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化学物質対策の国際的動向(平成9年度)

 

第1部 OECDの化学物質対策

 

1.OECDの環境保健安全プログラム
2.既存化学物質の系統的点検(既存化学物質点検プログラム)
3.HPVCプロジェクト
4.クリアリングハウス
5.EXICHEMデータベース
6.リスク管理プログラム
7.その他


1.OECDの環境保健安全プログラム

(1)

OECD(経済協力開発機構)は、1960年に西側自由主義先進諸国が、経済成長、自由貿易等各国に共通の問題を討議するために設立されたもので、フランス国パリに本部を置いている。現在29ケ国が加盟しており、我が国は、1964年に加盟している。
最高議決機関は、OECD理事会であり、その下に現在、環境政策委員会等の委員会が設置されている。

(2)

OECD環境政策委員会は、1970年7月、環境問題への関心の高まりを受けて、科学政策委員会から環境委員会として独立し、1992年に環境政策委員会に改名された。現在、化学品グループ等4グループが各分野の活動をしている。

(3)

化学品グループは、化学品試験法の検討などの活動を実施していたが、我が国の化審法、米国TSCA、EC6次指令などの各国の化学物質規制に関する法律制定の動きに対応して、特別なプログラムを実施する必要性がでてきたことから、1970年、「化学品規制特別プログラム管理委員会」(以下「管理委員会」という)が設置された。

(4)

管理委員会は、環境政策委員会及び化学品グループと密接な協調のもとで作業を行うこととされており、「化学品グループ/管理委員会合同会合」が1983年以降、年2回(1993年からは2年に3回)開催され、化学品プログラムの推進、調整を行っている。
この定期的な活動に加えて、必要に応じ、ハイレベル会合(大臣レベル)が開催され、活動の基本方針について話合いが行われる。
その後、新しいバイオテクノロジーに関する分野への対応も含め、全体を「環境保健安全プログラム」(Environmental Health Safety Programme)と呼ぶようになり、現在に至っている。

(5)

最近の環境保健安全プログラムの活動は、主に次の3つのテーマのもとに行われている。
  a) 化学品の試験と評価
  b) 既存化学品に対する協力
  c) 化学品のリスク管理

(6)

「化学品の試験と評価」のテーマのもとでは、テストガイドラインの改訂及び策定、優良試験所基準(GLP)に関する理事会決定の完全な実施の支援、リスク評価に関する活動の実施、分類表示システムの調和のための作業など、「既存化学品に対する協力」のテーマのもとでは、高生産量化学品(HPVC)プロジェクトやクリアリングハウス活動、EXICHEMデータベースの提供など、「化学品のリスク管理」のテーマのもとでは、特定の化学品のリスク管理プログラム、様々なリスク管理手法の検討などの活動が行われている。

(7)

このほか、「環境保健安全プログラム」においては化学品事故への対応、最近のバイオテクノロジー分野における規制監視の調和についても検討を進めており、また、1993年より農薬の安全性評価に関するプログラムを開始し、「化学品グループ/管理委員会合同会合」と同時期に農薬フォーラムを開催して、情報・意見交換を行っている。さらに最近では、環境汚染物質排・出移動登録(PRTR)の推進にも取り組んでいる。

(8)

環境保健安全プログラムにおいては、OECD全体の機構改革と予算削減の影響を受けて、一部サブグループの廃止など、プログラム全体の見直しが提案されており、1999年中に今後の方向が決められる。

 

2.既存化学物質の系統的点検(既存化学物質点検プログラム)

(1)

1987年3月、第3回ハイレベル会合において、既存化学物質を如何に調査し、評価し、管理していくかが中心議題としてとりあげられ、各国が協力してこの問題に取り組んでいくことが合意された。
これは、海洋汚染、オゾン層の破壊、地球温暖化、有害廃棄物の越境移動、酸性雨など地球的規模で問題となっている化学物質汚染が、化学物質をその環境中での挙動、健康影響、環境影響を十分把握しないまま、安易に広範囲に使用し、環境中に放出したことが原因のひとつであるとの認識によるものである。

(2)

これを受けて、同年11月、カナダの主催によりオタワにおいて、既存化学物質を系統的に点検するための具体的な協力の進め方を決めるべくワークショップが開催され、以下の3つの流れにより作業が進められることとなった。
  a) HPVC(高生産量化学物質)プロジェクト
  b) クリアリングハウス
  c) EXICHEMデータベース

(3)

さらに、1990年、既存化学物質のリスク削減(リスク管理)について、加盟国が共同で検討することが決定された。

 

