大気環境・自動車対策

過去の黄砂飛来状況(2001年~2013年の主な黄砂現象の紹介)

 日本に飛来する黄砂の多くはモンゴル南部および中国・内モンゴル自治区の沙漠地域(ゴビ砂漠)で発生する。タクラマカン砂漠からの砂塵は、上空の自由対流圏を輸送される場合が多い。
 黄砂の発生量は気象状況や地表面の状況に応じて年毎に大きく異なる。黄砂の発生する条件は、強風が発生することと地表面が砂塵を巻き上げる状態であることの二つである。日本まで輸送されるような大規模な黄砂は、大きな低気圧の南側の強風域で巻き上げられる場合が多い。地表面状態については、積雪と植生が大きな要素である。
 黄砂の日本への飛来は3月から5月が多いが、秋にも弱い黄砂が観測されることがある。2001年以降の春季の黄砂現象の年々の特徴をライダーデータ等から見ると、2001年、2002年は黄砂の飛来頻度が高く、2003年、2004年、2005年は低く、2006年、2007年は再び高頻度であったと言える。2008年は黄砂の飛来は少なかった。2009年も比較的大きな黄砂の飛来は3月の一例のみであった。2010年は黄砂の飛来頻度はやや高かった。日本に飛来した大きな黄砂は3月の一例のみであったが、西日本では非常に高濃度が観測された。2011年5月に大規模黄砂があった以後、2012年は黄砂がほとんど飛来しなかったが、2013年3月には2年ぶりに比較的大規模な黄砂が観測された。
 また、2002年と2010年は、秋季にも大規模な黄砂の飛来が観測された。

 以下では、ライダーネットワーク観測を開始した2001年3月以降の主要な黄砂現象について要約する。2014年以降は「黄砂実態解明調査報告書」でまとめている。
 表に、つくば、長崎、北京のライダーで捉えられた主要イベントを掲げる。各地点の地上への影響という観点に加えて、黄砂現象を理解する上で有用な上空を通過する黄砂もここに含まれている。従って、気象庁によって報告された黄砂日とは必ずしも一致しない。なお、北京については、黄砂の観測される頻度が非常に高いので比較的規模の大きなイベントのみを掲げた。

表 主な黄砂イベント
2月3月4月5月その他
2001年 つくば 6-7日 14日(弱)
長崎 3, 7, 22, 26-27日 12-13日 16-17日
北京 1-3, 5-6日 7, 9-10, 30日 4, 15日
2002年 つくば 16-22日 2-3, 10-11, 14-15, 18-20日 11月12-13日
長崎 9-10, 20-21, 23-25, 31日 1-3, 8-14, 17-18日 25-27日(弱) 11月12-13日
北京 20日(大黄砂) 6日(大黄砂),15-16日 11月11日
2003年 つくば 13日(弱)
長崎 13日
北京 11-12, 13-17日
2004年 つくば 12-13日 17日(上空)
長崎 11-12, 14-15, 31日 3, 24日 4-5日
北京 13日 9-10, 28-29 15, 25日 2, 6-8, 23-24日
2005年 つくば 18日 7-9, 30, 31日- -1日(上空)
長崎 23日 2, 16, 18日 20-21, 23日 5, 10-12日 11月7日(松江)
北京 16, 19, 26-27日 4-6, 19, 29 1-4日
2006年 つくば 12, 22, 29日 8, 18-19, 28, 31日- -2日
長崎 7-8, 15-16日 8-9, 17-18, 20, 24-25, 29-30日 2, 21-22日
北京 3-9, 17, 27日 7, 8-10, 17, 19日 16, 18, 31日
2007年 つくば 1-2日 8-9, 26日
長崎 14, 23日 31日- -2日 8, 25-28日
北京 27日 17-19, 28-29日 4, 7-11, 15, 23-24日
2008年 つくば 3, 17-18日 15-16日(上空)
長崎 3(雨), 17-18日 31日- 6月1日
北京 1, 7-12, 16-19日 20-21, 27, 28, 31日
2009年 つくば 16-17日
長崎 11-12,
20-21日
16-17日 30日- 6月1-2,23日(松江),
10月17,19,21日,
12月26日
北京 12,15,18日
2010年 つくば 20-21日 3日、29-30日 5-6日、21日 11月12-14日
長崎 15日、20-21 2-4日、27日、30日 2-5日、11日、20-21日 11月12日
北京 2-4日、11日、14日、19-20日、22日、31日 3-5日、7-8日、18日、24日 1-4日、7-9日、14-15日、21-23日 11月10-11日
2011年 つくば 12-14日 2-3日、13-14日 1月5日
長崎 22日 9-10日 1-4日、12-13日
北京 データなし
2012年 つくば 10日
長崎 31日 23-25日 16日
北京 データなし
2013年 つくば 8日、18日 17日
長崎 8-9日、16日、19日 18日 20日
北京 データなし

