かおり風景100選の選定にあたって<講評>
 
平成13年10月
かおり風景100選選定委員会
 
『はじめに』
 我が国には、次の世代に引き継ぎたい、すばらしい環境がたくさんあります。そのような環境には、必ずと言っていいほど、すばらしいかおりが存在しています。また、日本には古来、様々なかおりを愛で、大事にする文化・伝統があり、それを支える地域の取り組みもあります。
 今回、そのようなかおりのある豊かな環境を守り育てる地域の取り組みを応援するため、特に優れたもの100地点を選定する「かおり風景100選」事業を実施することになりました。
 私たち「かおり風景100選選定委員会」では、地域住民や一般の人が訪れた時、心地よいと感じることができるかおりが存在し、その地域の自然や文化、生活などとあわせて将来に残していきたい景観(風景)を「かおり風景」と位置づけました。そして、自然のかおり、地域の文化や生活などと関わり、地域を特徴づけるかおり、季節の風物詩などとして、慣れ親しまれていたり、受け入れられているかおりなど、できるだけ多様なかおりに色どられた風景を100選として選定することとしました。
 
『応募状況』
 100選の募集は5月25日から約3ヶ月間行い、インターネット等を通じ、また自治体からの推薦もあわせて600件もの応募がありました。
 応募いただいた中には、森林のかおり、潮・磯のかおり、花のかおり、温泉のかおり、地場産業や日常生活に根ざしたかおりなど、実にさまざまなかおり風景がありました。
 
『100選選定の流れ』
 全国各地から応募いただいた候補は、どれも地域の人々の想いのこもった、すばらしいものでした。しかし、私たち委員会は600の候補地点から100地点を選ばなければなりません。この作業は、楽しくもあると同時に、大変難しい作業でありました。
 
 かおりに対する感じ方は、地域の自然条件や社会条件などに深く関わるものです。この認識のもと、わたしたち委員は、地域住民や利用者の感性を尊重しつつ、柔軟できめの細かい検討を行うよう常に心がけることとしました。
 まず、委員会において評価のポイントについて議論を重ねました。そして、かおり風景を大きくA「自然のかおり風景」、B「生活・文化のかおり風景」、C「複合的なかおり風景」の3種類に分類し、そして以下の視点で、かおり風景を評価、選出することとしました。私たちはさらに、2度の現地調査で、この評価の視点の妥当性についても検証も行いました。
 
かおり風景選定のポイント

・候補地が何らかの生活習慣・行事・法的規制を受けて担保されていること
・多くの一般住民が気軽に楽しめる条件にあること。地元住民のみならず、訪問 者にとっても楽しめるかおり風景であること。 (特定の人のみの利用に限定さ れていないこと)
・かおり風景が地域における自然的、歴史・文化的、生活または生産活動の環境 としての位置付けが認知され、今後も継承されること
・かおり風景に接することによって、地域住民や訪問者の憩いや安らぎを与え続 けることができること
・かおり風景の創出や維持・保全に対し、地域ぐるみで取り組む熱意が見られる こと
・かおり風景の保全が地域環境の改善または保全モデルとして寄与すること
・かおり風景が人の持つ五感を呼び戻す環境づくりに貢献すること
・かおり風景としての「品格」を有し、保存する価値の高い地域であること

 
 
 選考にあたっては、まず、市区町村や個人・団体からの応募の際いただいた上記の視点からの評価点と推薦のコメントにもとづき1次審査を行い、600地点から244地点まで候補地点を絞り込みました。この際、事務局が独自に収集した情報、パンフレット等の資料なども参考にしました。
 この予備審査においては、評価点に基づいた評価を基本としつつも、独自性、つまり「個性があってきらりと光る」タイプについてもきちんと評価できるよう、時間をかけながら候補地点のひとつひとつについて詳細な検討を行いました。
 
