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化 学 物 質 に 関 す る 環 境 調 査

 

1.化学物質の環境リスクとその対策

2.化学物質環境汚染実態調査と化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律

3.化学物質審査規制法の概要と環境庁の役割

4.化学物質環境汚染実態調査の概要

    (1)化学物質環境安全性総点検調査

    (2)指定化学物質等検討調査

    (3)非意図的生成化学物質汚染実態追跡調査

5.化学物質環境汚染実態調査の成果

 

1.化学物質の環境リスクとその対策

 人類がこれまでに作りだした化学物質は膨大な数にのぼり、さらに年々新しい化学物質が開発されている。これら化学物質は、様々な有用な用途に用いられ、現代生活のあらゆる面で利用されており、人類の生活の向上に多大な寄与をしている。その反面、化学物質の中には、その製造、流通、使用、廃棄等の様々な段階で環境中に放出され、環境中での残留、食物連鎖による生物学的濃縮などを通じて、人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすものがある。これまで有機水銀やPCB等の環境汚染問題を始めとし、最近では、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等による地下水等汚染、有機スズ化合物による海洋汚染、ゴミ焼却等により非意図的に発生するダイオキシン類の環境残留問題などがしばしば社会問題化している。
 このように近年化学物質に関する問題の様相はますます多様化しつつある。こうした有害化学物質の環境汚染問題は、我が国のみならず世界の関心事項であり、平成4年6月にリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国連会議(UNCED)」において採択された「アジェンダ21」のなかで有害化学物質の環境上の適正管理が国際的な課題とされたところであり、その国際的なフォローアップのため化学物質安全性政府間フォーラム(IFCS)が設置されるなど活発な取り組みが行われている。
 また、我が国においても、平成5年11月に成立した「環境基本法」に基づいて平成6年12月に策定された「環境基本計画」の中で、化学物質の環境リスク(環境の保全上の支障を生じさ せるおそれ)対策が、環境保全に関する基本的な事項の一つとして明確に位置付けられたところであり、環境リスクを出来るだけ定量的に評価するとともに、環境リスクを総体として低減させることを目指し、各般の施策を実施することとしている。化学物質の生産、使用、廃棄等の各段階で環境リスクを低減させるために環境への排出形態に応じた有害化学物質の排出規制、化学物質の有害性の程度に応じた製造・使用の管理、代替技術・代替製品の開発・普及、回収された有害化学物質の適正な処理等を推進することとされている。

 

2.化学物質環境汚染実態調査と化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律

 化学物質の環境リスクの適切な管理(削減)を行うには、環境リスクを同定し出来るだけ定量的に評価することがまず必要である。この環境リスク評価は、化学物質の「有害性評価」(化学物質の人又は生態系に対する毒性を評価すること)と「暴露評価」(化学物質に人又は生態系がどの程度暴露されるかを評価すること)に基づいて行われるが、環境中の化学物質濃度の把握は、この「暴露評価」において重要なものである。
 化学物質環境汚染実態調査を歴史的にみれば、昭和48年の「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(以下「化学物質審査規制法」)の制定時の国会附帯決議により、既存化学物質(制定時に、現に業として製造又は輸入されていた化学物質で、既存化学物質リストに収載されているもの。約2万余。)については、国がその安全性の点検を行うこととされ、これに基づき、環境庁がその一般環境中の残留状況の把握を開始したことに由来する。その後、この調査の対象は、審査済み新規化学物質及び非意図的生成化学物質にも拡大している。化学物質審査規制法は、化学物質の有害性・環境残留性の程度に応じ製造(輸入)・使用の管理を行う環境リスク管理の重要な手法の一つであるが、化学物質環境汚染実態調査は、この環境リスク管理に必要な暴露評価に基本的かつ重要な情報を提供している。さらに、同調査は、排出規制等その他の環境リスク管理手法の運用にも大いに参考となる情報を提供するものであり、また提供することが期待されている。

 

