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化学物質対策の国際的動向(平成9年度)

 

第3部 国連環境計画(UNEP)

 

1.IRPTC(UNEP Chemicals)
2.GEMS関係
3.PIC(Prior Informed Consent:事前通報同意)
4.POPs
5.化学品の国際取引に関する倫理規範

 

1.IRPTC(UNEP Chemicals)

 UNEP(国連環境計画:United Nations Environment Programme)においては、I)化学物質の人及び環境への影響に関する既存の情報を国際的に収集、蓄積する、II)化学物質の各国の規制に係る諸情報を提供する、等の目的で、国際有害化学物質登録制度(IRPTC)が実施されている。
  IRPTCによる情報の収集、蓄積活動の主な成果は、データプロファイルであり、これまでに数種のデータプロファイルが刊行されている。情報提供活動の主たるものは、質問・回答サービスとIRPTC Bulletinの発行である。質問・回答サービスについては、各国からの照会に対し、ナショナルコレスポンデントにおいて取りまとめの上、回答が行われている。
  現在、IRPTCは「UNEP Chemicals」と改称され、OECD、WHOなど他の国際機関とも連携しつつ、地球的規模の化学物質汚染問題に取り組んでいる。

 

2.GEMS関係

 GEMS(GEMS:Global Environmental Monitoring System)は、1974年に、各国、各地域、地球規模で環境データの収集を行ったり、統合したりすることを目的に開始されたシステムである。GEMSのなかの主要な計画は、気候に関連した分野のモニタリング、天然資源に関連した分野のモニタリング、海洋に関連した分野のモニタリング、人の健康影響に係る分野のモニタリングである。

<HEAL>

  GEMSの各分野のうち保健分野では、大気、水、食品及び生体試料に対する汚染状況について、世界各地の協力機関の協力を得て、個別にモニタリングを実施してきたが、1982年の政府氏名の健康関係モニタリング専門家会合における検討の結果、「GEMSの健康関連環境モニタリング計画の一部として、環境汚染物質の人体暴露評価のための地球的規模の計画を企画・実施するべきである。」との提案がなされた。
  具体的には世界各地の約15の地域(都市)において、Human Exposure Assesment Location(HEAL)を選定する。ここで空気、水、食品及び一部の汚染物質については人体組織及び体液中の濃度を測定する。評価は、国際的な専門家の会合において行うとしている。この計画の第一目標は各HEALにおける特定の環境汚染物質の人体暴露に関する比較可能かつ正しい評価(comparable and valid assesment)を行うことであり、第1段階では、日本、アメリカ、スウェーデン、ユーゴスラビア及びオーストラリアの5ケ国に参加の招請状が送られた。
  これに対し、我が国も、昭和59年9月に、国立公衆衛生院を参加機関としてHEALプログラムに参加する意向を表明し、行政的には環境庁及び厚生省が協力してフォローアップする体制となった。平成元年2月28日~3月3日にはスイスのジュネーブにおいて、HEALプログラムのコーディネーター会合が開催され、今後の計画等が協議された。
  その後、HEAL計画参加国は、日本、アメリカ、スウェーデン、ドイツ等27ケ国となった。また、全ての参加国が同一の化学物質を同じ方法で、決められた場所でモニタリングする方法から、各国が関心をもつ化学物質をその化学物質の暴露によって悪い影響が生じる地点でモニタリングする方法に変わっていった。

 

<GEMS/Water>

  GEMSの中で、GEMS/Waterは、地球環境モニタリングの陸水(湖沼・河川・地下水等)対象とした、GEMSのプロジェクト(上述の後半)の一部であり、WHO(世界保健機関)、UNEP、UENSCO(国連教育科学文化機関)、WMO(世界気象機関)が協力して1976年に発足された。
  当該計画の主目的は、(1) 世界的な水質管理網を確立し、水質データに関する関係各国にお ける各国相互間の情報交換を可能にし、関係各国における既存の水質データの強化を図ること、 (2) 水質分析法の世界的な統一を図ることにより、水質データの信頼性を向上させること及び (3) 現在の水質に関するデータを収集し、世界的な水質変化の状況を把握することである。
  現在、当該計画は、フェーズ1(1977年~1990年)を終了し、フェーズ2(1990年~2000年)に入っており、水質に関して緊急を要する地球規模の優先課題に応え、水資源の開発のために必要とされる情報を提供するために、総合的データ解釈、地球的/地域的水質結果の評価、各地域に応じた分析の管理に重点が置かれている。
  GEMS/Water計画に参加している世界各国のステーションは、1998年1月現在、世界71カ国、612ステーションが登録されている。我が国においては、1994年から国立環境研究所地球環境研究センターにおいてナショナルセンターとしての活動が行われている。

 

3.PIC(Prior Informed Consent:事前通報同意)

