○リン酸トリブチルの急性毒性試験等結果
   
・ラット LD50(経口) 3,000 mg/kg
・ラット LC50(吸入) 28,000 mg/m3/1時間
・マウス LD50(経口) 1,189 mg/kg
・マウス LC50(吸入) 1,300 mg/m3
・マウス LD50(腹腔内) 159 mg/kg
・局所刺激性が強く、眼や皮膚あるいは呼吸器を強く刺激する145,146)
・コリンエステラーゼの阻害剤であり、目暈、頭痛、流涎、瞳孔収縮などをみる。また、蒸気の吸入により肺水腫を生じるが、肺水腫は暴露2~3時間後に発生することがあるのでこの間の安静と経過観察が大切である147)
・本物質を0, 0.14, 1.42 ml/kg, 1回/日を14日間反復投与した実験では0.42 ml/kg群で睾丸の組織学的検索で精細管の変性を見た以外には著変を認めなかった148)
0, 0.28, 0.42 ml/kg, 1回/日の14日間反復投与では0.42 ml/kg群の尾神経で神経伝達速度の低下が観察された149)
・催腫瘍性: ラットに0, 200, 300,350 mg/kg/日 x 18週間反復経口投与した実験では、投与群で雌雄ともに膀胱上皮の過形成が観察された150)。但し、悪性腫瘍は見出されていない。


19.リン酸トリクレジル
  (1) リン酸トリクレジルは、農業用ビニルフィルム、電線コンパウンド、建材関係のビニル樹脂の可塑剤、合成ゴムコンパウンドの軟化剤、可塑剤、その他難燃剤、不燃性作動液、ガソリン添加剤、潤滑油添加剤としての用途がある1)。平成9年の輸入・生産量は17,426トン(リン酸系可塑剤として)である1)
  (2) リン酸トリクレジルは、平成5年度の一般環境調査の結果、14地点中4地点、42検体中7検体からされた(統一検出限界値:3ng/m3)。
  (3) 今回の調査の結果、リン酸トリクレジルは、16地点中5地点、46検体中8検体で検出された。検出範囲は1.2~2.6ng/m3であった(統一検出限界値:1ng/m3)。
  (4) 以上の調査結果によれば、リン酸トリクレジルは、検出頻度は低く、現時点で特に問題を示唆するものではないと考えられる。
  【 参 考 】
    ○リン酸トリクレジルの製造方法
リン酸トリクレジルは、クレゾールとオキシ塩化リンとを塩化アルミニウムなどの触媒で反応させ、中和、水洗して副生する塩酸、その他の不純物を除き真空蒸留することにより得られる144)
    ○リン酸トリクレジルの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成5年度 17%(7/42) 29%(4/14) 3~17ng/m3 3ng/m3
平成10年度 17%(8/46) 31%(5/16) 1.2~2.6ng/m3 1ng/m3
    ○リン酸トリクレジルの急性毒性試験等結果
   
