コラム

2007.4.18

「加古川市での勉強会に招かれて」

化学物質アドバイザー 井上靖彦

加古川市役所を通じて消費者協会の勉強会の講師に招かれました。「毎月会員の勉強会を実施しています。年度計画に基づいて今回は化学物質がテーマです。新聞やニュースで大手製鉄会社の大気への排出データに問題があったと報じられて、会員に不安があるので、その解説もお願いします。」と依頼されました。法規にも関係することなので、慎重を期して渡邊雄一さんと二人で担当しました。渡邊さんは広く大気汚染の化学物質について、私は、NOxに焦点を絞ってお話しすることにしました。

NOxは、PRTRの対象物質ではないので、あらためて情報を収集整理しました。また、話題の大気環境中のNOxは、市役所環境管理の部署の方にお願いして、企業の排出状況、市役所の監視システムとデータを教えてもらいました。

化学物質といえば、難しく悪いというイメージがあり、Chemophobia(化学嫌い)の人もいます。このため、私は、最初に、化学物質が特段に悪いだけの物質ではなく、便利で快適な現代生活を支えている物質文明の具現者そのものであることを述べました。100年前に比べ日本人の寿命が男女とも25年前後延びているのは、まさに化学物質でできた物質文明のおかげといえます。

次に、NOxについて説明しました。NOxには、「x」がついていて難しそうですが、まず、NOが生成し、空気中でNO2に変化していくことを説きました。心筋梗塞のときニトログリセリン( C3H5(ONO2)3 )が効くのは、NOによる血管拡張作用に基づきます。一方、濃度が高いと呼吸器系の障害を起こします。化学物質が人に与える影響は、パルケルスス(ルネサンス期のスイス人医師)のいう「毒も薬も量次第である」ことを説明しました。

さらに、加古川市の海岸部にある製鉄工場についての話しをしました。この工場は一見市民生活に無縁のように見えますが、衣類や身の回りものは、すべて鉄製の機械によって製造されたものです。化学物質も製鉄所も、それらがないと、現代の生活を送ることができないことを述べました。

さて、環境中に存在するNOxは、エネルギーを得るために燃料を燃焼させたとき非意図的に生ずる化学物質です。それは、工場のボイラーなどからの排ガス、車両からの排ガス、そのほか暖房や台所からの排気などに含まれています。

工業地帯での環境の管理は、①個別排出源の規制、②地域全体の総量の規制、③自排局や一般局と呼ばれる市内8箇所の常時モニタリングからなる、三重の監視システムで構成されています。問題の当日の時間帯と、前日、翌日のデータを対比して、その位置づけを明示しました。すべて、NOxの環境基準である0.04ppm未満でした。 

次に、クルマの排ガスについても、規制が逐次強化されている様子を紹介しました。

さらに、まったく議論がされておらず、関心の乏しい、室内環境についても述べました。暖房に石油ストーブやガスストーブを用いると、簡単に室内濃度は0.1~0.5ppmになります。問題にされている大気環境も大事ですが、人は一日の80%は室内にいるので、室内環境を配慮することもよほど大事であることも理解していただいです。

講演後に、大変わかりやすかったと何人からも感想をいただき、よかったと思います。

化学物質のリスクは数値で語る必要があることを痛感しました。