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第4部 平成9年度指定化学物質等検討調査
結果の概要

1. はじめに
2. 調査の概要
3. 調査結果
4.調査結果の考察
  (1)トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレン
  (2)四塩化炭素
  (3)クロロホルム
  (4)1,2-ジクロロエタン
  (5)1,2-ジクロロプロパン
  (6)1,4-ジオキサン

 

1.はじめに

  昭和62年施行の改正化学物質審査規制法では、指定化学物質は、環境中の残留状況によって有害性調査の指示がなされ、その結果により有害性が認められれば、第二種特定化学物質に指定され、製造・輸入予定数量の事前届出のほか、必要に応じ製造・輸入量の制限等が行われる。
  このため、環境庁においては、指定化学物質及び第二種特定化学物質についての一般環境中の残留状況を把握することを目的として、「指定化学物質等環境残留性検討調査」を昭和63年度から開始し、その後、調査地点の拡大や測定精度の向上等を図ってきた。さらに平成2年度から、測定値について統一検出限界処理等を行うとともに、新たに暴露経路調査(日常生活において、人がさらされている媒体別の化学物質量に関する調査)を開始すると同時に、調査名を「指定化学物質等検討調査」と改めている。

 

2.調査の概要

(1) 調査対象物質及び媒体

  平成9年3月末までに指定された指定化学物質等について、製造・輸入量、物理化学的性状等を考慮に入れて、以下の物質、媒体を選定した。

  (調査対象物質)

(媒 体)

(ア) トリクロロエチレン(注1)

室内空気、食事

(イ) テトラクロロエチレン(注1)

室内空気、食事

(ウ) 四塩化炭素(注1)

大気、室内空気、食事

(エ) クロロホルム

大気、室内空気、食事

(オ) 1,2-ジクロロエタン

大気、室内空気、食事

(カ) 1,2-ジクロロプロパン

大気、室内空気、食事

(キ) 1,4-ジオキサン 水質、底質
(ク) トリブチルスズ化合物(TBT)(注2)  水質、底質
(ケ) トルフェニルスズ化合物(TPT)(注3)  水質、底質

(注1) 平成元年4月、第二種特定化学物質に指定された。
(注2) TBTOが平成2年1月、第一種特定化学物質に、TBTOを除くTBT化合物が平成2年9月、第ニ種特定化学物質に指定された。
(注3) 平成2年1月、第ニ種特定化学物質に指定された。

 

(2) 調査対象地点(図1

  環境残留性調査では、指定化学物質等の一般環境中での残留状況を把握するため、特定の発生源の影響を直接受けない調査地点を設定した。また、暴露経路調査の対象世帯の地点設定については、大気調査地点と大気の状態が可能な限り同一の地点を選定した。
  なお、各試料採取は秋期(9~11月)に実施し、食事試料については、同一人が1日に経口的に摂取するもの全てを試料として採取し、朝食、昼食、夕食は陰膳方式により採取した。

(ア) 環境残留性調査(水質、底質):36地点(海域20地点、湖沼4地点、河川12地点)
(イ) 環境残留性調査(大気):34地点
(ウ) 暴露経路調査(室内空気、食事):9地点各3世帯

(3) 分析法

(ア) GC/MS-SIM:1,2-ジクロロエタン,1,2-ジクロロプロパン、1,4-ジオキサン
(イ) GC-ECD   :トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、四塩化炭素、クロロホルム
(ウ) GC-FPD   :TBT、TPT 

 

(4) 統一検出限界処理

  試料の性状、利用可能な測定装置等が異なるため、各機関での検出限界は必ずしも同一ではないが、調査全体を評価する立場から、測定値について統一検出限界処理を行った。環境残留性調査に関する統一検出限界値を表1に示した。暴露経路調査に関する統一検出限界値は、当該調査結果と共に、表5(PDF形式)に示した。

 

3.調査結果

  環境残留性調査結果を表2、暴露経路調査結果を表5(PDF形式)及び表6に示す。各調査の経年データを表3表4(PDF形式)及び表7から表9(PDF形式)に示す。また、各調査について、調査地点ごとの調査結果を表 10から表16(PDF形式)及び表17から表22(PDF形式)に示す。表23(PDF形式)には、試料の採取日一覧を載せた。なお、TBT及びTPTの調査結果については、本編第5部「平成9年度有機スズ化合物に関する環境調査結果の概要」の項を参照されたい。
  また、大気及び室内空気からの暴露量は、各々の検出値(濃度)に15m
/人・日(人の一人1日当たりの呼吸量)を乗じて算出したものである。

 

4.調査結果の考察

  平成9年度における調査結果をとりまとめ、考察を加えると次のとおりである。
  なお、大気からの検出範囲、検出頻度、幾何平均、地点別検出頻度及び暴露の範囲を示す値の後の括弧内に記された値は、特記しない限り平成8年度の結果を示している。