3.化学物質審査規制法の概要と環境庁の役割

 化学物質審査規制法は、PCBによる環境汚染問題を契機として、昭和48年10月に制定され、昭和49年4月から施行された。同法により新規化学物質については、自然的作用により化学的変化を生じにくく(難分解性)、生物の体内に蓄積されやすく(高蓄積性)、かつ、継続的に摂取される場合には人の健康をそこなうおそれ(慢性毒性)があるかどうかを、その製造前又輸入前に審査するとともに(新規化学物質の事前審査)、それらの性状をすべて有する化学物質を第一種特定化学物質として指定し、製造(輸入)・使用等の規制が行われるようになった。これまでに、新規化学物質については、6,876件(製造5,136件、輸入1,740件)の届出があり、5,349件(製造4,083件、輸入1,266件)の安全確認がなされている(平成10年12月末現在)。
 一方、既存化学物質については、昭和48年の化学物質審査規制法制定時の国会の附帯決議により原則として国がその安全性の確認を行い、必要があれば、第一種特定化学物質等に指定するという仕組みがとられている。
 このため、既存化学物質について、通商産業省は微生物等による分解性、魚介類への濃縮性を、厚生省は人への毒性を、環境庁は一般環境中での残留状況と生態影響を調査、点検している。そしてこれまでに、PCB、HCB、PCN、アルドリン、ディルドリン、エンドリン、DDT、クロルデン類、ビス(トリブチルスズ)=オキシドの9物質が第一種特定化学物質に指定されている(平成11年10月末現在)。
 また、トリクロロエチレン等の地下水汚染を契機として、昭和61年5月に同法が改正され、昭和62年4月から施行された。この改正により蓄積性は低いものの難分解性で、かつ慢性毒性の疑いのある化学物質を指定化学物質として指定し、製造及び輸入量の監視を行うこととなった。また、当該指定化学物質による環境の汚染により人の健康に係る被害を生ずるおそれがあると見込まれる場合には、製造等の事業者に対し有害性の調査の実施及び報告を指示し、有害性があると判定した場合には、第二種特定化学物質として指定し、製造及び輸入量等の規制が行われるようになった。そしてこれまでに、指定化学物質については、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等292物質が指定されている。また、第二種特定化学物質については、平成元年4月に四塩化炭素、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレンの3物質が初めて指定化学物質から第二種特定化学物質に指定されて以来、現在までに、23物質が指定されている(平成11年10月末現在)。
 化学物質審査規制法の体系は、図1のとおりであり、同法における環境庁の関与は次のとおりである。

(1) 新規化学物質の審査の際の試験項目その他技術的項目を総理府令、厚生省令及び通商産業省令で定めること(第4条第5項)

(2) 新規化学物質の審査判定に際し、事前に厚生大臣及び通商産業大臣に対し、必要な説明を求め、及び意見を述べることができること(第4条第7項)

(3) 第一種特定化学物質の指定に伴う措置(第22条)をとるべきことを主務大臣に対して要請することができること(第34条第1号)

(4) 指定化学物質の有害性の調査の指示(第24条第1項)をするべきことを厚生大臣及び通商産業大臣に対して要請することができること(第34条第2号)

(5) 第二種特定化学物質の製造等を制限することが必要である事態が生じた旨の認定(第26条第4項)をするべきことを厚生大臣及び通商産業大臣に対して要請することができること(第34条第3号)

(6) 第一種特定化学物質以外の化学物質について第一種特定化学物質に該当すると疑うに足る理由があると認めるとき及び第二種特定化学物質以外の化学物質について第二種特定化学物質に該当すると疑うに足る理由があると認めるとき、当該化学物質の製造、輸入、使用の制限等に関し必要な勧告(第29条)をするべきことを主務大臣に対して要請することができること(第34条第4号)

(7) 既存化学物質について指定化学物質等に該当するかどうかについて、厚生大臣及び通商産業大臣が試験を行う際に、意見を述べること(附則第4条)

 

