コラム

2007.3.16

「リスクコミュニケーション in 加古川」

化学物質アドバイザー 渡邊雄一

神戸製鋼加古川製鉄所の煤煙排出データ改ざん問題を背景に、加古川消費者協会から勉強会の講師を依頼されたのは平成18年の夏でした。当時加古川地区の「そらまめくん」の二酸化硫黄排出データは環境基準値0.04ppmをはるかに下回る0.006ppmでしたが、地元住民にとっては一大事です。信頼していた大企業に「裏切られた」という気持ちが強かったと思います。

消費者協会は動員力・影響力のある勉強熱心な団体です。どのような切り口で話をすれば期待に応えられるか、いつものことながらその筋道を考えるひと時の軽い緊張は「化学物質アドバイザー」が社会の役に立っているのかなと感じるひと時でもあります。

大気汚染が健康や生命に深刻な影響を与えることを示した事件に1952年12月の「ロンドンスモッグ」があります。多くの死者を出したその時の二酸化硫黄最高濃度は2mg/m3(0.74ppm)に達していました。日本でも四日市喘息が発生した1960年代には0.1ppm以上を記録しています。二酸化硫黄の環境基準は四日市を始め各地事例の疫学研究により設定され、以後関係各所の努力により大気汚染防止法の優等生として100%の環境基準達成率を維持していることを交えて「大気汚染物質の健康リスク」という講演を行いました。上述のような問題があった後なので関心を持って聞いてもらえたようです。

それにしても、我々は普段居住地付近の大気質についてどのくらいの関心を持って生活しているのでしょう。光化学オキシダントの環境基準達成率が低いため、大気汚染防止法を改正してVOCの規制を行っていることを説明しても市民の関心はあまり高くありません。光化学オキシダントによる不安を感じている人が少ないからでしょう。私は最近対流圏オゾンと言い直して温室効果ガスとしての性質も強調しています。

私たちは兵庫県で「人と化学をむすぶ会」という小さな会を作って市民に化学物質問題を理解してもらうためのスキルを磨いているところです。このような活動をしている団体があったら是非情報交換をしたいと思っています。市民と化学を「むすぶ」にはまだまだ努力が必要です。