(1)
トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレン
  i )   トリクロロエチレンは金属脱脂洗浄剤、溶剤等として、また、テトラクロロエチレンはドライクリーニング溶剤、金属脱脂洗浄剤等として用いられている。これら2物質は、昭和62年5月に指定化学物質に指定され、その後、平成元年4月に第二種特定化学物質に指定された。また、平成元年10月から水質汚濁防止法に基づいて排水規制及び地下水浸透規制が行われ、平成5年3月には水質環境基準項目に追加された。他方、大気に関しては、平成5年4月に大気環境指針(暫定値)が定められ、平成9年2月に大気環境基準が定められた。
      これら2物質については、昭和63年度から水質、底質及び大気について調査を開始し、平成元年度からは昭和63年度に検出頻度及び濃度の低かった水質及び底質を調査対象から外し、平成9年度からは大気環境基準項目に追加され、大気汚染の状況が常時監視されることとなった大気を調査対象から外した。また、平成2年度からは暴露経路調査も併せて行っている。
      平成9年度においては、暴露経路調査を実施した。
     
  ii ) (トリクロロエチレンの調査結果)
      暴露経路調査においては、室内空気からの暴露の範囲は1.2~70μg/人・日(nd~100μg/人・日)であり、食事を介しての暴露の範囲はnd~0.97μg/人・日(nd~tr[統一検出限界値未満の検出限界で分析が行われ、統一検出限界値未満の測定値で検出されたことを示す、以下同じ])であった。暴露量に関して地点差はあるものの、いずれの地点もほとんどが室内空気由来による暴露であった。
      これまでの調査結果と比較すると、これらの暴露状況に大きな変化は認められなかった。
     
    (テトラクロロエチレンの調査結果)
      暴露経路調査においては、室内空気からの暴露の範囲は5.9~67μg/人・日(2.0~63μg/人・日)であり、食事からの暴露の範囲は、nd ~0.69μg/人・日(nd~tr)であった。暴露量に関して地点差はあるものの、いずれの地点もほとんどが室内空気由来による暴露であった。
      これまでの調査結果と比較すると、暴露状況に大きな変化は認められなかった。
     
  iii)   トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンについては、環境中に広範囲に残留していることから、環境汚染の状況を監視するため、今後とも引き続き調査を実施していくことが必要である。
     
(2)
四塩化炭素
  i )   四塩化炭素は化学工業原料等として用いられている。昭和62年7月に指定化学物質に指定され、その後、平成元年4月、第二種特定化学物質に指定された。また、平成5年3月には水質環境基準項目に追加された。なお、我が国では、モントリオール議定書に基づき、平成7年末で製造が全廃されている。
      四塩化炭素については、昭和63年度から水質、底質及び大気について調査を開始し、平成元年度からは昭和63年度に検出頻度及び濃度の低かった水質及び底質を調査対象から外し、大気についてのみ調査を継続している。また、平成2年度から暴露経路調査も併せて行っている。
      平成9年度においても、大気について調査を実施するとともに暴露経路調査を実施した。
     
  ii )   大気からの検出範囲は0.012~2.4μg/m(nd~2.52μg/m)、検出頻度は128検体中 128検体(126検体中120検体)、幾何平均値は0.62μg/m(0.40μg/m)であった。地点別検出頻度は34地点中34地点(32地点中31地点)であった。
      暴露経路調査においては、大気又は室内空気からの暴露の範囲は3.3~31μg/人・日(nd~15μg/人・日)であり、食事を介しての暴露の範囲はnd~0.58μg/人・日(nd~tr)であった。暴露量に関して地点差はあるものの、いずれの地点もほとんどが大気及び室内空気由来による暴露であった。また、大気と室内空気には顕著な差はみられなかった。
     
  iii)   四塩化炭素については、環境中に比較的高い濃度で広範囲に残留していることから、環境汚染の状況を注意深く監視するため、今後とも引続き調査を実施していくことが必要である。
    DDT類は、低いレベルながら広範囲に環境中に残留していることから、今後ともモニタリングを続けていく必要がある。
     
     
(3)
クロロホルム
  i )   クロロホルムは合成樹脂の原料、溶剤等として用いられている。昭和62年7月に指定化学物質に指定された。また、平成5年3月には、水質要監視項目に指定された。
      クロロホルムについては、昭和63年度から水質、底質及び大気について調査を開始し、平成元年度からは昭和63年度に検出頻度及び濃度の低かった水質及び底質を調査対象から外し、大気についてのみ調査を継続している。また、平成3年度から暴露経路調査も併せて行っている。
      平成9年度においても、大気について調査を実施するとともに暴露経路調査を実施した。
     
  ii )   大気からの検出範囲はnd~5μg/m(nd~22μg/m)、検出頻度は134検体中122検体(126検体中114検体)、幾何平均値は0.54μg/m(0.3μg/m)であった。地点別検出頻度は34地点中33地点(32地点中29地点)であった。
      暴露経路調査においては、大気又は室内空気からの暴露の範囲は2.8~62μg/人・日(nd~270μg/人・日)、食事からの暴露の範囲は 3.6~23μg/人・日(tr~18μg/人・日)であった。
      暴露量に関して地点差はあるものの、いずれの地点も大気、室内空気及び食事の各媒体に由来する暴露であった。また、大気と室内空気には顕著な差はみられなかった。
      これまでの調査結果と比較すると、残留状況及び暴露状況に大きな変化は認められなかった。
     
