ダイオキシンリスク評価検討会の中間報告の概要(第4章)  
第4章 ダイオキシン類のリスク評価のまとめ

1 毒性評価

2 暴露評価

3 リスク評価のまとめ



1 毒性評価

1-1 毒性等の総括

 動物実験の結果から、ダイオキシン類は、急性毒性、慢性毒性、発がん性、生殖毒性、催奇形性、免疫毒性等多岐にわたる毒性を有している。これらの毒性の全ては単一の動物種で認められるものではなく、生物種、系統、年齢、性別等により異なっている。
 人の疫学調査の結果からは、ダイオキシン類は、クロロアクネを除いては人の健康影響に関する明確な結論は得られておらず、発がん性、生殖毒性及びその他の健康影響の有無に関しても明確な結論は得られていない。なお、発がん性についてはWHO国際がん研究機関(IARC)は2B(人に対して発がんの可能性のある物質)と評価している。
 現時点から得られるデータによるとダイオキシン類の変異原性試験等は陰性で遺伝毒性(DNAの直接損傷)はないものと考えられ、また、毒性の発現にはAh受容体が関与していると考えられていることなどから、当検討会としては、ダイオキシン類の発がん機構には閾値があるものとして評価することが妥当であると考える。


1-1-1 動物実験結果について

 本検討会のダイオキシン類のリスク評価において、ダイオキシン類に係る異なる動物種における各種の実験結果をレビューした結果、最も低いレベルで影響が観察されるものとして、以下の4種類の実験結果を選択し、それらを検討の対象とした。その他の動物実験結果においては、催奇形性や免疫毒性等の影響はより高いレベルで観察されている。
 3種類の動物実験で同じNOAEL又はLOAELが得られている。
 このうち、Tothのスイス系マウスを用いた1年間の経口投与試験では、雄にアミロイドーシスと皮膚炎が観察されており、最低投与量の7 ng/kg/週(1ng/kg/dayに相当)がLOAELと見なされている。当検討会では本試験におけるマウスのアミロイドーシスと皮膚炎が、人の健康影響において持つ意義が不明であること等の指摘があった。なお、本試験については、ダイオキシン類の摂取に係る基準の根拠として採用している国はない。
 KocibaのSDラットを用いた長期投与試験(混餌試料・105週)については、ダイオキシン類摂取に係る基準値を設定している全ての国でその根拠に使用されているが、NTP(米国毒性試験計画)がOMラットを用いた長期投与試験(強制・104週)を実施し、同様の結果(70〜100ng/kg//dayで肝臓がん発生)が得られていること、また、明確な量反応関係が見られること、対照群からの肝臓がんの発生がほとんどみられず特異性が高いこと等から、当検討会においては十分に信頼性が高いものと判断した。
 MurrayのSDラットを用いた3世代繁殖試験の結果によると、100ng/kg/dayでは受胎率が著しく低下し、10ng/kg/dayでは子宮内死亡、生後の体重の増加抑制などの生殖毒性が見られている。F1世代及びF2世代では、10ng/kg/dayで影響が見られている。これらの結果より1ng/kg/dayをNOAELとしている。なお、この値は、ダイオキシン類摂取に係る基準値の設定の根拠としていくつかの国が採用している。
 Rierのアカゲザルを用いた生殖毒性試験の結果によると、対照群及び5ng/kg(投与量126pg/kg/dayに相当)、25ng/kg含有飼料(投与量630pg/kg/dayに相当)で飼育したアカゲザルに子宮内膜症がそれぞれ33%、71%、86%に見られている。重篤度で分類すると中程度以上の子宮内膜症は対照群では見られなかったのに対し、5ng/kg、25ng/kg投与群でそれぞれ43%、71%で対照群より有意に高いという結果が得られている。これらの結果より126(100〜180)pg/kg/dayをLOAELとしており、最も低いレベルで影響が生じている。
 一方、この結果を支える試験として以下のような一連のアカゲザルを用いたデータもある。 Allenらは、50ng/kg含有の飼料(投与量1260pg/kg/dayに相当)で雌が7ヶ月飼育された時、8匹中2匹は妊娠せず、妊娠した6匹のうち4匹が流産し、出産した2匹のうち1匹は未熟で、1匹のみが正常出産であったという報告を行っている。
 また、Bowmanらは、5ng/kg含有の飼料(投与量126pg/kg/dayに相当)では対照群と有意な差は出されていないが、25ng/kg含有の飼料(投与量630pg/kg/dayに相当)で7ヶ月飼育したとき、8匹のうち3匹は妊娠せず、妊娠した5匹のうち3匹が流産し、1匹が妊娠中に死亡し、1匹のみが正常出産であったと報告している。
 Rierの実験で観察された子宮内膜症は流産や不妊の原因の一つであり、これらの2つのアカゲザルの研究のエンドポイントと関連しており、Rierの結果を支える重要なデータであるということで検討委員会の意見が一致した。
 また、Rierの実験は、量−反応関係も見られており、ダイオキシン類の半減期の長さや体内負荷量が最も人に近い動物種である霊長類で実施されたものであり、無視できないものであると当検討会は判断した。
 しかし、Rierの実験には、追試などこれを裏付ける結果がこれまでのところ得られていないこと、対照群からも子宮内膜症の発生が高率に見られること等からこれを人における健康影響の評価に直接用いることについては若干の問題もあることが当検討会で指摘された。