・ヒト LDLo(経口) 1,800 mg/kg
・ラット LD50(経口) 3,000 mg/kg
・マウス LD50(経口) 3,900 mg/kg
・ウサギ LD50(経口) 100 mg/kg
・毒性の中心像をなすものは抹消神経障害である。本物質を経口摂取した場合、初発症状は胃腸障害で数時間後に悪心、嘔吐、腹痛、下痢などが始まり、これらの症状は1~数日で消腿する。次いで10~20日の潜伏期間を経て抹消優位の運動障害が現れる(急性遅発性神経毒性)
・催腫瘍性: 本物質をラットおよびマウスに長期間混餌投与した実験では、雌雄ラット、雌雄マウスのいづれの群でも催腫瘍性は検出されなかった151)
・生殖発生毒性: 本物質を最高350 mg/kg/日の用量でラットの妊娠6~18日に反復経口投与した実験では、母獣毒性が明らかな量でも催奇形性は検出されなかった152)。胎仔に対する毒性も見出されていない153)
・変異原性: TA98, TA100, TA1535, TA1537を用いたAmes試験では、S-9-mix添加の有無にかかわらず陰性11)
・事例: 本物質を最高1.59%含有すると想定されるオリーブ油約一升を家族6名で12月上旬より約1ヶ月半内の料理用に供した例では家族全員が発病した154)。最重症例(当時17才男子)では翌年1月末に両下肢ひ腸筋部の疼痛と歩行障害におり発病、2月中旬には全く歩行不能となった。下腿および足の筋萎縮がみられ、足および足址の運動は不能であった。膝間節の運動障害は軽度、股関節には異常を認めなかった。上肢は肩および肘間節運動には障害はないが、手間節は軽度に障害があり、手指に力を入れることが出来なかった。しかし、筋萎縮は認められなかった。3月上旬には膝反射が亢進して痙性となり持続的肘間代が出現、下肢と手の筋萎縮が著明となった。膀胱直腸障害はなかった。7月頃より徐々に改善が見られ、9月には杖によってかろうじて歩行可能となったが、発病1年後でも足址をわずかに動かせるが足関節の運動は不能であった。本例は発病11年後に事故死したが、剖検により脊髄錐体路変性が著明であった155)。発病時軽少であった3例では完全に治癒していたが、他の例では下肢の錐体路徴候が著明で、一部には抹消神経障害が残っていた。上記オリーブ油が原因となったことは当該オリーブ油を鶏に経口投与して末梢神経障害を発生させ得たことで確認された154)
 これときわめて類似した症例が1959年にモロッコで多発している。患者数は少なくとも2,000名以上で、本物質を含むジェットエンジン用潤滑油を調理用に使用したためと結論されている。症状としては下肢の痛みを初発症状とし、次いで四肢末端の知覚の低下が起こった。1、2日おいて知覚低下は回復するが、その後より運動障害がとりわけ下肢末端に現れ、手の運動障害もしばしば見られた。筋萎縮もまれではない。全身症状は著明ではないが、患者の1/3には発病に先立って下痢を見ている156)


20.アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)
  (1) アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)は、塩化ビニール樹脂可塑剤(レザー、フィルムシート、ホース、工業用手袋)。その他、合成ゴム用軟化剤(ホース、シール材)、合成滑材としての用途がある41)。平成9年の輸入・生産量は33,282トン(アジピン酸系可塑剤総量として)である1)
  (2) アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)は、昭和59年度の一般環境調査の結果、12地点中11地点、72検体中47検体から検出され(検出限界値:0.1~0.61ng/m3)、平成7年度には、14地点中13地点、41検体中31検体から検出された(統一検出限界値:1ng/m3)。
  (3) 今回の調査の結果、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)は、12地点中11地点、33検体中26検体で検出された。検出範囲は1.0~26ng/m3であった(統一検出限界値:1ng/m3)。
  (4) 以上の調査結果によれば、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)は、検出頻度が高く、前回の平成7年度調査と比べ同様の結果を示したことから、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともにリスク評価を行うことが必要である。また、内分泌かく乱作用を有すると疑われる化学物質との指摘があることなどから、情報収集に努めることが必要である。
  【 参 考 】
    ○アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)の製造方法
アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)は、アジピン酸を2-エチルヘキシルアルコールでエステル化することにより得られる1)
    ○アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)の検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
昭和59年度 65%(47/72) 92%(11/12) 0.23~16.7ng/m3 0.1~0.61ng/m3
平成7年度 76%(31/41) 93%(13/14) 1.0~22ng/m3 1ng/m3
平成10年度 79%(26/33) 92%(11/12) 1.0~26ng/m3 1ng/m3
    ○アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)の急性毒性試験等結果
   