  iii)   クロロホルムについては、環境中に比較的高い濃度で広範囲に残留していることから、今後とも引続き調査を実施していくことが必要である。
     
     
(4)
1,2-ジクロロエタン
  i )   1,2-ジクロロエタンは塩ビモノマー原料、合成樹脂原料等として用いられている。
      1,2-ジクロロエタンは昭和62年7月に指定化学物質に指定された。さらに、平成5年3月には、水質環境基準項目に追加された。
      1,2-ジクロロエタンについては、平成元年度から水質、底質及び大気について調査を開始し、水質環境基準項目に追加され水質汚濁の状況が常時監視されることとなったこと及び平成4年度に検出頻度及び濃度の低かったことから、水質及び底質に関しては調査対象から外して、平成5年度から大気についてのみの調査とした。また、大気からの検出頻度が高い傾向がみられたため、平成6年度からは暴露経路調査を開始した。
      平成9年度においても、大気について調査を実施するとともに暴露経路調査を実施した。
     
  ii )   大気からの検出範囲はtr~2.7μg/m(nd~2.3μg/m)、検出頻度は97検体中96検体(89検体中77検体)、幾何平均値は0.075μg/m(0.041μg/m)であった。地点別検出頻度は32地点中31地点(29地点中26地点)であった。
      暴露経路調査においては、大気又は室内空気からの暴露の範囲はtr~13μg/人・日(tr~4.7μg/人・日)、食事を介しての暴露の範囲はnd~1.8μg/人・日(不検出:nd~3.3μg/人・日)であった。
      暴露量に関して地点差はあるものの、いずれの地点もほとんどが大気及び室内空気由来による暴露であった。また、大気と室内空気には顕著な差はみられなかった。
      これまでの調査結果と比較すると、残留状況及び暴露状況に大きな変化は認められなかった。
     
  iii)   1,2-ジクロロエタンについては、環境中に広範囲に残留していることから、環境汚染の状況を監視するため、今後とも引続き調査を実施していくことが必要である。
     
     
(5)
1,2-ジクロロプロパン
  i )   1,2-ジクロロプロパンは油脂・アスファルト溶剤、金属脱脂洗浄剤等として用いられている。昭和63年3月に指定化学物質に指定された。また、平成5年3月には水質要監視項目に指定された。
      1,2-ジクロロプロパンについては、平成元年度から水質、底質及び大気について調査を開始し、平成2年度に検出頻度及び濃度の低かった水質及び底質を調査対象から外し、平成3年度からは大気についてのみ調査を実施してきた。また、大気からの検出頻度が高い傾向がみられたため、平成6年度からは暴露経路調査を開始した。
      平成9年度においても、大気について調査を実施するとともに暴露経路調査を実施した。
     
  ii )   大気からの検出範囲はnd~1.9μg/m(nd~0.46μg/m)、検出頻度は97検体中93検体(84検体中69検体)、幾何平均値は0.033μg/m(0.023μg/m)であった。地点別検出頻度は32地点中31地点(28地点中24地点)であった。
      暴露経路調査においては、大気又は室内空気からの暴露の範囲は0.052~6.8μg/人・日(nd~1.8μg/人・日)、食事試料からは平成7年度以降不検出が続いている。
      暴露量に関して地点差はあるものの、いずれの地点も大気及び室内空気由来による暴露であった。また、大気と室内空気には顕著な差はみられなかった。
      これまでの調査結果と比較すると、残留状況及び暴露状況に大きな変化は認められなかった。
     
  iii)   1,2-ジクロロプロパンについては、環境中に広範囲に残留していることから、環境汚染の状況を監視するため、今後とも引続き調査を実施していくことが必要である。
     
     
(6)
1,4-ジオキサン
  i )   1,4-ジオキサンは各種工業用溶剤として用いられている。昭和62年10月に指定化学物質に指定された。1,4-ジオキサンについては、平成元年度から調査対象とし、水質及び底質について調査を継続している。
      平成9年度においても、水質及び底質について調査を実施した。
     
  ii )   水質からの検出範囲はnd~42.8ng/ml(nd~9.02ng/ml)、検出頻度は102検体中70検体(105検体中68検体)、幾何平均値は0.28ng/ml(0.28ng/m)であり、地点別検出頻度は34地点中24地点(35地点中24地点)であった。
      底質からの検出範囲はnd~41ng/g-dry(nd~30ng/g-d)、検出頻度は105検体中4検体(108検体中5検体)、幾何平均値は1.7ng/g-dry(1.5ng/g-dry)であり、地点別検出頻度は35地点中1地点(36地点中2地点)であった。
      水質、底質ともこれまでの調査結果と比較すると、残留状況に大きな変化は認められなかった。
      これまでの調査結果と比較すると、残留状況及び暴露状況に大きな変化は認められなかった。
     
  iii)   1,4-ジオキサンについては、環境中に広範囲に残留していることから、環境汚染の状況を監視するため、今後とも引続き調査を実施して行くことが必要である。




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