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環境省保健・化学物質対策科学的知見の充実及び環境リスク評価の推進化学物質の内分泌かく乱作用に関するホームページ内分泌かく乱作用とは >詳細編:内分泌とは何か ~魚類の内分泌系~

このサイトで使用する用語の解説

内分泌かく乱作用 endocrine disruption
生体の複雑な機能調節のために重要な役割を果たしている内分泌系の働きに影響を与え、生体に障害や有害な影響を引き起こすことです。
内分泌かく乱(化学)物質 endocrine disruptor
内分泌かく乱作用をもつ化学物質のことです。日本政府の見解では「内分泌系に影響を及ぼすことにより、生体に障害や有害な影響を引き起こす外因性の化学物質」とされています。
世界保健機関/国際化学物質安全性計画(WHO/IPCS)の見解では「内分泌かく乱化学物質とは、無処置の生物やその子孫や(部分)個体群の内分泌系の機能を変化させ、その結果として健康に有害な影響を生ずる単一の外因性物質または混合物である」とされています。
環境ホルモン environmental hormone
科学的名称内分泌かく乱化学物質の通称として環境ホルモンという語が使われることがあります。環境中に存在してホルモン様の作用を示すものという意味です。
化学物質
このサイトにおいて化学物質という語は、chemical(非意図的生成物を含む人工の化学物質)のみを指すわけではなく、英語におけるsubstance(物質)の意味で用いられます。
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アンケート

「内分泌かく乱作用とは」

内分泌かく乱作用とは
詳細編

「詳細編」

内分泌とは何か ~魚類の内分泌系~

 魚類の内分泌系は、基本的に他の脊椎動物の内分泌系と同様であるが、内分泌器官(内分泌腺)の種類によっては、魚類に特有な構造から、他の脊椎動物と異なる名称で呼ばれるものもある。図6-6は魚類の内分泌器官を示している。それらは、脳の視床下部、下垂体、松果体、間腎腺(哺乳類では副腎皮質)、クロム親和細胞群(哺乳類では副腎髄質)、甲状腺、胃腸、膵臓のランゲルハンス島、生殖腺(精巣と卵巣)、鰓後腺(さいこうせん)(哺乳類では甲状腺旁濾胞細胞)、スタニウス小体および尾部下垂体である。これらの内分泌器官のうち、スタニウス小体および尾部下垂体は硬骨魚にのみ存在する内分泌器官である。また副甲状腺は両生類以上の脊椎動物に存在し、魚類には存在しない。近年の分析化学の発展により、哺乳類で同定されたホルモンが魚類においてもその存在が確認されているが、まだそれらの生理作用については未解明なものが多いのが現状である。また魚類には多様な種分化がみられ、ある魚種でのホルモンの生理作用が、他の魚種ではみられないこともある。次に生殖関連ホルモンを対象にその主要な内分泌器官である視床下部、下垂体、生殖腺について概説する。

視床下部

 水温や光周期などの環境情報は感覚器官で受容された後、脳の視床下部で統合され、神経情報(神経ホルモン、神経伝達物質)として下垂体へと伝えられる。下垂体ではこれらの情報を液性情報(下垂体ホルモン)に変換し、生殖腺へと伝える。視床下部では下垂体における生殖腺刺激ホルモン(gonadotropin, GTH)の合成・放出を促進する生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin-releasing hormone, GnRH)が合成される。GnRHは脳内の神経細胞でつくられるアミノ酸10残基のペプチドホルモンで、いくつかの分子種が同定されており、どの分子種をもつかは魚種により異なる。GnRHは下垂体におけるGTH放出の促進因子であるが、魚種によっては生体アミン系ホルモンのドーパミンがGTH放出を抑制的に調節している。

