保健・化学物質対策

日米二国間協力事業でのOECDテストガイドライン化に向けた取組

(財)化学物質評価研究機構
安全性評価技術研究所
江藤 千純
(2010年3月24日 掲載)

 平成16年1月に三田共用会議所で環境保護に関する第12回日米合同企画調整委員会が開催され、内分泌かく乱化学物質に関わる共同研究の実施、国連環境計画で進められている水銀の国際的な規制等の化学物質対策や規制に関して協議が行なわれました。そして、この委員会で、化学物質の内分泌かく乱作用問題に関する取組みを日米二国間で協力して進めることが合意されています。

 この合意によって、化学物質の内分泌かく乱作用に関する日米二国間実務者会議(以下、実務者会議)が開催されることとなりました。平成16年9月には東京で第1回実務者会議、平成17年6月にはハワイで第2回実務者会議が開催されました。この2回の実務者会議は、化学物質の内分泌かく乱作用による生態影響評価に関する情報交換を行うことを目的として、日米で実施されている内分泌かく乱化学物質に関する研究、その成果などが報告されました。

 平成18年11月に釧路市で開催した第3回実務者会議以降は、生態影響評価に関する情報交換に加えて、魚類、両生類、無脊椎動物を用いて化学物質が繁殖に及ぼす影響を評価するための試験法の開発を共同で進めています。また、内分泌かく乱作用に関る試験法開発の共通課題を明らかにして、技術的な協力を日米で進めることが日米二国間協力事業の主課題となっています。

 OECDでは、内分泌かく乱化学物質に関わる評価及び試験法の整備をレベルIからVまでの5段階のスキームで進めることが合意されています。レベルI、IIでは、文献や非動物(in vitro)試験の情報により、内分泌かく乱作用があるのかないのかがスクリーニングされます。レベルIII以上では、生物を用いたin vivo試験が推奨されており、内分泌かく乱作用の影響を検出できるか、エンドポイントの数等でレベルが決められています。環境省で開発して来ているメダカフルライフサイクル試験、両生類ライフサイクル試験はレベルVに位置づけられています。また、生物を用いたin vivo試験には、テストガイドラインとして整備されていな試験も含まれていますが、魚類21日間スクリーニングアッセイ(TG230)や両生類変態アッセイ(TG231)が新たなテストガイドラインとして昨年9月に加えられています。このように、各国においても試験法の開発などが進められていることから、5段階スキームの見直し、これから開発が必要とされる試験法などについて各国で意見交換を行うために、今年5月にコペンハーゲンでOECDワークショップが開催されます。

 このような状況の中で、実務者会議における魚類試験法の開発では、米国がこれまで進めてきているメダカ2世代繁殖試験法の開発を日米共同で行ない、メダカフルライフサイクル試験と比較することを行なっています。また、共同で開発する試験法をテストガイドラインとして承認されるように、これら試験プロトコールの検証と標準化及び統合化を検討しているところです。昨年4月にはOECD WNT会合(Meetings of the Working Group of National Coordinators)に"メダカを用いたフルライフサイクル試験/多世代試験"に関するSPSF(Standard Project Submission Form):Medaka Life Cycle (MLC)/Multi-generation Test (MMT)を日米共同で提案し、これら試験のテストガイドラインの整備を進めるようOECDに提言を行ない承認されています。今後は、試験プロトコールの標準化、統合化に必要な情報を取得するため日米共同で試験を実施していくとともに、化学物質が魚類の繁殖に及ぼす影響を評価するエンドポイントに関わる詳細な情報を取得し、試験法の妥当性や再現性などを検証するため共同研究が進められる予定です。

 両生類試験法の開発では、ニシツメガエルを用いて化学物質が繁殖に及ぼす影響を評価する試験法とエンドポイントに関する共同研究が行なわれています。これまでの研究により、ニシツメガエルの変態完了(ステージ66)までの化学物質のばく露において、生殖腺の変化や雄にビテロジェニンが誘導されることが見出されており、これらをエンドポイントとするライフサイクル試験プロトコールの標準化が日米共同で進められているところです。昨年4月に、両生類発達生殖試験:Amphibian Growth, Development and Reproduction Assayの整備を開始するよう、日米共同でOECD WNTにSPSFを提案して承認されています。今後は、試験法のテストガイドライン化に向けた取組として、試験プロトコールの精緻化を日米共同で進めていくとともに、日米の試験機関で同じ化学物質を用いて試験法の妥当性や再現性を確認する検証試験が開始される予定となっています。

 無脊椎動物試験法の開発では、日本はオオミジンコを用いた多世代繁殖試験の検討を行ってきており、米国が実施しているケンミジンコ、アミを用いた多世代繁殖試験とオオミジンコ多世代繁殖試験との比較が進められています。また、オオミジンコ、ケンミジンコ、アミを用いた試験で、産仔数など、繁殖への影響を評価するエンドポイントの種間差の比較等の共同研究を継続するとともに、日米の試験機関で同じ化学物質を用いて多世代繁殖試験プロトコールの妥当性や再現性を確認することが進められています。今後は、ライフサイクルが短いセリオダフニア(ニセネコゼミジンコ)を用いて多世代繁殖試験法の開発も進められる予定です。

 生態影響評価に関わるOECDテストガイドラインは、平成22年3月現在で23試験が整備されています。しかしながら、殆どの試験が生死や成長への影響をエンドポイントとする試験であり、繁殖への影響を評価する試験は鳥類繁殖試験(TG206)とミジンコ類繁殖試験(TG211)の2試験でした。そのような中で、昨年9月に、魚類短期繁殖試験(TG229)が魚類の繁殖への影響を評価する試験法として初めてテストガイドラインに追加されています。

 繁殖、生死、成長は、化学物質が生物個体(群)に及ぼす影響を評価するための重要なエンドポイントです。有害な化学物質を2020年までに削減することは国際的な取組みでもあります。そして、化学物質の生態影響、次世代にわたる繁殖への影響などを評価するために日米で開発しているライフサイクル試験は各国においても有用と考えられています。他方、ライフサイクル試験は多くの生物を使用すること、試験期間が長期であり高い試験コストを要するなど、動物愛護の観点や試験法の汎用性等の面で問題も少なくありません。生態に悪影響を及ぼす化学物質のリスクを評価するために必要なライフサイクル試験を開発するとともに、今後、各国の化学物質対策や規制の動向を見ながらこのような課題に取組んでいくことが、日米二国間協力事業では、これまで以上に重要になってくると考えています。