・ラット LD50(経口) 9,100 mg/kg
・マウス LD50(経口) 15,000 mg/kg
・本物質の一般毒性は極めて低く、マウス腹腔内への大量投与およびヒトの皮膚に対する原液塗布試験の成績はいづれも変化が認められず157)、0.5, 2.0, 5.0%添加飼料によるラットの1ヶ月試験およびイヌに対する2g/kg/日の2ヶ月投与実験ではラットの5%群に育成抑制を認めたのみで、ほかに病理組織学的検索を含む変化は認められなかった158)。また、本物質を0~ 25,000 ppmの濃度で添加した飼料でラットおよびマウスを13週間飼育した実験では、肉眼所見および組織学的検索で異常を認めなかった 159)
・催腫瘍性: 本物質を0, 1,000, 2,500 mg/kg飼料の濃度で添加した飼料でF344ラットおよびB6C3F1マウスを103週飼育し、104、107週に屠殺、検索した実験では、ラットでは催腫瘍性は認められなかったが、雄マウスでは肝細胞癌(7/50,12/49, 12/49)、肝腺腫(1/50, 8/49, 15/49)が、雌マウスでは肝細胞癌(1/50,14/49, 12/49)、肝腺腫(2/50, 5/50, 6/50)が発生して、雌マウスでは明確に催腫瘍性あり(肝細胞癌の発生)、雄マウスではおそらく催腫瘍性有り(肝腺腫の発生)と結論されている159)
・変異原性: Ames試験(TA98, 100, 1535, 1537, 1538)では、陰性160)
・生殖発生毒性: ラットに妊娠第5,10,15日に各種アジピン酸エステルを腹腔内投与した実験では、胎仔毒性が認められ、無影響量はおよそLD50値の1/30と推定されている161)。また、雄マウスに9,200 mg/kgを1回腹腔内投与すると生殖能の低下が観察されている160)


21.1-メチルナフタレン、2-メチルナフタレン
・1-メチルナフタレン
(1) 1-メチルナフタレンは有機合成原料、熱浴用油としての用途がある1,162)
  (2) 1-メチルナフタレンは、昭和59年度の一般環境調査の結果、12地点中12地点、72検体中 65検体からされた(検出限界値:0.4~5ng/m3)。
  (3) 今回の調査の結果、1-メチルナフタレンは、10地点中10地点、30検体中29検体で検出された。検出範囲は5.1~150ng/m3であった(統一検出限界値:2ng/m3)。
  (4) 以上の調査結果によれば、1-メチルナフタレンは、検出濃度レベルは直ちに問題となるレベルではないが、検出頻度が高く、前回の昭和59年度調査と比べ同様の結果を示したことから、今後一定期間をおいて環境調査を行うとともに、情報収集に努めることが必要である。
  【 参 考 】
  ○1-メチルナフタレンの製造方法
1-メチルナフタレンは、タールの230~250℃の溜分より分離することにより得られる162)
    ○1-メチルナフタレンの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
昭和59年度 90%(65/72) 100%(12/12) 1.9~280ng/m3 0.4~5ng/m3
平成10年度 97%(29/30) 100%(10/10) 5.1~150ng/m3 2ng/m3
    ○1-メチルナフタレンの急性毒性試験等結果
   
・ラット LD50(経口) 1,840 mg/kg
・2-メチルナフタレン
  (1) 2-メチルナフタレンは熱媒体、ビタミンKとしての用途がある42,162)
  (2) 2-メチルナフタレンは、昭和59年度の一般環境調査の結果、12地点中12地点、72検体中66検体からされた(検出限界値:0.5~8ng/m3
  (3) 今回の調査の結果、2-メチルナフタレンは、10地点中10地点、30検体中30検体で検出された。検出範囲は3.2~310ng/m3であった(統一検出限界値:1.7ng/m3)。
  (4) 以上の調査結果によれば、2-メチルナフタレンは、検出濃度レベルは直ちに問題となるレベルではないが、検出頻度が高く、前回の昭和59年度調査と比べ同様の結果を示したことから、今後一定期間をおいて環境調査を行うとともに、情報収集に努めることが必要である。
  【 参 考 】
    ○2-メチルナフタレンの製造方法
2-メチルナフタレンは、タールの230~250℃の溜分より分離することにより得られる42)
    ○2-メチルナフタレンの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
昭和59年度 92%(66/72) 100%(12/12) 2.6~530ng/m3 0.5~8ng/m3
平成10年度 100%(30/30) 100%(10/10) 3.2~310ng/m3 1.7ng/m3
    ○2-メチルナフタレンの急性毒性試験等結果
   