  PIC手続きとは、化学品や農薬の国際貿易において、あらかじめ輸入国の輸入に係る同意を確認した上で取引を進めるための手続きであり、先進国で使用が禁止または厳しく制限されている有害な化学物質や農薬が、発展途上国にむやみに輸出されることを防ぐためのものである。従来、PIC手続きは、化学品については「ロンドンガイドライン」において、農薬についてはFAOの「コード・オブ・コンタクト」において、ボランタリーベースで進められていたが、1995年の第18回UNEP管理理事会において、PICの条約化のための検討を進めるよう決定された。
 その後、5回に亘る条約化交渉を経て、1998年9月にロッテルダムに於いて「国際貿易における有害化学品及び農薬の事前通報・合意手続き条約」が採択された。

<主な経緯>

(1)

1987年6月、UNEPにおいて、有害化学物質事前通報を内容とする「国際貿易における化学物質の情報交換に関するロンドンガイドライン」が採択された後、1989年5月、UNEPにおいて、輸出事前通報・承認制度(PIC)の実施等を規定する改正ロンドンガイドラインが採択された。
当面の措置として、10カ国以上で禁止あるいは厳重に規制されている物質について、IRPTCは、これら禁止事項を加盟国に通告し、各国は、当該化学物質の輸入を禁止するか、今後とも許可するかを決定し、IRPTCがこれを輸出国に伝えることとされた。

(2)

1991年5月の第16回UNEP管理理事会において、改正ロンドンガイドラインの法的基盤の強化等の緊急課題に取り組むための専門家会合の召集が執行部に要請された。

(3)

1992年6月にはアジェンダ21第19章において、2000年までに法的拘束力のある文書を通じたPIC手続きへの参加と実施の達成が目標として掲げられ、我が国においては、1992年7月の輸出貿易管理令の改正により、ロンドンガイドライン対応体制が整備された。

(4)

1995年5月には、第18回UNEP管理理事会で勧告がなされ、PIC条約化のための条約交渉会合を1997年早期に開催することが事務局に要請された。これを受け、1996年3月にブリュッセルで第1回条約交渉会合、同年9月にナイロビで第2回条約交渉会合が開催されるなど、PIC条約化に向けての議論が行われた。さらに、その後3回の条約か交渉会議を経て大筋の条約案がまとまり、1998年9月にオランダ・ロッテルダムで開催された外交官会議において、条約が採択された。

<条約の内容>

(1)

締結国は、附属書に掲載されている化学物質、農薬及び農薬製剤(当面の措置が必要な物質:PCB、DDTなど27物質)の輸入に同意するかどうかを事前に事務局に通報しておく。この情報を、事務局はすべての締結国に伝え、輸出締約国は管轄の関係者に伝える。

(2)

締約国は、ある化学物質や農薬について、国内で使用を禁止または厳しく制限した場合、その旨を事務局に通報する。事務局は、複数の地域から蒸気の通報を受け取った場合には、審査委員会において附属書に掲載するかどうかを決定する。

(3)

締結国である発展途上国で危険な農薬製剤によって問題が起きた場合は、附属書への記載を事務局に提案する。事務局はこの情報を全ての締約国に伝えるとともに、審査委員会において附属書に掲載するかどうか決定する。

(4)

締約国は、自国において使用を禁止または厳しく制限している化学物質や農薬を輸出しようとする場合は、毎年、輸入国に必要な情報を添付した輸出通知を行う。

(5)

附属書に掲載されていたり、自国で使用を禁止または厳しく制限されている化学物質・農薬等を輸出する場合、人の健康や環境への有害性・危険性に関するラベルや安全性データシートの添付が求められる。

(6)

その他、化学物質の有害性等に関する情報交換、技術援助などを進める。

 

4.POPs

<経緯>

  アジェンダ21を受けて1995年にUNEPが開催した政府間会合において、「陸上活動からの海洋環境の保護に関する世界行動計画」(以下「世界行動計画」という。)が採択された。この世界行動計画により、残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)の12物質(PCBs、DDT等)について、国際的に排出・流出の低減等を図るため、法的拘束力のある文書(条約・協定等)の策定を行うことが求められ、UNEP管理理事会において2000年までに行うことが望ましいとされた。

 

<POPs12物質(今後、追加される可能性あり)>

・工業用化学製品:

PCB

・農       薬:

DDT、アルドリン、ディルドリン、エンドリン、クロルデン、ヘプタクロル、ヘキサクロロベンゼン、マイレックス、トキサフェン

・非意図的生成物:

ダイオキシン類、フラン類

 

<条約化交渉>

  POPsに関する政府間交渉については、98年6月~7月にモントリオールにおいて第1回会議が行われ、議長団の選出、手続き規則及び下部機関(専門家会議等)の採択が行われた。また、98年10月には、バンコクにおいて第1回専門家会合が開催され、物質追加に関するルールの検討が開始された。
  今後、さらに3回の政府間会議及び2回の専門家会合を行い、2000年秋にはPOPsに関する条約等の法的枠組みについて署名を行う予定で交渉が進められる。

 

5.化学品の国際取引に関する倫理規範
  1994年4月の非公式会合において、「化学品の国際取引に関する倫理規範」がとりまとめられ、同月に開催された化学物質の安全性に関する政府間フォーラム(IFCS)においてその推進が決議された。本規範は、化学品による人の健康及び環境へのリスクの削減を目的として、化学品の国際取引に関与する民間の関係者に本規範の原則等に合致した自主規制対策を講ずる旨の公約を求めるものである。



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