((独)国立環境研究所 杉本伸夫 室長、清水 厚 主任研究員 提供資料)

2001~2002年の黄砂概況

 2001年、2002年はシベリアの大きな低気圧の南端で黄砂が発生する大規模な黄砂のパターンが見られた。2001年4月7日にゴビ砂漠で発生した砂塵嵐や、北京で2002年3月20日、4月6日に観測されたのは、そのような大規模な黄砂であった。2001年4月7日の砂塵嵐は、Perfect StormとしてNASAの衛星画像が紹介されたことでも知られている。(https://www.nasa.gov/multimedia/imagegallery/image_feature_989.html)。しかし、この時の黄砂は、北京に到達する前に北東に輸送され、北京や日本への影響は大きくなかった。
  北京で記録的な黄砂が観測されたのは2002年3月20日であった。写真は3月20日の大黄砂時の北京の様子である。


写真 2002年3月20日の大黄砂時の北京の様子((独)国立環境研究所提供)

 この時、視程は650m、地上の黄砂濃度(TSP)は11mg/m3を記録した。一方、日本への飛来はこのイベントよりも4月6-7日のイベントの方が大きかった。日本への影響の大きい事例では、黄砂は黄海付近で南東に輸送された後に、九州から日本列島に沿って東に輸送される。4月8日には福岡空港で11便が欠航した(福岡管区気象台ホームページ[PDF])。これらの黄砂の発生源は、いずれも内モンゴル(ウジナチ付近)からモンゴル南部にかけてのゴビ砂漠と推定される。図は、2002年4月の北京、韓国Suwon、長崎、つくばのライダーで観測された黄砂消散係数の時間高度表示である。黄砂の分布パターンの時間遅れから、黄砂が風下に輸送される状況が見られる。((独)国立環境研究所)


図 2002年4月の北京、韓国Suwon、長崎、つくばの黄砂消散係数の時間高度表示
((独)国立環境研究所提供)

 この他、2002年には、11月11-13日に秋季としては異例の大規模な黄砂イベントが観測された。

2003年の黄砂概況

 2003年は一転して、黄砂が非常に少ない年であった。黄砂の発生、日本への輸送ともに少なかったが、長崎などでは上空に浮かんだ濃度の薄い黄砂層が観測される事例も見られた。(この他、2003年3月26日には西日本の地上で中東からの砂塵が観測されたとの報告もあるが、ライダーデータでは、この日は地域規模の大気汚染性のエアロゾルが見られ、中東起源を支持する結果は得られていない。)

2004年の黄砂概況

 2004年も前年に引き続いて黄砂が少ない年であった。3月28-29日の北京の黄砂は、規模は大きくはないが、高濃度の大気汚染の後に黄砂が飛来する好例である。これは、低気圧の移動に伴って風向が南から西に変化したことと対応している。このような現象は2002年4月の大黄砂時にも見られた。黄砂飛来前の北京では、大気境界層高度が低く、高濃度の汚染が高度1km程度までの層に押さえ込まれており、風速が小さかった。北西からの強風で流入する黄砂層は高度3km程度の厚さを持ち、強風によって大気汚染が一掃され黄砂とともに東に輸送される。日本でも黄砂の前に輸送された大気汚染が観測されるケースがしばしばある。また、大気汚染層の厚さよりも黄砂層の方が高高度まで分布することもライダー観測から明らかにされている。


図 北京の黄砂(上)と大気汚染エアロゾル(下)の高度分布(2004年3月の例)黄砂が飛来する前に濃い大気汚染が観測されている。((独)国立環境研究所提供)

2005年の黄砂概況

 2005年も比較的黄砂の少ない年であったが、つくばなどで4月31日-5月1日に観測された黄砂は、高度約3kmに浮かんだ濃い黄砂層で、仙台で特に顕著に観測された。この黄砂は、4月28日にフフホトで接地する強い黄砂として観測された後、北京では既に浮かんだ層として29日に観測された。

2006年の黄砂概況

 2006年は黄砂が比較的多く、特に北京では高い頻度で黄砂が観測された。中でも特異な事例は、4月17日で、夜間の数時間の間に大量の砂が北京に降下した。写真は砂が積もった車の様子である。ライダーデータと化学輸送モデルCFORSを用いた解析では、この事例の発生源は内モンゴルで、砂塵が北京周辺に到達する時間に上空の風速が急に弱まったため、大量の砂塵が降下したと推定される。黄砂現象では強風域の移動に伴って、上空の砂塵が輸送されるとともに、砂塵が巻き上げられる領域も移動するため、実際に降下した砂塵の起源を特定することは容易ではない。北京の事例についても、砂塵は北京周辺から発生したという議論もあるが、現象の規模や風速の分布から、砂塵は内モンゴルから輸送されたと考えるのが妥当である。