4.化学物質環境汚染実態調査の概要

(1) 化学物質環境安全性総点検調査

a) 調査の体系化の経緯

 化学物質審査規制法の成立を契機として、昭和49年度から環境庁は、化学物質判定基準設定調査(化学物質の各種テスト手法に関する研究、これに関する各種情報の収集)、既存化学物質検討調査(環境中における化学物質についての検索及び生態影響に関する研究)、化学物質環境追跡調査(環境実態調査)その他関連各種研究調査を開始した。このうち、化学物質環境追跡調査としてスタートした化学物質環境調査では、当初調査対象物質の選定に当たって、環境残留性が問題となっていたり、あるいは問題が提起されているものに重点が置かれた。昭和50年度においてはPCB等に関連し、有機塩素化合物の難分解性が特に注目されるようになり、これらの化合物の調査を行った。
 膨大な数の既存化学物質の調査を系統的に進めるため、昭和51年度には人に対する影響という点に着目して暫定的な有害物質リストを作成し、その中から優先順位(プライオリティ)に配慮した調査を行うこととなり、(1)有害性の強いものとして法律上規制されている物質、(2)内外の研究において分解性が悪いと報告されている物質、(3)PCB等問題既存物質と化学構造が類似するか、同様の用途に使用されている代替物質としてリストアップされた物質が対象となった。昭和52年度及び53年度調査もこの有害物質リストをもとに継続して行い、あわせて通商産業省が行っている既存化学物質についての分解度試験又は濃縮度試験からみて問題のある物質も調査対象として加えた。
 このように調査対象物質が多岐にわたってくるにつれて、調査の実施に当たって物質ごとに分析法の開発を要するものがほとんどとなってきたため、昭和52年度以降調査の内容を分析法の開発、一般環境調査及び精密環境調査の三体系に分割した。
 また、調査の実施にあたって、調査区域を有する地方自治体公害試験研究機関に分析法開発、サンプリング及び分析の実施について全面的協力を得ることとなり、調査実施主体の組織化が図られることとなった。
 一方、膨大な化学物質の中には環境汚染の観点から着目する必要のないものも多く、既存の資料・情報を集約化して調査対象物質を選択することが大きな課題となってきたため、過去において有害性(LD50等の動物実験による毒性、労働環境における人体への毒性、発がん性、生物濃縮性、難分解性等の内外の情報に基づき有害性に一定の評価を加えたもの)が知られている物質をリストアップした上、これに生産量、使用形態も考慮し、環境汚染の観点から今後調査対象として検討することが必要と考えられる約 2,000物質を選択し、昭和53年度に「プライオリティリスト」として作成した(昭和54年版「化学物質と環境」第3部参照)。そしてこのリストに基づき化学物質環境安全性総点検調査が、昭和54年度より開始された。

b) 調査の内容

(ア) 第1次化学物質環境安全性総点検調査

 これまでに実施されていた各種調査を体系化し、「プライオリティリスト」に基づき昭和54年度から63年度までの10ケ年計画で第1次化学物質環境安全性総点検調査(以下「第1次総点検調査」という)を実施した。

(イ) 第2次化学物質環境安全性総点検調査

 第1次総点検調査により、化学物質の環境汚染実態に関する貴重なデータが集積されるとともに、化学物質に係る各種調査手法の実用化が図られるなど着実な成果が得られてきた。一方これまでの第1次総点検調査の実施の積み重ねを通じ、調査方法等に関する種々な問題も明かになってきた。また、廃棄物の焼却過程等で非意図的に生成されるダイオキシン類、地下水汚染等が問題とされた有機塩素系化合物等による環境汚染の可能性が指摘されるなど、化学物質審査規制法の改正によって一部対応がなされたものの、新たなタイプの物質による環境汚染問題が残された。
 このような状況を踏まえ、専門家よりなる化学物質調査検討会において、これまでの総点検調査の実施状況がレビューされるとともに化学物質問題への新たな対応が検討され、昭和63年2月、第2次総点検調査の在り方をとりまとめた「化学物質環境安全性総点検調査の今後の在り方(最終報告)」が報告された。同報告は、中央公害対策審議会環境保健部会化学物質専門委員会で検討後、昭和63年5月に公表された。この報告を受けて平成元年度から10ケ年計画で第2次総点検調査が実施されている。以下は、同報告の概要であり、図2は、第2次総点検調査体系及び第1次総点検調査からの拡充の要点である。

a.調査対象物質の拡大

 これまでの総点検調査において対象としてきた既存化学物質のほかに、新たに審査済み新規化学物質及び非意図的生成化学物質を対象物質に加える。
 具体的な調査対象物質については、これら3分野の化学物質を対象にプライオリティリストの改訂( 1,145物質を収載)を行い、この中から順次調査対象物質を選定する。

