１．はじめに
２．調査の概要
３．調査結果
４．調査結果の考察
    (1)ＰＣＢ及びその類似物質
    (2)ドリン類（ディルドリン）
    (3)ＤＤＴ類及びその誘導体
    (4)クロルデン類
    (5)ＨＣＨ類
    (6)塩素化ベンゼン類
    
図表一覧

１．はじめに

２．調査の概要

(1) 調査対象地点

調査対象地点は，特定地域（都市や工業地帯の周辺等）の汚染，日本列島周辺の汚染を総合的に把握出来ると期待される場所を選択し，長期的な調査対象地点として設定している。
平成８年度の調査対象地点は全国21地点で，調査対象地点と各地点における採取生物種名を図１に示す。

(2) 調査対象生物

調査対象とする生物種は，指標としての有意性，実用性を考慮するとともに国際的な比較に耐え得るものとし，また，地球的な規模での汚染レベルを把握できる種を含めて，スズキ及びムラサキイガイを中心に魚類８種，貝類２種及び鳥類２種，計12種を選定している（平成７年度の調査から，ウミネコの採取場所が八戸市蕪島に変更されている）。
平成８年度において調査対象となった各生物種の特性等を表１に示す。
また，表２には，各採取生物ごとに，分析に供した検体の概要をまとめた。

(3) 調査対象物質

調査対象物質は，過去の実績を踏まえ，検出の程度に差がなかったり，ほとんど検出されないようなものについては，毎年調査をする必要はなく，一定期間を置いて調査を実施することとしている。
平成８年度における調査対象物質は，これまでの知見からみて生物を利用したモニタリングを行うことが必要であると考えられる有機塩素系化合物及び有機スズ化合物の計29種とした。

(a)　有機塩素系化合物（27種）

(ア) ＰＣＢ及びその類似物質　　２種　ＰＣＢ，ＨＣＢ

(イ) ドリン類　　　　　　　　　　　　１種　ディルドリン

(ウ) ＤＤＴ類及びその誘導体　　６種　o,p'-ＤＤＴ，p,p'-ＤＤＴ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 o,p'-ＤＤＥ，p,p'-ＤＤＥ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 o,p'-ＤＤＤ，p,p'-ＤＤＤ

(エ) クロルデン類　　　　　　　　 ５種　trans-クロルデン，cis-クロルデン

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 trans-ノナクロル，cis-ノナクロル

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 オキシクロルデン

(オ) ＨＣＨ類　　　　　　　　　　　 ３種　α-ＨＣＨ，β-ＨＣＨ，γ-ＨＣＨ

(カ) 塩素化ベンゼン類　　　　１０種　ｏ-ＤＣＢ，ｍ-ＤＣＢ，ｐ-ＤＣＢ，

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 1,2,3-ＴｒＣＢ，1,2,4-ＴｒＣＢ，

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 1,3,5-ＴｒＣＢ，1,2,3,4-ＴeＣＢ，

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 1,2,3,5-ＴｅＣＢ，1,2,4,5-ＴｅＣＢ，

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ＰｅＣＢ

　

(b)　有機スズ化合物　　　　　　 ２種　トリブチルスズ化合物（ＴＢＴ）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 トリフェニルスズ化合物（ＴＰＴ）

(4) 分析方法の概略

(a)　分析に供した試料の概要

(ア) 各地点において採取生物１種につき５検体を調製した。なお，１個体では１検体分の必要量を採取出来ないもの（例えば，ムラサキイガイ）はさらに多数の個体をもって１検体とした。

(イ) 各個体については，次に掲げる部位を採取し，分析用検体とした。

・　魚類：筋肉の部分

・　貝類：むき身の部分

・　鳥類：胸筋の部分

(b)　分析法

有機塩素系化合物についてはＧＣ／ＥＣＤにより，有機スズ化合物については，ＧＣ／ＥＣＤ又はＧＣ／ＦＰＤにより分析を実施した。
ただし，他の成分との判別が不明のときは，ＧＣ／ＭＳにより定性及び定量を行うこととした。

(5) データ処理

試料の性状，利用可能な分析装置等が異なるため，各調査対象物質とも分析にあたっては検出限界の目標値を定めて分析を行い，結果として，その値をもって統一検出限界とした。