3.HPVCプロジェクト

  既存化学物質の環境に対する影響を評価するために、高生産量の化学物質に焦点をあてるのが効率的であり、世界的に高生産量の化学物質について協力してデータを収集し、その環境安全性の評価を行うことを目的として開始されたもので経緯は次のとおりである。

(1)

オタワワークショップでの提案に基づき、加盟国は、それぞれの高生産量物質リストをOECD事務局に提出することとされ、1989年までにオーストリア、デンマーク、スイス、西ドイツ、フィンランド、日本、オランダ、スウェーデン、米国及びEC委員会からリストが提出された。
その後、イタリア、ベルギー、フランス、英国、カナダ、ユーゴスラビアからの追加があり、これらを選別の結果、1,338物質のOECDリストが作成された。(1990年版では1,592物質となっている。) OECDリストの選定の際、2ケ国以上で各々千トン以上が生産されていること、または1ケ国で1万トン以上が生産されていることが基準とされた。

(2)

1,338物質はOECD事務局によりさらに選別され、混合物等物質として特定できないもの、化学的に不安定なもの、殺虫剤等特定の用途にしか使用されずその用途についての登録データがあるもの、既に何らかのレビューが行われているものなどを除いた467物質が作業物質とされた。その後、1992年5月無機化学物質89物質が追加される等、作業物質は648物質となった。

(3)

467物質について、西独/スウェーデンの主催によるクリアリングハウスにおいて、以下の優先度が決められた。
  P1:基本的なデータのない物質     147 物質
  P2:P1と比べればデータのある物質  275 物質
  P3:物質として特定できる混合物     45 物質

(4)

1989年11月、化学品グループ/管理委員会合同会合において、上記優先度に従いデータ収集作業を各国が協力して実施していくことが合意され、当面、第1優先のP1物質147について、3年を目途に作業を行うこととされた。
我が国は、147物資のうち33物質を分担することとされた。

(5)

1990年4月、ウィーンワークショプにおいて、収集すべきデータの項目、「スクリーニング用情報データセット」(SIDS:Screening Information Data Set) の詳細が決められた。
なお、試験法については、原則としてOECDテストガイドラインに沿ったものである。

(6)

1993年2月及び9月、P1物質からの第1相の作業物質31物質(我が国の分担9物質)の試験結果について第1回初期評価会合(SIAM: SIDS Initial Assessment Meeting)がパリで開催された。

(7)

その後、毎年1~2回のペースで初期評価会合が開催され、1998年までに8回の会合において111物質の評価が終了し、さらに、242物質の検討、情報収集、評価等が続けられている。第9回会合は、1999年にパリで開催される。

(8)

最近になってHPVプロジェクトは、いくつかの見直しが行われている。

EUにおける高生産量化学物質リストの作成と、独自の点検プロジェクトの開始に伴い、HPVCの定義が「1カ国で1,000トン/年以上生産されている物質」となった。(このため、1997年版のリストには、4,103物質がリストに掲載されている。)

データの少ない物質だけでなく、データが多い物質についても評価の対象にすることとした。そのかわり、2種類のリスク評価を分けて行い、後者についてはIPCSと共同で評価会合を持つ方向で検討することになった。

米国などのイニシアチブにより、産業界の協力も得て評価の速度を早めることが検討されている。

(9)

これらを踏まえた今後のHPVCプロジェクトの進め方については、1999年中に固められるものと見られる。

なお、スクリーニング用データセット(SIDS)を下記に示す。

SIDS(Screening Information Data Set)
 1.General Information
    CAS-number
    Name
    Structural Formula
    Quantity
    Use Pattern
    Sources of Exporsure

 2.Physical-Chemical Data
    Melting Point
    Boiling Point
    Vapour Pressure
    Partition Coefficient : n-Octanol/Water
    Water Solubility

 3.Environmental Fate and Pathways
    Photodegradation
    Stability in Water
    Monitoring Data (Environment)
    Transport and Distribution between Environmental Compartments
    Biodegradation

 4.Ecotoxicological Data
    Acute/Prolonged Toxicity to Fish
    Acute Toxicity to Aquatic Invertebrates (Daphnia)
    Toxicity to Aquatic Plants e.g., Algae
    Chronic Toxicity to Aquatic Invertebrates (e.g., Daphnia Reproduction)

 5.Toxicological Data
    Acute Toxicity
    Repeated Dose Toxicity
    Genetic Toxicity In Vitro
    Genetic Toxicity In Vivo
    Toxicity to Reproduction
    Developmental Toxicity/Teratogenicity
    Experience with Human Exposure