1-1-2 疫学調査結果について

 ダイオキシン類の人への健康影響としてクロロアクネ等の発症が注目されている。また、ダイオキシン類の疫学データに関しては、職業暴露者や事故の被災者及びベトナム戦争の枯葉剤作戦の退役軍人に関する各種の疫学調査がなされている。
 人におけるフラン類の中毒の記録としては、日本の油症や台湾の油症がある。台湾の油症では、胎盤又は母乳を介して暴露を受けた児に筋骨格系の発育の遅れ、性的発育の遅れなどの発達遅滞やIQの低下、その他免疫系への影響を示唆するデータが得られているが、症例数が少なく、評価が定まっていない。


1-2 健康リスク評価指針値の設定

1-2-1 健康リスク評価指針値の設定の考え方

 当検討会としては、ダイオキシン類の人への暴露が環境汚染に起因するものであり、健康影響の未然防止のためには環境汚染の低減が必要との判断から、ダイオキシン類に係る環境保全対策を講ずるに当たっての目安となる値として健康リスク評価指針値を設定することとした。この値は人の健康を維持するための許容限度としてではなく、より積極的に維持されることが望ましい水準として人の暴露量を評価するために用いる値である。


1-2-2 健康リスク評価指針値の設定

 当検討会においては、以上の点を考慮し、まず、Kocibaのデータに基づいて健康リスク評価指針値の設定について検討することが妥当と判断した。なお、人の疫学データに基づき健康リスク評価指針値を算出することは現時点では適当でないと判断した。しかしながら、疫学調査は今後も続けられるものもあり、将来的にこれらの結果についても注視していくべきであると考えている。
 Kocibaの結果を用いると、10 pg/kg/dayが算出される。この値は、ダイオキシン類の発がん性を閾値のあるものと判断して、Kocibaのデータ(又はMurrayのデータ)により算出している諸国の値とほぼ同じであり、厚生省研究班も許容限度としてのTDIとしてこの値を採用している。
 本検討会のリスク評価では、健康リスク評価指針値の趣旨に鑑みて、その設定に当たっては、エンドポイントをがんの発生にとどまらず、それに関連する影響の発生や健康からの偏りの状況にも着目することが適当と判断した。
 このような観点から見ると、Rierのアカゲザルの子宮内膜症のデータは、量−反応関係がみられており、また、子宮内膜症の発症メカニズムは必ずしも明らかになってはいないもののホルモン作用や免疫作用の関与が想定されており、その発生にAh受容体の関与が示唆されていることから、当検討会においては、本試験結果についても健康リスク評価指針値の設定に当たって考慮する必要があるということで意見が一致した。
 しかしながら当検討会としては、Rierの実験については、前述のように問題が残っていることなどから、この実験データに基づき直接に健康リスク評価指針値を算出することについては、論議の余地が残ると判断した。しかし一方、前述の理由からRierの実験を無視することは適当ではなく、健康リスク評価指針値の設定にあたって一定の評価を与えるべき実験であるとの判断に立ち、Kocibaの実験データで得られた値(10 pg/kg/day)に、更に2倍の安全を見込み、健康リスク評価指針値として5 pg/kg/dayとすることが適当とした。
 当検討会としては、現在までのところ健康リスク評価指針値を5 pg/kg/dayより低い値に設定する必要があると判断できる明確な科学的データが得られていないと考えている。したがって現時点ではこの値をもって健康リスク評価指針値とすべきと考える。しかし、これらの知見以外に、より低投与量の実験において何らかの健康リスクの可能性を示唆する報告もある。
 したがって今後とも、一層のリスク削減の努力を進めるとともに科学的知見の集積に努めるべきであると考える。