３．調査結果

４．調査結果の考察

(1) ＰＣＢ及びその類似物質（ＰＣＢ，ＨＣＢ）（以下かっこ内は平成７年度の値を表す）

(a)　ＰＣＢ及びＨＣＢは，難分解性等の性状を有するため昭和49年６月にＰＣＢが，また，昭和54年８月にＨＣＢが，それぞれ化学物質審査規制法に基づく第一種特定化学物質に指定されており，環境中の濃度レベルを追跡することは，種々の観点から重要と考えられる。
本調査においては，昭和53年度からＰＣＢ及びＨＣＢを調査対象物質として選定し，モニタリングを実施している。

(b)　ＰＣＢは魚類，貝類及び鳥類から検出されており，魚類及び貝類からの検出範囲は，0.01～0.45μg/g-wet（0.01～0.24μg/g-wet），検出頻度は，１００検体中５８検体（１００検体中４９検体），地点別検出頻度は２２地点中１４地点，鳥類からの検出範囲は，0.01～0.05μg/g-wet（0.14～0.67μg/g-wet），検出頻度は１０検体中６検体（１０検体中５検体），地点別検出頻度は２地点中２地点であった。
ＨＣＢは，魚類及び鳥類から検出されたが，これまで同様，貝類からは検出されなかった。魚類からの検出範囲は0.001μg/g-wet（0.001μg/g-wet），検出頻度は７０検体中５検体（７０検体中９検体），地点別検出頻度は１４地点中１地点であった。鳥類からの検出範囲は，0.001～0.002μg/g-wet（0.001～0.012μg/g-wet），検出頻度は１０検体中５検体（１０検体中６検体），地点別検出頻度は１地点中２地点であった。

(c)　ＰＣＢは，昭和47年度以降一般に使用が中止され環境中に放出されていないが，なお，延べ１６地点から検出されている。検出地点数は平成７年度に比し４地点増加となっている。なお，これらの地点では，検出限界付近の値で検出されているものである。平成８年度の調査結果は，ＰＣＢが依然としてなお広範な地点の環境中に残留していることを示している。
ＰＣＢ及びＨＣＢの２物質は，既に実質的に生産，使用が中止されていること，ＰＣＢは平成４年７月に廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく特別管理産業廃棄物に指定されていることから，汚染の進行・拡大は一般的には考えられないが，これらの物質による汚染の推移を把握していくことは重要である。また，その他の化学物質の環境中での挙動を究明するために役立つ資料を得るためにも，今後さらにモニタリングを継続し，その消長を追跡する必要がある。ただし，検出範囲及び検出頻度が低下しているＨＣＢについては，原則として一定期間を置いた調査でその消長を追跡できると考えられる。

(2) ドリン類（ディルドリン）

(a)　ディルドリンは，ドリン系の殺虫剤である。ドリン系の農薬としての使用は，昭和30年代がピークであったと言われ，昭和46年以降実質的に生産，使用が中止されたが，ディルドリンはその後も白蟻防除剤として使われていた。しかし，昭和56年10月，第一種特定化学物質に指定され，農薬としての規制と併せて，その使用が全面的に中止されることとなった。本調査においては，昭和53年度から調査対象物質として選定し，モニタリングを行っている。

(b)　魚類，貝類及び鳥類から検出されており，魚類及び貝類での検出範囲は0.001～0.071μg/g-wet（0.001～0.17μg/g-wet），検出頻度は１００検体中１９検体（１００検体中１５検体），地点別検出頻度は２０地点中６地点，鳥類からの検出範囲は0.001μg/g-wet（0.002～0.01μg/g-wet），検出頻度は１０検体中６検体（１０検体中５検体），地点別検出頻度は２地点中２地点であった。

(c)　検出地点数は平成７年度に比べて３地点から新たに検出され，１地点で未検出となった。このため，ディルドリンについては今後ともモニタリングを続けて行く必要があるが，近年の検出頻度の傾向としては，低下傾向にあると考えられるので，今後は原則として一定期間を置いた調査でその傾向を把握していくことが可能と考えられる。

(3) ＤＤＴ類及びその誘導体

(a)　ＤＤＴは，ＨＣＨやドリン類と共に多用された殺虫剤である。農薬としての使用は，昭和46年以降中止されている。また，昭和56年10月には，ドリン類と併せて第一種特定化学物質に指定された。ＤＤＴにはベンゼン環に置換している塩素の位置によっていくつかの異性体があるが，本調査においては，ＤＤＴの有効成分であるp,p′-ＤＤＴのほか，o,p′-ＤＤＴを，また，ＤＤＴの環境中での分解産物であるo,p′-ＤＤＤ，p,p′-ＤＤＤ，o,p′-ＤＤＥ，p,p′-ＤＤＥの４種の誘導体も含めて，昭和53年度から調査対象物質として選定し，モニタリングを実施している。

