ダイオキシンリスク評価検討会の中間報告の概要(第2章)  
第2章 毒性評価


1 吸収、分布、代謝、排泄

 ダイオキシン類の主たる吸収経路は、消化管、皮膚、肺である。どの吸収経路においても、ダイオキシンの吸収は動物の種類、溶媒の種類、異性体、食餌に含まれる共存物質、投与量、年齢などによって異なる。一般には、異性体のうち塩素数が多いものほど、また投与量が多いほど吸収率は減少する。
 摂取されたダイオキシン類は血流にのって各組織に到達する。異性体や投与量によって多少異なるが、ダイオキシン類は主に肝と脂肪組織に蓄積する。どちらにより多く蓄積するかは実験動物とヒトでは異なり、ヒトにおいては脂肪により多く、モルモットを除く実験動物では肝により多く蓄積する。
 一般にダイオキシン類は代謝されにくい物質である。胆汁に排泄された数種の代謝物がダイオキシンの代謝物として同定されているが、この代謝物の毒性は代謝前のダイオキシン類の毒性より低い。
 ダイオキシン類の排泄にもヒトと実験動物との間に大きな差異が認められる。例えばヒトの2,3,7,8-TCDD(2,3,7,8-四塩化ジベンゾダイオキシン)の体内濃度の半減期はラットの100倍以上も長い。サルの2,3,7,8-TCDDの体内濃度の半減期はヒトと他の実験動物の中間の値である。サル以外の実験動物間には排泄速度に種差がほとんど認められない。
 ダイオキシン類はAh受容体(注1)を介してCYP1A1やCYP1A2等の肝等から供給されるシトクロムP450(注2)として分離される酵素を誘導し、特に、CYP1A2はダイオキシンと結合する。これらの酵素とダイオキシンの作用メカニズムが、ダイオキシン類の肝への蓄積や毒性の発現メカニズムと深い関わりを持つ。2,3,7,8-TCDDの生体内移動を決定する因子としては、脂肪組織への溶解度及び拡散速度、肝のCYP1A2への結合、排泄、及び代謝がある。


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2 一般毒性

 急性毒性試験結果において、致死毒性は、種差が極めて大きく現れている。感受性の最も高いモルモット(雄)の半数致死量は600ng/kgであり、最も感受性が低いとされるハムスター(雄)は、5,000,000ng/kgである。また、毒性の発現は雌雄差があり、特に雌の方に毒性が現れやすい傾向がある。
 亜慢性毒性試験結果から、無毒性量(NOAEL)はラット、マウス、モルモットに対してそれぞれ10ng/kg/day、100ng/kg/day、0.6ng/kg/dayと推定される。 慢性試験結果から、雌の方が雄よりも致死毒性や肝臓毒性に対する感受性が高い傾向が認められている。雌雄ラットにおけるNOAELは1ng/kg/dayであった。
 スイス系マウスに2,3,7,8-TCDDを経口的に摂取させた1年間の試験ではアミロイドーシスと皮膚炎が観察されており、1ng/kg/dayが最小毒性量(LOAEL)と見なされる。B6C3F1マウスに2年間にわたって経口投与した場合は、雄で1.4ng/kg/day、雌で6ng/kg/dayがNOAELであった。
 ダイオキシンへのヒトへの暴露の事例として、米国で発生した工場廃液の環境の汚染に伴う事例、工場や研究室における汚染事故、イタリアのセベソにおける汚染事故、ベトナム戦争における枯葉剤作戦による退役軍人らに見られる影響などがある。
 2,3,7,8-TCDDに暴露したヒトや実験動物の場合に観察される兆候と症状には、体重減少(消耗性症候群)、胸腺萎縮、肝臓代謝障害、心筋障害、性ホルモンや甲状腺ホルモン代謝並びにコレステロール等脂質代謝への影響、皮膚症状として塩素ざそう(クロロアクネ)、さらに学習能力の低下をはじめ中枢神経症状などがある。

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3 発がん性

 実験動物を使用した長期試験では、ラット、マウス及びハムスターなどの動物種で2,3,7,8-TCDD及び類縁化合物の発がん性が示されている。ラットにおいては、Kocibaら(1978)が肝細胞の過形成結節及び肝細胞がん、硬口蓋及び鼻甲介、肺の扁平上皮がんの有意な増加を、NTP(1982)は、肝の腫瘍結節、甲状腺濾胞細胞腺腫の増加を報告している。それぞれのNOAELは1ng/kg/day、1.4ng/kg/dayであった。
 ラット及びマウスの肝臓、肺と皮膚の二段階発がんモデルにおいて、ダイオキシン類のプロモーター作用が認められている。このプロモーター作用にはEGF受容体及びエストロジェン受容体との相互作用の関与が示唆されている。
 2,3,7,8-TCDDには間接的なDNA障害は認められるが、直接的な結合は認められず、各種の変異原性試験等においても陰性を示す結果が多く、遺伝毒性はないものと総合的に判断される。また、ダイオキシン類のプロモーター作用と併せて考慮すると2,3,7,8-TCDDの発がん機構には閾値があることが示唆される。
 ダイオキシン類の疫学データに関しては、職業暴露者や事故の被災者及びベトナム戦争の枯葉剤作戦の退役軍人に関する各種の疫学調査がなされている。その結果から高濃度暴露を受けた人の集団において特に部位を特定せずに広範な部位にがんを発生させる可能性を持つ物質であることが示唆されている。この中でも特に軟部組織肉腫についてはそのリスクの増加が示唆される。しかしこれらの疫学データにおける暴露の評価には不確実な点も多い。