 2006年は日本でも高い頻度で黄砂が観測された。4月8日の事例では、ゴビ砂漠からストレートに近畿、中部、関東地方に輸送されている。北京ではこれに対応する黄砂現象が顕著に見られず、輸送経路が北京の東側にあったと考えられる。


図 2006年4月17日の未明に北京に降った砂塵((独)国立環境研究所提供)

2007年の黄砂概況

 2007年は、規模は大きくはないが2月中旬から5月の下旬までの長い期間に渡って黄砂が観測された。2月上旬には上空を薄い黄砂層が通過しており、2月14日には、ソウル、松江などで黄砂が観測された。3月31日から4月1日には今春最大級の黄砂が飛来し、日本各地で日中の太陽光が遮られるほどの影響があった。
 その後、例年であれば黄砂シーズンが終りを告げる5月に入っても黄砂は飛来し続け、5月8日の黄砂は大気汚染と同時に飛来し、西日本で光化学スモッグ注意報が発令された。5月27日も北九州などで光化学スモッグ注意報が発令された。モデル結果によると、この時の黄砂は中国のかなり広範囲に広がった後に日本に輸送されている。5月25-28日に長崎などで観測された事例は記録的に遅い黄砂であった。

2008年の黄砂概況

 2008年は、日本の上空を通過する薄い黄砂は例年同様に観測されましたが、日本の地上付近に達する黄砂は気圧配置などの気象状況のために例年より少ないものでした。
 黄砂の発生源の一つであるモンゴルに設置されたライダーでは、発生源近傍の特徴的現象である高濃度・短時間の黄砂が繰り返し観測され、このうち偏西風に乗ってソウルにまで輸送されたのは2月12日が初めてでした。
 日本では、3月3日に日本列島の広範囲の地上で黄砂が観測され、過去の飛来時期と比較すると相当早いものでした。しかし、その後は地上でほとんど観測されず、4月15日頃には北日本から東日本の上空に比較的規模の大きい黄砂が到達したものの、地上までは降りてきませんでした。
 5月下旬には、北京へは何度か黄砂が飛来しており、そのうち5月31日には長崎など西日本にも黄砂が到達しました。この現象は6月1日まで継続し、それを最後に我が国の黄砂シーズンは終焉しました。これは、2007年の記録的に遅い黄砂の飛来(5月26、27日)よりも更に遅いものです。

2009年の黄砂概況

 2009年は、3月16-17日の一例のみが日本に飛来した比較的規模の大きな黄砂現象でした。しかし、長崎、松江などでは、小規模の黄砂現象が2月中旬から6月の下旬までの長い期間にわたって観測されました。さらに、秋から冬にかけても、10月17、19、21日と12月26日に長崎、松江などで黄砂が観測されました。秋から冬に小規模な黄砂が観測されることは統計的には珍しくありませんが、12月26日の黄砂はやや規模の大きなものであったと言えます。なお、秋の大規模な黄砂の事例としては、2002年11月11-13日の例があります。

2010年の黄砂概況

 2010年は、3月20日に関東を含む広い範囲で観測された黄砂現象が主要なもので、長崎や松江では非常に高濃度の黄砂が観測されました。小規模な黄砂 は、4月2-4日、29日、5月2-5日、20-21日などにも観測されました。また、11月12-13日には、秋季としては異例の大規模な黄砂が北海道 を除く全国で観測されました。これらの黄砂の発生源は、モンゴル南部から中国の内モンゴルにかけてのゴビ砂漠と推定されます。2010年春季には、タクラ マカン砂漠を発生源として、日本上空を通過して北米大陸まで輸送されるような顕著な黄砂現象も見られました。

2011年の黄砂概況

 2011年の最大の黄砂現象は5月1日から4日にかけて長時間・広範囲に見られたものでした。5月にはこの他12-13日にも黄砂が観測されており、いずれもゴビ砂漠での発生から2日程度で日本まで到達しています。4月10日前後の黄砂は、地上よりも上空2-3km付近の濃度が高いものです。その他、3月15日および19-23日、4月26日、5月19-22日および25日などは上空を通過するタイプの黄砂でした。前年・前々年と違って秋から冬にかけての黄砂はほとんど見られず、12月6-7日にタクラマカン砂漠方面から飛来し日本上空を通過した黄砂が目立った程度でした。

2012年の黄砂概況

 2012 年は日本における大規模な黄砂は殆んど観測されない年でした。広い範囲でやや目立ったものは、4 月23日から25日頃の黄砂で、これも地上への影響はあまり大きくありません。また5月16日頃には、地上より上空で濃度の高い黄砂が見られました。秋から冬にかけても、特に顕著な黄砂は観測されませんでした。