b.調査方式の改善

 調査の効率性及び分野相互の関連性を重視する観点から、調査対象物質は原則として有機塩素系化合物、多環芳香族炭化水素類、有機金属類、といったクラス毎に取り上げる。
 また、調査を行う環境媒体及び地区を固定した一定方式によるこれまでの環境調査を、各物質の特性に応じた環境媒体及び地区に変えるメニュー方式の環境調査に改めるとともに、対象物質を広範囲に取り上げることよりも重点物質について精度の高い調査を実施することに主眼を置く。

c.環境安全性評価の充実

 予備的な評価においては、主として影響面に考慮したプライオリティリストの改訂を行い、構造等により化学物質をクラス分けし、この中から運命予測手法を用いて暴露面から環境調査を実施すべき代表的な物質を原則として各クラス別に選定する。環境調査をベースとした評価においては、環境調査結果に基づいて暴露面の評価を行うとともに、既知見に基づいた影響評価を行う。

c) 調査における検出状況

 昭和49年度から平成10年度までに化学物質環境調査を実施したものは775物質であり、307物質が 一般環境中より検出されている。検出物質の中で、残留性化学物質として、継続的に経年変化を監視すべきと判断された要注意化学物質と化学物質審査規制法に基づく第一種特定化学物質等が生物モニタリング、水質・底質モニタリングの対象となっている。

 

(2) 指定化学物質等検討調査

 指定化学物質については、環境中の残留状況によって有害性の調査の指示がなされ、その結果により、有害性が認められれば、第二種特定化学物質に指定される。また、第二種特定化学物質は、製造・輸入予定数量の事前届出のほか、必要に応じ、製造・輸入量の制限等が行われる。
 このため、環境庁ではこれら物質について、環境中の残留状況を把握することを目的として、「指定化学物質等環境残留性検討調査」を昭和63年度から開始した。さらに、平成2年度より、新たに暴露経路調査(日常生活において人がさらされている媒体別の化学物質量に関する調査)を開始し、調査名を「指定化学物質等検討調査」と改めた。
 本調査は、「第2次総点検調査の今後の在り方(最終報告)」において、「指定化学物質及び第二種特定化学物質についても対象物質として充分配慮すること」とされていることから、第2次総点検調査の一環として、特に区別して調査を行っているものである。

(3) 非意図的生成化学物質汚染実態追跡調査

 ダイオキシン類のように製造、廃棄等の人為的過程や環境中での反応等の自然的過程を経て生成される有害化学物質による環境汚染が社会問題となっており、このような直接的には化学物質審査規制法の対象とならない非意図的に生成される有害化学物質についても、有効な対策に資するため適切な調査を行う必要が高まってきた。
 このため、昭和60年度から人の健康や生態系に影響を及ぼすと考えられる非意図的生成物について、環境中における存在を調査することにより、当該化学物質による環境汚染の未然防止の対策の立案に資することを目的として「有害化学物質汚染実態追跡調査」を開始した。
 これまでにポリ塩化ジベンゾ−p−ジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、ポリ臭化ジベンゾ−p−ジオキシン(PBDD)、ポリ臭化ジベンゾフラン(PBDF)及びニトロソアミン類等について調査を実施してきた。
 平成10年度には、「ダイオキシン緊急全国一斉調査」が実施されることとなり、重複を避けるためダイオキシン類を調査対象として取り扱うことを中止し、これに代わり、臭素化ダイオキシン類の環境調査を実施した。
 なお、本調査が非意図的生成化学物質の環境残留性を把握することを目的とすることから、平成5年度から調査名を「非意図的生成化学物質汚染実態追跡調査」と改めた。

 

5.化学物質環境汚染実態調査の成果

 化学物質環境汚染実態調査の主な成果としては、同調査結果等を参考として、昭和61年5月の化学物質審査規制法の改正が行われたことや有機スズ化合物等が同法に基づく第一種特定化学物質等の指定がなされたことなどがあげられる。
 また、平成8年の大気汚染防止法の改正に伴い作成された有害大気汚染物質に該当する可能 性がある物質のリスト作成にも活用された。


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