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4 生殖毒性

 2,3,7,8-TCDDは酵素の誘導、成長因子、ホルモン及びそれらの受容体の変化を通して、通常のホメオスタシスとホルモンバランスを変化させ、内分泌の攪乱因子としての作用を及ぼしていると考えられる。
 実験動物に対する2,3,7,8-TCDDの毒性は、母体よりも胚や胎児の段階で強く現れる。代表的な催奇形性としてマウスにおける口蓋裂、水腎症が認められている。
 ダイオキシン類は、妊娠率の低下、出生仔の低体重及び性周期に影響を与える。ラットを用いた3世代実験では、その影響はF0世代では、100ng/kg/dayで、F1及びF2世代では、10ng/kg/dayで見られている。アカゲザルでは5ng/kg、25ng/kgの2,3,7,8-TCDDを含む飼料で4年間飼育したときそれぞれ71%、86%の子宮内膜症がみられた。
 生殖影響のNOAELはラットの3世代実験に基づくと1ng/kg/day、アカゲザルのデータに基づくと0.126ng/kg/day(5ng/kg飼料)と推定される。
 動物実験において、妊娠中及び授乳中の2,3,7,8-TCDDの暴露による仔の生殖機能、甲状腺機能、免疫機能への影響が低レベルで認められている。Mablyらは、付属生殖器官の重量、精子形成の減少を64ng/kgのダイオキシンを含む飼料の一回投与という極めて低いレベルで認めているが、この濃度での追試による確認はされていない。
 人における生殖・発生への影響の観察が事故などによりダイオキシン類の暴露を受けた集団等において行われている。ダイオキシン類と同様の毒性を持つPCDFの影響を調べた台湾油症の研究によると、子供の成長の遅延、行動上の問題、知力の不足等が認められており、また生殖機能への影響も報告されている。バックグランドレベルの暴露を受けている集団でも母乳中のダイオキシン類濃度と子の甲状腺ホルモンや免疫機能の異常との関連、ダイオキシン類の摂取量と低体重児との関連などが示唆されている。さらにベトナム戦争退役軍人の枯葉剤暴露とその子供の二分脊椎のリスクの増加との関連について限られているが示唆的な証拠があるとされている。

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5 免疫毒性

 2,3,7,8-TCDDは未熟な胸腺細胞の減少を伴う胸腺の萎縮を生じさせる。マウスへの投与試験の結果では100ng/kg/dayで胸腺細胞の有意な減少が観察されている。
 ウイルス、細菌、寄生虫に対する感染防御機構は、2,3,7,8-TCDDの投与に対して鋭敏に反応し、致死率増加や寄生虫排除の遅れが見られている。マウスへの2,3,7,8-TCDD単回投与試験の結果では、NOAELが5ng/kg/dayであった。2,3,7,8-TCDDは、抗体産生を抑制させ、また、リンパ球の変動を生じさせる。霊長類実験動物であるマーモセットの単回投与試験の結果では血中リンパ球集団の変動のLOAELは10ng/kg/dayであった。
 生殖免疫反応への影響として、妊娠マウスへの2,3,7,8-TCDD投与により新生児マウスの胸腺細胞数の変化を示す結果が得られている。
 ヒトの免疫系への影響については、疫学でT細胞レベルの変動を示唆する報告が見られるが、統一的な結論を導くためにはまだ知見が不十分である。

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6 毒性等価換算について

 毒性についての情報が得られているダイオキシン類としては、2,3,7,8-TCDDが主たるものであり、他のものについては限られた情報しか得られていない。ダイオキシン類の毒性は、その分子骨格についた塩素の置換数と置換位置によって支配されており、その毒性のかなりの部分は、受容体との結合等と密接に関連していると考えられている。受容体との結合能等を勘案して、2,3,7,8-TCDD以外のダイオキシン類(塩化ダイオキシン及び塩化ジベンゾフランの異性体)の毒性を、2,3,7,8-TCDDの毒性として力価換算する案が提案されている。

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