・ラット LD50(経口) 1,630 mg/kg


22.1,2-ジメチルナフタレン、1,3+1,6-ジメチルナフタレン、1,4-ジメチルナフタレン、1,5-ジメチルナフタレン、1,7-ジメチルナフタレン、1,8-ジメチルナフタレン、2,3-ジメチルナフタレン、2,6-ジメチルナフタレン、2,7-ジメチルナフタレン
(1) ジメチルナフタレンは溶剤、浮遊選鉱剤、加熱媒体としての用途がある42)
  (2) 今回の調査の結果
1,2-ジメチルナフタレンは、10地点中10地点、30検体中28検体で検出された。検出範囲は0.37~9.9ng/m3であった(統一検出限界値:0.3ng/m3)。
1,3+1,6-ジメチルナフタレンは、9地点中9地点、27検体中26検体で検出された。検出範囲は2.0~70ng/m3であった(統一検出限界値:0.56ng/m3)。
1,4-ジメチルナフタレンは、10地点中10地点、30検体中29検体で検出された。検出範囲は0.27~7.2ng/m3であった(統一検出限界値:0.23ng/m3)。
1,5-ジメチルナフタレンは、10地点中10地点、30検体中28検体で検出された。検出範囲は0.4~8.9ng/m3であった(統一検出限界値:0.33ng/m3)。
1,7-ジメチルナフタレンは、9地点中9地点、27検体中27検体で検出された。検出範囲は0.13~23ng/m3であった(統一検出限界値:0.1ng/m3)。
1,8-ジメチルナフタレンは、7地点中7地点、21検体中21検体で検出された。検出範囲は0.09~5.1ng/m3であった(統一検出限界値:0.08ng/m3)。
2,3-ジメチルナフタレンは、10地点中10地点、30検体中28検体で検出された。検出範囲は0.4~13ng/m3であった(統一検出限界値:0.4ng/m3)。
2,6-ジメチルナフタレンは、9地点中9地点、27検体中26検体で検出された。検出範囲は1.2~30ng/m3であった(統一検出限界値:0.61ng/m3)。
2,7-ジメチルナフタレンは、9地点中9地点、27検体中27検体で検出された。検出範囲は0.31~22ng/m3であった(統一検出限界値:0.3ng/m3)。
  (3) 以上の調査結果によれば、ジメチルナフタレンは、検出頻度が高いことから、今後も環境調査を行いその推移を監視するとともに、情報収集に努めることが必要である。
  【 参 考 】
    ○ジメチルナフタレンの製造方法
1,2-ジメチルナフタレンは、ナフタリン油の高沸点溜分から蒸留により回収されるか、ジメチルテトラリンの脱水素、またはキシレンの熱重合により得られる163)。他のジメチルナフタレンの製造方法は不明。
    (検出状況)
   
