保健・化学物質対策

「最近の化学物質の内分泌かく乱作用問題("環境ホルモン問題")報道について」

ExTEND2005 基盤的研究企画評価検討会委員
(社)日本化学工業協会
常務理事  小倉 正敏
(2006年8月3日 掲載)

 先日( 6 月 28 日)に NHK で放送された「ためしてガッテン」の「★ ?にお答えします 環境ホルモン」を見て驚きました。ご存知の通り、この番組は、自ら検証し、その科学的理由と合わせて説明するまじめな制作姿勢が評価され、視聴率も高く、 NHK の人気長寿番組の一つとなっています。
 ところが、先日の放送は、「環境ホルモン」問題の科学的な解明に向けて多くの取り組みが行われている中で、ある一部の研究成果のみを紹介し、結果として市民(視聴者)の不安を煽るのが目的ともとれるような内容となっており、マスメデイア、まして公共放送としてバランスの取れた番組といえるのか疑問のもたれるものでした。
 早速、当協会として、 NHK に対し、番組内容の問題点を指摘し、今後の番組制作においては、入手した情報を十分に吟味し、一方的な見解に偏することなく、科学的に立証されているものとそうでないものを、視聴者が公正に判断できるように提供することなどを求めて、別紙の文書(一部個人名を削除してあります)を発送いたしました。

 さて、改めてご説明するまでもありませんが、「化学物質の内分泌かく乱作用問題」が、 新たな化学製品の安全性に関する問題として多くの人々に知られるようになったのは、 1998 年頃でした。 その 契機となったのは、前年の 1997 年に出版された「奪われし未来 ( 邦語訳 ) 」と、その翌年に当時の環境庁がこの問題への対応方針として発表した " SPEED98 "であり、マスメディアの報道を通し広く市民社会に行き渡った"環境ホルモン"という俗称は、この年の流行語大賞に選ばれるほどでした。

 これに対し日本化学工業協会を中心に関連する製品の業界団体は、 " お客様に安心して使用していただける製品を提供する " との理念のもとに、これまで次のような取り組みを実施してきました。

  • わかっていること、わかっていないことを整理した情報の発信、
  • 内分泌かく乱作用を有すると疑われた製品(物質)については、
    • 既に実施していた安全性評価結果の発信
    • 必要な安全性の評価と、その結果の公表
  • 内分泌かく乱作用に関する研究の推進、など

 そして、これらの活動を通し科学的な評価に耐えうる十分な試験を行うなど、データの蓄積につとめ、お客様に製品をお使いいただく上で新たな危険性はないことを再確認することができました。

 また、化学産業界は、環境省、厚生労働省、経済産業省などで行われた研究の成果とも併せ、『緊急に「使用禁止」などの追加処置を必要とするものは、見つかっていない』 (厚生労働省)との判断を支持しており、内分泌かく乱作用問題によって、現段階において緊急の規制的措置や代替化などの対策を必要とする物質はない、一方、その作用メカニズムなど、解明されていない点も多く残されており、今後とも国内外の研究者によって科学的な研究が着実に進められることが必要だと認識しています。

 加えて、(社)日本化学工業協会は、従来からICCA(国際化学工業協会協議会)の長期自主研究活動(LRI)に参加し、内分泌かく乱作用に関する基礎的な研究を進めており、その成果も蓄積されてきているところです。 NHKが最初に「環境ホルモン」の報道をしてから約10年、数多くの人々により種々の研究や議論がなされてきました。今回の放送は、この間の関係者の取り組みと努力を総括し、今後の方針を示すには良い機会でありましたが、残念ながらテレビ番組という時間の制約の中で、編集の限界を示していたようにも思われます。

 当協会は、今後とも、「合成化学物質は悪い」という偏見によらない、冷静で科学的な多くの研究が進められることを期待しています。そして、新たに得られる知見に基づいて、必要に応じ種々の対応を図っていきたいと思います。

<別紙>