(b)　魚類，貝類及び鳥類において，ＤＤＴ，ＤＤＥ及びＤＤＤについてそれぞれ異性体のp,p′体とo,p′体との検出頻度を比べると，ＤＤＴでは１１０検体中３８検体に対し１１０検体中９検体，ＤＤＥでは１１０検体中７９検体に対し１１０検体中６検体，ＤＤＤでは１１０検体中４８検体に対し１１０検体中１０検体であり，全般的にp,p′体が高い結果であった。このうち検出頻度の高かったp,p′体についてみると，p,p′-ＤＤＴは魚類のみから検出されており，検出範囲は0.001～0.035μg/g-wet(0.001～0.044μg/g-wet），検出頻度は７０検体中３８検体（７０検体中３３検体），地点別検出頻度は１４地点中１０地点であった。一方，p,p′-ＤＤＥ及びp,p′-ＤＤＤは，いずれも魚類，貝類及び鳥類から検出されており，それぞれ，魚類及び貝類からの検出範囲は0.001～0.094μg/g-wet（0.001～0.02μg/g-wet）及び0.001～0.027μg/g-wet（0.001～0.014μg/g-wet），検出頻度は１００検体中６９検体（１００検体中７８検体）及び１００検体中４５検体（１００検体中３６検体），地点別検出頻度は２０地点中１５地点及び２０地点中１１地点であった。また，鳥類からの検出範囲は0.013～0.108μg/g-wet（0.051～0.7μg/g-wet）及び0.002μg/g-wet（0.001～0.002μg/g-wet），検出頻度は１０検体中１０検体（１０検体中１０検体）及び１０検体中３検体（１０検体中４検体），地点別検出頻度は２地点中２地点及び２地点中１地点であった。

(c)　各異性体及び誘導体の検出範囲はこれまでと比べ大きな差異はなかったが，これまでと同様に鳥類からのp,p′-ＤＤＥは他のＤＤＴ類からの検出値に比べて高い濃度で検出された。また，平成７年度の調査において検出頻度が倍増した魚類でのp,p'-ＤＤＴについては，低濃度ながら，平成８年度においても増大した。
ＤＤＴ類は，低いレベルながら広範囲に環境中に残留していることから，今後ともモニタリングを続けていく必要がある。ただし，近年，検出頻度が低下してきているo,p'体については，原則として一定期間を置いた調査でその消長を把握することができると考えられる。

(4) クロルデン類

(a)　クロルデン類は，昭和57年度に実施された精密環境調査の結果，広範囲にわたる地点の底質及び魚類から検出されたため，昭和58年度から新たに調査対象物質として加えられたものである。我が国においては，白蟻防除用，木材（一次加工）用及び合板用に用いられてきたが，難分解性等の性状を有するため，昭和61年９月，第一種特定化学物質に指定された。工業的に生産されたクロルデン類の組成は多岐にわたるが，本調査では，クロルデン類８物質を調査対象物質とした昭和57年度精密環境調査において特に検出頻度が高かった５物質を調査対象物質として選定している。

(b)　trans-クロルデン及びcis-クロルデンは魚類及び貝類から，その他のクロルデン３物質は，魚類，貝類及び鳥類から検出された。魚類におけるこれらクロルデン類の物質別の検出範囲は，0.001～0.033μg/g-wet（0.001～0.015μg/g-wet），クロルデン類全体としては0.001～0.086μg/g-wet（0.001～0.029μg/g-wet）であった。貝類についてみると物質別の検出範囲は0.001～0.025μg/g-wet（0.001～0.041μg/g-wet），クロルデン類全体では0.001～0.037μg/g-wet（0.006～0.061μg/g-wet）であった。鳥類においては，物質別検出範囲は0.001～0.003μg/g-wet（0.003～0.022μg/g-wet），クロルデン類全体では0.003～0.006μg/g-wet（0.012～0.036μg/g-wet）であった。魚類及び貝類におけるこれらクロルデン類の物質別の検出頻度は依然として高く，魚類で７０検体中１１検体～７０検体中４２検体（７０検体中３検体～７０検体中５０検体），地点別検出頻度は１４地点中１１地点，貝類で３０検体中５検体～３０検体中２０検体（３０検体中５検体～３０検体中２０検体），地点別検出頻度は６地点中４地点であった。また，鳥類でもtrans-ノナクロル，cis-ノナクロル及びオキシクロルデンでそれぞれ１０検体中５検体（１０検体中５検体），１０検体中４検体（１０検体中４検体）及び１０検体中５検体（１０検体中５検体），地点別検出頻度は，いずれの物質についても，２地点中１地点と比較的高頻度で検出された。