 この予備審査を通過した244地点については、さらに、可能な限り幅広い情報収集を行い、その情報をもとに”カルテ”(写真、概要等を1枚に集約したもの)を作成しました。そして、各委員がこれはと思う地点を推薦しあい、その推薦結果をもとに、委員全員で徹底的に話し合い、そして、10月30日に100選を公表いたしました。
 
 かおり100選の選考において、わたしたち委員会はいくつかの視点をもつこととしました。
 第一に、かおり風景と人との関わりを大切に考えるということです。地域のひとびとに愛されている風景、その地域の景観(自然や文化、生活、歴史などと関わりのある風景)とあわせて将来に残していきたいと人々が感じる風景については、できるだけ100選に残したいと考えました。
 第二に、日本のかおり風景の多様性を100選に反映させるということです。日本は、四季折々の自然に恵まれ、古来より伝承されてきた生活文化の豊かな国です。また、これらに根ざしたかおり風景も実に多様です。この誇るべき日本のかおり風景の多様性がきちんと反映されるよう心がけました。
 第三に、独自性のあるすばらしいかおり風景をもらさず選ぶことができるように、可能な限りの情報を収集し、各委員の感性に耳を傾け、柔軟で多角的な検討に努めました。
 
『100選の選定の結果』
このような考え方によって選んだ100選のかおり風景は別添のとおりです。
 
 今回、委員会では日本のすばらしいかおり風景の代表として「かおり風景100選」を選出しましたが、やむを得ず100選に選ぶことができなかった多くの候補地にも、甲乙つけがたい本当にすばらしいかおり風景がたくさんありました。
 ・桜エビの天日干しのかおりなど、伝統的な産業の風景に欠かせないかおり
 ・さざんか、あじさいなどの季節を感じさせるかおり
 ・花火、祭り、露天などの日本の生活文化の一部としてのかおり
 ・磯焼き、くぎ煮など生活に根ざしたかおり
 ・野菜、いちご、漁港など地域の産業のかおり
 このほかにも、海のかおり、線香のかおり、さまざまな草木のかおりや生活のかおりなど、さまざまなかおりが組み合わさってその地域のかおり風景を形作っているというケースも大変に多く見られました。
 これらのかおり風景は、地域の方々にとってはまさに「ふるさとのかおり」でありましょう。さまざまな思い出と一緒に記憶に刻まれたかおりであり、ふるさとに帰ってきたということを実感させるかおりであると思います。
 これらのすばらしいかおり風景もまた、「かおり風景100選」と同様に、地域の方々によって大切に守り育てていかれるよう、私たちは心から願っています。
 
『今後の取り組みへの期待』
 わたしたちかおり風景100選選定委員会は、今回選定したかおり風景100選をはじめとする日本のかおり風景が、地域の方々の手によって守られ、育てられていくよう願っています。
 国民の皆様には、全国の自治体、市民、団体の方々と私たちが協力しながら苦労の末に選出した100選に関心をお寄せいただき、改めて身近な場所や日常生活におけるかおりについて再発見をしていただければと思います。そして、どのようにすればにおいを含めた五感により快適な環境を創り出すことができるか、それぞれの方に考えていただければと思います。
 また、この100選を契機として、それぞれの地域ならではの方法で地域の豊かな環境の保全と創造に取り組んでいただき、地域が誇る自然や文化を将来にわたって守り、育てていかれるように強くお願いしたいと思います。
 環境省には、すばらしいかおり風景を守る地域の取り組みが全国に広がるよう働きかけをするだけではなく、それぞれの地域が、そして日本全体が、「地球と共生する『環(わ)の国』」として、より豊かな環境となるように、一層の努力を求めます。
 私たちかおり風景100選選定委員会は、このかおり風景100選が、かおりを通じた地域の環境を守る取組を活性化することにとどまることなく、環境保全を中心に据えた地域づくりのきっかけにもなることを強く希望しています。そして、自然にあふれ、私たちが五感でその豊かさを感じることができる、日本のすばらしい環境が末永く守られ、代々受け継がれていくことを祈念してやみません。


 
環境省のホームページへ戻る             かおり風景100選のトップへ戻る