○1,2-ジメチルナフタレンの検出状況
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成10年度 93%(28/30) 100%(10/10) 0.37~9.9ng/m3 0.3ng/m3
○1,3+1,6-ジメチルナフタレンの検出状況
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成10年度 96%(26/27) 100%(9/9) 2.0~70ng/m3 0.56ng/m3
○1,4-ジメチルナフタレンの検出状況
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成10年度 97%(29/30) 100%(10/10) 0.27~7.2ng/m3 0.23ng/m3
○1,5-ジメチルナフタレンの検出状況
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成10年度 93%(28/30) 100%(10/10) 0.4~8.9ng/m3 0.33ng/m3
○1,7-ジメチルナフタレンの検出状況
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成10年度 100%(27/27) 100%(9/9) 0.13~23ng/m3 0.1ng/m3
○1,8-ジメチルナフタレンの検出状況
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成10年度 100%(21/21) 100%(7/7) 0.09~5.1ng/m3 0.08ng/m3
○2,3-ジメチルナフタレンの検出状況
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成10年度 93%(28/30) 100%(10/10) 0.4~13ng/m3 0.4ng/m3
○2,6-ジメチルナフタレンの検出状況
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成10年度 96%(26/27) 100%(9/9) 1.2~30ng/m3 0.61ng/m3
○2,7-ジメチルナフタレンの検出状況
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
平成10年度 100%(27/27) 100%(9/9) 0.31~22ng/m3 0.3ng/m3
    (急性毒性試験等結果)
    ○1,2-ジメチルナフタレンの急性毒性試験等結果
・1,2-ジメチルナフタレンは水に3 ppm(6日後には 0.8~1.6 ppmに減少)添加したウニおよび魚の卵胚に対して毒性を示すが、その程度は 1,3-体よりも弱く、1,4-体よりも強い 164)
・発癌性:陰性の報告がある165)
    ○1,3-ジメチルナフタレンの急性毒性試験等結果
・1,2-ジメチルナフタレンは水に3 ppm(6日後には 0.8~1.6 ppmに減少)添加したウニおよび魚の卵胚に対して毒性を示すが、その程度は 1,2-体、1,4-体、1,6-体、1,8-体の中で最も強い 164)
・発癌性:陰性の報告がある165)
・変異原性:Ames試験およびYeastを用いる試験法で陰性である166)
    ○1,4-ジメチルナフタレンの急性毒性試験等結果
・1,2-ジメチルナフタレンは水に3 ppm(6日後には 0.8~1.6 ppmに減少)添加したウニおよび魚の卵胚に対して毒性を示すが、その程度は 1,2-体、1,3-体より弱く1,6-体、1,8-体とほぼ等しい164)
・発癌性:陰性の報告がある165)
    ○1,5-ジメチルナフタレンの急性毒性試験等結果
・発癌性:陰性の報告がある165)
    ○2,3-ジメチルナフタレンの急性毒性試験等結果
・発癌性:陰性の報告がある165)
    ○2,6-ジメチルナフタレンの急性毒性試験等結果
・発癌性:陰性の報告がある165)
    ○2,7-ジメチルナフタレンの急性毒性試験等結果
・発癌性:陰性の報告がある165)


23.クロトンアルデヒド
(1) クロトンアルデヒドはブタノール、クロトン酸、ソルビン酸などの各種化学品及び医薬品原料としての用途がある1,2)。平成9年の生産量は、約8,000トン(推定)である1)
  (2) クロトンアルデヒドは、昭和62年度の一般環境調査の結果検出されなかった(統一検出限界値:800ng/m3)。平成7度年には、18地点中1地点、54検体中3検体で検出され(統一検出限界値:3,000ng/m3)、平成9年度には、14地点中1地点、42検体中1検体から検出された(統一検出限界値:1,000ng/m3)。
  (3) 今回の調査の結果、クロトンアルデヒドは、10地点中8地点、29検体中21検体で検出された。検出範囲は、15~330ng/m3であった(統一検出限界値:15ng/m3)。
  (4) 以上の調査結果によれば、クロトンアルデヒドは、検出頻度が高く、検出濃度レベルも相対的に高いことから、今後より詳細な環境調査を行い、その推移を監視するとともにリスク評価を行うことが必要である。
  【 参 考 】
  ○クロトンアルデヒドの製造方法
クロトンアルデヒドは、アセトアルデヒド2分子を加熱脱水して得られる1)
    ○クロトンアルデヒドの検出状況
   
  (検体) (地点) 検出範囲 検出限界
昭和62年度 0%(0/61) 0%(0/10) 不検出 800 ng/m3
平成7年度 6%(3/54) 6%(1/18) 3,600~5,200 ng/m3 3,000 ng/m3
平成9年度 2%(1/42) 7%(1/14) 1,600 ng/m3 1,000 ng/m3
平成10年度 72%(21/29) 80%(8/10) 15~330 ng/m3 15 ng/m3
    ○クロトンアルデヒドの急性毒性試験等結果
   
・ラット LD50(経口) 206 mg/kg
・マウス LD50(経口) 104 mg/kg
・催腫瘍性: クロトンアルデヒドを0,0.6,6.0mM添加した飲み水でラットを113週飼育した実験では、0.6mM群の27匹のラット中2例に肝細胞癌、この2例を含めた9例に肝の新生物結節を認めた。ただし0.6mM群では腫瘍は認められなかった167)
・変異原性: TA100を用いたAmes試験ではS9Mix添加の有無にかかわらず陽性168)、TA98,TA1535,TA1537,TA1538では両条件下で陰性168,169)




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