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2 暴露評価

 ダイオキシン類のリスク評価を行うため、我が国における暴露の全体的な状況を把握する目的で以下のような推定を行った。


2-1 我が国における一般的な生活環境からの暴露状況の推定

 我が国における一般的な生活環境を想定して、平均的な暴露状況の推定を行った。この結果、その暴露量は、0.3〜3.5pg/kg/dayと推定された。ただし、個人の実際の暴露量は、地域や食生活等の条件の違いにより相当の幅を持っているものと考えられる。


2-2 我が国における一般的な生活環境から偏りのある環境における暴露状況の推定

 我が国でのダイオキシン類の汚染状況において、2-1における平均的な暴露レベルからどの位の幅を生じる可能性があるかを推定するため、一般的な生活環境から偏りのある環境を事例的に想定し、以下の推定を行った。
  1. 我が国の食生活の特徴を踏まえて、魚からの摂取が大きい場合を想定してその暴露状況の推定を行ったところ、その結果は、3.6 (1.9〜5.3) pg/kg/dayであった。
  2. また、我が国におけるダイオキシン類の主要な発生源の一つと考えられるごみ焼却施設の周辺環境において暴露状況の推定を行ったところ、その結果は、1.8〜5.1 pg/kg/dayであった。
 1.及び2.の結果から、我が国における現在のダイオキシン類による汚染状況においては、平均的な暴露レベルより高い暴露を受ける条件においては5 pg/kg/day程度の暴露があり得ることが推察された。
 また、1.及び2.のいずれの場合においても、ダイオキシン類による様々な暴露の形態がある中で、事例的に一定の条件を仮定した際の推定を行ったものであり、2-1と同様に、個人の実際の暴露量は地域や食生活等の条件の違いにより相当の幅を持っているものと考えられる。
 なお、2-1及び2-2の暴露評価全体について、暴露評価に必要な一般環境、食物等に含まれるダイオキシン類のデータが必ずしも十分な状況ではない中での推定であり、今後のデータの蓄積が必要である。

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3 リスク評価のまとめ

 以上の結果を踏まえると、我が国におけるダイオキシン類に係るリスク評価は以下のようにまとめることができる。


3-1 我が国における一般的な生活環境での暴露の状況を想定した場合においては、暴露量の推定値が健康リスク評価指針値を下回っていることから、現時点で人の健康に影響を及ぼしている可能性は小さいと考えられるが、現在の暴露レベルは評価指針値に比べて十分低いとは言えない状況にあるので、長期的により高い安全性を確保する観点から、今後、ダイオキシン類の環境中濃度の低減を図ることが望ましいと考えられる。


3-2 現在のダイオキシン類による汚染状況の中で、一般的な生活環境での平均的な暴露に比べて特に高い暴露を受ける条件においては、その暴露量の推定値が健康リスク評価指針値と同程度以上となることがあり得ることから、今後、健康リスクをより小さくする観点から、ダイオキシン類の環境中濃度の低減を図る必要があると考えられる。

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