下垂体

 下垂体で産生されるGTHは分子量約3万の糖タンパク質ホルモンで、濾胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone, FSH)と黄体形成ホルモン(luteinizing hormone, LH)の2種類がある。従来魚類ではLH様のGTHが1種類のみ存在し、生殖腺の発達を調節していると考えられてきたが、近年魚類においてもFSHが同定され、他の脊椎動物同様魚類においても2種類のGTHが存在することが明らかとなった。ただし、魚類におけるFSHの作用についてはまだ不明な点が多い。下垂体におけるGTHの合成・放出は視床下部からのGnRHやドーパミン、生殖腺からの性ホルモンによる調節を受ける。

生殖腺

 生殖腺では生殖細胞がつくられるだけでなく、性ホルモンをはじめとして種々のホルモンがつくられる。性ホルモンはコレステロールを前駆体として合成されるステロイドホルモンで、哺乳類では生殖腺でつくられる性ホルモンを雌性ホルモンと雄性ホルモン(アンドロゲン)に分け、さらに雌性ホルモンを発情ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲスチン)に分類している。魚類においても同様の性ホルモンが合成されるが ( 図 7-11) 、その生理作用は必ずしも哺乳類とは一致しない。魚類の卵巣で作られるエストロゲンの代表的なものは 17 b - エストラジオール (E2 ) で、このホルモンは他の卵生脊椎動物同様、雌の肝臓に作用して卵黄タンパク質前駆体であるビテロゲニンの合成を促進する。通常雄の精巣では少量のエストロゲンしかつくられないため、雄ではビトロゲニンはほとんど検出されないが、雄においても外部からエストロゲンを投与すると肝臓に作用してビテロゲニンが合成される。近年、この性質を利用して魚類の血中ビテロゲニンは環境中の内分泌撹乱化学物質のエストロゲン作用を調べる指標として活用されている。また、プロゲスチンとしては 17,20β - ジヒドロキシ -4- プレグネ -3- オン (17,20β -P) 、 17,20β , 21- トリヒドロキシ -4- プレグネ -3- オン (20β -S) などが卵成熟誘起を行い、これらのプロゲスチンは卵成熟誘起ステロイド (maturation-inducing steroid, MIS) と呼ばれている。この他に卵巣ではエイコサノイド系ホルモン(アラキドン酸系ホルモン)であるプロスタグランジン (PG) が産生され、排卵が誘起される。一方、魚類の精巣ではテストステロン、 11- ケトテストステロン (11-KT) などのアンドロゲンが産生され、精子形成、二次性徴の発達、性行動の発現などを促進する ( 図 7-13) 。 11-KT は魚類特有のアンドロゲンで、魚に投与すると多くの作用において、テストステロンより強い活性を示す。また、精子形成の初期にはエストロゲンである E2 およびペプチドホルモンであるアクチビン B がつくられ精子形成を促進している。さらに、精巣では 17,20β -P および 20β -S などのプロゲスチンが産生され、排精、精子の運動能獲得(精子成熟)を誘起している。

 サケ科魚類、ウナギなどの魚類において生殖腺におけるこれらの性ホルモンの産生部位が明らかにされている。卵黄形成期の卵巣では、卵巣濾胞莢膜細胞層内のステロイド産生細胞において、コレステロールがテストステロンまで変換され、テストステロンは顆粒膜細胞内で芳香化酵素により E2 に変換される ( 図 7-12) 。その後、成熟期の卵巣では莢膜細胞で 17α - ヒドロキシプロゲステロンあるいは 11- デオキシコルチゾルが合成され、顆粒膜細胞内の 20β - 水酸基脱水素酵素 (20β -HSD) により、それぞれ 17,20β -P および 20β -S へと変換される。

 精巣においては、 11-KT は主としてライディッヒ細胞で合成されるが、 17,20β -P および 20β -S は、その前駆体がライディッヒ細胞で合成され、精子がもつ 20β -HSD の作用により 17,20β -P および 20β - S に変換される ( 図 7-13) 。また最近精巣でのアクチビン B や E2 が合成されることが明らかとなった。アクチビン B はセルトリ細胞で産生されることが明らかになったが、精巣内における E2 合成機構、セルトリ細胞における E2 の作用など、まだ不明な点が多い。

会田勝美編「魚類生理学の基礎」恒星社恒星閣(2002)より抜粋引用