 

4.クリアリングハウス

  懸念のある特定の化学物質に関する共同作業の可能性をより詳細に調べるために、加盟各国は自主的に自国が関心を持つ化学品に関して先導的な立場をとり、中心的な機関(Clearinghouse)として機能し、当該化学物質に関する各国の情報を集約、交換する活動を行っている。クリアリングハウスは、加盟国が共通の関心を持つ課題や化学物質について、ボランティア国が情報収集、交換のセンターとして活動を行おうとするものである。1998年に於いては6物質群と2種類のデータベースについてのクリアリングハウスが行われている。
  この活動は、種々の形の試験及び評価のような広範な国際共同活動に発展し、クリアリングハウスからのデータは、リスク管理の推進やIPCSの環境保健クライテリアの作成にも役立っている。

 

5.EXICHEMデータベース

  EXICHEMデータベースの目的は、加盟各国が特定の既存化学物質を調査する上での協力の機会をつくりやすくすること及び関心を有する国々がそれぞれの活動について情報交換、交渉をしやすくすることにある。従って、本データベースの利用により各国政府、機関が個々に実施している安全性点検などの情報をOECDに集約することができ、安全性試験の重複を防ぐとともに同一物質の安全性評価対策における協力関係を促進できるものである。
  具体的には、各レコードには各々の窓口(フォーカルポイント)が記載されており、手紙、ファックスや電子メールで情報交換が出来るシステムとなっている。加盟国は、特定の化学物 質に関する進行中又は計画中の活動についての情報を毎年このデータベースに提供する。データの更新は各国のEXICHEMコーディネーターを通じて年1回行われる。
  このデータベースは、IBM、NECのパソコンでアクセスできる形となっているので、各々の用途に応じて使用できる。現在、約 10,000の化学物質について安全性点検作業の種類とれらが「計画中」、「実施中」、「終了」であるかの区別等の約28,000件の情報が入力されている(EXICHEM97)。

 

6.リスク管理プログラム

  OECDのリスク管理に関するプロジェクトは、1990年の既存化学品の共同調査及びリスク削減に関する理事会決議に基づいて、5物質(鉛、臭素系難燃剤、塩化メチレン、カドミウム、水銀)を対象としたパイロット事業からスタートしたが、i )プログラムに対する加盟国の期待の差異、ii)国レベルのリスク削減が国際的な展開と相まって再編される必要性が指摘されたこと(OECDとして措置することの意義が不明確であったこと等)、からプログラムの抜本的な見直しに入った。
  1995年のローマI(「リスク削減に関する特別ワーキング・グループ会合」(11月6~8日、ローマ))では、リスク削減プログラムの概念的な枠組み(目的、原則、選択基準等)について討議がなされ、1996年ローマII(9月26~27日、ローマ)では、それを踏まえつつ、ワシントン・ワークショップ(「リスク削減のための非規制的手法に関するOECDワークショップ」(1996年9月10~12日、クリスタルシティ・ヴァージニア)及び「リスク削減のための用途クラスターに関するOECDワークショップ」(1996年9月12~13日、クリスタルシティ・ヴァージニア))の成果も取り入れた具体的な作業プログラムが作成された。こうした成果は、1996年11月に開催された第25回化学品グループ及び管理委員会合同会合で承認された。
  現在、リスク管理諮問委員会では、今後のプロジェクトの対象物質の選定、対策の進め方等について検討が行われている。また、既存化学物質点検プログラムとの連携が重要であるとの認識のもとで活動が進められている。

 

7.その他

(1) モニタリングデータのリスク評価への活用に関するワークショップ

  リスク評価諮問委員会(RAAB)の下に設置されたの環境暴露評価作業グループが主催し、平成10年5月13日から15日にベルリンにおいて開催された。
  60名以上の参加者による意見交換等の結果次の事項がまとめられた。

i )

モニタリングデータをリスク評価や予測モデルのキャリブレーション又はバリデーションに活用できるようにすべきであること。

ii)

化学物質の排出データを入手できるように、PRTR制度の整備、Emission Scenario Document の開発、Substance Flow Analysis の導入等を図るべきであること。

iii)

モニタリングデータの活用を推進するために、モニタリングデザインをどのようにすべきかのガイダンスを作成すべきであること。

iv)

リスク評価に活用するモニタリングデータの質や代表性に関する基準を考えていくべきであること。

v)

モニタリングとモデルで使用されている用語の統一を図るべきであること。

vi)

環境保護分野におけるモニタリングの重要性を周知していくべきであること。



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