(c)　クロルデン類は，難分解性等の性状を有し，これまで多量に使用されてきており，また，検出頻度も高いことから，今後とも環境中における残留状況を注意深く追跡していく必要がある。

(5) ＨＣＨ類（α-ＨＣＨ，β-ＨＣＨ，γ-ＨＣＨ）

(a)　ＨＣＨ類は過去に農薬として使用されていたが，昭和46年以降使用が中止されている。
ＨＣＨ類には多くの異性体が存在するが，本調査においてはα，β，γ，δの４種の異性体を調査対象物質として選定し，昭和53年度からモニタリングを行っている。平成７年度は，α，β，γの３種の異性体を対象にモニタリングを実施した。

(b)　α-ＨＣＨ及びβ-ＨＣＨは魚類及び鳥類から検出された。γ-ＨＣＨはいずれの生物種からも検出されなかった。
α-ＨＣＨの魚類及び鳥類からの検出範囲は，それぞれ，0.001μg/g-wet（0.001～0.002μg/g-wet）及び0.001～0.002μg/g-wet（0.002～0.003μg/g-wet），検出頻度は，それぞれ，７０検体中４検体（７０検体中８検体）及び１０検体中２検体（１０検体中２検体），地点別検出頻度は１４地点中１地点及び２地点中１地点であった。
β-ＨＣＨの魚類及び鳥類からの検出範囲は，それぞれ，0.001～0.007μg/g-wet（0.002～0.007μg/g-wet），0.003～0.009μg/g-wet（0.003～0.011μg/g-wet），検出頻度は，それぞれ，７０検体中１２検体（７０検体中１０検体）及び１０検体中１０検体（１０検体中１０検体），地点別検出頻度は１４地点中３地点及び２地点中２地点であった。

(c)　γ体以外のＨＣＨ異性体は残留性の高い物質といわれており，全地球的な汚染監視の観点からも，調査を継続することにより，環境中における消長を確認することは意義があると考えられる。ただし，ＨＣＨ類は，近年，検出頻度が低下傾向にあるとみられるため，今後は原則として一定期間を置いた調査でその消長を把握することができると考えられる。

(6) 塩素化ベンゼン類（かっこ内は平成６年度の値）

(a)　塩素化ベンゼン類では，ＰＣＢ類似物質としてＨＣＢを昭和５３年度から調査対象となっていたが，昭和５５年度からは新たに塩素が２～５個置換した一連の塩素化ベンゼン類を対象に加えて，隔年でモニタリングを行っている。塩素化ベンゼン類には，塩素置換位置による異性体（塩素数２，３，４につき各３）が存在するため，計１０種について調査した。

(b)　ｐ-ジクロロベンゼン及び1,2,4-トリクロロベンゼンが魚類から検出され，その検出範囲は，それぞれ，0.001μg/g-wet(0.10～0.19μg/g-wet）及び0.001～0.002μg/g-wet（nd）であった。検出頻度は，それぞれ，７０検体中２検体（７０検体中５検体）及び７０検体中５検体（７０検体中０検体），地点別検出頻度は１４地点中１地点及び１４地点中２地点であった。また，1,2,3-トリクロロベンゼン及び1,2,4-トリクロロベンゼンが貝類から検出され，その検出範囲は，それぞれ，0.001μg/g-wet（0.002～0.003μg/g-wet）及び0.003～0.004μg/g-wet（0.004～0.006μg/g-wet）であった。検出頻度は，それぞれ，３０検体中５検体（３０検体中５検体）及び３０検体中５検体（３０検体中５検体），地点別検出頻度は６地点中１地点及び６地点中１地点であった。なお，鳥類からはいずれの物質も検出されなかった（平成６年度の調査においても同じ）。

(c)　塩素化ベンゼン類は，殺虫剤，トランス油等広範囲な用途に用いられており，全国的な規模でモニタリングを行い，その環境中の消長を把握することは意義があると考えられるので，今後も引き続き，隔年でモニタリングを行う必要があると考えられる。